松永エリック・匡史氏が語る「変わり続ける力」

村上臣氏(以下、村上):本日のゲストは、青山学院大学教授/アバナードデジタル最高顧問の松永エリック・匡史さん。「変わり続ける力」というテーマで進めていきたいと思います。まずその前に「リンクトインとは?」という話でございます。

2002年に創業して、2011年の10月に日本語版をローンチしました。グローバル共通のビジョン「世界で働くすべての人に、経済的なチャンスを作り出す」を掲げ、日本でもがんばっております。

世界でのトータルのユーザー数は約7億4000万人。日本では200万人強の方々に日々お使いいただいています。転職にも使えますけれども、お互いが仕事の役に立つ情報を交換したり、ネットワーキングをするビジネスコミュニティとしての存在感も増しています。最近はコンテンツにも力を入れていて、このライブもその一環です。

今回のゲストであるエリックさんは「変わり続ける力」という名の通り、本当にいろいろなキャリアを積んでこられた方です。

15歳からプロのギタリストとして活躍し、世界の有名なジャズ・ミュージシャンを多く輩出したバークリー音楽院に通われ、帰国し青山学院大学を卒業されました。外資系コンサルファームの役員を歴任し、現在は青山学院大学の教授をされています。

ではさっそくエリックさんをお呼びしたいと思います。どうもお忙しいところ、ありがとうございます。

松永エリック・匡史氏(以下、エリック):どうもこんにちは。

村上:よろしくお願いします。

エリック:(イベントが1月29日開催なので)“肉の日”にありがとうございます。

村上:いやいや、とんでもないです。

エリック:(笑)。

村上:簡単に自己紹介をお願いできますか?

エリック:はい。今、青山学院大学の地球社会共生学部という、全員がタイとマレーシアに留学する学部で教授をやっています。もともとはビジネスコンサルタントでした。某ビッグファームでデジタルの統括役員をしていました。

その前はエンジニアで、もともとはプロミュージシャンでした。中学3年生で芸能界デビューして、ギターを弾いていました。これが簡単な私の経歴でございます。

“月給”に憧れて、プロミュージシャンからエンジニアへ

村上:聞いているだけで、既に興味津々なのですが、どうやってそういう経歴になったのか? というところから、まずお聞きしたいんですけれども。

エリック:みなさんはどう感じているかわからないんですけど、ミュージシャンって結局“自由業”じゃないですか。

村上:そうですね。

エリック:すると“月給”に憧れるんですよ。

村上:(笑)。

エリック:ミュージシャンの報酬っておもしろくて、稼げる時には何百万円とかいくんですけど、ない時は本当に0円なんですよ。今、コロナ禍で苦しんでいるミュージシャンは多いと思うんですけど、やはり収入がすごく不安定なんですね。

村上:はい。

エリック:だから、安定にすごく憧れたというのが一つ。もう一つはやはりなんだろうな……人間関係とかがキツいんですね。

村上:なるほど。

エリック:ミュージシャンは上下関係とか、すごいんですよ。だから「安定の生活がしたいな」というのが、大きな理由でしたね。

未経験から始めて、日銀の基幹システムを手掛けるに至るまで

村上:(ミュージシャンを辞めて)最初はエンジニアから、ビジネスパーソンとしてのキャリアを始めたんですよね。

エリック:そう。最初は、日立でシステムエンジニアだったんですよ。

村上:もともとプログラムとかできたんですか?

エリック:ぜんぜん(笑)! 入社したのが1990年の初め頃だったのですが、当時は「これからコンピューターの時代だ」ということで。パーソナルコンピューターは誰も持っていなかったんです。

村上:なるほど。

エリック:僕はミュージシャンだったんで、いわゆる最初のコンピューターは、Macintoshだったんですよ。「Macで音楽を作る」というところから入って「これを使ってビジネスもできるんだ!」と思ったことを覚えています。ビジネスのことは何もわからなかったけれど、それがきっかけで大手電機メーカーに入り、システムエンジニアになりました。

村上:実際にそこには、どれぐらいいたのですか。

エリック:4年ぐらいやっていたかな。けっこうがんばってやって。最初はプログラムは何もできなかったんですけど、COBOLからPL/I、Fortran、全部やりました。日銀の基幹システムを手掛けていましたね。

村上:COBOLって久しぶりに聞きました。

プログラムと音楽には「ロジック」という共通点がある

エリック:音楽やっている方はわかると思うんですけど、音楽ってけっこう論理的なんですよ。僕が学んだボストンのバークリー音楽院は、世界で初めてジャズやポピュラーミュージックの理論を体系化した大学なんです。そこから多くの素晴らしいアーティストが生まれたのは、周知の事実ですよね。

村上:そうですね。音楽理論ですね。

エリック:クラッシックでは当たり前だった音楽理論。“感覚の世界”と思われてきたジャズやポピュラーミュージックに、ロジックを見出したんです。プロの世界にいると、やはり演奏する時に論理的に考えていてはダメで、論理を身体にしみこませるまで練習して、それを壊すことで自分の演奏ができるんです。

僕はそういう世界での“お作法”が身についていて。それに比べると、システムエンジニアになってみて、プログラムのロジックってそんなに難しくなかったんですね。プログラムも「なんだ、こんな感じか」といった具合で、どんどん没頭してやっていた記憶があります。実際にやってみると、奥が深い。

あとプロミュージシャンってやはり、自己表現というか自己PRをしないといけない。うまいプロは山ほどいる中で仕事を獲得するには、PRできないと埋もれてしまう。けれど普通の会社員って、自己PRしないじゃないですか。

村上:はい。

エリック:だから、若造のエンジニアだったんですけど、クライアントにガンガン自己PRしていて、けっこう目立ったんですね。

村上:うん。

エリック:お客さんにも自己PRしたいから、例えば、仕事では使わないワークステーションでC言語とか使って勝手に自分でプログラムを作って、お客さんに見せたりとかしていたんですよ。喜ばせたくて。

村上:おお。

エリック:それで、すごく技術力が上がったんですね。要は、会社に言われないことをやっていたので。どんどんお客さんを楽しませたくて、やっていました。

村上:「システムエンジニアと音楽には『ロジック』という共通点があったから、あまり困らなかった」というのはすごくおもしろいですね。確かに音楽理論って「トニックからドミナント、サブドミナント」みたいに、コード進行の“かたち”という、ある程度の理論化がバークリーでされていて。今では世界中のミュージシャンに広がっていますけれど「一定のロジックの元で調和を保つ」という意味だと、確かにシステムと近いものがありますよね。

エリック:システムもビジネスも似ていると思うんですよ。

練習は“大好き”どころか“異常”なレベル

エリック:あとは、社会人の弱さというところもすごい感じていて。かの有名なマイルス・デイヴィスが「すべてを学び尽くせ。そして全部忘れろ」と言ったんですね。

これ、どういうことかというと“お勉強”のレベルだと、演奏ってできない。とことん勉強して、とことん体に身に付けて、無意識になるぐらい勉強して、初めて音楽って演奏できるんですね。

ビジネスの世界に入ったばかりで感じたのは「バズワードをサラッと上辺だけ勉強したり」とか、そういう人がすごく多いと思って。だから、プロフェッショナルとしてミュージシャン的な発想でビジネスをやっていたから、少し人より目立つようになったのではないかとと思います。

村上:確かにそうですね。マイルス・デイヴィスの話も出ましたけれども、ジョン・コルトレーンみたいにひたすら練習もするし、レコーディングも何十回もテイクを繰り返して、とにかく求道的にやるようなタイプもいますし。

商業的な成功と(こだわりの部分を)両立させながら「テイクなんて2~3個でいいんだよ。最初のこれがいいんだ」みたいにやるタイプもいますけど、エリックさんは、どういう感じでバランスを取るタイプですか?

エリック:僕、そういう意味では、とことん練習するんですよ。

村上:練習大好き。

エリック:大好きというか“異常”ですね。本当に体が壊れるまでやりました。ギリギリまで。だから、意識したのは、腱鞘炎ですね。バークリーで、マイクスターンの異常な練習量を近くで見て憧れたのもあるかと思います。手が動かなくなったら話にならないので、腱鞘炎だけは気にしました。

ビジネス書は、絶対に原書で読まなきゃダメ

村上:ビジネスの世界でも、やはり同じ考え方ですか?

エリック:同じですね。例えばビジネスの世界で、経営のフレームワークがいろいろあるじゃないですか。

村上:はい。

エリック:僕はサラッと読むだけではダメなんです。例えば、マイケル・ポーターとか、僕は全部読むし、彼の人生も知りたいから、いろんな情報を取るんですね。

「何でこいつ、こんなに本いっぱい書いているんだ?」とか「もしかして経済的に不安定だったのか?」とか、そういうところが知りたくなっちゃうので。深く読めば読むほど、すごくおもしろくて。特にビジネスの場合は「絶対に原書で読まなきゃダメだ」と思っています。やはり翻訳って限界があるじゃないですか。

村上:はい。

エリック:英語が難しくても、僕は原書を読むべきだと思っています。それが彼らのメッセージなので。

村上:うん。

エリック:僕らは英語がわからなくても、マライア・キャリーのアルバムを聴くじゃないですか。

村上:はい。

エリック:それを他の日本人のカバー曲が歌った曲を聴いても、別にマライア・キャリーの世界がわからないのと同じで、原曲を聴かないといけないと思うんですね。

村上:「なぜこの単語を選んだのか?」「似たような単語の中で、なぜこれなのか?」だと。やはり本人の言葉って、そこにあるわけですからね。

エリック:本人の言葉がわかるって、うれしいじゃないですか。だからとことんやりますね。

村上:すごいですね。

エリック:見栄っ張りなんで、とことんやっているところを見せたくないんで、やっていないフリしますけどね。

村上:(笑)。

エリック:その辺のところ、ミュージシャン的かなと思って。どのミュージシャンもそうなんですけど、みんな「練習してる」って言わないんですよ。練習してる認識がない人もいますがね。

村上:確かに。

エリック:いつも飲んで「遊んでる」と言っているんだけど、(本当は)すんげぇ練習しているんです(笑)。

村上:朝まで隠れて練習したりとかしちゃうんですよね。