バズると作品だけじゃなく、作者としても認知度が上がる

工藤雄大氏(以下、工藤):なるほど。(バズった後にくる連絡は)出版社さん以外ってないんですか? 最近だと「YouTubeアニメ動画作りませんか?」みたいなのとかもあったりとか。

若林稔弥(以下、若林):ああ。僕、(バズったのが)2年前じゃないですか。2年前はちょっとね。

工藤:2年前は状況が違いますね。

若林:最近はありますよ。YouTube動画との「こういう企画があるから原作やりませんか?」みたいな。

工藤:ああ、そういうのはやはりDMで。

若林:そう。やはりこういうことやっていると、いろんな仕事が来るよね。広告とかさ。来る、来る。

地球のお魚ぽんちゃん氏(以下、ぽんちゃん):そうですね。PRとかはやはり。ちょっと話が戻りますけど、バズったことのメリットという部分で。漫画だけじゃなくて、作者としても認知度がすごく上がるというのがあって。

工藤:フォロワーが増えたりとかして。

ぽんちゃん:うん。それで今、これからのSNS漫画家の生き方に、絶対切って話せない「PR漫画を描く」というのがあるんですけど。作者としての認知度が上がると、PR漫画を書く時とかの武器になったりするんですね。

だからそういった面でも、やはりTwitterでバズったりするメリットというのはあるかなと思いますね。

SNSで漫画をヒットさせるには、とにかく「見やすく描く」

工藤:ありがとうございます。バズった漫画の時のどうしているか、どういう話が来たかということ伺ったんですが、時間も時間なので次に行きたいと思っていまして。

ここからが「SNSでヒットする漫画の作り方」というところで。お二人から、今からTwitterで漫画を上げよう、SNSで漫画を描きたいと思っている方々に向けて、どういったところを意識したらいいのか。何が大事なのかというところをお話いただければと思います。

若林:具体的な話ですね。

工藤:具体的な話です。若林先生からお願いしていいですか。

若林:詳しくは自分のpixivFANBOXで、箇条書きで最近出しているんですけど、とにかく「見やすく描く」というのが大事で。ようするに、SNS漫画ってみんなスマホで読むじゃないですか。だから小さいんですよね。小さくても見やすい、読みやすい文字というのをまず心がける。まず1つ。

工藤:まず1つ。

若林:『極主夫道』あるじゃないですか。

工藤:『極主夫道』、はい。

若林:あれ、モノクロ漫画なんですけど『極主夫道』はもうピカイチ見やすい漫画。

極主夫道 1 (BUNCH COMICS)

ぽんちゃん:めっちゃわかる。

工藤:へえ!

若林:みなさん、あれを見習ってください。

工藤:あれを真似したほうがいい。

ぽんちゃん:すごいですよ。

若林:まず、キャラクターのシルエットが遠目で見てもわかるように、ちゃんと構図が取られている。キャラクターの主線もちょうどいい太さで、画面がごちゃつかないように区別されて描かれている。

背景も、奥行きのある画面を作っているんです。あれが難しいんです。奥行きのある画面って、えらい見やすいんですよ。

工藤:へえ!

若林:といういろんな工夫があって。しかも『極主夫道』は文字も大きい。

工藤:ああ。

若林:『極主夫道』は今、みんなが教科書にする漫画。

工藤:教科書にしてほしい。

(一同笑)

若林:うん。そう。

スマホ読書に適した、文字のサイズと量とは?

ぽんちゃん:でも、確かに文字の大きさは、私も最近ちょっと意識するようになって。Twitter上で一番見やすい級数(文字のサイズ)をいろいろ調べたり、いろんな漫画のどのくらいのサイズが読みやすいのかというのは意識して。今までの描いている漫画と『一線こせないカテキョと生徒』の級数は違うんですよ。

工藤:へえ。

ぽんちゃん:そこをすごく意識するんです。

工藤:どれくらいって、聞いても大丈夫なんですか?

ぽんちゃん:18ポイントが一番たぶん見やすい。

工藤:へえ。

ぽんちゃん:たぶん、紙になった時はけっこうデカくて。ただ、やはりスマホの小さい画面で見ると、極力文字は大きいほうがたぶん読みやすいし「ああ、小さいな。スワイプ」とならないと思うので。そういう、漫画のおもしろさ以外のところでも、かなり気は遣うようにはしていますね。

工藤:そうですよね。やはりTwitterってけっこう反射で反応したりもするので、そういった細かいところも大事だったりしますし。吹き出しの中のセリフ量とかも決めていたりするんですか?

ぽんちゃん:うーん。なるべく多くならないようにとかは意識していますね。極力、いい意味でも軽い気持ちで読んでもらったほうが、リツイートとかいいねもされると思うので、気軽に読めるような構図にするようにはしていますね。

工藤:そこは意識して。若林先生はどうですか?

若林:文字数に関しては、1つの吹き出しの中に18文字ぐらいがMAXと決めています。

工藤:決めているんですね。

若林:これが、要は視認性。パッと見で何が描いてあるか、一瞬でわかる文字の多さの限界レベルみたいな。

工藤:へえ!

若林:たぶん18文字。

工藤:18ポイントで18文字くらい。

若林:6文字3行とか、4文字4行とか、その辺の文字数を意識して。それ以上増えると「読もう」と思わないと読めない感じになっている。

工藤:ああ。反射で読めないみたいな。

若林:そうそう。そういうふうにしているかな。

バズる漫画には3つの性質がある

工藤:めちゃめちゃおもしろいんですけど、他にもいろいろ聞きたくて。その意識しているところで、若林先生が「バズる漫画には3つの性質がある」という話を。

若林:さっきも話しましたけど「意外性」。「こんなオチになるの?」「1+1=42?」。

(会場笑)

ぽんちゃん:ありがとうございます。

若林:「共感性」。「あるある、わかるわー」。

工藤:『幸せカナコの殺し屋生活』が。

幸せカナコの殺し屋生活(1) (星海社コミックス)

若林:そう。3つ目がPR漫画とかに必要だと思うんですけど「有用性」です。

工藤:「有用性」。

若林:役に立つ。

工藤:役に。ああ!

若林:「勉強になったわ。知らなかったわ。なるほどね」の部分。この3つの感情がやはり、みんなリツイートしやすい。この3つのどれかに深く刺されば、だいたいみんな共有してもらえる。

意識すべき「読者がどういう感想を持つか?」と「言及ポイント」

若林:SNSで漫画を作る時にすごい気にするのが……でもこれ、SNSに限らずなんですけど「読者がこの漫画を読んで、どういう感想を持つか?」をすごい考えるんですね。例えば「この漫画をリツートする時、何か一言コメント添える時に、みんなはなんてコメント付けるかな?」。

ぽんちゃん:はい、はい、はい、はい。

若林:『徒然チルドレン』という恋愛マンガを描いた時はそれがわかりやすくて。

徒然チルドレン(1) (週刊少年マガジンコミックス)

「わー、めっちゃキュンキュンする」と言わせたら勝ち、みたいな。そういう感想を持たせたいから、要は「キュンキュンする場面を描けばいいなみたいな」という計算で。

まずそこが1個の指標になるから「この漫画はこういうふうに読者を思わせたい漫画だから、じゃあ、そういう場面とかやりとりがちゃんと大きく入るように作りましょうね」と思いながら作る。

工藤:はあー。

ぽんちゃん:それでいうと『一線こせないカテキョと生徒』の1話で、やっぱり「42」って言われたかったんです。

一線こせないカテキョと生徒(1)

工藤:そうですよね。

ぽんちゃん:「42じゃないだろ。42じゃないだろ。42じゃないだろ」というリプライがたくさん来て、それはある種、狙い通りになった部分ではあったのかもしれませんね。

若林:さっき言われていた「ツッコミ待ち」というやつですよね。

ぽんちゃん:まさしく本当にそうで。バズらせやすいような漫画を描く時に意識したらいいなと思う部分が、まさしくツッコミ待ちをするというか、ツッコミ、つまり「言及ポイント」を作る。

どんなネタでも、それこそ「ここがキュンキュンする」とか「ここの誰々の行動が馬鹿だ」とか、必ず誰しもが言いやすい部分みたいなのを作ってあげる。言及されるということは、それが引用リツートだったりとかで多くの人に広まるという構造になっていると思っていて。そういった部分を意識するとかいいのかな。

工藤:意識するといいと。

若林:ねぇー。

工藤:お二人とも、バズの狙い方がぜんぜん違って。

ぽんちゃん:なんか本当、めっちゃ勉強になる。

工藤:でも、参考になられる方の幅が広いんだ。

若林:なるほど。