「7人に1人の子どもが貧困である」という事実

小林りん氏(以下、小林):では、お待たせしました。李さん、よろしくお願いします。

李炯植氏(以下、李):よろしくお願いします。Learning for Allの李です。Learning for Allは貧困世帯の子どもの支援を10年近くやっております。

もともと私も大学生の頃から、Teach For JapanというNPOの中で生まれた学習支援事業をやっていたんですが、それを法人としてスピンアウトするかたちで、2015年からLearning for Allという法人でやってきております。

我々がタックルした課題は、経済格差と教育格差の連鎖がメインになります。ご案内のとおりですが、7人に1人のお子さんが貧困です。やはり経済格差は教育格差に直結していて、貧困が連鎖していく状況がもう10年近く指摘されております。(貧困家庭の)子どもたちは、0歳から数えますと260万人くらいいるんですけれども、そうした子どもたちの支援をしています。

我々がやっているのは、小学校から高校生までの6歳から18歳くらいのお子さんの支援が中心です。教育格差というと「学力の格差」と読み換えられる方も多いと思うんですね。

実際、もちろんそこに発達障害なども絡んでいるんですけれど、学力がすごく低くて中3で分数ができないとか、アルファベットができないといったお子さんがたくさんいらっしゃいます。もちろん、塾に行きたくても行けないような、経済・金銭的な格差が教育の機会に直結しているお子さんもいます。

我々が10年やってきてわかったのは、子どもたちの困難が非常に複雑だということです。単に勉強を教える学習支援をやっていても、やはり子どもたちにとってそれはハッピーではないというか。

子どもたちの困難を因数分解すると、やはり虐待を受ける環境だったり、長期的に不登校になっていたり、発達障害の問題もありますし、学校の中でイジメを受けていたり。子どもたちはいろんな不利などが折り重なるかたちで困難を抱えていることがわかりました。

ですので、単に学習支援という1つの打ち手だけではなくて、子どものニーズに合わせた包括的な支援を6歳から18歳までやると、ぜんぜん発達段階が違います。子どもの発達段階に応じた多様なメニューで子どもを支えられるように、どんどん毎年事業が進化していっています。

今は例えば6〜9歳の子向けの学童をやったり、学習支援も継続していますし、中高生向けの居場所や学習支援もあります。また、自宅を訪問しないと会えない子もいますので、アウトリーチや訪問支援などもしています。さらに、地域の中でフードパントリーのようなかたちで食糧支援をやったり、コロナの影響でオンラインでの学習支援を実施したり、我々の事業自体は多角化している状況です。

公立学校に9.3万人もいる、外国籍・外国ルーツの子ども

:みなさんにぜひ解決していただきたい問題を、私は2つ持ってきました。1つは、今お話した経済格差と教育格差はとても複雑な問題で、いろんな打ち手が有り得るし必要です。

王道というか、ど真ん中の子ども向けの貧困対策は、まだまだ発達していない。もっともっと進化していかなければいけない。プレーヤーがもっといないと解決しないので、ここにぜひ突っ込んでいただく方を募集しています。

小林:なるほど。ただ、すみません、例えばプレーヤーとしては、既にLearning for Allさんがいるじゃないですか。1団体だとスケーラブルじゃない(ということでしょうか)。どういう意味でプレーヤーが少ないのかしら。地域ごとに?

:そうですね。やはり地域ごとに特性が違いますし、うちが「北海道の○○町」とかの子どもの貧困にタックルできるかというと、文脈を知らないしなかなか難しいんですね。なので、いろんなかたちのスケールの仕方や事業のかたちがあると思うんですが、そうしたところにいろいろ地域で携わってくれる方が、まず必要だと思います。

小林:なるほど。

:子どもの貧困対策自体も学習支援の予算が付き始めたのが2015年で、まだまだ5〜6年くらいの制度で日が浅くて、どんどんアップデートしていかないといけないと思います。なので民間でしっかりといい事例を作り、制度化していくところを煮詰めてやっていただく方を募集しているという段階です。

もう1つ、最近やはり外国にルーツのあるお子さんが非常に増えてきているのが、10年やっての実感です。2018年だと公立学校に外国籍の外国ルーツの子が9.3万人いらっしゃるらしいんですね。

日本人も含めてですけど、日本語がわからない特別なサポートがいるお子さんは5.1万人いるというのは、統計で出ています。やはり我々の肌感で見ても、日本にポンと来て文化的な適応や言語的なフォローアップのないまま中学校の教室に座って、日本語がわからないのに1日中座っているお子さんが、けっこういらっしゃるんです。

2回だけ日本語教室のフォローがあるんですが、それだけでは日常言語も学習言語もキャッチアップできず、非常に難しい状態に置かれてしまっているお子さんが、本当に最近増えてきています。このような状況も新しい問題として取り組んでいただく方がいれば、というのが私の思いです。

小林:絶対的にプレーヤー不足。特に地域ごとに属性を踏まえたプレーヤー不足が1つと、あと外国ルーツのお子さんたちへのケアが圧倒的に足りていないということですね。ありがとうございます。

最近増えつつある、特別支援を担う先生の数

小林:晃菜さんに、さっきのフォローアップで質問をしたいんですけど。特別支援の場合、先生側の教育って本当にまだまだ新しい分野で、日本はかなり対応が遅れていると思うんです。

とはいえこの数年、随分いろんなことが変わってきたと思います。そこをオーディエンスのみなさんにご紹介いただいて、その上で何がさらに足りないのかをご紹介いただけますか?

野口晃菜氏(以下、野口):ありがとうございます。最近変わってきたことでいうと、特別支援を担う先生の数は増えつつあります。例えば「通級による指導」という、通常の学級に在籍しながら一部の時間だけ別の学級に行くスタイルを担当する先生は、先生1人あたり担当を13名にしていこう、といった形で定数化がなされるようになったため、先生の数が増えています。一方で、そこにいる先生たちの専門性をどう上げていくかはまだまだ課題で。

ちょうど先日の中教審(中央教育審議会)の報告の中で「これからは発達障害に関する教職課程の単位を、通常の学級の先生も取れるようにしていきましょう。(これを)取ることで、採用の時のインセンティブになるようにしていきましょう」といった方向性を示されているようなかたちですね。

あとは、通常学級の小・中学校の先生の教職課程の中で「1単位、必ず特別支援に関する単位を取得してくださいね」ということも義務付けられたのは、最近変わってきたことですね。

小林:そう聞くと、ずいぶん制度化は整ってきているように見えるんですけど、民間としてできることはどの辺に余地があると考えればいいですかね。

野口:そうですね。やはり整ってきてはいるんですけど、例えばスーパーバイズできる人とかってほぼいないというか。うちの会社でも「支援者を支援する人の育成」をやっていて、そこが肝になるんですよね。

小林:なるほど。

野口:でも、そこ(支援者を支援する人の育成)ができる人は圧倒的にいなかったりするので。例えばうちもいくつかの自治体のアドバイザーをやっているんですけれども、そういった人たちが自治体や学校にアドバイザーとして派遣できること。

あとはそれこそeラーニングとか、学校ではなかなか作りづらいITを使った養成の仕組みも、すごくやれる余地はあるんじゃないかなと思いますね。

小林:具体的で非常におもしろいですね。ありがとうございます。

デジタルは、教育に関して格差を生んでいる

小林:あと4分になってしまいましたが、烈さんからさっき「事業化と社会化が最後、支援として必要」だとおっしゃっていただきましたけども。どの辺が特にシングルペアレントという観点から必要かと思っていらっしゃるか、教えていただけますでしょうか。

藤沢烈氏(以下、藤沢):はい。3つ皆さんに考えてほしいことがあります。1つが、アウトリーチです。今回参加されているみなさんは、比較的学歴は高い方も多いと思うし、そういう方が発信するだけだと本当に厳しい家庭になかなか届かないと思うんです。

見えない社会階層化が進んでいますので「どうしたら本当に支援するべき相手に当たっていくのか?」ということを考えて欲しい。私は災害復興をやっているので、うちのスタッフはまず仮設住宅に住むんですよ。そういう中で、近隣の方と接して見えてくるものがある。頭で考えているだけだと本当に困った方に絶対に突き当たらないので、アウトリーチを考えていただきたい。

2つ目がデジタル格差です。デジタルは、教育に関して格差を生んでいると思います。

小林:そうですね。

藤沢:デバイスの違いによって、ある家庭だと本当に大きな画面で速いスピードのパソコンで教育を受けられるけれども、家庭によってはお母さんがスマホしか持っていなくて、使うことすらできない。使っても画面が小さいという格差がある。

デジタルってすごく教育を進化させるツールでもあるんですけども、同時に格差も生むということで、そのあたりをどう解消するのかは考えて欲しい。

3つ目は、ぜひ“行政と適切に付き合うやり方”を持って欲しい。今は「行政が仕様書に沿って決められたことをとにかくやる」みたいなことが非常に発生していて。物分かりがいいんだけれども、価格は安いが必ずしも質が高くない事業者も増えています。

行政が出す仕様が優れているわけじゃないので、ちゃんと付き合いながら、行政の言うままにやるんではなくて、こちらがむしろ仕様を作っていくぐらいの気持ちで。

行政と一緒にやらないといけない局面ってどうしても多いんですけれども、相手をハックするくらいの気持ちで行政と一緒にやっていくようなスタンスの事業を組み立てて欲しいなと思います。

地域単位で細かく入っていくプレーヤーが、もっと必要

小林:ありがとうございます。1つめと3つめはHow(どういう点に留意しながら活動をすべきか)ですかね。やはりこういうことをやる時に、どうやって先ほどの接点を持っていけるのかと、やる時に行政の方が「こうですよ」と言うことを受け売りをするんじゃなくて、自分からイニシアチブをニーズドリブンでやっていくということで。

2つめのWhatのデジタル格差については、私もすごく問題意識を持っています。今回のコロナ禍を踏まえて、全国ではいくつかデジタル格差を埋めていこうという試みが出てきているように思うんですけど。

「これはもしかしてうまくいっているかもな」という事例がもしあれば、烈さんからご紹介いただくか。あるいは逆に「いくつかあるんだけど、ここはうまくいっていないからデジタル格差が開いていっちゃうな」というのがあれば、どちらか教えていただけますか。

藤沢:デジタル教育を受けるための機材、ハードウェア、あるいは通信回線自体が届けられていないと思っています。そこがないと話がスタートしない。総論はありますが、各論ではまったく進んでいないところがある。地域単位で細かく入っていくプレーヤーがもっと必要だと思います。

小林:自治体によって、Wi-Fiのルーターを配布し始めたところはパラパラ出てきてはいますけど、まったくもってまだまだ全国には届いていない状況ではありますよね。ありがとうございます。

今、お三方からたくさんの具体的なアイデアを伺いました。その中で、「何をするべきか」だけでなくて、特にこの層とはどうやってアウトリーチしていくかが重要と言う視点も本当に烈さんのおっしゃるとおりだなと思います。

そして、全国にいろんなことが点在している状況の中で、どうやってインパクトのあるものを面展開でスケーラブルにやっていくのか、本当に課題がある分野だなと思って拝聴しました。

ブレイクアウトセッションで生まれた、さまざまな意見

小林:お約束の時間になりましたので、次はみなさんから具体的なアイデアをいただきながら、ご登壇者のみなさまにブレストしていくセッションに移らせていただきたいと思います。

(ブレイクアウトセッション開始)

(ブレイクアウトセッション終了)

小林:ブレイクアウトセッションありがとうございました。ぜひルーム1、ルーム2のそれぞれに「こんなおもしろいアイデアがあったよ」ということがあれば、それに対するリアクションも含めてご登壇者の方からどうでしょうか。まずはルーム1の李さん、烈さん。もしあればよろしくお願いします。

:私がコメントしますので、烈さん、補足してください。いろんなアイデアが出ました、まずは外国籍のお子さんへの支援について、2名ほど、発言してくださいました。

日本語教育や学校・行政の支援とあるものの「家でどうするんだ」と。家に帰ったあとにどうしようもないので、その辺りを教材作りなどでクリアできないかという話がありました。

また、アウトリーチですね。外国籍の子で、そもそも学校に行っていない子も何万人といるのが実態なので、その方々へのアウトリーチという観点での話が出ました。

あとは、お金の授業といいますか、ファイナンシャルリテラシーをどのように上げていくのかですね。その前提となっているのは、お子さんもそうですし、家庭もそうですし、そうしたところが重要なのでは、という話もありました。

さらに、海外進学をする高校生が最近は増えているものの、やはり地方部、特に公立の子たちには、なかなかリーチできていないのではないか。あるいは、学校の先生がもう少し背中を押してくれるようなかたちがどうやったらできるんだろうか、という話もありましたね。

小林:ありがとうございます。

藤沢:少しアウトリーチと言いすぎたからかもしれませんけど。海外の方にしても、最後の方は海外進学をしたいお子さん向けにどう情報提供をするかとか「アウトリーチが課題だね」という話になりました。その時にお伝えしたのは「行政や学校の公共経由と民間経由の2つの流れがあるよね」と。

どっちもメリット・デメリットがあるんですが。行政からいくとバサッと網がかけられますけれども、当然、すでにあまりつながっていないお子さんもいるので、そこをどうするかという問題もあります。その2つの道を考えていかないといけないという議論をしておりました。

小林:なるほど。本当にリーチしていこうと思えば、現実的には両方をやっていく必要があるんでしょうね。コロナが収まればでしょうけども、今おっしゃられた外国人の子たちはこれからどんどん増えていく傾向にあると思うので。

そこに具体的に教材というものがあれば、プロジェクトとしておもしろいし、インパクトが出てくるんじゃないかなと思いますので。ぜひご提案いただいたみなさまは実現に向けて、このあとのAコースにもご参加いただければと思います。

烈さん、李さん、ありがとうございます。