プロジェクトで負けたことが、光秀が謀反を起こした理由?

房野史典氏(以下、房野):(ビジネスにおける)優先順位でいえば、(スピード感は)だいぶ上という。なるほどね~。じゃあ秀吉もあったのかな? 「これは!」っていう。

須藤憲司氏(以下、須藤):だってあの人、商売人としてやってたら、絶対めちゃくちゃ成功してますよ。

房野:とんでもないですよね(笑)。

須藤:絶対に成功してる。

房野:状況としては確かに。明智光秀は、自分とライバル関係なわけですよ。ここ(自身の本)にも書きましたけど、まあまあこれは(「本能寺の変」の)原因の1つにあっただろうなっていう「四国説」っていうのがあって。

13歳のきみと、戦国時代の「戦」の話をしよう。

それは光秀と秀吉が形的にですけど争って、企業でいえば「(光秀が)プロジェクトで負けた」となった。その結果として光秀は、自分には明るい未来が待ってないことを悟って謀反を起こした、という説なんですが。それによって秀吉は「光秀、なんかあるな」みたいな匂いを、たぶん感じ取ってたっぽいんですよ。それもあるんでしょうね。

秀吉の“ワンチャン狙い”がうまくいった可能性

須藤:……いや、わかんないですよ。確率かどうかよりも「そうであってほしい」と思って、動き出している可能性もありますよね。

房野:え?

須藤:だって、その当時の織田家でいくと、光秀ってエリートなわけだし。一方で叩き上げ、一気に成り上がってきてた秀吉。「あれ、このストーリーあり得るぞ?」と。

房野:え、怖。そこも描いているってことですか? 

須藤:もしそうなったとして「自分がもしここで行ったら、私、ワンチャンあります」みたいな。

(会場笑)

ワンチャン狙ってる可能性、あるじゃないですか。

房野:じゃあ結果的に言うと、ワンチャン狙って、うまくいったパターンみたいな?

須藤:いや、可能性はあると思いますよ。

房野:うわぁ、おもしろ。

須藤:仮にそこで秀吉が「どうしよう、叱られちゃう」とか考えてる奴だったら、こんなに成功してないですよ。

房野:もし「信長が死んでる」っていう情報が嘘だったら、帰ったときに、激叱られっていうか、処罰もとんでもないでしょうけど……。

須藤:でもね、その時も相当うまい言い訳を考えてると思います。

(会場笑)

房野:考えながらやってるんだろうなぁ(笑)。

須藤:走ってて「これどうしよう!?」みたいな。万が一あったら。

房野:なるほどね。それはあるかもですわ。すごいなぁ。

須藤:草履、暖める人ですよ?

(会場笑)

房野:そのエピソード、本当かどうかわかんないですけどね(笑)。

優秀な人との仕事で初めてわかる「人材の良し悪し」

房野:でも、その秀吉の情報スピードっていうか、さっきの兵站にもつながるんですけど。『麒麟がくる』の時代考証をされている小和田(哲男)先生が「秀吉のターニングポイントは、1発目に信長にもらった土地が滋賀県だったところだと思う」って。

須藤:お~。

房野:近江って、近江商人がいる。要は古代から要衝地、交通の要衝でもあり、京都に近くて、経済がガーッと回っていて、商人が育っていたところだったんです。そこに所領をもらったから、要は商才がある部下たちがいるわけなんですよね。

具体的にいえば、のちの石田三成が近江の出身ですから。あそこをゲットできて、官僚的・奉行的に優れているやつがいきなり家臣になったから、つながっていったと思うって(小和田先生が)おっしゃっていて。確かにこれ(近江を与えられたこと)は大きいなと思いました。

須藤:いや、大きいですよ。めちゃくちゃ大きい。

房野:人材って『ハック思考』にも書かれていましたけど、集める時、当たり前ですけど重要ですよね。

ハック思考〜最短最速で世界が変わる方法論〜 (NewsPicks Book)

須藤:重要ですよ。重要というか、そもそも人材の良し悪しってどうやったらわかるかというと、優秀な人と仕事することですね。

房野:え?

須藤:優れた人たちと仕事をすると、良し悪しが初めてわかるんですよ。

房野:ほう! 相対的なものっていうことですか?

須藤:相対的なもの。

房野:なるほど、おもしろいな。確かにそれはあってるかも。僕、秀吉のすごいところは、一番はやっぱり「なんにもないところから出世した」ってところだと思うんですよ。なんにもないっていうのは、まあ3人で比べるとですよ。織田信長、徳川家康と。

織田信長はさっきも言ったように、パパの地盤がちゃんとあった。もちろん譜代の家臣もいる。家康はちっちゃい頃に超苦労してるけど、やっぱプリンスなんですよ。仕えている家臣がいる。でも、秀吉は誰もいないんですよ。最初の家臣は身内ですからね。

のちにずっと豊臣政権を支える、豊臣秀長っていう弟なんかが最初です。あとは嫁さんのお父さんとか、そういうところから始まってるから。そりゃ確かに近江商人というか、滋賀県のそういう人たちを見た時「あ!」ってなったでしょうね。相対的に見ていて。

もちろん身内が家臣であるのもよかったけど「こんな才能ある?」みたいな家臣が欲しかっただろうなと。

優秀な人材がゴロゴロいた、リクルート

須藤:やっぱりそういう優秀な人たちと出会って、人って変わっていきますよ。僕もそうですけど、最初にリクルートっていう会社に入って、周りが優秀だったんですよね。

房野:絶対そうですよね。いっぱいいますよね。

須藤:同じ部署に何人の起業家がいるか? ってとこですね。

房野:うわぁ、そんな感じなんだ。

須藤:僕が教育担当した、今はマンガのサイトやってる『アル』のけんすう(古川健介氏)とか。

房野:そうだ、言ってた! けんすうさんの教育担当されていたんですね。

須藤:そう、なんの教育もしないっていう教育担当。

(会場笑)

房野:しろや!(笑)。

須藤:「飲み会だけしっかりやってくれ」っていう教育しかしてなかったんですけど。それで、すごく僕はあとで人事から怒られるんですけど。それはしょうがない。当時の僕は、新人にとって飲み会より大事な仕事を思いつかなかったから。

房野:あはは(笑)。

須藤:あと彼の同期で、工藤くんっているんですけど。彼も、上場したベンチャー企業、スタートアップの社長ですね。その1個上の平尾丈くんっていうのは、じげんという上場させてる会社の社長をやっていて。そんな人たちが同じ部署にいるんですよ。

房野:会社の、しかも同じグループにいる。

須藤:そう。けんすうなんか「ホリエモンさんに会社を1億で売って入ってきた新人」です。「(彼に)何教えるんだろう?」と思って。

房野:そんな鳴り物入りの奴を(笑)。

須藤:なんも教えることもないし。飲み会の仕方だけ、ちゃんと。

房野:だから、それ何!?(笑)。さっきからそれ何?(笑)。

須藤:店のセレクトとか。「先輩からすごく怒られるから、ちょっと頼むわ」みたいな。

房野:それだけは頼むわと(笑)。

須藤:新人歓迎会の店を新人が予約するっていうので、(その新人が)すごく安い居酒屋を予約して、教育係の僕が上司から激怒されるっていう事件があったんですよ。

房野:事件って言うな(笑)。

須藤:「お前の教育がなってないんだ」っていって。それは確かにそのとおりですけど。

房野:めちゃくちゃ歴史の話しててその事件聞くと、ちっちゃく感じる。

須藤:どうでもいい話になりますけど(笑)。

房野:ちっちゃい事件だなぁ(笑)。

(会場笑)

「自分は天才だ」から「違うな、困ったな」へ

須藤:でもそういう環境にいると「なんだこれは?」と思うわけですね。こんな才能を持った人たちがいるんだと。そうすると初めて「じゃあ自分は何ができるんだろう?」って。

房野:はい、はい。

須藤:わかります? 最初は「(自分が)無限になんでもできる」と思ってるんですよ。

房野:そうですね。似てるかも、芸人も。

須藤:天才だと。なんでもできると。でも本当の天才たちに会っていくと「あれ、ちょっと待ってくださいね? 僕、違うかも」って、やっぱなるわけですよ! 人間って。

房野:(笑)。それはリクルート入った時、須藤さんの周りを見たら、この状態だったんですか? 「あれ、これ違うな?」って言って。

須藤:「違うな」どころか「困ったな」と思ったんです。

房野:困ったな!(笑)。

須藤:困ったぞと。

房野:周りにマジやべぇ奴いるぞと。

須藤:そうそう。だから「まず飲み会を教えよう」とか、本当、そういうふうになってくるわけですよ。「今の俺が優れているのは、飲みのセッティングだな」と。そこからやなと。

(会場笑)

房野:そういうことなんだ。

徳川幕府が長期政権となったのは、信長と秀吉のおかげ?

須藤:これ、すごく大切なことで。たぶん歴史上の戦国武将たちも、人との出会いで絶対に変わってきたと思うんですよ。

房野:そうだと思いますね。

須藤:「自分の得意なこととか、できることとかって何なんだろう?」ってやっていって。それでこうなっているのかなと思っているので。

房野:家康はそうでしょうね、絶対。信長と付き合ってて、秀吉の家臣になって、2人を見ているから。そりゃあ考えるところは多かったでしょうね。

須藤:その学びがあるから、徳川幕府はめっちゃ続いてるわけじゃないですか。

房野:そうかも。おかげっていうのは変ですけど、信長、秀吉がいなかったら家康はいないような気がしますもんね。

須藤:そう。短期政権になっていた可能性が高いと思う。

房野:うんうん。あとやっぱり日本人の特質が入っているんでしょうけど、信長、秀吉っていうのはちょっとスター性がありすぎたっていうのもあると思うんですよね。

須藤:わかる。「カリスマ経営者の次」とか無理だもん。無理無理。つらいよ。

房野:あはは(笑)。

須藤:絶対つらいと思う。

房野:やっぱり日本は“和”が好きじゃないですか。家康はちょうどよかったんでしょうね。もちろん家康って超カリスマだけど、そこを感じさせないというか。根回しがすごかったんだろうなと思いますよね。

須藤:そうですよね。たぶん人をすごくうまく配置したりとか。采配がうまかったんだと思います。

房野:そこですわ。