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第二部 パネルディスカッション「炎上とフェイクニュースのこれから」(全5記事)

世界で一番出回っている、ワクチンに関する荒唐無稽なデマ 「信じたい人は、どんなフェイクでも信じたがる」という事実

デジタル上で発生したクライシス(危機や重大なトラブル)を研究する日本初の研究機関、シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所。同研究所が、一年間の研究成果をまとめて発表する『デジタル・クライシス白書』の発行を記念して、オンラインイベント「デジタル・クライシスフォーラム」が開催されました。本記事では「第二部 パネルディスカッション『炎上とフェイクニュースのこれから』」の模様を公開します。

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「クレーマー」と「炎上に参加しやすい人」の類似傾向

桑江令氏(以下、桑江):なるほど。そういった意味では、本日の議題である「炎上参加者の特性」に絡んでくる話かなと思います。それこそ昨年に発売になった山口さんの書籍でも、かなり詳しく取り上げていらっしゃるかと思いますが。

正義を振りかざす「極端な人」の正体 (光文社新書)

炎上参加者の特性という部分も触れつつ、山口さんにコメントをいただけると幸いでございます。

山口真一氏(以下、山口):はい。まず私が2016年ぐらいに実証研究した結果によりますと、炎上に参加しやすい人の傾向として「男性である」とか「年収が高い」とか「主任・係長クラス以上」みたいなところが出てきたんですね。もちろんそういった人ばかりが参加してるわけではなく、そういう人のほうが参加しやすい傾向にある、というレベルなんですけども。

そして「このプロフィールは、実はクレーマーと似ている」と、クレーマーについて研究されている方から言われまして。その方の研究によりますと、悪質なクレーマーの特徴として「男性」や「中高年以上」や「会社のお偉いさんだった」という方は多い傾向にあるそうなんですね。

これが今でも適用されるのか? については、検討の余地があると思うんですけども。少なくとも「一般的な人である」ということは、まず間違いないんじゃないかなと思っております。

例えば、弁護士懲戒請求問題という、先ほど古田さんが例に挙げたような、いわゆる「ネトウヨ」が好みそうなネタなんですけれども。簡単に内容を申しますと「朝鮮学校無償化について、本当はなにも言ってないにも関わらず、その弁護士がそれに対してコミットしてるんじゃないか?」みたいな誤解が広まったことがありました。

それに対して懲戒請求を送りつけた、という事件だったんですけども。例えばそれを送ってた人を訴えて確認すると、実は中高年以上がかなり多かったと弁護士の方がおっしゃっていました。

あるいは、スマイリーキクチさんという方が、10年以上に渡って炎上や誹謗中傷にさらされていた事件に関しても、蓋を開けてみたら、誹謗中傷を書いていた人は一般的な人でした。いろんな属性の人がいて、妊婦さんもいれば、普通の男性サラリーマンの人もいて。かなり多様だったとおっしゃってたんです。

なので、ネットのヘビーユーザーや引きこもりだ! というワケではないんじゃないか。そういったことが過去の傾向からわかってきています。

フェイクニュース発信の背景にある、経済原理

山口:ただし、先ほどの古田さんのお話につなげますと、私のフェイクニュースに関する研究の文脈で1つわかってきているのが「政治的に極端な人のほうがフェイクニュースを信じやすいし、拡散しやすい」ということが、統計的に明らかになってきてます。

これはイデオロギーとは関係なく、いわゆる「右」の人もそうだし「左」の人も、結局極端になると、そういった行動を取ってしまう傾向は出てきていると。

ただ、私の研究では“右左”は関係なかったんですけども、例えばこんな事例もありました。古い事例ですが、2016年の米国大統領選挙において、マケドニアの学生がPV数でお金稼ぐためにフェイクニュースを量産した、という話がありました。

あの時に学生たちが言っていたのは「保守的な人のほうが響きやすかったので、そっちが喜ぶフェイクニュースを大量に流した」と言っていたと。なので、もしかしたらそういう傾向はあるのかなと感じています。

いずれにせよ、先ほどのマケドニアの学生の事例と、PV数を稼ぐためにフェイクニュース。あるいは非常に偏った見方のニュースを発信することは、同じメカニズムなんです。経済原理がその背景にあるというところで。

そこをいかにして対処していくのか。例えばGoogleであれば、広告をそういったところに配信しないようにですね。そんな対策を騒動の後に実施していましたけども。そういったことを、もっと進めていく必要があるんじゃないかと思っています。

信じたい人は、どんなネタでもフェイクでも信じたがる

山口:もう1つ「信じたい人は、どんなネタでもフェイクでも内容を信じたがる」というのは、古田さんのご指摘のとおりで、僕も同様に感じています。これに関しても、調査をしている中で見えてきたことがありました。

その中でも極めつけだったのが「ファクトチェック記事」ってけっこう出てくるじゃないですか。それこそBuzzFeed JapanさんやInFactさんとか。国内でもけっこうやられていますと。

そのファクトチェック記事に対して、例えばヤフーニュースの一番上のコメントですね。要するに、最もよく見られているコメントで、ファクトチェックの内容に触れずにフェイクニュースの話をしていたり、フェイクニュースを前提としてすごい批判をしていたりするんですよね。

これは読者によって、結局、見えてる世界が違うんだなと思わされたところで。ファクトチェック1つ取っても、その伝え方が重要になってきます。「こういうニュースがありました、でもこれは誤りでした」と報じる。でもそれを見て「これは誤りでした」が目に入らず「ほら見たことか!」って言って攻撃する人がいる。この現実ですよね。そこをもっと理解した上で、配信の仕方も考えていかなきゃいけないのかなと感じています。

桑江:なるほど。実際フェイクニュースやファクトチェックの観点は非常に難しくて。古田さんのTwitterのやり取りを見ていると、古田さんが示したファクトチェックの記事に対しても、そこに被せてぜんぜん違うことを言ってくる方もかなり見受けられますもんね。話が通じない部分がどうしても出てくるのかな、というところですね。

世界で一番出回っている「ワクチン」に関するデマ

桑江:あとは2020年という観点でいくと、やはりコロナウイルスによる社会的不安等の影響も、ある程度の関係があるのかなと思っています。今回、(「第1回 JDCアワード」の)大賞を受賞した丸富製紙さんの件もそうでしたが、いわゆるメディアの煽りによって、デマや買い占め騒動が起きてしまうと。

それ自体は本当になかったものをメディアが作り上げた結果、実際にその状況は生まれてしまった。そうするとやはり、社会的不安やユーザーの不安が、フェイクニュースに飛びついてしまうというか。もしくは、ストレス・イライラを正義感をもって、どこかにぶつけたいと思ってしまうとか。

2020年のユーザー心理の変化について、お二人の中で意見がありましたら、伺えればと思いますがいかがでしょうか?

古田大輔氏(以下、古田):世の中に与えるインパクトの大きさとその状況の不確定さ。その掛け算でフェイクニュースやデマ情報がどれだけ広がるか定義できる、ってよく言われてるんですけれども。それで言うと、大統領選やコロナウイルス等は、影響が非常にデカイ上に、状況がわかりにくいってことで、相当広がりやすい状況にあったのは間違いないんですよね。

2021年に関しても、今ファクトチェッカーたちがすごく気にしてるのは、ワクチンに関してデマ情報が広がることなんです。2021年に最も焦点となる話題はコロナワクチンですので。

実際、すでに世界中ではいろんなデマが流れていて。すでに検証もし尽くされてるんですけど。世界で一番出回っているデマは、Microsoftの創始者のビル・ゲイツに関して「彼がワクチンを打つと見せかけて、マイクロチップを人に埋め込むために、コロナやワクチンの陰謀を仕掛けてるんだ!」という説がものすごく広がったんですね。

荒唐無稽すぎてファクトチェックするのが難しいんですよ、逆に。「そんなワケないじゃん」という話なので(笑)。でもそんなものが広がっちゃうぐらい、ワクチンに焦点が集まっているので。そういったことが1つポイントになるだろうなと思うんですね。

急速な“世の中の変化”を認識しないといけない

古田:あとこれはフェイクの文脈ではなくて、炎上の文脈でのお話です。たぶん今日ここでこの話を聞いている方々って、企業の方々も多いと思うんですけれども。やっぱり今、世の中が変わってきてるなと思っていて。

今まさに森(喜朗)さんの発言が大炎上していますけども。僕は今日、ここに参加するまで森さんの釈明会見をライブで聞いてたんですけど、さらに火に油を注いで、もう大変なことになっているんです。

あれは明らかに本人の失言ですよね。本人も失言と認めて撤回しましたけれども。ジェンダーギャップ解消のために、なんとか社会全体で取り組んでいこうとしている中で、完全に女性を貶める発言をしたということで大炎上をしている。

簡単に言うと、釈明会見の場で記者に対して逆ギレしたんですよね。「お前ら、おもしろがって取り上げてんだろ」みたいな。それでもう大炎上になっているんですけれども。

やっぱりああいう発言を見るに、世の中は今、急速に変わってきている。その中で「そういう発言は絶対に認められない」ということがどんどん出てきてる。その認識をしないといけないと思うんです。

それで言うと「お母さん食堂」の話もそうですよね。「お母さん食堂」ってあれ、おそらく3年前であればそんなに問題になっていなかったかもしれない。

確かにジェンダー認識に関して、ステレオタイプを強化するって意味で「その認識はどうなの?」みたいな議論は、10年前からあったワケです。けれども、あれだけ大きなうねりになるということは、本当にこの数年の変化なんですよね。それぐらいのスピードで、世界は変化してきていることを、きちんと認識しておかないといけないと思います。

桑江:なるほど。実際にジェンダーレス部門で受賞されたのがLush Japanさんでした。Lush Japanさんは、いわゆる「商品名を変更した」という観点だけを切り取れば「お母さん食堂」と共通点があるじゃないか、と思われてしまったと思うんですが、要素をちゃんと分解すれば違いますと。

そういった意味では今おっしゃったように「お母さん食堂」の事例が社会的にどう取り上げられたのか。その部分をしっかりと分析し、2021年はどういう動きをしていくのか。それをみなさまの会社に落とし込むことが非常に重要なのかなという気はしてます。

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