シュールさに特化して、ツッコミどころしかない「全員ボケ」状態

工藤雄大氏(以下、工藤):次がまたぽんちゃん先生にお願いしたいんですが、気に入っている4コマ漫画というものですね。

地球のお魚ぽんちゃん氏(以下、ぽんちゃん):これは私が今『一線こせないカテキョと生徒』を描く前というか、描きつつもたまに上げてははいたんですけど。もともとTwitterで4コマのギャグ漫画を描いていたのがはじめで、ずっと上げている中でウケたやつをギュッと集めて投稿し直したら、めちゃくちゃバズらせていただいたみたいなやつがあって。

工藤:そうですよね。こちらは「23万5千いいね」付いたと。

ぽんちゃん:ありがとうございます。そうですね。これも、けっこう似たような考えっちゃ考えで作ってはいるんですけど。とにかく4コマ漫画に関しては、もうシュールさに特化するというか、本当にツッコミどころしかないようなかたちで作っています。

『一線こせないカテキョと生徒』の漫画に関しては、その物語とかストーリーを意識してはいるので、キャラとキャラの掛け合いとかで、ある種、ツッコミみたいなのは漫画の中でしていたりはするんですけど。このバズった4コマに関しては、全部、全員ボケ。

工藤:全員ボケ。

ぽんちゃん:はい。本当に全員シュールなことしかしていないというやつが、今までも多くバズったという感じなんですよね。

工藤:なるほど。

“あるある”から、いかにシュールにできるか

ぽんちゃん:とにかく本当にもう、突き抜けるみたいなところは意識しているかもしれない。

工藤:本当にすごいシュールで、めちゃめちゃツッコミどころ満載ですごいんですけど、どうやって思いつくんですか?

ぽんちゃん:どうやって? 普通にその......。

工藤:あまり思考過程が見えづらいんですよね。なんか。

ぽんちゃん:なんだろう。でも“あるある”は確かにあるかもしれなくて。例えば「終電逃した時にナンパされる」という、あるあるとか。

工藤:ああ。

若林稔弥(以下、若林):あるあるなの?

ぽんちゃん:ああ、ごめんなさい。

(会場笑)

ぽんちゃん:私のあるあるじゃなくて、よくあるシチュエーションとして。

工藤:シチュエーションあるある。

ぽんちゃん:そうそう。「カップルがファミレスで別れ話をしている」というあるあるから、そのシチュエーションを考えて。そこからいかにシュールにできるか? というのを考えて描いているところはあるかもです。

作家ごとに全く異なる、漫画の描き方

工藤:若林先生とは作り方とか、ぜんぜん違う感じですか?

若林:僕、このテイストでいっぱい描けと言われたら、もう2~3本で泣いて謝るかもしれない(笑)。

(一同笑)

若林:要は僕から見て、全部“飛び道具”に見えるんです。“ネタ”という感じの。ぽんちゃんさんは「日常のよくあるシチュエーションから、ネタなんていくらでも思いつきますよ」と、さっきおっしゃいましたけど。

ぽんちゃん:(笑)。

若林:僕、なかなか発想できないんですよね。

工藤:ああ。

若林:「ええ、そんな~」とか「ここでタイムマシンでみたいなの、無理やわー」みたいな。

(一同笑)

若林:そんな飛び道具、いっぱい僕、思い付けないです。ごめんなさい。

工藤:はい、はい。

若林:何とか“1本の刀の振り方”を見つけるみたいな。

工藤:そこはもう作り方とか、ぜんぜん違うという。

若林:あの人、いっぱい刀を持ってくる人じゃない。「オラー!」と言って。そのくらいの作家性の違いは感じますね。

ぽんちゃん:でも、こっちからすると、1本の刀で1本筋の通ったもので肉付けをしていって、振り方を考えるとできるほうがもう信じられないというか。すごいうらやましい。

工藤:お互いにお互いを。

若林:やはり違うんですね。

工藤:違うんですね。でも、たぶん見ておられている方も、すごいいろんな描き方をされている方がいらっしゃると思うので。幅があったほうが勉強になられる方とかすごい多いなと思うので、詳しいことは聞いていきたいなと思いますね。

「3万はいくだろう」と思って出した漫画に「32万いいね」

工藤:次、行きたいなと思っていまして『幸せカナコの殺し屋生活』の第1話ですね。

工藤:こちらなんと、2年前に「32万いいね」いっているんですね。

ぽんちゃん:すごい。

若林:もう2年前ですか。

工藤:2年前ですね。ちょうど2年くらい前じゃないですか。こちらの作った時のきっかけとバズったきっかけ、こだわりポイントを教えていただければと思います。

若林:きっかけとしては、僕、そもそも今、ツイ4という星海社さんの媒体で連載させてもらっているんですけれども。そこの担当さんと、次の次回作について打ち合わせをしておりました。

「社会人の人が元気になる漫画を描いてほしいです」というから、僕はこれを描いた。そしたら担当さんが「バズるとは思うけど、それだけな気がします」と言うんですね。僕も、確かにその可能性あるなと思って描いて出した。あ、バズったバズったと。

工藤:これくらいバズると思っていたんですか?

若林:これくらいとは思っていなかった。

(一同笑)

若林:僕の想定では「3万はいくだろう」と思っていた。それでも。

ぽんちゃん:10分の1の算段なんだ。

若林:すげ! と思って。こんなバズることあるんだと、僕もびっくりした。

バズったポイントは「共感性」「意外性」

工藤:バズると思ったポイントというのは。

若林:ポイントはいくつかあって、まず共感できる部分があると。1ページ目はただのギャグなんでアレなんですけど、2ページ目のこの「福利厚生しっかりしています。給料もいいですよ」みたいな「え……」みたいなところの、まず共感性。あと3ページ目で「みんな、ムカつくやつをぶっ殺したいよね?」というところの共感性。

工藤:「ムカつくやつをぶっ殺したいよねという共感性」?(笑)。

若林:(笑)。

(会場笑)

工藤:いやぁ、そこに共感がある人って思わなかったです(笑)。

若林:だから、共感性がこの漫画にはあるから「これで1万リツイートいける」と思った。次に、最後の4ページ目で「人を殺したのにご飯なんて食べられない」と言いながら「お肉おいしい!」みたいなこと言う、意外性。

工藤:意外性。

若林:そう、意外。意外じゃん。こんなことになるなんて意外じゃんと思って、僕にしてはいい飛び道具を出したぞと思って。

工藤:はい、はい、はい。

若林:そう、そう。ここで「意外だから2万いくわ」と思って。

ぽんちゃん:うーん。

ノイズになる可能性もあると思いながら「行っとけ行っとけ!」

若林:ダメ押しで、担当さんに見せた時のネームには、動物のダジャレはなかったの。

工藤:へえ!

ぽんちゃん:へえ!

若林:あそこは「ええ、無理だよー」みたいなこと言っていただけだった。そこで、ピンと閃いて「なんかみんな、ダジャレ好きじゃん?」と思って。

ぽんちゃん:(笑)。

若林:「みんな、ダジャレ好きじゃん」と思って、これやったら意外とおもしろくない? みたいな。でも、ここはけっこう博打だなとか思いながら、ノイズになる可能性もあると思いながら「行っとけ行っとけ!」という感じで。どうせ失敗したら止めりゃいいんだしと思ってやったら、たぶんそれもウケたんでしょうね。「3万リツイートまでは行ける!」と思って出した。

工藤:そうしたらなんと「12万リツイートの32万いいね」。

ぽんちゃん:ぜんぜん読み外れてるじゃないですか(笑)。

(会場笑)

工藤:大幅に。

若林:あああ! と思って。

安心して作品発信できるための「基準作り」

工藤:出した後にそうなった要因とか、分析とかあります?

若林:単純に、僕が思っているよりもニーズのマッチングがうまくいったんだろうなというだけの話かなと思っていて。やはり、そこまではわからん。なんも。偶然じゃんとしか思わん。

(会場笑)

ぽんちゃん:でも、そこまで事前に出す前にシミュレーションできているのが、本当にすごいなと思って。

若林:でも、当たったから言えるんですよ。

ぽんちゃん:(笑)。まあまあ。

若林:外れていることもいっぱいございます。

(会場笑)

工藤:いやいや。

ぽんちゃん:でも私なんか漫画出すまでに、投稿ボタン押すまでに、ずっと緊張で手が震えるくらいビクビクしてて。「10リツイートぐらいしか、いかないんじゃないか……?」みたいな、未だに思ったりするんですよ。

工藤:未だにですか。

ぽんちゃん:本当に本当に思っています。だから、そこまでけっこう偶発的なところに掛けちゃっている自分がいて。シュールだから、どこがウケるかわからない。だから、そうやっていろいろ分析しながら「この要素で何ポイント、この要素で何ポイント」とやっていくのは、すごく新鮮で。そういうバズらせ方ありだと思いますよね。

工藤:確かに、確かに。作り方がおもしろいですよね。「要素で何点」という足し方なんですね。

若林:そうそう。不安なまま作品を出したくないじゃないですか。

工藤:ほうほう。

ぽんちゃん:うんうん。

若林:だから「最低これだけやっていれば、ある程度は安心して作品発信できる」という基準みたいなものを作るんですよ。そこに当てはめていって作るということをやりますよね。

工藤:なるほど。でも、作品を見ながら作家さんに解説してもらうって、なかなか新しいなと思っていて。

ぽんちゃん:めっちゃそうですよね。なかなかないですよ(笑)。

フルカラーはバズりに影響した?

工藤:ちなみに、フルカラー化も(バズった)要因としてあると思います?

若林:それも多少は。やはり見易さ大事ですよね。

工藤:(フルカラーにしたのは)この『幸せカナコの殺し屋生活』からですよね?

若林:『幸せカナコの殺し屋生活』からですかね。基本的にはそうですね。

工藤:それは如実に差があるなという。あまり(フルカラーは)なかったですよね。この当時、なんなら2年前って。

若林:ちょっとわかんないね。カラーがどれだけ……。

工藤:影響したかは。

若林:数字に貢献したかはわかんないですね。でも、なくはないはず。

工藤:わかりました。細かいところとか、今回その話を踏まえた上で、他の新人の漫画家さんたちに伝えてほしいこととかは、テーマ4の「SNSでヒットする漫画のつくり方」のところでお話していただければいいかなと思いますので、紹介とざっくり概要のところで次に行きたいと思います。