投資家はみんな、勝ち戦に乗りたい

須藤憲司氏(以下、須藤):だから、人を惹き付けたりするのにも、大義名分とかミッションとか。

房野史典氏(以下、房野):え、これめっちゃおもしろいな。採用、つまり人材を獲得するために、理念ってのが要るということですね。

須藤:お金を集めるためにもいる。

房野:ほう。なるほど。はい、はい。

須藤:だって、投資家は投資して儲けたいですよね。でも「どこにに投資しますか?」といえば、勝てる戦に乗りたいわけですよね。

房野:はい、はい。

須藤:勝ち戦に乗るにはどうしたらいいか。大義名分がないと勝てないじゃないですか。

房野:もちろんそうですね。

須藤:なぜかというと、そこに人が集まる。だけど「卵が先か、鶏が先か」という話になります。やはりちゃんとしたストーリーというか「何を自分たちは成し遂げたいのか?」というミッションがちゃんとわかった上でプレゼンをして、そこに対して「いいね」となって、資金を調達しながら戦に行くわけですよね。戦もビジネスもまったく同じなんですよ。

房野:へえ。最初の企業理念というか「僕たちが掲げるのはこれですよ」と決めるのって、当たり前ですけどめちゃくちゃ大事ということですよね。

須藤:すごい大事だと思います。

戦は「勝てる雰囲気」が出てくると勝つ

房野:逆にいえば、それが「いいね」とみんなの共感を呼ぶような理念であれば、資金は集まりやすい。

須藤:えーとね。それも僕、その両方だと思っていて。結局、みんなが「いいね」と思ってるものに、お客さんも増えていますよね。

房野:はい、はい。

須藤:なぜかというと、そういうプロダクトとかサービスを、もともと人は求めているということですよね。「それはいいね」と思うから、みんな参加するはず。で、なんとなく勝ち戦に乗りたいなという人が出てくる。「ここに出資しておくと儲かるかもしれんな」という人が増える。

房野:増える。増える。

須藤:勝てる雰囲気が出てくると、戦って勝つじゃないですか。

房野:ああ、めちゃくちゃ重要! はい、はい、はい。

須藤:雰囲気、けっこう重要。

房野:なるほどね。「俺らはイケてるんですよ」という。

須藤:空気ね。

房野:空気、確かに。芸人の話ですけど「俺らはもうドシッと構えてます。おもしろいですよ」というオーラ放っている人、やはりおもしろいですもんね。

須藤:だから、笑いも空気って大切じゃないですか。

房野:笑い、めちゃくちゃ空気です。やはりオドオドしていていたら、ウケないですよ。「何やっても、絶対おもしろいです」という、ふてぶてしいくらいの態度取っているほうが、やはりお客さんにも感じが伝わるんですよね。そうか、そういうの似てるな。

須藤:似てるんです。

実はプリンスで“バッチバチの二世”だった信長

房野:ポジションがやはり大事というか、さっきも立地とかも言っていましたけど。例えば信長の話で、これ、よく起業家の例に出されるのが「信長は、何もないところから(出世して)すごい。そんなに勢力が強くないところから、グワッと来た」というんですけど。

けっこうこれね、最近じゃ「いや、そんなことない」となっているんです。オヤジの力が超強かった。お父さんが優秀で、信長のそのあとにも影響を与えているんですけど。信長って、すごい経済を大事にしているんですね。

これ、すごく重要なんですけど、お父さんがもともと、信長にその背中を見せていたからなんですよ。具体的な例で言えば、パパは川湊を押さえているんです。津島湊と熱田湊というところ。そこで、簡単にいえば貿易をします。それで商業が発展していって、土壌がめちゃ整って。信長ってざっくりいえば、プリンスなんですよ。

須藤:プリンス。

房野:ね! そこで、荒くれ者だどうだと言っているけども、バッチバチの二世なんですよ。

須藤:バッチバチのボンボン。

房野:(笑)。はい。あの人の力はすごいし、大化けしたのはもちろん信長自身の力だけど、基盤があったというところがめちゃポイントだと思うんですけど。

立地がいかに大切な要素か

須藤:なるほど。僕、実は立地も大事なんじゃないかと思っている。立地。尾張って、実はすごい重要なポジションですよね?

房野:めちゃくちゃいいです、あそこ。

須藤:そう。でも、周りを敵にめちゃくちゃ囲まれている。

房野:そうですね。

須藤:敵は敵で信長と挟まれて、けっこう辛いです。

房野:辛い、辛い。自分も強いけど、周りも強いから。

須藤:そうそう。あれって周りを囲まれているから、みんな敵なんだけど、バランスとりながらやっていくと、戦えるわけですね。

房野:なるほど、なるほど。

須藤:非常に重要な京都にも近いし、かつ、要所を押さえている。周りは敵だらけなんだけど、でも、敵は敵のやり方がある。

房野:確かに、確かに。

須藤:と考えると、場所とか立地もすごい大事。その時にまさに「これまでどういう経験してきたか?」というのも。すごい大事だなと思って見ています。

房野:本当に能力があっても……例えば武田信玄は、山梨ですよね。マジ、山しかないです。

須藤:キツい。

房野:めちゃくちゃかわいそうだなと。

(会場笑)

房野:海があるとないではぜんぜん違う。

須藤:違う。

房野:ほんで、耕せる田畑の量が違う。だから僕、信玄が好きな理由は、そこもあるんですよ。「この土地でよく、あそこまで」という。

須藤:だって、雪降った北国って辛いですよね。

房野:辛いです。だって、戦いに出られませんから。

須藤:そうですよね。

房野:「1回休憩、1回休憩!」って言いながら進むとか、無理なんだもん。

(会場笑)

須藤:行けないです。

房野:そりゃあ無理無理。

何でシリコンバレーってすごいの?

房野:ビジネスにおける「場所」ってどんな差が出るんですか。

須藤:いっぱいあるんですが、例えばなんだろうな。今みたいなITベンチャーだったとしても、例えば「東京にいるのと大阪にいるのって、どっちのほうが有利ですか?」というと、情報が集まるのは東京でしょ。

房野:東京、めっちゃ集まる。

須藤:人が集まっているじゃないですか。何でシリコンバレーってすごいのかというと。何世代もあそこで回っているからですよ。

房野:あそこで?

須藤:インテル出てきて、その後、MicrosoftとかGoogle、FacebookとかUber出てきて。7世代、8世代くらい回っているんですよ。

房野:そんなにいっているの?

須藤:だから、シリコンバレーって、シリコンバレーバンク(SIlicon Valley bank)という、起業家のための銀行があるんですよ。

房野:そこに?

須藤:そうそう。あそこで起業した人たちは「旧来の銀行はクソだ」と。

房野:そうなんだ。

須藤:なぜかというと、旧来の銀行は起業家のビジネスに向いていない。だから「起業家のための銀行を作ろう」といって、銀行を作ったんです。弁護士とか会計士とか、起業家のためのスタッフが揃っている。

房野:うーん!

須藤:だから、世界中からシリコンバレーに集まるわけですよね。そこで競争して集積しているんです。

房野:集って行っている。

須藤:そう、そう。集積するんですよ。場所。特別な場所ですよね。

房野:シリコンバレーって、特別な場所になっているんですね。

須藤:そうなんです。情報の時代だから、別にどこから起業したっていいじゃないですか。実際、本当にいいわけですよ。でも「戦いを有利にしたい」と思う時に、そこの近くにいるとか、そこで知っている人がいるとか大事じゃないですか? それが戦国時代は、物資が集積してくる港だし、今の時代は情報が集積してくる東京やシリコンバレーなんかの立地を押さえる事が、戦を有利に進めていく上で重要なんだと思います。

才能のある人たちが集まって切磋琢磨したら、すごく伸びる

房野:大事だと思います。ただし、最初にスタートは決められないわけじゃないですか。例えば日本でいえば、今だったらどこで起業するかは選べるけど、生まれた場所は選べない。それでいえば、(戦国時代の場合)京都に行かないとダメなんですよね。

須藤:戦国?

房野:戦国は。まず、京都。この本『13歳のきみと、戦国時代の「戦」の話をしよう。』にも書きましたけど「天下」というのは、今の時代の僕らの認識と違って「畿内」と呼ばれる、今の京都・奈良・大阪あたりのことを指して「天下」といっているわけです。「天下を取る」というのは「京都を取る」ということです。

13歳のきみと、戦国時代の「戦」の話をしよう。

須藤:なるほど。

房野:さっきのお話と繋がるんですけど。大義名分を押さえるということは、朝廷がある、室町時代の幕府がある京都を押さえないことには、自分の力を誇示できないわけですよ。

須藤:なるほど。

房野:(ビジネスだと)シリコンバレーに行かないとダメな感じですか? 

須藤:そんなことないです。今はそんなことないと思うんですけど、でもすごくわかりやすくいうと、都市って集積しているんです。人も情報もお金も。例えばアーティストとかだったら、パリにいっぱい集まったんですよね。

房野:イメージとしてそうですよね。

須藤:“ある時代”に、いっぱいそこに人が集まっていたから「あいつがイケているんだったら、俺も、俺も」となるわけです。

房野:なります、なります。

須藤:そうやってアーティストが育っていくわけですよね。たぶんお笑いの世界もきっとそうで。

房野:そうですね。

須藤:なんか集まるんです。無駄に集まると、それぞれすごく伸びていきますよね。

房野:はい、はい。無駄に集まると確かに伸びていくのは、吉本興業でいえば、(所属タレントが)6千人いますからね、公表では。

須藤:そうですよね。その才能ある人たちが集まって切磋琢磨したら、すごい伸びますよね。

房野:そうか。人が集まると。

須藤:吉本興業になぜ人が集まるのかというと、そこで切磋琢磨しているから。だから伸びていく。シリコンバレーに何で起業家がいっぱい行くのかというと、あそこで切磋琢磨しているから。

房野:はい、はい。なるほど。ちょっとだけ認識が違いますね。戦国当時の京都とシリコンバレーとは。

須藤:たぶん戦国時代は、勝利の条件が「京都を取ること」なんですよね。そういうことですよね?

房野:そういうことです。

須藤:一方でシリコンバレーは、勝利の条件ではない。

房野:なるほど! 勝利の条件ではないのか。

須藤:条件でない。

房野:すげぇ。