組織と個人が、共創実現のために変わらなきゃいけない

兼清俊光氏:(アジャイルの本質とは「早く失敗して、早く学んで、早く成長する」こと。これを「どれくらい早いスピードでチャレンジできる集団になれるか?」が、共創の大事なポイントになる、という前のパートの話から)そう考えると今までとは違って、一人ひとりが主体性を発揮して仲間とつながって、不確実な未来に向けてありたい姿を描いて足を踏みだそうとするには、組織と個人が共創を実現するために変わらなきゃいけないタイミングが来ています。

それが今日のテーマである「個人のあり方と、組織のあり方の次元」になるんですけれども。

縦軸が「個人のあり方」、横軸が「組織のあり方」で。それぞれ「働く意味や動機」と「求める働き方」というのがあります。両方の軸の直交する部分が「パフォーマンス」になるんですけれども。今の(第4次)産業革命の前の、最初の産業革命が起きた時。つまり100年から140年くらい前ですね。

この頃はいったい何が求められていたかというと、働く意味は「生きるため」でした。組織で働くということは、生活をするために働くということですね。企業が求めていた働き方は「服従」です。「言われたとおりやれ」と。

100年くらい前に、大企業化するシステムを作り出したのがヘンリー・フォードという人で「分業」を作り出しましたね。T型フォードという車がありまして、1908年から1927年まで同じ型を作っていて、なんと20年間で1500万台生産したんですけど。彼は分業というやり方を発明して、流れ作業の分業方式にして人をいっぱい張りつけて働かせました。

その頃は言われたとおりやればよくて。ヘンリー・フォードが言っていたのは「私が雇いたいのは、壊れず丈夫で正確に動く手と足だ」と。「ただ、人間を雇うとちょっと面倒くさい頭と心が付いてくる」みたいな。こんなことを言われていました。この頃に大切だったのが「身体が健康」というやつですね。

「やらされている」という外発的動機から“協働”は起きない

そこから先、もうちょっと社会が進歩してくると、今度は働く動機が「安心・安全」に変わってきて、求める働き方は「Co-Operation」となります。これは役割を分担したり、期首の目標を設定したりして、個々に目標を分解してそれをみんなが成し遂げてくれた結果を足し算すると成果が出る、というやつです。

服従の時代、管理監督者はストップウォッチを持っていたんですけど、この時代に移るとストップウォッチは手放して「目標による管理」が始まりました。「しっかりと目標をお互いが確認しあえれば、あとは本人がセルフコントロールしてくれる」という考え方ですね。ですから、(ピーター・)ドラッガー氏はこれを「Management by objectives / Self Control」と言っていました。

人には心と頭がありますから、言われたことをしっかりやれば会社をクビになることもないし、家族も子どもたちも安心して育てられるというイメージですね。そうすると心も扱いますので「がんばってるね」とか声かけたりして。大事になるのは「心身が健康である」というものでした。

ところが、ここから先が今の時代に移ってきているんですけど。今、求められる働き方には「コラボレーション、協働」が1つありますね。協働というのは役割分担を超えて「あの人、ちょっと困ってそうだから手伝おう」とかですね。

「期首に目標設定はしてないけど、こういうことやったらもっとお客さんの価値ができそうだからみんなで企んで、関心ある仲間で検討して実験しようよ」みたいな。こういうのがコラボレーションです。

コラボレーションが生まれるのは外発的動機、つまり「やらされている」という動機では起きません。内発的動機になります。Pleasureと書いてあるんですけど「楽しくてしょうがない」というやつですね。仕事をしたり仲間と一緒にチャレンジしたり、価値を生み出そうとすること自体が、楽しくてしょうがない。

内発ですから、行為の中に動機が内包されているという意味になります。そうすると、コラボレーションとPleasureが結びついている組織は、働いていて幸せですね。大好きな仲間たちと大好きな仕事をして、大好きなお客さんと会ってという、多幸感。1つのことが幸せなんじゃなく、ですね。

「内発的動機づけ」がないと、人間として働く機会が失われる

ところが、コラボレーションではイノベーションは生まれません。趣味の世界も内発的動機ですけど、趣味からイノベーション生まれません。イノベーションは先ほど出ていたように「答えがない不確実な未来で、自分たちを信じて仲間とともにチャレンジする」という、すごく強いエネルギーが必要になります。

そうなるとCo-Creationに必要になるのは、個人の動機がPurposeであることです。「私は何のために生きていて、何を実現しようとしているのか?」ですね。「一人ひとりがPurposeを持ってこの組織にいる」という意味を結びつけた時に、社会価値創造みたいなところにつながっていくというところで、今は多幸感やソーシャル・インパクト、このあたりを高めていくことが非常に大事な時代になったと思います。

ヘンリー・フォードは「私が雇いたいのは正確で壊れない手と足だ」と言っていましたけど、今はそういう仕事はロボットに代わろうとしています。すでに答えがわかっている既知の知識を扱う領域がCo-Operationですけど、この領域はAIに代わろうとしています。そうすると、これからの「働く」ということは内発的に動機づいてないと、人間として働く機会が失われるんですね。

そういう意味で、個人が自分たちの働く意味を高めていくというのと、組織もそれが実現できるようにしていくというのは「なったらいいよね」ではなくて(「そうしないといけない」)。これは「nice to have」じゃなく「must」だという、そんな時代変化の中にあるんじゃないかなと思います。

85万人の働く動機・モチベーション

85万人の働く動機・モチベーションを調査で調べたら、23個の“あること”がわかったそうです。その中で、ミレニアル世代の特徴が次の通りでした。

この「仕事をやるとお金がいっぱい手に入るぞ」とか「任せてもらえるぞ」「偉く見られるぞ」みたいなところで動機づく人たちというのは、ミレニアム世代では23個の項目中、一番下の3つ。下位3つがこのモチベーションによるものなんですね。

ところが「一緒に働く仲間や家族が、この仕事を通して幸せになれるぞ」というと51パーセントが動機づいています。また「この仕事を通して、自分が成長できるぞ」は59パーセントで、「世の中の役に立てる、貢献できるぞ」という意味を仕事で見つけられると、76パーセントが動機づくのですね。この3つが上位になります。

すでに若い人たちにとっての働くということの動機づけ、なにをモチベーションにがんばれるか? ということは、先ほど説明したようなことの上のレベルに、実はもう、いっていると言えるかもしれません。

ですが組織がそのレベルに達していないと、外発的に動機づけようとするから「達成したら賞与が増えるぞ」とか「達成したら地位が上がるぞ」「君もがんばれば、自分がやれる領域が広がるぞ」みたいなことでやっている。だから、うまくいかないのかないんだと思います。