「教育格差って何だろう?〜新しい解決策を生み出そう〜」

小林りん氏(以下、小林):ご登壇者のご紹介をさせていただきます。まず野口晃菜さん、お久しぶりです。今日はありがとうございます。晃菜さんはLITALICO研究所の所長で、インクルーシブ教育研究者ということで、この分野では障害者のお子さんの教育の博士号を持っていらっしゃるんですよね。

LITALICOさんの教育カリキュラムの制作などをずっと晃菜さんがやっていらっしゃるということで、特に発達障害についていろいろ伺えるのを大変楽しみにしております。よろしくお願いします。

野口晃菜氏(以下、野口):よろしくお願いします。

小林:藤沢烈さん。一般社団法人RCF代表理事ということで、社会起業家の中では烈さんのことを知らない人はいないと思います。災害の支援から復興支援、こども宅食など多岐にわたってご活躍中ですが、今日は特にひとり親、シングルマザー、シングルペアレント(の問題について)伺えれば幸いです。

特に昨年来のコロナ禍で、シングルペアレントの方は本当に苦しい状況に置かれていると思います。それが教育のオプションにどういう影響を与えているか? といったことに、特にフォーカスしてお話を伺えればと思います。烈さん、よろしくお願いします。

藤沢烈氏(以下、藤沢):はい。よろしくお願いします。

小林:最後になりますが、李さん。Learning for Allは、もともと李さんがTeach For Japanにいらっしゃった学生時代に起業されて、特に生活困難家庭のお子さんを中心とした学習支援から始まりましたね。その後10年を経て、学習支援だけではなくて、困難な環境にいらっしゃるお子さんたちがどうやったらもっと自信を持って人生のオプションを広げていけるのか、包括的に支援する活動をされていらっしゃいます。李さん、よろしくお願いします。

李炯植氏(以下、李):よろしくお願いします。

小林:パネルディスカッションということで、ここからはご登壇者のお三方から、それぞれまず5分くらいで、今日のテーマの「教育格差」について教えていただければ幸いです。

現場にいらっしゃって、どういう格差が教育の格差に繋がっているとご覧になってらっしゃるのか。それ(教育格差)に対してご自身のやってらっしゃるご活動と、最後にもし可能であれば、活動していて「こんなところが盲点」「ここはもうちょっと、誰かがやってくれたらいいなと思っているんだけど」というアイデアがあれば教えていただけたらと思います。

教育を何とかしないと生まれてしまう、貧困の連鎖

小林:まず、烈さんからお願いしてもよろしいでしょうか。

藤沢:RCFの藤沢と申します。RCFは復興支援、地域活性化の事業をやっているんですけれども、同時に「子ども宅食」という事業の理事もさせていただいており、今日はその話をします。

みなさん「子ども宅食」は聞いたことがありますでしょうか? 「子ども食堂」はご存知だと思います。

子ども食堂は、1ヶ所に集まっていただいて食事などを提供します。でもそうすると、本当に厳しい家庭のみなさんがなかなか集まりにくかったり、あるいは今、コロナの状況なのでそもそも集まる場所自体が作れないことがあります。

「子ども宅食」は月に1回とか2ヶ月に1回、食材を提供します。食事の支援になると同時に、厳しいご家庭と接点を持つことにもつながります。

今日みなさんには3つ伝えたいことがあります。1つは教育機会の不足について。子ども宅食は厳しいご家庭を支援しているんですが、そのうちの7割はシングルのご家庭です。

その中で何が通常の家庭と比べて違うのか、欠けているのか? という調査もさせていただいているんですが、1番目に来るのが教育です。

例えば「経験させられていない」というところで1番に来るのは、学習塾に行かせられていない。それからどういうものが不足しているかというと、子どもが宿題をするための場所を用意できないことですね。

やはり今の日本の環境だと「貧しくて食事が食べられない」というところまではいかないんですけれども、教育機会を提供できていない。やはり最後は、教育を何とかしないと貧困の連鎖が生まれてしまうと感じています。

小林:なるほど。

藤沢:2つ目のキーワードが「アウトリーチ」です。子ども宅食をやっていて感じるのは、行政もNPOも本当に厳しいご家庭には接点を持てていないことですね。今回みなさん、教育系の事業をされていると思うんですけれども。どうやってみなさんが支援されたい相手につながっていくか、アウトリーチできるのか? という観点を、ぜひ持っていただきたいです。

あと3つ目は「NPOの役割って何なのか」についてです。1つは社会化です。「社会問題がある」ということを分析、理解して、発信する役割が1つです。2つ目が、りんさんの話とつながるんですけれども、事業化ですね。

確かに「社会問題がある」ということも大事なんですけれども、今は行政側も教育委員会などもリソースが本当に限られていて、通常の公教育でできることには限りがあるので、そもそも彼らには解決できなかったりする。

「問題があります」と言うだけじゃなくて、事業を通じて問題を解決するという、社会化と事業化の両方をぜひみなさんにはやっていただきたいという思いでいます。

小林:さすが、とてもよくまとまっていて勉強になります、ありがとうございます。ご支援対象の方の7割の方がシングルペアレントということで、その中でも一番大きな課題として「教育」が上がっているというのは、今日のセッションの重要性を示唆している事実でもあると思います。

まさに最後におっしゃったように、言っているだけじゃ変わらないので事業化していく。サスティナブルにやっていくことの重要性。本当にそうだなと思います。特にこの問題については「アウトリーチ」ってキーワードですよね。 

藤沢:そうですね。

小林:(困っている方々が)自分から「はーい!」と手を挙げて来る感じではない中で、どうやって本当に必要なご家庭に届くようになるのかは、私も本当に大きな課題だなと思います。ありがとうございます。

社会や学校教育は、平均的な人に合わせてデザインされている

小林:晃菜さん、次よろしくお願いします。

野口:よろしくお願い致します。りんさんからもご紹介いただきましたが、主に発達障害や知的障害がある子ども、8千人くらいに対する発達支援や教育事業を運営している株式会社LITALICOで働いています。

私はそちらの研究所において、発達障害のある子どもたちのエビデンスに基づく支援のための仕組みを構築したり、学校や自治体との共同研究をやっています。

実はそもそも私たちって、発達の仕方や各々のつくりも、一人ひとりぜんぜん違うと言われています。その差がすごく激しい発達障害のある方は、やはりどうしても困難な状況に陥りやすいと言われています。

それは、発達障害そのものが困難さの原因というよりは、今の社会環境との相互作用において困難な状況に陥りがちであると考えられています。その理由としては、今ってどうしても、平均的な人や大多数に合わせて社会や学校教育がデザインされていると思うんですね。

それに合わない子どもたちのことが想定されていなくて、結果、障害のない人であればアクセスができる学びや環境に、障害があるが故にどうしてもアクセスができない状況が起きてしまっています。

そのように、学びへのアクセスが難しい子どもたち一人ひとりに合った教育をしていくことを実践しています。

例えば、一人ひとりに合った個別の計画を作ったり。例えば漢字は普通だったらドリルに書いて学びますが、LITALICOには漢字のプログラムだけでも20個くらい教材の種類があります。自分に合った学び方を選び取れるような、一人ひとりに合った学び方を作っています。

データに基づく支援とか、今は社員が2,500人くらいいるので、支援者をどういうふうに養成していくか? という取り組みもやってきました。最近はそういったLITALICOでの知見を学校教育で活用していただくプロジェクト、あとは少年院などのどうしてもリーチできない層にリーチしていくようなプロジェクトも私のほうでやっています。

「スティグマ」と呼ばれる、ネガティブな偏見

野口:まだまだ課題というのはものすごくたくさんあって。みなさんに解決してもらいたいことが、超たくさんあります(笑)。

小林:(笑)。

野口:たぶん止まらないので、いくつかだけピックアップします。1つは「スティグマ」と呼ばれるネガティブな偏見がどうしてもあります。平均に乗れない子や、大多数とは違うことに対して、本人も受け止めきれないし周りも受け止めきれないという状況があって。

障害の診断を受けることや特別な支援を受けること、LITALICOを使うことに対する抵抗みたいなものもすごくたくさんあります。それはやはり、社会の中でそういった人たちのロールモデルが少なかったり、出会う機会がないのではないのかなと思います。「先生たちも実は知らない」みたいな。

そういった人たちが大きくなったあとにどうなっているのか? を知らないんですよね。なので、先生たちも平均に合わせようとせざるを得ないというか。自分たちがやってきたやり方に合わせようとせざるを得ない。

でも、子どもたちもそういうことを感じとってしまうので、スティグマの再生産になるというか。そういったスティグマの軽減、ネガティブな偏見をぜひ解決していただきたいなと思います。

あと最近は、インクルーシブ教育という「障害のある子もない子も同じ場で共に過ごして、共に学ぶ」といわれるものがあります。一方で、やはり通常の教育自体が非常に画一的なので、今回の中教審(中央教育審議会)の答申でも個別最適化と言われましたが、そもそも通常教育そのものが個別最適化になったら、障害のある子たちもその中で一緒に学びやすいんじゃないかなと思います。

小林:なるほど。

野口:最後は、それを支える先生たち向けの仕組み、専門家の養成だったり、先生たちが学び合う機会を作る部分も解決していただけると非常にいいかなと。

小林:ありがとうございます。たくさんお伺いしたいことがあるんですけど、まずはオーディエンスの方々の基礎知識のために、だいたいどのくらいの年齢層の方が多いかだけちょっとだけ教えていただいていいですか? そうするとみなさんのイメージが膨らんでくると思うので。

野口:ありがとうございます。だいたい障害の診断では、一番早くて3歳児検診の時が多いです。

一方で自閉症の方は早い段階で障害がわかるケースが多いですが、学習障害といって勉強する上での困難さがある子については、小学校に入った段階で困難さが顕著に表れたりします。LITALICOに来ている方でいうと、ボリュームゾーンはだいたい4~5歳から、小学校3~4年生ぐらいが一番多いですね。

小林:ありがとうございます。発達障害の分野では、制度面でこの数年かなり進化があったと思うので、のちほどまたそのあたりをご共有いただきつつ、その上でさらに「ここを今日のオーディエンスの皆さんにぜひ解決してほしいな」というのも伺えればと思います。