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マイクロツーリズムと酒蔵の可能性(全5記事)

巣ごもり消費の「ちょっといいビールを飲みたい」需要にマッチ 増収し続ける個性派地方ビールメーカーの戦略

日本酒ファンの増加や将来のマイクロツーリズムへ繋げるためのイベント「サケソニック」が開催されました。「マイクロツーリズムと酒蔵の可能性」をテーマに行われた基調講演には、株式会社ヤッホーブルーイング代表取締役社長の井手直行氏、株式会社KURABITO STAY 代表取締役社長の田澤麻里香氏、モデレーターに面白法人カヤック 代表取締役 CEOの柳澤大輔氏が登壇。本記事では、売上が落ち込むビール業界で増収を続ける、ヤッホーブルーイングの事業戦略が語られています。

ビールメーカー大手4社の売上が2桁減

柳澤大輔氏(以下、柳澤):なるほどね。ありがとうございます。井手さんはどうですかね。

井手直行氏(以下、井手):私のほうはビール業界なのでビールの話をすると、実はビール業界も全体的に非常に厳しいんですね。大手4社も去年は売上が2桁減で、飲食店が時短で閉まったりしているので、飲食店向けのビールがぜんぜん売れないことが原因で、大手はもう大幅にダウン。

日本に500社近くあるクラフトビールメーカーも、ほとんどで売上が大幅ダウンなんですね。これは、1つは大手と同じ飲食店を併設している事業スタイルが圧倒的に多いからなんです。

ビールを作っている施設に併設したレストランで、ビアレストランという運営をしている方がかなり多いので、ここは外食(産業)の影響とまったく同じ。ビールを作っても、併設している飲食店にお客さんが来ないので、売上がぜんぜん成り立たない。

もう1つは、地ビールブームが昔あった時に、観光商材として観光地にものすごく地ビールメーカーができたんですね。その名残で今、「職人が作るクラフトビール」というふうに呼び名が変わっているんですけども、地ビールブームの名残で観光地にブルワリーを作っているところがかなり多いので、観光消費で成り立っている部分も多いんです。

今は観光地に旅行に行くことがなくなったので、そういう観光地にある企業は大幅ダウンです。クラフトビールメーカーも、だいたいは観光地にあるか、飲食店やレストラン併設型なので、ほとんどが経営が厳しく、このまま続くと多数が倒産とかになってくるんじゃないかなと思っています。

我々も飲食店向けがぜんぜんダメだし、公式ビアレストランも都内に8店舗あるんですが、ここはもう売上が半減していて瀕死の状態です。お膝元である、隣町の軽井沢は日本有数の観光地なので本来は売上がすごいんですけど、ここも観光地に誰も来ないので売上が激減しています。

巣ごもり消費で「ちょっといいビールを飲みたい」需要

井手:ただ、何で(業績が)いいのかというと、業界でもいち早く、インターネット通販とスーパーやコンビニへの販路を広げたからです。インターネット通販は前年の1.5倍から2倍ぐらいの売上を去年ずっと叩き出していて、巣ごもり消費を捕まえています。

スーパーやコンビニも同じく、巣ごもり消費で「ちょっといいビールを飲みたい」という需要がグワーッと我々のビールに集中しました。スーパーやコンビニ向けも、ものすごい前年比を叩き出しているので、トータル的にはかなり大幅な増収になったという。ビール業界では本当にレアな、たまたまそういうチャネルに特化した事業戦略がプラスになって、業績が非常にいいと。こんなのがビール業界の今の状況です。

柳澤:なるほど。お二方から状況をよくお話していただいたので、すごいよくわかりましたね。ありがとうございます。今の話が非常におもしろいなと思ったんですけど、もともと観光地とクラフトビールは、セットで相性がいいということなんですね。

井手:そうです。そうです。

柳澤:観光地に行った時に「その地域のものを飲もう」ということですね。自分の町で作られている地ビールを地域住民が飲もうという、全体の潮流として地産地消をやっていく流れは、SDGsでも推奨しているので(これから)増えていくという。

県を跨がない観光でも、地元の魅力や楽しいところを見に行こうというマイクロツーリズムがこれから来る流れだった中で、コロナでこんな状況です。だから、今はちょっとテーマとしては早いのかもしれないんですけど。

いずれ明ける。明けない夜はないですから、これから人が動き出すことは間違いないと言っていいでしょうし、マイクロツーリズムをしっかりと話していくことは、きっといい流れが作れるスタートダッシュになると思いますので。

酒蔵は「敷居が高い」と思われがち

柳澤:さっそく本題に入っていきたいんですが、田澤さんのほうから、酒蔵のホテルの話をもうちょっと詳しくお聞きしたいです。

田澤麻里香氏(以下、田澤):ありがとうございます。のちほど、館内案内のあとに蔵人体験の実際の流れも詳しくご紹介させていただくんですけれども。実際に7月から再開して、100名ちょっとのお客さまにお越しいただいたんですが、8〜9割くらいが関東のお客さまで、20人にお一人、地元の方がいらっしゃるかなという感じなんです。

実は私も18歳で上京するまで、恥ずかしながら地元に13蔵も酒蔵さんがあることを知らずに育って、Uターンして初めて知ったんですね。

今、マイクロツーリズムということで、地域の良さを再発見してみようというせっかくのいいチャンスですので。佐久エリアにお住まいのみなさんにとっても、佐久の日本酒文化は本当に国内外に誇れる素晴らしい文化だし、伝統であると思います。

酒蔵さんは敷居が高いと思われがちなんですが、ぜんぜんそんなことないです。「まちのコイン」で遊んでいただいたり、ぜひショップのある蔵元さんに立ち寄っていただいて、「どのお酒がこれに合いますか?」とか気軽に話しかけていただきたいです。

ぜひ蔵元さんやお近くの酒販店さんから日本酒を購入して、佐久エリアの方はもちろん、全国の方にも佐久の日本酒を召し上がっていただきたいなと思います。

「収支は基本トントン」でも見学ツアーを続ける理由

柳澤:なるほど。わかりました。ありがとうございます。さっきの話でちょっと補足しなきゃいけないなと思ったんですが、田澤さんはKURABITO STAYをマイクロツーリズムというか、1つの事業としてやられていたんですよね? 

田澤麻里香氏(以下、田澤):はい。そうです。

柳澤:井手さん、さっきの工場見学は、どちらかと言うとCSRやブランディングで、お金を取っているわけじゃないんですか?

井手:見学ツアーは実は有料制で。

柳澤:有料なんですね。

井手:1人1,000円取っているんですけれども、ビールのテイスティング代などもあるので、1,000円取っても収支は基本トントンなんです。なので見学ツアーは、顧客体験やプロモーションやブランディングの一環でやっています。

柳澤:なるほどね。そこ(工場や蔵元)を地元の人に開放すると、授業なんかに工場見学が組み込まれて、地元の人が若いうちに地元の会社のことを好きになって、応援するという。そういう意味だと、井手さんも、近所の小学生を受け入れたりということも、おそらく考えられてるんですかね。

井手:そうですね。コロナになって、今後は地元の方にもっともっと知ってもらって、(地元で作っているビールを)飲んでもらいたいという考えがあるので。

9月に新しく引っ越してきたこの醸造所も、去年の後半ぐらいから、地域に根ざした活動にかなり力を入れていこうと思っています。御代田町という佐久市の隣町とも協力しながら、佐久市も含めたもうちょっと広域の地元の方にも、もっと飲んでもらったり楽しんでもらおうと。ちょうどそういうところです。

職人のモチベーションも上がる、見学ツアーの意外な価値

柳澤:そうですね。たぶんツーリズムそのものを事業にしてなくても、ちょっとオープンにして受け入れてもらうことはきっと工場側にもすごく価値があって。

さっきの(大阪府)八尾市の工場、FactorISM(ファクトリズム)も、参加された工場の方がみんな同じようなことを口を揃えて言ってたんです。そこで働いている職人の方々が、「自分がやっている仕事を外に見せるのは、めちゃめちゃ楽しいし、自信になってうれしい」と。そういう価値もあるんですよね。

井手さんご自身はどうですか。会社見学や工場見学、ツーリズム自体を事業にする可能性について。実際に田澤さんは今、橘倉酒造さんと一緒にやられている事業でもありますが。

酒蔵さんとの連携や売られている方との連携で、ツーリズムそのものを事業として考えた時に、今どんな可能性を感じられていて、今後どういうふうに展開していくのか。それぞれお聞かせ願えればと思います。どうでしょうか。

田澤:井手社長から。

井手:(笑)。今は見学ツアーでビールを出したり、社員がかなりたくさんいて人材の投入もしているので、収支はほぼトントンなんですけど。我々は全国展開しているので、地域のスーパーやインターネット通販でビールを買ってくれたり。プロモーションやブランディングの一環としてやっていて、そういう活動を地道にやっているので売上もずっと上昇しているんです。

我々は製造業なので、ツーリズムだけを切り取るのはなかなか難しいんです。全国を意識していて、特に我々の見学ツアーは7〜8割ぐらいが関東圏から来ているんですね。地元の長野県内から来る人って、実は1割強なので、県外の方が圧倒的に多いんです。

ただ、今はこういう時期なんでマイクロツーリズムを考えると、ツーリズムや見学ツアー自体の収支はトントンなのかもしれない。けど、地元からそこ(ツアー)にいらっしゃる方がいっぱいいればいるほど、地元のスーパーやコンビニで、我々のビールを買ってくれるという。

全国に向けてやっていることと、地域のぎゅっと詰まったところでも成り立つことが、まったく同じなので。そういう地元のツーリズムを拡大して盛況になれば、そこの地域のビールがものすごく売れる。そんな紐付けで我々は考えられるので、地元ではもっともっと活動していきたいなと思っている。そんなところですね。

“他社には無い個性”を見つけて差別化

柳澤:例えば、佐久の13酒蔵全部がツーリズムをやった時に、全部のブランディングが上がり、結果として販売にもつながり、ファンも増えるからやったほうがいいって感覚ですか? 

井手:やらないより、やったほうがいいと思うんです。絶対に。地元の方も、「名前は知っているけどそんなに飲んでない」という方もいらっしゃると思うんでね。毎日毎日飲んでいるという方は、そうはいないのかもしれないですけれども。

13蔵あって、ただ見学をするだけだと、なかなか差別化は(難しい)。「今日行ったところはこないだと何か違うんだろうか」とか、そんなことになると思うので。

そこの酒蔵の魅力がいろいろあると思うんですね。大事なのは、個性を出して、13あったら13のメリハリの効いた体験ができることです。みんなでシェアの奪い合いじゃなくて、協力してそこのパイを増やしていけるようなると、いいんじゃないのかなと思います。

設備を見て喜んでくれるのもそうなんですけど、やっぱり我々の魅力でいくと、社員のホスピタリティや、社員が楽しそうにやってる姿や、社員自身が本当にビールマニアなんで「この人たち、本当にすごいわ」とか。普通のビール会社の見学ツアーと圧倒的に違う、人材が目玉にあるので。

人材教育にすごく力を入れているので、明らかに普通のビール工場の見学とは違うスコアが出ています。今お話を聞いて、そういうのを各蔵でぜひ見つけて伸ばしていただくのがいいんじゃないかと思いましたね。

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