PR2025.11.27
数理最適化のエキスパートが断言「AIブームで見落とされがちな重要技術」 1,300社が導入した「演繹的AI」が意思決定を変える
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黒田有彩氏(以下、黒田):(ファイナリストに選ばれたころから、内山氏がチャレンジするようになった)そのマルチタスク、私はまだまだ苦手な部分でもあるんですけど。日々の中で、どう取り入れていらっしゃったんですか?

内山崇氏(以下、内山):本の中に1つ書いた例が、若田(光一)宇宙飛行士が「運転しながら電話をする」という……今はダメですけど、当時は認められていたんですよ。それがまさに、マルチタスクの訓練に良いと。運転は運転でちゃんと目的地に安全に運行する傍らで、もう1つの脳を使いながら会話をするという、あれが正にマルチタスクだなと思って。同時に違う2つのことをする、みたいなかたちですかね。
それってけっこう難しいですよね。なので、下手をすると両方できていないことになる、みたいなことがあり得るじゃないですか。
黒田:はい。
内山:意識はしつつも、それで効率が落ちたら意味がないので。ふだんの仕事の中で、2つのタスクをほぼ同時にこなしてみるとか。あとは飛行機の操縦経験がなかったので、フライトシミュレーターというゲームで飛行機を操縦しながら、横に置いてある文字を見るとか、算数の数式を頭の中で解いてみるとか。
黒田:なるほどですね。
内山:そういうのを意識してやってみたりという感じですかね。ただ、職業でやっている人とはちょっと違うと思うんですね。パイロットは、さまざまな状況がランダムに降ってくる状況の中で判断したりを同時に行っているので、職業でやられている方は強いなと思います。
黒田:おもしろいですね。
内山:あとはあれですかね。僕の苦労したところですね。
(画像提供:NHK)
黒田:そうですね。(スライドを指して)これです!
内山:回転椅子ですね。平衡機能検査と呼ぶんですけど、いろんな装置を体中に付けられた状態でグルグル回るんですよ。
黒田:これは横方向(水平方向)に回るだけですか? 縦方向には回らないですよね?
内山:回らないですね。これは横方向にずっと回るだけなんですよね。ただそこで「首を倒す指示」が出るんですよ。数秒おきに「前!」とか「右!」とか「左!」とか。回りながら首を振ると、ものすごい「コリオリの力」で加速度が来るんですよね。それでグラッとめまいに近い状況が作り出されて、それを回転しながら首を振り続けるというのを最大30分続ける、という試験でしたね。
僕はこの検査の前に、予備的なエアカロリック検査と呼ばれる、耳に温風を吹き付けて疑似的にめまいを誘発させるという検査があるんですけど。それで右耳、左耳とやっていって、左耳の時に異常が出たんですよね。
右耳の時は「何かグルグル回るな」と思っていて。左耳を始めたら、今度は逆向きに回るのでおもしろいなと思っていたら、ちょっと具合が悪くなって。それをたぶん、本人が気付くよりもお医者さんたちの方が先に察知をして。「ちょっとまずいな……」という空気の中で冷や汗が出始めて、という状況になってしまって。そこでちょっと一時休憩が入って。
そのあと本当はこの平衡機能検査だったんですけど、しばらくはできない状況になっちゃったんですね。一度は「止めとく?」と先生に言われたんですよ。「これを止めたからといって、試験がすぐにダメになるわけじゃないから」みたいなことを言ってくるわけですよ。でも、これは騙されちゃいけないと思って「やります!」と。
ちょっとフラついていたんですけど、ちゃんと椅子に乗って器具を付けて検査をしましたね。ただ5分ぐらいしか持たなかったんですよね。回る速度は、すごくゆっくりなんですよ。最初は1分間に4回転ぐらいから始まるんですね。1分間に4回転なので15秒で1回転。だとすると、けっこう遅いじゃないですか。
黒田:はい。
内山:ですけど、そこで「頭を振る」という動作で、けっこう(ダメージが)来るんですよね。それがボディブローのように蓄積されていって。なんていうか「吐くような気持ち悪さ」じゃないんですよね。目に付けている機械がけっこう重たいごっついやつで、これで目の動きを見られているんですけど、めまいで冷や汗がものすごく出て、汗で機械が支えきれなくなって落ちてきちゃったんですよね。
支えながら根性でやっていたんですけど、途中であえなくドクターストップ。しばらくはダウンして寝てて。なのでみんな(他の候補者)がいる待合室に戻った時には、すごい心配されて(笑)。「しばらく戻って来ないから『どうした!?』と思ってた」と。というこの検査は、苦戦しました。これが最終選抜の最初にあった検査だったので、まさに出鼻をくじかれたというか。これはけっこう辛かったですね。
黒田:この試験の前にJAXAの中に一人で残って、クルクル回転する椅子で練習をされていたという話も、本に書かれていましたね。
内山:そうですね。これはなかなか克服できなくて。詳細な内容は知らなかったんですけど、こういう検査があるというのは書かれていて。なので僕はひたすら回転する椅子を、ものすごい速度で回してたんですよ。そしたら、やっぱりちょっとキツかったですね。練習をした時も、ダメージを数時間引きずるみたいな状況になっちゃって、これ以上やったらあまり体に良くないなと思って。毎日でんぐり返しするとか、地道にやると多少は変わるのかな? という気はするんですけど。
黒田:耳に温風を当てるのって、きっとドライヤーぐらいじゃだめなんですよね?
(一同笑)
内山:やろうと思ってます?(笑)。

黒田:どうやって練習できるのかなと思って(笑)。
内山:どうなんだろう。間違ったやり方で、耳を壊されちゃうとまずいなと思うので(止めた方がいい)。
黒田:確かにそうですね(笑)。
内山:けっこう圧がすごかった気がします。「そんなにやって大丈夫?」ぐらいだったと思いますよ。でもあまりやらないほうがいい。
黒田:わかりました(笑)。温度というよりは圧がすごい? 風圧がすごいということですか?
内山:けっこう風量がすごかった記憶がありますね。昔はなんか、お湯とかでやられていたみたいな。
黒田:怖いですね(笑)。
内山:でも僕は、本当に弱いんですね。小さい頃から車もダメでしたし、メリーゴーランドもダメなんですよ。
黒田:えー!?
内山:特に調子が悪い時はそうですね、電車もちょっとヤバい時もあるし。それぐらい本当に弱くて「そんなので、よく応募したな」と言われることもあるんですけど(笑)。でも乗り物酔いを多少するぐらいの人は、たぶんクリアできるんじゃないかなと思いますね。僕はけっこう弱いというか、敏感なんですけど。黒田さんはどうですか?
黒田:私は、ほぼ酔わないですね。
内山:船もいけます?
黒田:船は1回「酔い止めを飲まずに実験的に乗ってみよう」と思った時があって。せっかくの機会なので「どう酔っていくんだろう?」というプロセスを知りたくて。結果、酔いましたよね(笑)。その時は魚釣りをやっていたんですけど、やっぱり手元に集中して餌を付けるとすぐに酔いが来るんですよ。そういう時は、すごく朗らかな気持ち・和やかな気持ちで遠くを見たりしながら「ちょっと治まったな」というのを試していました。最終的には、みんなに迷惑をかけないように薬を飲むということはしましたけど(笑)。
それを試せるくらいの余裕は持ち合わせている感じです。
内山:それだったらいけますね。僕も船に1年半ぐらい前かな? 同僚と子どもたちと乗ったんですけど、子どもはピンピンしていて。その日は凪に近いぐらい荒れていなかったんですけど、僕はやっぱり(ダメだった)。止まると揺れるじゃないですか。
黒田:揺れますね。
内山:万全な対策をしたんです。酔い止めも飲んで、炭酸を飲んだほうがいいとかなんとか、ありとあらゆる、ちょっと怪しいやつも含めて全部やったんですよ。前日もちゃんと寝て、すべてやり尽くしてダメでしたね。
黒田:(笑)。
内山:途中で、海にちょっと“餌”を撒いて……。
(一同笑)
内山:だからけっこう釣れましたよ!
(一同笑)
内山:釣りはわりと釣れたんですよ。でもやっぱり子どもも平気だし、同僚も平気だし。「え!? そんなので酔うんですか?」ぐらいだったんですよ。僕にとって、船はきついですね。船以外は多少平気になりましたけど、やっぱり船はきつかったですね。でも黒田さんは大丈夫そうですね。
黒田:むしろ内山さん的には、唯一の弱点と言ってもいいかもしれないところが、ここだったんですね。
内山:そうですね。これはきつかったですね。ちょっと対策しきれなかったというところがありましたね。
黒田:難しいですね。
内山:(スライドを指して)この辺はけっこう楽しかった思い出なんですけど。

T-38という、NASAのオペレーションスキルの訓練で使われるジェット機ですね。2人乗りのジェット機に乗せてもらって、これは飛んでないので余裕な顔していますけど(笑)。
(一同笑)
内山:それに乗せてもらったりですね。これは船外活動(EVA)訓練のために使っている、地上の設備なんですけど。

体を吊って体のバランスを取りながら、手でいろんな作業をしていく。ネジを締めたり移動したりという、そういった試験もありましたね。この時も酔っちゃったんですよね。自分で動いてもがけばもがくほど、揺れるじゃないですか。
黒田:はい。
内山:これでも酔っちゃって、ちょっと失敗でしたね。
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