人事策は、シラケさせたら負け

大澤陽樹氏(以下、大澤):それこそずいぶん昔ですけど、曽山(哲人)さんとかが「人事策でシラケさせたら負けだ」みたいな。その積み重ねなのかもしれないですよね。これまでやってきたことがシラケることばっかりだと、「またか」ってなって見なくなりますし。毎回おもしろかったり自分たちにとっての意味がわかると、むしろ見ることを楽しみにする。文化づくりなのかもしれないですね。

石田裕子氏(以下、石田):そうですね。

江成充氏(以下、江成):いわゆるインナーメッセージと外に対してのメッセージが、わりと共通している。さっき言ってた「聞いてた話と違う」とか、入社前後のギャップがないことは、今みたいな本音がちゃんと伝わるし、建前じゃないというか。そういうのって、もうこの時代はメンバーにもお客さんにもバレるじゃないですか。

石田:バレます、もうなんでもバレちゃう。

江成:だから、良くないことも含めた透明性は、直近でよりすごく大事になりましたよね。

大澤:なりましたね。そうなんですよ。

江成:悩ましい。相談いただく企業さまも「社長がメッセージの場を月1じゃなくて週1に変えたんだけど、余計コミュニケーションコストが上がっちゃいました」みたいな。あれってどういうことですか(笑)。

石田:(笑)。

江成:「マネージャー陣とメンバーとのコミュニケーションが増えて、1on1が増えたんですけど、これどう思います?」みたいな。

石田:確かにありそう(笑)。

江成:「発信は手段ですからね」という話はしてたので。

上場企業はいずれ離職率などの開示が求められるようになる?

大澤:今日は大手の方も参加されてたと思うんですけど、海外、特にアメリカだともう「上場企業はヒューマンキャピタル情報を全部開示しなきゃいけない」というのが、去年の8月とかに米国の証券取引所でルール化されました。

だから、有報(有価証券報告書)などにヒューマンキャピタル情報も絶対に載せなきゃいけなくなっちゃったんですよね。ただ曖昧で、何を載せればいいかという情報もそんなに明示されてないんですよ。

江成:「こういうふうに書け」というものは決まってないんですね。

大澤:だから遅かれ早かれ人事の方って、経営を巻き込んで組織づくりや文化づくりに取り組んでおいたほうが(いい)。日本も結局海外の真似をすることが多いので、どこかで「ヒューマンキャピタル情報を開示しなさい」みたいな流れがくると思っています。ESGのソーシャルの文脈とかもそうですけど。

人事としてもそのあたりは視野に入れて、特に上場してる会社さんや上場をこれから目指される会社さんは、いつ開示しても恥ずかしくないような組織づくりとか採用を(する必要がある)。離職率が高すぎて、でも「離職率を開示しなさい」とかになると、それで投資家が離れていくこともなくはないと思うので。

石田:そうですね、おっしゃるとおりですよね。さっき途中で大澤さんがおっしゃってたことで、本当にすごいなと思ったのが……採用は採用だけやってればいいんじゃなくて、組織文化にも当然突っ込んでいかなきゃいけないし、経営のメッセージを受け取って現場とブリッジしていかなければいけない。なので、「採用担当です」と言って縦でがんばって採用活動だけしていればいいわけじゃないというのは、まさにそのとおりだなと思ってて。

大澤:でもこれが難しいんですよね。目標設定は採用人数でされますからね(笑)。

石田:そうなんですよ(笑)。

江成:いわゆる現場の配属部門と経営ボードと人事の3者間ギャップは、わりと営々としたテーマで。「人がほしい」と言ってたわりには「なんでこういう採用するんだ」と現場は言う。一方で、「数字に対してのPDCAはちゃんと回せ」とボードは言うような。結果、さっき言ってた母集団形成の罠にはまっていくんですよね。

大澤:追う指標を変えていかないといけないですよね。さっきのGeppoみたいに、セットで人事は見ていくとか。採用担当の上にいる人事部長やCHROの方は、そういうものをセットで目標設定していかないと、変わらないですよね。

世の中の変化と逆行する、“古い体質の会社”が変わるには

江成:まだ60人ぐらいの方が残ってくれてる中で、質問を最後にいただいてまして(笑)。

大澤:じゃあこれで終わりですね(笑)。

江成:「エンジニアの採用に悩んでいます。どの企業もエンジニア採用には苦戦しているかと思いますが、優秀なスキルがある方こそ、在宅勤務ができないことや、口コミなどから残業も多そうと判断され辞退が多くあります」という質問が寄せられています。

「採用できる方は20代前半~27歳くらいまでの若手、ポテンシャル層が多いです。優秀な方をどんどん採用して事業を牽引していくフェーズではあるので、もどかしい気持ちがあります。ただ代表の考え方としては『優秀な方ほど出社して勤務したい人』であり、定量・定性的な話でアプローチしても変わりません」と。

「世の中の働き方と逆の動きなので、採用しづらい部分があります。組織づくり・文化づくりを優先すると、スタンスを変えるべきではないのかもしれませんが、こういった課題を抱えている会社さまが多くあるのでしょうか?」というメッセージも。

だいぶ減ってる気もしますが、まだ地方は多いですね。東京はだいぶ減りましたね。

大澤:わからんでもないですけどね。

石田:すごくわかりますよね。

江成:気持ちはわかりますよね。マネジメントボードの方々の成功体験も、やっぱり「出社してみんなで」みたいにチームづくりをしてきた経験もある気がしています。

大澤:そうですね、いくつか対応策があると思って。1つはやっぱり、今って雇用形態が正社員採用だけではないので、業務委託など他の雇用形態をうまく使いながら。業務委託でいくと、働く場所の制限なくていけると思うんですよね。経営者の方の気持ち次第だと思うんですけど。そういう交渉をしてみることが1つ。

もちろん話していって、やっぱりフルリモートはダメだとしても、「週2~3回リモートOKにしましょうよ」と、ちょっとずつ間を見つけていくっていうのがたぶん2つ目。

大澤:最後はちょっとアレですけど、どうしても経営者の方が変わらないなら、フィッティングの話でいくと「うちはこういう方針で絶対やっていく」と開き直ってしまう。逆に言うと、それを隠して採用しちゃうとミスマッチになっちゃうので。

これ、現場エンジニアからかなり反対(意見が)出ると思うんです。やっぱりそういう「会社に勤務して働くのもぜんぜんOK」という新卒ポテンシャル層とかもエンジニアとして採用して育てていく。3〜4年かかりますけど(笑)。文化をつくっていくことで、もしかしたら飛び道具としてはあるかもしれないですね。

江成:悩ましいのはまさに今の3つだと思うんですけど、3つ目だと途中で他社にいる同期が「お前、出社してんの?」とかって言って。

大澤:(笑)。

江成:「ヤバい」って、良い人って抜かれちゃうんですよね。

人事は「現場と経営のコミュニケーションエンジン」

大澤:ただ最近ちょっとあるのは、やっぱり出社できないことで苦労してる新卒の子も。

江成:うんうん、ありますよね。

大澤:そういうことの良さをちゃんと伝えていくことで文化をつくるのは、なくはないかなと思いましたね。

江成:おそらく、「いつまでに採りたい」っていうのが決まってる中だと、板挟みになって本当しんどいですよね。

石田:そうなんですよね。

大澤:大変だと思う、これ。

石田:気持ちはすごくわかります。

大澤:石田さん、どうですか?

石田:大澤さんがおっしゃったとおりだと思いますけどね。よく社内で、特に人事に向けてCHOの曽山が言うのは、「人事が現場と経営のコミュニケーションエンジンでなければいけない」と。

江成:コミュニケーションエンジン、か。

石田:社長のお考えがどうかはちょっとわからないですけども、マーケットや今の学生さんのニーズから逆行してるとか、あまりにも乖離が広がって大きくなってるならば、それを率直に伝えていくべきだとは思うんですよね。

これは時間軸で本当に難しくて、短期的に成果を出さなきゃいけない中でっていうことだと思うんですけど、とにかくそういう声を恐れず届けていく(笑)。ぶつかるのを恐れずに伝えていかないとたぶん変わらないですし、そういう優秀なエンジニアが採れなくなってきちゃいますよね。

あえて異質なものを取り入れて、新しいカルチャーをつくる

石田:あとは大澤さんがおっしゃった、文化をその代からつくっていく工夫というか、あえて異質なものを入れていく。違う考え方を取り入れて、そこを母集団として強い存在にしていくと、経営にも声として届きやすくなったり。カルチャーにもよるんですけどね。これはなかなか難しい(笑)。

江成:なかなか答えが出ずアレなんですが、よかったら第三者として我々(のクチコミ評価)もお使いいただければ。「いやいや社長!」という話をさせていただきますので(笑)。

(一同笑)

江成:「いや社長、なにをおっしゃいます」って言って(笑)。

大澤:確かにね、第三者から社長に言ってもらうとかもありますよね。

江成:明確にあるんですよね。例えばご経験豊富な方だと「お孫さんとかご子息、お嬢さんが『出社絶対しろ』って言われたらどう思います?」って言ったら「うーむ」とか平気で言うんで。「いやちょっと待ってくれ」って(笑)。

石田:あぁ、なるほど。

江成:そのあたりはぜひご相談、アンケートとかでもいただけると、お伝えできることもあるかもしれません。では名残惜しいところではありますが、また今度続きはClubhouseかなにかで存分にお話をお聞かせいただければと思います。

江成:お二方、改めて本当にありがとうございました。

石田・大澤:ありがとうございました。