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パネルディスカッション ~2020年のスタートアップ業界を振り返る~(全3記事)

飲食業の会員制コミュニティが増加 「サービスの対価をもらって終わり」というビジネスモデルの転換期

新型コロナウイルスの感染拡大の影響は、スタートアップ業界にもさまざまな影響をもたらしました。「fabbit Conference」では、フォースタートアップス株式会社 代表取締役社長兼CEOの志水雄一郎氏、East Ventures マネージングパートナーの衛藤バタラ氏、株式会社サイバーエージェント・キャピタル ヴァイス・プレジデントの北尾崇氏、株式会社CAMPFIRE 代表取締役の家入一真氏らとともに、歴史的な転換期となった2020年のベンチャー業界を振り返ります。 本パートでは、ビジネスモデルや働き方の変化と展望について意見を交わしました。

顧客を飲食から物流にシフトして、V字回復したタイミー

那珂通雅氏(以下、那珂):みなさんにも触れていただいたので、ちょっと重複するところもあると思うんですけど、次の話題はビジネスモデルについて。

なぜこの話をするかというと、特に大企業の方々は「いや、ビジネスモデルを変えろといっても変えられない」というところがあって。スタートアップに関して言えば、今年1年間でビジネスモデルを大きくピボットしたところもあるかと思うんですけれども。

せっかくなので、北尾さんから。投資先のタイミーさんは、我々の「fabbit Conference」にも出ていただて、大きくピボットされたということですけど、今年1年間はどんなふうに変わったんでしょうか?

北尾崇氏(以下、北尾):ちょうど2月ぐらいですかね、正直、僕はまだコロナに対して楽観的だったんですけど、タイミー代表の小川(嶺)さんから「ちょっと本当にやばいかもです」ということで電話があって。

たぶん小川さんたちは飲食と向き合っていた分、オーナーさんたちがやっぱりお客さんが減りつつあるし、それに備えなきゃというので、いろんなお金の使いどころを飲食店の方が抑えにいっていることを感じたり。

あと、飲食の中でも上場企業の飲食店のオーナーさんなどと話していると、やっぱりコロナに対して本当にみなさんが危機意識を持っている。もう2月ぐらいでそんな感じだったので、「本当にお客さんがゼロになっちゃうかもです」と。(タイミー自体が)そこでもうけっこうな規模感があったので「まさかそんなことはないだろう」と思ったんですけど、本当に(小川さん)本人がそう言うので、僕もそこから意識がすごく変わりました。

2月3月は、その穴をなんとか塞ぎにいく感じだったんですけど、とはいえ、飲食じゃないところに注力するしかないということで、顧客リストをバーっと並べて、改めて「どこが引き合いが強そうか」というヒアリングからスタートした時に、やっぱり物流周りがパンパンになって、ぜんぜん人手が足りないというのが見えてきたんですね。

BASEもそのぐらいから伸びがすごくなったかもしれないですけど、その辺りが見えてきたことが結果的によかったのかなと思っています。タイミーのみんなが一枚岩になって乗り越えられたのかなと思っています。

那珂:飲食から一気に物流で、すごい転換ですよね。

北尾:そうですね。

那珂:そこでもうV字(回復)というね。そういうところ、すごいですよね。

車や人の移動に関するビジネスは大きな転換期を迎えている

那珂:バタラさんはどうですか? ビジネスモデルでけっこう変わった投資先とか。

衛藤バタラ氏(以下、衛藤):うちは国内だと、メインはオンラインでやっているところが多いので、そこまで変わらないのかなという感じなんですけど。ただしインドネシアなど、けっこうO2O(Online to Offline)の会社や投資先も多いので、そこもけっこう変わったりですね。

直接投資しているわけじゃないんですけど、例えばインドネシアのUberみたいなところは、もともとバイクで人を運ぶビジネスだったんです。それがどちらかというとフード(の配達)が中心になっていることが見られたり。

あと、うちの投資先のトラベルなどで、もともとインドネシアから海外に行くチケットを売っていたような会社がありますが、どちらかというと今はもう国内メインでやっていたり。そういう細かいピボットは見ています。

那珂:今まさにUberという話もありましたけど、私もずっとUberの株価を見ていて、Uberこそまさに、人を運ぶということでは完全にダメになったけど、(Uber)Eatsで助けられたようなところもあって、本当にいろいろあったなと思うんですけれども。

志水さんは、今年のビジネスモデルについて全般的にいかがでしょうか。見られる立場からするとどんな印象で、特に変わったと感じられた投資先や支援先はございますでしょうか?

志水雄一郎氏(以下、志水):先ほど、今期の注目する銘柄の話があったじゃないですか? 私たちが今、全データを見ているなかで、一応今期の最大調達の企業さまはMobility Technologiesなんですよ。タクシー配車アプリの会社さまが数百億の調達をしているんですね。これはたぶんいろんなことをもう見越されていて、今後、車もガソリン車は買えませんというタイミングが来るじゃないですか。

那珂:来ますね。日本はだいたい2030年ぐらいですね。

志水:国土交通省も動いて、自動運転を認めるタイミングも来るじゃないですか。人手不足で、タクシーもそうですし、たぶん物流系のトラックの運転手さんなども含めて、場合によっては自動化できるかもということで動いていく構造に、今年日本では一番お金を張ってるんですよね。

だから未来を見越すと、いわゆる車、そして人の移動から、だいぶそこに紐づいたビジネスモデルは大きく転換するタイミングなんだろうなと。投資の規模から見ると、たぶんそこが一番大きく変わるきっかけになりそうですね。

那珂:Teslaも本社をテキサスに移すということでね。

志水:(税金が)安いしね(笑)。

那珂:安いからということもあるんでしょうけれども、なんだかやっぱりそういう流れになっていくんでしょうね。

月額の会員制コミュニティを立ち上げる飲食店が増加

那珂:家入さんはどうですか? ビジネスモデルで今年振り返ってみて、大きく変わった会社とか、あるいは……。

家入一真氏(以下、家入):ビジネスモデルというとちょっと違うかもしれませんが、CAMPFIREをやっていたなかで感じた変化で言うと、要はクラウドファンディングを使ってくださる方々は飲食店さんとか生産者さんが多かったんです。コロナのなかでやはりみんなリアルに飲食店に行けないわけじゃないですか。

それでも、飲食店をやられている方は継続していかなきゃいけない。お客さんはお客さんで(それぞれのお店の)ファンだったりするんですよね。(お互いに)お店を守りたいといったところで、クラウドファンディングを通じて支援をしていたんですけど。

クラウドファンディングは、どうしても1ヶ月とか2ヶ月の短期で熱量を集めて終わるんですけど、僕らは月額で応援できる仕組みを提供していまして、クラウドファンディングをやったあとに、今度はそのまま月額の会員制のコミュニティを立ち上げられる飲食店がすごく増えたんですよ。

要は会員制のレストランみたいな感覚に近いと思うんですけど、それが居酒屋やスナックといったかたちで、もう本当に近隣に住む方や昔から通っている常連さんが月額1,000円とか500円で応援するような。

なので、クラウドファンディングで短期的にまとまったお金を集めつつ、これから先も持続可能なかたちで継続していける仕組みを作ることで、「飲食店の新しいかたちって、もしかしたらこういったものなのかもしれないな」と思ったり。

あと、同じように生産者さんで牛乳を作られている農家さんがいたんですけど、学校が休校になってしまったので、このままだと牛乳が大量廃棄になってしまうと。そこで、クラウドファンディングを通じて「商品を買ってください」と、牛乳やヨーグルトなどの乳製品を売られたんです。僕も届いたものを食べたり飲んだりしたのですが、とてもおいしかったです。

クラウドファンディングでもかなりお金が集まったんですけど、そのまま月額のコミュニティを立ち上げて……。5,000円払うと毎月牛乳やヨーグルトが送られてくる頒布会のような仕組みに転換して、今もたくさんのファンがそこに集まっています。

なので、今まで生産者さんや飲食店さんがサービスを提供して対価を頂いて終わり、という一時的な関係だったのが、いかに持続させていくかということに転換されていて、これは個人というレベルでのビジネスモデルの変化なんじゃないかなと感じましたね。

那珂:やっぱりすごいですね。大きく変わるところはそうやって変わっていくというのは、すごく参考になる話だったと思います。またじっくりと家入さんにそのへんの話もお聞きしたいと思います。

「会社という居場所」を再定義する時が来た

那珂:では、最後は働き方というところで、みなさんまたいろんなお考えもあると思うんですけれども。働き方が大きく変わってリモートになり、我々が提供しているこうしたコワーキングもいったんすごく人が減ったんですけれども、また増えてきたり。

そんなことがあると思いますし、「ワーケーション」などのいろんなキーワードが出てきて、GoToもこのあとどうなるかわからないですけど、働き方に関してそれぞれご意見をいただきたいと思います。では家入さんから、どんな変化を感じられたでしょうか?

家入:僕はもともと引きこもりだったので、いざ引きこもりの時代になると、むしろすごく強みを発揮したというか、孤独に負けない強さを持っていたというか、「自分の時代が来たな」と思ったんですけど。まぁそれは冗談として。

先ほどお話ししたように、孤独を感じる社員が(増えていると)。うちも完全リモートで、やはり一人暮らしだったり会社が居場所になっていたような子たちは孤独に苛まれていて、それによるメンタルの不調なども出てきているんですよね。

なので、そういったケアをどうすべきかというのは、ビジネスやテクノロジーでやれる部分もあると思いますし、一方で、僕は「居場所」という言葉をよく使うんですけど、会社という居場所を再定義する時が来たんだろうなと思っています。

先ほど言ったように「個」の時代はやっぱりみんなが会社を飛び出していったわけで、でも、いざ飛び出すと戻れる場所がないことに初めて気づくんですよね。それを目の当たりにしたのがたぶん2020年だったと思っていて。居場所の大事さや必要性は、これからより増していくんだろうなという気はしています。

緊急事態宣言後に実感した、サイバーエージェントの一枚岩の強さ

那珂:ありがとうございます。北尾さんはサイバーエージェントグループということで、サイバーエージェントも含めて、周りの企業で働き方が変わっていったなと感じる事例があったらお願いします。

北尾:サイバーエージェントは文化がすごく強い会社で、サイバーエージェント・キャピタルは外と向き合うことが多いので、まだその文化の影響がそんなになかったですけど、やっぱり……。2020年3月までは基本全部オフライン出社が当たり前だったんですけど、緊急事態宣言が出て何か言葉を作らなきゃということで、「リモデイ」という言葉が生まれ、月曜日と木曜日がリモートデイになったり。

あとすごかったのは、4月6日(4月7日に発出)ぐらいに正式に緊急事態宣言が出されて、その翌々日ぐらいにサイバーエージェントの藤田(晋)さんから、緊急で「オンラインあした会議」を開くという連絡があったことです。「あした会議」というのは、大きな意思決定をするサイバーエージェントの役員会で、だいたい5,000〜6,000人ぐらい社員がいるなかで、50人ぐらいが集まって開かれるんですけど。

そこに僕も参加させていただいて、だいたい毎回新規事業案はその中でも10個も通らないんですけど、その時だけ20個近く通ったんです。そこで生まれたアイデアが「PayPerView」(ABEMAの有料オンラインライブ機能)というもので、先日も桑田佳祐さんのオンラインコンサートをやったり、約18万人が3,600円のチケットを買えるようなビジネスが生まれ、Abemaとしてはかなり大当たりしたり。そういう「ここぞ」という時の一枚岩の強さをすごく感じたのと。

あと、オンラインは効率がいいなと思ったんですけど、だいたい「あした会議」は終わったらみんなで飲み会したりして、オフラインの時はすっごく盛り上がっていたんだけど、やっぱりオンラインでは……このメンツで盛り上がらないんだったら無理だなと思って。

効率がいいのはすごくいいとして、逆に飲み会はやっぱり対面で集まれたらいいなと4月の時に感じたりして。一枚になれるところとオンラインの相性のよさをすごく感じました。

オンラインコミュニケーションで、新規に「10億円投資してください」は難しい

那珂:ありがとうございます。バタラさん、先ほど家入さんから社員が孤独を感じるというお話がありました。バタラさんの会社も非常に大きな会社ですし、社員の中にはつらいとかきついと感じている人もいろいろいるかと思うんですけど、みなさんとどういうことを話されていますでしょうか?

衛藤:社内だと特に……。もともとテレワークが多いというか、コロナ前からそんなに出社しているわけじゃなくて、みんなけっこう投資先に行ったりして、ミーティングもずっとオンラインでやっていたので、それほど大きく変わらない感じがしています。

あと投資先とのミーティングも、どちらかというとテレワークのほうがやりやすくてですね。向こうもオフィスに来る無駄な時間もなかったり、やりやすいんですけど、唯一オンラインでやりづらいなと思うのは、新規のLP(出資者)の獲得ですね。さすがにオンラインで「10億円投資してください」という、新規のLPの獲得はけっこう難しいかなと感じています。

那珂:オンラインでできるようになったら、もうほとんどオフィスがいらなくなっちゃうという話ですけど。

2021年は、オフラインとリモートでの働き方の最適解を探る年に

那珂:最後に志水さんに、いわゆる働き方というところで締めていただきたいと思います。コロナでいろいろと変化したところもあると思うんですけれども、スタートアップに絞ってみて働き方に対してご意見ありましたら、最後の締めとしてお願いいたします。

志水:私はこうだと思っているのは、今みんなが試している時期だと思うんですよね。なぜかというと、フルリモートにした時に、エンゲージメントと生産性はそれ(オフラインのコミュニケーション)を密にした時とどう違いがあるのかは、まだ結果が出ていないので。

その結果が出始めた時に、(オフラインで)密になる瞬間とオンラインでリモート化したところを、どんなバランスでどうやると最適化できるんだろうか、ということを見出すのが、2020年ではなく、たぶん2021年なんです。

那珂:2021年なんですね。なるほど。

志水:その時に、また新たな事業やサービスが生まれると思っていますし、そこに合わせて働き方のトレンド・生き方のトレンドが生まれると思いますので、また来年なにかでビジネスチャンスを得られる人がfabbitの中から出てこられるといいんじゃないかなと思っています。

那珂:ありがとうございます。最後は志水さんに2021年の見通しまで言っていただいて締めていただきました。本当はまだまだいろいろお話を聞きたいんですけど、残念ながら時間になってしまいましたので、もう一度、今日ご参加いただきました4名のみなさまに大きな拍手をお願いいたします。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

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