2024.11.25
「能動的サイバー防御」時代の幕開け 重要インフラ企業が知るべき法的課題と脅威インテリジェンス活用戦略
第三部 『パネルディスカッション』(全1記事)
提供:株式会社SBI証券
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森氏(以下、森):これより第3部のパネルディスカッションに移らせていただきます。みなさまからもいくつかご質問をいただいておりますので、質問を交えながら進められればと思います。
改めてご紹介いたします、ウェルスナビ株式会社代表取締役CEO、柴山和久様。株式会社Kaizen Platform代表取締役CEO、須藤憲司様。私どもSBI証券からは、案件を担当いたしましたエクイティキャピタルマーケット部の落合と、私、企業金融2部の森で進めさせていただきます。
それでは1つ目の質問です。今回、グローバルオファリングではなく旧臨報方式を選択された背景についてご質問をいただいております。柴山社長、いかがでしょうか。
柴山和久氏(以下、柴山):グローバルオファリングと旧臨報方式というのは、私も3年くらい前に初めて聞きまして。当時は何度聞いても何のことかわからないなと思っていたんですけど(笑)。
このあたりはたぶんSBI証券やほかの証券会社の方々がご説明くださると思いますが、グローバルオファリングは、海外での募集・売り出しでフルにいく場合ですね。それに対して旧臨報方式は、北米については一部しか対象にできない。従って、海外はヨーロッパとアジアがメインとなる方式です。
柴山:グローバルオファリングを選ばなかった理由は2つあります。1つは時価総額、もう1つはコスト面、あるいはリソースの制約です。一般的にグローバルオファリングでの上場時の時価総額は、幅はありますが約1,000億円と言われていますが、私たちはもう少し小さいサイズを想定していました。実際に初値ベースでは776億円、公開価格ベースでは517億円でしたので、最終的には、グローバルオファリングには小さすぎると判断しました。
しかし、その一方で同じく2020年12月に上場した株式会社プレイドさんは、グローバルオファリングで上場されています。公開価格も私たちウェルスナビと同じ水準ですので、グローバルオファリングの垣根がだんだん下がってきているともいえます。
グローバルオファリングの中では、このプレイドさんが小規模で成功させた事例です。逆に、昨年の旧臨報方式としては私たちウェルスナビが一番時価総額の大きいものでした。ですので、私たちウェルスナビやプレイドさんあたりが、旧臨報方式とグローバルオファリングの境界線になってくるのではないかと考えています。
次にリソースの制約についてです。グローバルオファリングでは、アメリカの法令に基づくためいろいろなコストがかかります。さらに英文の目論見書の作成が必要で、弁護士費用だけでもだいたい1~2億円くらいかかると言われています。
そうした社外にかかるコストを度外視しても、スタートアップが上場していく際には厳しいリソースの制約のなかで日々経営を行っていて、社内のさまざまな部門にもプレッシャーがかかっています。そのなかでさらにグローバルオファリングのために追加のリソースを出していくのか、それともそうせずにやっていくのかは、非常に悩んだ点でした。
私たちとしてはグローバルオファリングにリソースを回さずに、そのぶん上場をスケジュールどおりに実施していくのを優先したということになります。
また、グローバルオファリングではなかったものの、結果的には北米の投資家にも入っていただいて、かつ私たちのIPOのアンカー投資家のうちの1社も北米の投資家になっています。北米にはグローバルオファリングでないとアプローチできないと言われていますが、必ずしもそうとは限らない、ということも言えます。
森:柴山社長、ありがとうございます。須藤社長はいかがでしょうか。
須藤憲司氏(以下、須藤):我々も実際、もともとUSGAAP(米国会計基準)でアメリカの会社を経営していたので、いかに大変かというのをすごく理解しています。
国内にインバージョンするのもすさまじいお金がかかりましたが、複数ヶ国にまたがるコーポレートアクションは、非常に時間的にも、費用的にも会社内のリソースを使います。みなさんにもご理解いただいたほうがいいと思うのは、グローバルオファリングでは、いわゆる法的・会計的なケアが日本と海外と両方にかかる構造になります。
具体的に言うと、米国投資家に証券を販売するための開示書類を作らないといけないので、日米両方の会計士と弁護士費用がかかるので、その費用負担を上回るだけのメリットを創出しないといけないという事なんです。
そのため、調達したい金額に対してかけるコストとのバランスを考えると、一定以上の規模が必要という意味なんですね。規模とかサイズとか、調達したい金額に対してかけたいコストとのバランスを考えないといけないんです。
それから、先ほど柴山さんからもお話がありましたが、今は旧臨報方式でも北米の投資家様が入ってくるという事実があります。そうなると、旧臨報方式のほうがリーズナブルで、かつ海外の機関投資家も入れられる手法だと思っています。
柴山:今の須藤さんのお話に少し付け加えますと、北米の投資家が日本に法人を持っていたり、香港やシンガポールに法人を持っていて、そちらから入ってくる場合があります。そうすると旧臨報方式でも、北米の投資家にアプローチすることができます。
落合氏(以下、落合):まさしくおっしゃるとおり、もともと米国にいながらも米国外のお金を持っているという人たちの参加が可能です。さらにその人たちが米国のお金を使って参加したい場合には、別途「ビッグボーイレター」というものをまいて参加していただくこともございます。そうした意味では臨報方式でも、いわゆる北米の投資家は十分取り込めるのかなと考えています。
あとは、先ほど柴山様のプレゼンで「新しいスタイルのIPO」とありましたが、いわゆるテクノロジーのスタートアップが海外の機関投資家を軸としてIPOに入ってきていて、この時流のなかでまさに臨報方式が使われています。かつ臨報方式は先ほど申し上げたとおり、手軽に海外の投資家にアクセスできる方法で、最大で400億という事例はありますが200億円程度であれば十分調達可能です。
それから、今までは海外の投資家は英文目論見書がないと買わないという人が多かったのですが、最近は英文目論見書がなくても日本のテクノロジー企業のIPOを受け止められる海外の投資家がいます。ここが大きく変わった点かと思います。
逆に言うと、オファリングが200億円程度であれば臨報方式のほうが主流となってきていて、それより大きくなった場合に、いわゆる英文目論見書を使ったグローバルオファリングを考えるというかたちが主流になってきているのかなと感じます。
落合:続きまして2番目の質問です。「グローバルオファリングに対する旧臨報方式のメリット・デメリットについて、実際に感じられた部分」をお聞かせいただければ。先ほどのお話のように、英文申込書を作るか作らないかがまず一番目の大きな違いです。それに非常に大きなリソースを割かれることが、グローバルオファリングのデメリットですね。
メリットは英文目論見書があること。それによって北米の投資家、それからいわゆる英文の目論見書がないと入れない投資家さんなど、リーチできる投資家層が広がる点がメリットです。調達金額が200億を明確に越えてくるところで、メリット・デメリットを考えながら判断するのかなと我々は考えています。そのあたりで柴山様と須藤様、補足などいただければと思います。
柴山:2つの方式の共通点を申し上げますと、どちらを選んでもロードショーは英語で行うことになっています。これは実際のロードショー資料ですが、このとおり全部英語です。また、日本語と英語の齟齬がないように、弁護士がすべてチェックします。実際のプレゼンもやはり英語で行います。通訳を入れる場合もあると思いますが、通訳を入れると時間が半分になってしまいますので。
先ほど「社内のリソースをどこに割り振るか」というお話をしましたが、やはり私たちとしては英語のロードショー資料をしっかり作る、そしてエクイティ・ストーリーをきちんと説明しきる。その一方で証券審査や東証審査といった、非常に大変な事務をきちんと回さないといけないので、こちらにフォーカスしたほうがいいんじゃないかと。それを通じて、きちんとスケジュールどおり上場することを目標としました。
そうした「どこにリソースを配分するべきか」という判断から、旧臨報方式を選びました。もう体験はしたくないですが(笑)、もう1回上場を体験するとしても、やはり旧臨報方式を選ぶかなと思います。
須藤:柴山さんのところはその頃、どのくらいコーポレートスタッフがいらっしゃったんですか?
柴山:IPOスタッフは、CFOを含めて3名です。
須藤:やっぱりそれくらいの人数でなにかをやっていこうとすると、けっこう絞り込まないと難しいですよね。
柴山:そうですね。逆に、例えば上場に向けてのスケジュールが遅れると、じゃあグローバルオファリングに挑戦してみようか、といったような余裕も生まれてくると思うんですが。当初の予定どおりキツキツのスケジュールで進めていくなら、やっぱりIPOスタッフが多くないと(難しい)。私たちのようにCFOと私を含めて4人という体制だと、やはり旧臨報方式が現実的だと思います。
須藤:ありがとうございます。
落合:続きまして、もう1つ質問が寄せられておりまして。共同主幹事に関してのお考えやアドバイスがあればと質問をいただいています。マザーズ上場で、最近は共同主幹事もちらほら見られるんですけれども、以前はあんまり見なかったので、このあたりもお聞きできればと思います。
須藤:たぶん「共同主幹事ってこういうメリットとデメリットがあって……」というのは柴山さんのほうがお詳しいと思うんですけど。おそらく1つは、上場時のバリュエーションの考え方とか、セカンドオピニオンをもらいながらエクイティ・ストーリーをしっかり作っていくということでしょうか。
もう1つは、やっぱり証券会社さんにはそれぞれ得意と不得意があると思っています。我々も実際にSBI証券様とクレディスイスのみなさんと一緒にやっていく時に、ロードショーのブッキングの投資家はそれぞれ強み・弱みがあるなと感じていたんですけど、柴山さんはどうですか?
柴山:私たちは当初から共同主幹事の体制を組んでいます。 どうしてかと言いますと、私たちが参考とした事例を見ていると、いずれも共同主幹事体制だったんです。例えば当時の取締役会の資料には、参考にしていたマネーフォワードさん、ラクスルさん、メルカリさんの名前が挙がっています。
このあとクラウド会計のfreeeさんも上場していくわけですが、グローバルオファリング・臨報を問わず、ある程度大きな上場を目指している会社は、例外なく共同主幹事体制になっている。あるいは共同のブックランナーとともにロードショーを運営されていたので、最初から共同主幹事が自然なのかなと思っていました。
これは今振り返っても非常に良かったなと思います。IPOのガバナンスを考える際に、発行体としてはやはり初めてのIPOで、経験者も非常に少ないので、情報が足りていないんですね。そうした時に複数の証券会社に主幹事になっていただけると、発行体と共同主幹事の間でチェックアンドバランスが効きやすくなると思います。
例えばある証券会社さんの言ったことに対して「本当にそうなのか?」ともう1社に確認するとかですね。あるいは自社の「こうしたい」という希望を「できません」あるいは「難しいです」と言われて、もう1社からも「難しい」と言われれば、我々としても「やっぱりこれは難しいのかな」といったように、調整しやすいことがあります。
これが1社対1社だと、お互いに「なんで自分の言うことを聞いてくれないんだろう」という状況になった時、それが正しいのか間違っているのかを確認するすべもなくなっていきます。そうしたチェックアンドバランスを、発行体、共同主幹事の証券会社、そしてもう1社の共同主幹事の3社がお互いに組んでいく上でも、共同主幹事体制は極めて健全な方式だと思っています。
私たちも困った時、なにかとSBI証券さんに頼る場面がありました。その際、いろんな過去の事例などを参考にファクトに基づいたアドバイスをいただいて、非常に頼りになりました。そのような経験に照らしても、共同主幹事体制は今後増えていくと思っています。
須藤:証券審査は共同主幹事の場合、2社から入るということなんですか?
柴山:はい、最初は共同で推薦証券を組んでいて、証券審査も2社で行っていました。その後、上場準備の途中で切り替えています。新たに大和証券さんが共同主幹事として加わって下さり、SBI証券1社が推薦証券という体制を組みました。
須藤:もともとのやり方をしていこうとすると、証券審査が2社から入ることになりますよね。
柴山:そうですね、ずっと2社で証券審査を受けていましたが、特に発行体として負担が増えることはありませんでした。また、取引所と一貫したコミュニケーションをとるために、取引所とのやりとりの窓口は1社にお願いしていました。
ですから、私たち発行体と取引所のどちらにとっても、推薦証券が複数あることによる負担はなかったかなと思います。
須藤:ありがとうございます。
落合:1点補足しますと、共同推薦の場合とそうでない場合、ケースとしては半々かと思います。違いは、共同推薦の場合は仮に共同推薦証券のいずれか一方が変わった場合でも、スケジュールは変更せずに進められます。ところが、推薦証券が1社の場合ですと、変更の場合にはまたそこから1年延びてしまうという点ですね。
いわゆる共同主幹事についてはお二人からもいろいろお話がありましたが、それぞれの証券会社によってメリット・デメリット、得意・不得意があります。重要なポイントはまずバリュエーション、それからマーケティング面ですね。この2つの軸でどういう組み合わせがよいかを考えていくのがいいのではと思います。
それから、(推薦証券が)1社しかいないと、バリュエーションで合意できなかった時にスタックしてしまうことがあります。話し合いを円滑に進めるという面でも、共同推薦が多くなってきているのかなと感じます。
森:続いての質問です。「旧臨報方式というのはどのような方法でしょうか」という質問です。「旧臨時報告書方式でのオファリング形式」ということですが、こちらに関しては落合からご説明いたします。
落合:旧臨報方式(旧臨時報告書方式)は「英文目論見書を使わない、簡易的な海外販売」のことで、形式としては国内募集にあたります。昔は英文目論見書を使わずに海外販売する際には臨時報告書を提出する必要があったので、「臨時報告書方式」と呼んでいました。
今はそれもなくなったので、旧臨時報告書方式と言われていて、人によって「臨報方式」「旧臨報方式」と言われることもありますが、内容は同じです。つまりは「英文目論見書を使わない海外販売」のことですね。
柴山:すみません、漢字を質問されてらっしゃる方がいらっしゃいますので、表示しますね。「旧臨報」。普通、聞いても思い浮かばないですよね、この漢字(笑)。これをフルで書くと「旧臨時報告書方式」になります。
落合:そうです、ご丁寧にありがとうございます(笑)。
森:最後に両社長より、本日ご参加いただきましたみなさまに、メッセージをひと言ずついただければと思います。柴山社長、お願いいたします。
柴山:私自身は上場申請の2年前に上場に向けた取り組みを始めましたが、当時はまさに「旧臨報方式」と何度聞いてもよくわからない、というところからスタートしまして(笑)。たぶん上場のプロセスを始めたばかりだと、聞くことすべてがわからないという状況からだと思うんですね。
最近では証券会社からのサポートだけではなく、いろいろな会社がIPOのサポートをしていらっしゃいます。例えばクラウド会計のfreeeさんやマネーフォワードさんもおそらくそういったサポートをされてらっしゃると思いますので、いろいろな情報を集めて、少しずつ進んでいけばいいかなと思います。
上場申請の1年くらい前、香港のカンファレンスで須藤さんと隣同士の部屋だったんですけど。当時は私も機関投資家とどういう会話をしたらいいのかわからなくて、「いったい須藤さんはどうやってるのかな」というふうに思っていました(笑)。
たぶんみんな、そうやって少しずつ覚えていくものだと思います。だから焦らずに、きちんと一歩ずつ進めていくこと。それで十分ではないかな、と思っております。何かありましたらぜひ私たちやSBI証券、あるいはそうしたサポートをしている方々に相談されるのもいいかなと思っています。
森:柴山社長、ありがとうございます。須藤社長、みなさまにメッセージをお願いいたします。
須藤:本日はこのような機会をいただいて、ありがとうございます。みなさんも経営をされていく中で「上場準備で事業のスピードが遅くなってしまう」とか「トレードオフがすごくあるんじゃないか」というご心配をされてる方がたくさんいらっしゃると思うのですが。
本当の意味で事業を強くしていくには、やっぱり開示に耐えられるくらい、例えば毎月のブックが締まっていくとかそのスピードが速いというのは、実は事業の成長を早めるためにとても大切です。実際に上場のプロセスを進めていく中で、そうしたことに気づきました。
上場準備に対して非常にネガティブに感じる方もたくさんいると思うんですけど、この上場準備のプロセスが実は事業を強くするためにも効果的だということを、私自身は学びました。それをぜひみなさんも少し念頭においていただけると、ポジティブじゃないかなと思います。
もう1つは先ほど柴山さんからもありましたけども、投資家とどう対話をしていくかという点について。最近はベンチャーキャピタルに資金調達をしていくようなことがかなりメジャーになってきていますが、そのプロセスと非常に似ていると思っています。使われているメトリクスやKPIはわりとグローバルで似てきますし。
それから、ほかの会社の成長可能性資料を見たり、どんなストーリーでやってきたのかを研究していくと、「これはすごくわかりやすいな」「参考になるな」ということもたくさんあると思います。
「自分の会社だったらこういうところを取るといいな」「こういうふうに見せられるといいな」と、同じ領域でやっている会社を参考にするのもいいですし。「差別化して際立たせるならこうだな」とか、いろんな工夫ができるので、そういう事例をぜひご覧になればと思っています。
先ほどもありましたが、やっぱり困った時にすごくSBI証券さんにお世話になりましたので。気になることは気軽に聞いていただければきっと、森さんたちが対応してくれるんじゃないかと思っています。
森:いつでもご連絡ください、みなさま(笑)。須藤社長、ありがとうございました。それではそろそろ閉会のお時間となりました。ご登壇いただきました柴山社長、須藤社長、本日はありがとうございました。
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