うま味の相乗効果「うま味シナジー」とは

ハンク・グリーン氏:ベーコンと卵は個別でもおいしいですが、一緒にするとなぜかぐっと味が良くなりますよね。

似たような例として、生姜とチキン、刺身と醤油、キノコとドライトマトなどが挙げられます。これは、単に「食文化」として片づけられるものではありません。

シェフがキスを送るこれらの最高の組み合わせには、昔からある他の組み合わせも含め、実は分子レベルでの理屈が存在するのです。

この現象の原因は、「うま味※」という小さな成分に見ることができます。キノコやトマト、肉、チーズなどの食品に含まれる「味の良さ」の原因成分を、科学用語で「うま味(umami)」と言います。

※「旨味」と「うま味」は別のもので、旨味(または旨み)が、感覚的なおいしさの程度を表す言葉である一方、「うま味」は科学的視点からみた、ある特定の物質の味質を表します。

その独特の風味は、アミノ酸の一種であるグルタミン酸が原因です。

うま味成分を含有する食品は、単体でも非常に美味です。ところが、うま味成分を持つ食品を2つ組み合わせると、うま味の相乗効果「うま味シナジー」が生まれるのです。うま味シナジーは、研究者が実際に使っている、れっきとした専門用語です。

このマジックが始まるのは、グルタミン酸が、舌のうま味受容器の一部である「ビーナスフライトラップドメイン」に接触した時です。ビーナスフライトラップドメインの名前の由来は、“ちょうつがい”のついた肉厚の房状の外見が、植物の「ハエトリグサ(Venus flytrap)」によく似ているからです。

食材のかけ合わせで「うま味」が15倍強化

グルタミン酸はビーナスフライトラップドメインに捕らえられると、ちょうつがい周辺の成分と水素結合を起こし、ちょうつがいの「トラップ」が閉まります。すると、脳には「うま味成分だ! おいしい!」という信号が送られます。

この信号単体だけでも十分に幸せになれますが、特定のヌクレオチドを加味することにより、シナジーが起きます。ヌクレオチドとは、DNAやRNAの構成成分です。そしてこの特定のヌクレオチドは、肉やキノコなどに多く含まれます。

このヌクレオチドがグルタミン酸と一緒にトラップに捕まると構造が安定するため、強固にしっかりとトラップが閉まります。そのため、強力な「うま味」シグナルが脳に送られます。

この働きにより、「うま味」の感覚は、グルタミン酸単体の場合よりもなんと15倍も強化されるのです。

この現象は以前から知られていましたが、研究が進むにつれ、より繊細な仕組みがわかってきました。

シャンパンと牡蠣が合う、“科学的”な理由

2020年12月、『サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)』誌上に掲載された論文では、シャンパンと牡蠣について詳しい研究が行われました。

この研究では、数種類のシャンパンと牡蠣に含有される遊離グルタミン酸とヌクレオチドの量が測定されました。すると、牡蠣は単体でも、うま味シナジーを起こすのに十分な量の、これら2つの成分を含有していることがわかりました。

今度みなさんが、素敵なレストランに行ったりテイクアウトをする機会があれば、このうんちくをぜひ覚えておいてくださいね。

ところで、シャンパンにも遊離グルタミン酸とヌクレオチドはありますが、シナジーを起こす程の量はありません。そこで、研究者たちはこのように考えています。

まず牡蠣を一口食べると、舌に「うま味」成分が少し残ります。

そこにシャンパンが加わると、受容器に低レベルとはいえ、遊離グルタミン酸とヌクレオチドが流れ込みます。シナジーは、こうして高められるようです。

この現象は、世界各地のさまざまな文化や歴史の中において、昔からの食べ合わせで活用されています。こうしてその基礎的メカニズムがわかってきたとは言え、まだ研究は途上です。研究が進めば、要因となりうる他のさまざまな成分、食感、酸などが明らかになり、口の中の「うま味パーティ」が強化されるでしょう。

この仕組みの解明が進むことによって得られるのは、ディナーの席で披露できるうんちくだけではありません。僕が大好きなベーコンと卵以外でも、将来は味蕾をコントロールして、滋養に富んだヘルシーな食事をより高い風味で楽しめるようになるかもしれません。