「事業家集団」ナイルの戦略

司会者:ナイルさまは、Owned Media Recruiting AWARD 2020において、求職者目線で綿密に設計することで、ナイルで働くことを明確に伝えるサイトを作り上げていることから、AWARDを受賞されました。そんなナイルの渡邉さまからは、今回、「ナイル株式会社のオウンドメディアリクルーティング」と題しまして、お話を頂戴してまいります。

渡邉慎平氏(以下、渡邉):ナイル株式会社のオウンドメティアリクルーティングについてお話しさせていただきます。まず簡単に自己紹介させてください。ナイル株式会社の人事本部で採用のマネージャーをやっている渡邉と申します。

もともとは、新卒でナイルに入ってWebのコンサルタントをやっていました。2018年から人事に異動して、採用周り全体を管轄しています。

ナイルについてもお話しさせていただくと、デジタルマーケティングに強みを持って事業開発をやっているベンチャー企業、事業家集団を組織づくりのコンセプトとして掲げております。

大きく3つの領域で事業を展開しておりまして、まずはデジタル支援の領域ですね。大手企業や資金調達をしたスタートアップ企業Web集客増加、そこからの売上向上を目的としたデジタルマーケティング領域のコンサルティングをやっている事業。

2つ目がメティア事業で、月間1,100万人以上の方にご利用いただいている、アプリを探せるアプリ紹介メディアの「Appliv」を運営しているメディア事業。

最後にモビリティ事業で、月額1万数千円でマイカーが持てるサブスクリプションサービスをやっております。

トピックとしては、今年の1月に総額50億円の資金調達を実施して、モビリティ領域の新規事業の積極投資と全社的な採用を強化している状況です。

ジョブマッチ型の採用ポリシー

具体的に採用についてお話しさせていただくと、ナイルの採用はカルチャーとスキルマッチの双方を見るジョブマッチ型の採用になっています。現在、従業員でいうと190名。中途と新卒でいうと、8:2ぐらいで中途がほとんどです。

年間採用人数でいうと、中途が50名程度ですね。その他、業務委託やアルバイトなど合わせると、年間100名程度の採用を行っています。

採用手法としては、人材紹介、掲載型媒体、ダイレクト・リクルーティング、リファラル、オウンドメティアと各採用チャネルを満遍なく使っています。

ナイルの採用に対する考え方をお伝えすると、採用というと企業が個人を選ぶ、求職者の方を判断すると捉えられがちなんですけども、企業と個人の双方のマッチングを見るものと捉えております。

選考のプロセスは、面接以外にもWeb適性検査や、ポジションごとに用意している入社後に担当する業務に模したワークを取り組んで、業務理解を深めていただくワークサンプルテストなどもやっております。

一面的で誤った企業イメージを払拭したかった

採用で使っているメディアについてお話をすると、今回、オウンドメディアというテーマなんですが、オウンドメディア・アーンドメディア・ペイドメディア、いわゆる3メディアで使い分けてやっています。Indeedさんの有料広告(スポンサー求人)、Twitter広告、Facebook広告などがペイドメディアですね。

LinkedinやOpenworkみたいなかたちで、ユーザーの口コミだったり、ユーザーのコンテンツを生んでいくのがアーンドメディアです。

また、今回のテーマとなるオウンドメディアは、採用ブログというイメージが強いかなと思うんですが、コーポレートサイトや採用サイトなども含めてのオウンドメディアだと捉えているので、ここらへん全体を使って、どういった採用をしているのかをお話しします。

その前に、過去にどういう採用課題を抱えていたのかをお話しすると、まずは誤った企業イメージや、過去の数年前の企業イメージみたいなところが先行している課題がありました。

弊社がSEO事業で伸びてきたのでSEO会社というイメージだったり、社長が東大在学中に起業したというのもあってか、学歴偏重主義の採用をやっているというイメージだったり、一面を切り取って誤ったイメージを抱いている方が、求職者の方にとても多かったんですよね。

先ほどお話ししたように3つの事業をやっていて、それぞれ事業ドメインが異なるので、どんな事業をやっていて、どんな人たちがいるのかがわかりづらかったんですね。

あとは、採用数が年間50人くらいなんですが、その中でも30以上のポジションに分かれているので自分にマッチしたポジションがどれなのかがわかりづらい状況でした。

または、コンテンツはいろいろあるんだけれども、アクセシビリティが悪いといった課題がありました。以上、ここらへんの課題をどうやって解決したのか、どのように進めていったのかをお話しします。

「求職者」視点の採用プロセス設計

今回、Owned Media Recruiting AWARD2020で、ナイルが表彰いただいたポイントとしては、「求職者」視点ですべての選考プロセスと、選考体験を設計しているポイントが評価いただけたと思うんですが、ここは私としてもとても大事にしておりました。

全体としては企業都合じゃなくて、「求職者」視点で考えることです。企業都合はどういうことかというと、いわゆるマーケティングでいうカスタマージャーニー。最近でいうとCXですね。

キャンディデートジャーニーみたいなところを考えると、どうしても求職者の方が自社に入ることを前提として、プロセスを作ってしまいがちになります。

そうではなくて求職者の方からの立場に立った時に、キャリアアップができるのであれば、別にナイル以外の選択肢もあるだろうし、ナイルは会社としては非常に好きだし、人としても好きだけど、別に転職先としては考えていないことはあると思うんですね。

前提の設計としては、求職者の立場に立った時に、どういう態度変容を促していくのか、どういう情報をどういうタイミングで提供していけば、求職者にナイルにより興味を持ってもらえるかを考えて作っております。

その上でコンテンツ設計は、求職者さんの方が転職フェーズに応じて、知りたい情報や、心のモヤモヤなどは変わってくると思います。

応募前・選考前の段階・選考中の段階・オファー前後のフェーズ・内定してから入社するまでで、「こういう心理状態があるから、こういうふうになってほしいよね」「そのためにこういう情報を提供しよう」みたいなかたちでプロットして、情報を提供していくスタイルを取っています。

社員の顔出しが採用広報に寄与する

ここから具体的な取り組みのお話しなんですけれども、採用広報とか採用マーケティングという文脈でいうと、広く知ってもらうための継続発信はこのようなものをやっています。特徴は社員のTwitterなんですけれども、弊社は数十人規模で顔出し、名前出しでTwitterをやっている人が多いです。

これは、もともと会社として採用の強化のために「やれ」と言ったわけではなくて、現場のマーケターや編集者メンバーが、自分たちのマーケティングスキルを上げるためにやってみようという現場の取り組みとして始まりました。採用目的で始まった施策でなかったのですが、人事や広報がチェックをいれて発信をコントロールしているわけではないので、現場社員の生の声が聴けるという理由でこれが一番採用広報につながっているのかなと思っています。

あとは、オウンドメディアというと、コンテンツを作るだけじゃなくて、どうやって求職者の方に届けるのかが肝にもなってくると思うんですが、その時にTwitter広告で、「こういう人たちに届けたいな」というセグメントを切って、届けていっていたりします。

最近でいうと、Clubhouseで社員とお話をする中で、なんとなく弊社に興味を持っていただいたり、会社の雰囲気を知ってもらう取り組みもやっております。

独自のジョブディスクリプション設計

今回、採用サイトの中でもポイントとしてあるのが、求職者に合わせた職種LPを作成しております。うちは採用数が50に対して、ポジション数が30、40とかなり多いです。

例えば、エンジニアの方からした時に、自分はどのポジションに応募すればいいのか、どんなポジションがあるのかがパッと見でわかりづらかったんですね。それを求職者のターゲットに合わせて、LPを職種別に作りました。

(スライドを指して)こういったかたちで求職者の方が応募する前の情報として知りたいこと。業務の内容だったり、どんなキャリアが描けるのか、どういう社員がいるのかなどを1つのLPとして作って、これを職種ごとにカスタマイズして、ここを見ればどんな職種を募集しているのか、どんなポジションがあるのかがわかる状態を作ってきました。

いざ応募するとなった時に、ジョブディスクリプションの定義がかなり重要になると思うんですが、けっこうありがちなのは、「自社としてはこういう人が欲しい。自社としてはこういうスキル・経験を求めたい」という、ここも企業都合で考えてしまいがちです。

求職者さんの経歴によっては、刺さるポイントや見せ方などは変わってくると思うので、例えば、私のチームで採用している採用人事のポジションでいった時に、人事経験のある方向けと、人材紹介会社で法人営業やキャリアアドバイザーをやったことがある経験の方向けで、同じ内容でも見せ方を変えて、「あなたに届けていますよ」と伝わりやすくするジョブディスクリプションの設計をしております。

選考中の情報提供なんですが、先ほどお伝えしたとおり、過去のイメージを引っ張っていて、どうしてもSEOの会社なんじゃないかとか、学歴偏重の会社なんじゃないか、新卒採用をがんばっている会社で中途はぜんぜん活躍できないんじゃないかみたいな、誤った考え方を持ってしまいがちな求職者の方もいます。

なので、事前に事業部ごとのピッチスライドというかたちで、このスライドをめくってみれば、どんな内容なのかわかるものを作りました。

ナイルの方はオウンドメディアで記事を更新しているんですが、それを職種ごと、部署ごとにサマリーのnoteを作って、このnoteを見ていくと、自分の関連する事業部やポジションについて理解できるようにしています。

面接官のインタビュー記事が好影響

あとは、オウンドメディアの「ナイルのかだん」も、(月に)記事2~3本くらい更新しているんですが、その中でも面接官のインタビューに力をけっこう入れています。面接というと、いろいろ自分のことを見定められるんじゃないかと、心理的なハードルがどうしても高くなってしまいます。

なので、どういった経歴の人が面接を担当するのかを、事前に情報開示することによって、求職者の方の心理的ハードルを下げたり、面接の中での会話が盛り上がるような設計、仕組みを作っております。

具体的にどういうふうに数字管理や効果検証をしているのかという話をすると、Google Analyticsでデータをとって、データポータルで可視化しています。ユーザーがコーポレートサイト、採用サイト、職種LPから、ジョブディスクリプションにどう遷移したか、データをWeb上で取って、それをKPI管理しております。

もともと始めたタイミングでは、KPI管理をぜんぜんしないところからやっているんですが、今でいうと全社の採用人数、採用計画から逆算して、自社採用、オウンドメディアで採用するのは何人。それだったら過去の選考の歩留まりから考えると、これくらい自社サイトから応募して欲しいよね。そのためにはこれくらい求人票を見てくれないといけないよね。

逆算すると採用サイトにこれくらい来ないといけないよね。となると、ナイルのかだんという採用ブログには、これぐらいのユーザーが来て遷移してほしいよね。こういったものを逆算して、目標を設計してやれるようになってきたのが、ここ1年ぐらいの取り組みです。

工夫と課題感などをお伝えすると、工夫してきたのは左の4つですね。私がもともとWebマーケティングをやってきたので、Webマーケティングのノウハウや考え方などをベースに取り組んできました。全体でお伝えしたとおり、求職者視点でのコンテンツ作りを前提にやっています。

あとは、Twitterで社員を巻き込んでの情報発信など、最近は採用活動をやれるようになってきました。データに基づいたPDCAに関しては、データをしっかり見ながら優先度を付けてやっていて、効果検証しています。

課題ポイント。ここは各社さん、なかなか頭を悩ませるポイントでもあると思うんですが、実際にオウンドメディアを運用するところだったり、コンテンツを作ったり、作ったはいいけどどうやって届けるのかだったり、いろいろ更新管理の手間はコンテンツを作れば作るほど、過去のものがアーカイブされてどんどん古くなっていたりもするので、そこらへんの運用の手間は課題ポイントであるかなと思います。

ミスマッチ採用が目に見えて減った

最後、やってみたメリット・デメリットをお話しすると、内定承諾率が上がったり、入社後のミスマッチ採用が減ったと思います。これはわかりやすく採用成果としてはあるかなと思います。

それ以外でいうと、その社員紹介とかインタビューを通じて、社内のインナーコミュニケーションができるようになりました。他の部署の方とか、ふだん関わらない方にスポットを当てるので、興味、関心を持ってもらうきっかけになったり、そこから採用活動に関与してもらえるので、リファラル促進になったことはあると思います。

オウンドメディア経由の採用がどんどん増えていけば、採用コストは中長期的には削減をされるかなと思うんですが、そういったところがメリットに挙げられるかなと思います。

デメリットはあまりないかなと思いつつ、先ほどお話ししたような運用コストだったり。あと、デメリットではないんですけれども、経営者の理解とか現場の理解がないと、「何のためにやっているんだっけ? それって効果があるんだっけ?」という話になりがちなので、ここらへんはしっかり理解を促していって、一緒に協力して取り組むのが必要かなと思います。

採用のオウンドメディアなどの話は、採用人事の採用スキルとはまた別のスキルセットが必要になるかなと思うので、今いる人事の方とか広報の方とかがそこのスキルセットを身に付けていくのか。もしくはスキルセットのある方を採用するのか。それ以外からパートナーとして引き入れるのか。ここらへんも必要になってくるのかなと思います。

以上で、私からのお話は終了となります。ご清聴ありがとうございます。