怒りの感情はどういうふうに扱ったらいいのか

戸田久実氏:みなさんこんにちは。現在、アドット・コミュニケーションという会社の代表取締役をしています、戸田久実と申します。

主に組織や企業の研修・講演の講師業、そしてコンサルタント業をしていまして、ベースはコミュニケーションです。組織のコミュニケーションにおける課題をどういうふうにしたらいいのか? ということに関わる研修や講演のご依頼をいただいて全国を飛び回っています。

コロナ禍では、リモートでオンラインで研修・講演をすることも多くなっています。加えて、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会の理事をしています。アンガーマネジメントを世に広める。そういった活動をしている団体を運営もしています。

そして本日お話するのが、今こちらに置いてある『アンガーマネジメント』という本についてです。2020年の3月に出版をしました。こちらの書籍の主なターゲットはビジネスパーソンです。アンガーって怒りの感情です。その方たちに怒りの感情をどういうふうに扱ったらいいのか。感情に振り回されないように、どんなふうに適切な判断をして、そして表現したらいいのか。そういうことを具体的に現場の事例を持って紹介したのがこちらの本です。

アンガーマネジメント (日経文庫)

怒りに振り回されず適切な判断ができるようになるには?

さまざまな組織で、怒りに関わる相談を受けることは本当に多いんです。例えば、「部下にイラッとするんだけど、どんなふうに叱ったらいいんだろうか」や、「パワハラ問題に発展したら困るので、どういうふうに叱ったらいいんだろうか」という相談。

そして「イライラして仕事に集中ができない」や「集中力を失ったり冷静な判断ができない」や「どういうふうにこの怒りという感情を扱ったらいいのか」という相談。

または、うまくそれを表現できないという相談もあります。イライラすることもあるし、部下や後輩に何らかの伝えたいことがある。指導したいことがある。時には上司の立場の人に対しても、何か意見を言いたい、という相談です。

ただ怒りの感情がそこに伴うので、グッと抑えてしまうことが多いです。それでストレスを溜めてしまう。そんな相談がここ2~3年、とても多くなりました。

そういう方々に対して、「どういうふうにその怒りに振り回されず扱ったらいいのか」、「どんなふうに表現したらいいのか」という生の事例を私はたくさん持っているんですね。

今回、『アンガーマネジメント』の版元は日経文庫さんなのですが、そこには編集者の細谷さんという編集長がいらっしゃいます。その細谷さんに、「戸田さんはあらゆる現場で、さまざまな方から聞いたアンガーマネジメントに関する事例を持っていますよね。ぜひ理論だけじゃなくて、たくさんの事例をこの本に盛り込んで本を作ってくれないか?」というご依頼があり、この本ができあがりました。

怒りという感情をうまく扱えるようになると、人生の適切な選択ができるようになります。これはもう結論からお伝えしたんですが、多くの方がアンガーマネジメントを知り、それをご自身で習得することによって、今、私が伝えたようなことを、みなさん報告としておっしゃってくださいます。

怒りって人間にとって切り離せない感情なんですけど、けっこうエネルギーが強いので、みなさん振り回されやすいんです。ついカッとなってしまって、物にも八つ当たりしてしまって、あとで後悔する。時には罪悪感に苛まれる。

「あぁ、あんなこと言わなきゃよかった」とか「あんなふうにしなきゃよかった」とか。そういうふうに後悔することもなくなります。うまく自分の感情と付き合える。抑えるんじゃなくて、自分の感情をうまく扱える。感情と付き合える。

そういうことによって、怒りに振り回されず適切な判断・選択ができるようになった。より良い生き方ができるようになった。みなさんそうおっしゃってくださいます。

叱る目的と怒りが絡むと方向性を間違いやすい

部下や後輩に対してイラッとする。そういうご相談は、やはり通年と言っていいぐらい多いんですね。それって、「なんでイラッとするのかな?」ということから考えてもらうと、要するに自分の思いどおりになっていないわけですよ。

「こういう時はこうして欲しい」「こういうやり方をして欲しい」という思いがある。だからその指導している。なのに「なんでこんなやり方をしたのかな?」とか「なんでこういうふうになっちゃったのかな」と怒ってしまう。

時には、「このミスって、この前こういうふうにしてねって、直してねって言ったのに、なぜに同じミスを繰り返すかな」と怒ってしまう。そういう相談ってとても多いです。

そういう時にまず私がみなさんに言うのは、そもそも指導する一環で「叱るとか注意をする目的って何ですか?」って聞くんです。そうすると多くの方が、「より良くなってもらいたいから、改善して欲しい。成長して欲しい」ということをおっしゃるんです。ただ、怒りという感情がそこに絡んでくると、方向性を間違う人が出てくるんです。

つい「なんで?」と思った瞬間にイラッとして、相手を叩きのめす。最悪、再起不能にする。または、自分がどれだけ正しいのかということを証明する方向に行ってしまう。そういう方が多いんです。「この人はこんだけ悪いんだよ」みたいなことを、相談の際に言ってくるんですよ(笑)。

「あんなに言ってるのに」って。でもそこだけは、改めて振り返ってもらいます。そもそも注意することや叱ることって悪いことではないんです。なぜならば、今お伝えしたように相手の成長を願って、意識と行動を改善してもらうことだからです。そこにいけばいいんです。だからそこを間違えないように、ゴールを見失わないようにすることを、まずお伝えします。

人によって当たり前のレベルは違う

そのために、本来どうして欲しかったのか。どうあって欲しいのか。「今度同じミスを繰り返さないように、こういうことをもう1回見直して欲しい」とかですね。

例えば、約束したこの期限は必ず守って欲しいと。でも、相手にあまり経験値がなければ、なんでこういう約束した期限で守って欲しいのか説明してもよいかもしれません。ご自身にとっては当たり前のレベルかもしれなくても、経験値が違うとそうでない可能性もあるからです。

例えば「約束をした期限を守らないと、次の仕事を引き継ぐ人のスタートに影響するんだよ」とか、「こんなような影響があるんだよ」みたいにですね。そこも説明した上で、「次からさ、こうしようよ」「こうして欲しいよ」と伝える。そこを忘れないようにとアドバイスしているんです。

あとは、イラッとした瞬間に何を言っているかわからない人がいます。「本当、お前なぁ」とか「何やってんだ」とか。そういうセリフだけで「なんか怒ってる」とわかるんだけど、「じゃあ次から本来はどうしたらいいのか?」が伝わっていないケースは検証すると多いのです。

長年染みついた習慣はすぐには変わらない

改善したいという思いを持った方は、「そっか、そうすればいいのか」とわかってくださるんですね。ただ、長年染みついた習慣はすぐには変わらないんです。

ということで、「じゃあ具体的にこういうふうな言い方をしたらどうか?」を一緒に考えて、「時にはこう言ったらいいよね」というセリフを、ご自身に書いてもらうことがあります。

または振り返ってもらって、今までの怒りを表現していただく。時には「叱る時にどんな台詞をご自身で言ってたのか」を振り返って書いてもらうことがあるんです。それでご自身で検証してもらいます。

みなさんは誰かを叱るとか、注意する時の使う台詞って、けっこう無頓着なんですよ。怒りはエネルギーが強いので、ついカッとなった瞬間に、つい口から出る言葉が意味のない本心でもない、相手を叩きのめす言葉である人も多いです。

よく起こる時に、意味のない言葉を言っている人っていませんか? 「ボケ!」とか「タコ!」とかですね。「それは本当に言いたかったことかな?」みたいなことを口走る人っています。

ということで、今お伝えしたように、どういうセリフをふだんご自身が使うのかを検証しつつ、どうしたらいいのか考えていく取り組みを始めていただきます。

そして、この本を作るにあたって、現場で聞いた生々しい事例や、「こういう事例があったな」ということは、なるべくパソコンなどにWordに溜めているんですね。

それをもう1回引っ張り出して、どの事例がここで紹介できるかなという時に、やはりこれを読んでくださった方が「これって私のことかな」って思うようなことは避けなきゃいけないんです。なので、多少の脚色はしました。

あと、私の夫の事例も実はこの中に入っているんです(笑)。ただ、それがわかってしまうといけませんので、職業とか場面は多少ぼかしています。

「これ重いな」と思った相談

あとは、組織に呼ばれて研修をしたり、講演を依頼されることがあるのですが、個別に相談することってプライベートな事例が多いんです。講演とか研修のあとに、「ちょっといいですか?」って個別に相談に来るのって、だいたいプライベートの人間関係についてなんです。

その中で、私が「これ重いな」と思ったのは、離婚問題と浮気問題です。そういう相談を涙ながらに女性にされた時は、中途半端なところで終えてもいけないんだろうし、関わりすぎてもいけないだろうし。「どこまで私がやり取りしてあげたらいいのかな」とかなり判断に迷いました。

あまりにも私の判断に依存してくるんですね。私がここで「こうしたほうがいいんじゃない?」って言ったことが、この人のすべてになってしまうとなったら、もう「ご自身でどうしたいかを考えましょう」と相手にボールを投げるしかないんです。

私に全面的に「どうしたらいい?」って来ちゃったと思われたら、あとで「戸田さんがあの時こういうふうに言ったから……」と思われて、依存されても困るので、「◯◯さんはどうしたいの? どうしたいと思ってるの?」ってボールを返すようにしているんですね。それを相手がちゃんとボールをキャッチして、自分なりに「私はこうしたいと思ってたんだ」「こうしたいと思ってるんだ」って言えたらOKなんです。

でもそれができずに、パニックになっちゃったり、すがりつかれるような状況になったら、「これ私は手を離さなきゃいけないな」と思って判断をします。「これは大事な問題なので、ご自身で判断しましょう」とか「私はこれ以上の介入ができない立場です」と言って、そこは線を引きます。

怒って自分が描きたい未来になるのか?

夫のいるところに「単身赴任だけど乗り込んでいきたい」と言われた時があったのですが、その時は少し具体的な想像をしてもらいました。「そうしたらあなたはどうなると思う?」って。

「それをやっちゃいたい衝動はあると思うんだけど、それをやったら未来がどうなるかな」って。「自分が描きたい未来なのかな」って。ここだけの問題になっている人には、未来を描かせようとします。「あなたの望む未来なのか」って。

怒りの渦中に身を置いている人って、今の視点なんですよ。だけど、怒りに任せて選択して行動しちゃったら、これからのあなたの今後は、あなたが望む未来なのか? ということを一緒に考えるんですね。私が言うのではなくて、相手に想像をさせる。あとは俯瞰することをみなさんに勧めています。

「私が今こうやってイライラしていることって何が原因なんだろう?」とか「私の何が思いどおりにならなかったんだろう?」とか「今後、私が目指すところって何なんだろう?」のようにですね。

怒りは自分が生み出した感情である

さっきの部下指導だったら、同じことを繰り返しミスする部下にイライラする。「これは何が思いどおりになってないんだろう?」と考える。

私が部下に対して「こういう時は1回でミスは直すべきだ」と思ったとしても、相手にはその認識がないかもしれないし、なんでミスをしたか自分もわかってないかもしれない。この時のやり取りのゴールは、「あんたが悪い」ということを証明するわけじゃなく、あるべき姿に成長して欲しいと。こうだよねと。

中には「この人はいつも私の言うことを聞かない」なんて言う人がいるんですよ。「いつもですか? 必ずですか?」って問いかけるんですよ。そうすると、「いや、やっている時もある」と。

だとすると、「いつも」でもないし、「必ず」でもないよねと。事実なのか思い込みなのか、そこも俯瞰してやり取りしながら見てもらいます。

私の理想は、「それぞれの人が自分の人生の選択を自分でできる」ということです。自分の感情も自分が生み出したものです。怒りという感情も誰かのせい、何かのせいじゃなくて、自分が生み出した感情です。

だからこそ、自分の感情は自分で扱い責任が持てる。これは人生も同じようで、自分のこれから生きていく人生は、過去も含めて自分が責任をもって判断し選択をする。そういうことが自分の人生において大事かなと思っています。

アンガーマネジメントは心理トレーニング

最後に、私がアンガーマネジメントを学んだのが2011年です。今、息子が26歳なのですが、子育て真っ最中の時はアンガーマネジメントがわかっていない状況だったんです。それこそついカッとなって、息子にたくさん言いました(笑)。

息子が小学校3年生ぐらいの時には、学校から電話がかかってきて、「お宅の息子さんがこうでああで……」って先生に言われて、そのまま息子に「あんたはなんてことしたんだ」と、けっこうあれもこれも全部言ったんです。それこそ、あちこちに話が飛んで「だいたいあなたは」みたいな感じで。

その時に、冷静に息子に言われました。「僕が悪いことはわかってるけど、お母さんの怒り方はもっと悪い」と言われました。その瞬間に「だよね」と思って(笑)。思い返せば昔、そんなことがたくさんありました。主に家族に対してです。

アンガーマネジメントは、怒りと上手に付き合うための心理トレーニングです。決して怒ってはいけませんというものではないです。ご自身の怒りという感情とうまく付き合えて扱える。そのための心理トレーニングです。

こちらの本には、「どういうふうにトレーニングをしたらいいんだろうか?」や「どういう取り組みをしたらいいんだろうか」など、具体的に載っています。

また、怒りという感情をどんなふうに表現したらいいのかということも、現場の生の事例とともに、たくさん載っています。ぜひこちらの本をお読みいただければ、誰でも取り組めるメソッドなので、ぜひぜひみなさん、使っていただければなと思います。

アンガーマネジメント (日経文庫)