テレワークが加速させた、情報の洪水化

大槻幸夫氏(以下、大槻):このテーマでちょっと話を変えまして。最近サイボウズで起きているいろんなことを、ここに9つ出してきました。ここからはお一人お一人に気になるトピックを選んでいただいて、これに関しての「エゴ&ピース」をお話しいただきたいと思っています。まずは吉原さん。

吉原寿樹氏(以下、吉原):僕から。そうですね……いろいろあるんですけど、個人としておもしろいなと思っているのは「情報の洪水化」ですよね。

大槻:情報の洪水化。

吉原:サイボウズは、すごく共有されている情報が多い会社で、それ自体はすごくいいことなんですけれど、多すぎると「あの情報どこでやったっけ?」「あのやり取り、どこにあったっけなぁ」ということがどうしても出てくる。

今年は特に、テレワークで確かコメント量が5倍になったとかで、サイボウズは今グループウェア上の情報共有がすごく活発になっているので、なおさら、どんどん洪水化しかけている部分があるのかな、という気はしています。なので、今のところ僕個人の活動としては、よく「AIみたい」と言われるんですけど……(笑)。

(一同笑)

「あの情報どこだっけ?」「これどこでしたっけ?」「あれ、確かどっかで見た気がするんだけどなぁ」というつぶやきを社内で見かけたら、「たぶんあそこにありましたよ」「あそこで見た気がします。これじゃないですかね」と、本当に地道に活動していくようなことをしています。

大槻:いつもお世話になっております(笑)。

吉原:どうもどうも(笑)。

(一同笑)

大槻:でも、「BOTじゃないか」って言われてるよね(笑)。

吉原:そう、最近テレワークで実際に会うことのない人も多いので。「本当に実在してるのかな?」とたまに聞かれるくらいなんですけど(笑)。

大槻:いますよ、吉原さん(笑)。

社内のニュースをまとめた動画「サイボウズ・ダイジェスト」

吉原:安心してください、ちゃんといます(笑)。僕はこういう草の根活動をこまごまとやっているんですけども。最近は僕以外にもこういう「困ったな」に共感してくれているメンバーがいます。

特におもしろいのが、月イチで「動画でサイボウズ・ダイジェスト」と名付けて行われている活動です。グループウェア上のやり取りからリアルのやり取りまで「先月サイボウズではこんなことがありましたよ、みなさんちゃんと見てますか、知ってますか」というのを、本当にニュース番組のようにまとめた動画を、毎月アップし始めたメンバーもいるんです。

これが来年以降どうなっていくか、情報はやっぱり増え続けるものだと思うので、今後どういう感じで”ピース”として着地していくのか、すごく楽しみにしています。

大槻:すごくおもしろいですよね。産休や1回転職して戻られた社員さんなど、長期にサイボウズにいなかった方が見て、短期間でサイボウズの状況をキャッチアップしたという声もあったりして。こういう取り組みがもっともっと出てくると、エゴが解消されていく感じですね。

吉原:そうですね、きっとそうなる気がしますね。

熱田優香氏(以下、熱田):すごいのが、人事の方に頼まれてやってるとかじゃないんですよね。

大槻:あぁ、これもエゴか(笑)。

熱田:(動画でサイボウズ・ダイジェストを制作されている)小林さんとか橋本さんが、自分で問題意識を持って動画を撮っちゃうという。行動力がめちゃくちゃ素晴らしいなと思いますね。

大槻:確かに。

誰かのエゴを、勝手にピースにしていく

吉原:誰かが勝手にエゴとしてつぶやいたものを、勝手にピースにしていくという活動になっているのがすごいなと思いますね。

熱田:確かに、確かに。誰かが「最近のサイボウズがわからない」とつぶやいたら、「じゃあやります」という感じの自己解決感がすごい。

大槻:ちょっとファーストペンギン的な感じもありますね。

吉原:あぁー、確かに。

大槻:組織が変わる時は、それを大切にしたほうがよさそうですよね。

青野慶久氏(以下、青野):これも本当に、小林さんたちのエゴなんでしょうね。「俺がここを解決してやる!」という。おもしろいですよね。

吉原:本人はすごくモチベーション高そうな感じがしますよね。

大槻:めちゃめちゃ楽しそうですよね(笑)。

青野:だから、クオリティが高いんですよ!

(一同笑)

熱田:そう、クオリティがめちゃくちゃ高い(笑)。

大槻:(今日みなさんに実際の動画を)お見せすればよかったですね(笑)。

熱田:あっ、動画を見せればよかった。本当にニュース番組みたいなんですよ。

大槻:「天の声」とかいますから(笑)。

(一同笑)

熱田:そう、「天の声」とかいるんですよ(笑)。

大槻:橋本君ですね(笑)。

青野:ちょいちょい小ネタを入れながら、おもしろい番組を作ってるっていうね。

吉原:ご本人たちは、今度は公式の活動として認められるようにならないかと活動をされているので。そのエゴも、いずれまたピースになるといいなと思います。

大槻:なるほど(笑)。ありがとうございます。じゃあ続いて、熱田さん。

サイボウズでの給与は交渉で決まる

熱田:ちなみにみなさん、この9つの中で気になるものがあれば(Twitterで)「#cybozudays」でリクエストいただければ取り上げるので、ぜひ送ってください。

大槻:スマホをいじって遊んでるわけじゃなくて、見てるわけですね(笑)。

熱田:そうなんです。私たちスマホ担当で、みなさんのハッシュタグを見るというタスクがありまして、サボってるわけじゃないです(笑)。私は、おそらくみなさんが一番気になっている「給与に関する情報のオープン化」。

大槻:おっ、いきますか、それ(笑)。

熱田:最近サイボウズでかなり話題になってるので、取り上げてみたいんですけど。サイボウズは今どういう給与制度かというと、週5の方や週3の方、時短の方など、本当にいろいろ(な働き方の方が)いらっしゃるんですよね。

なので、サイボウズには給与グレードがなくて、「このグレードになったらこれぐらい上がる」というものがないんですよね。

サイボウズではどうやってお給料を決めているかというと、一人ひとりが「いくらほしいです」と交渉して、「あなたのスキルだとこれくらいです」と合致したところで給与を決めているんですけど。

例えば、ヨッシー(吉原氏)がいくらもらっているのかを、私は知らないんですよね。人によってお金の価値観はすごく多様じゃないですか。私は「おもしろい仕事をもらえれば、お金はそんなにいらないっす」という感じの交渉をいつもしているんですよ。

でも、例えばもしヨッシーが「僕はお金めっちゃほしいからオナシャス」みたいな交渉をしてたとして、ヨッシーと私のスキルが同じだった場合に、それってどうなってるんだろう、ということが見えないわけですよね。

自分の給与カーブは通常の給与カーブなのか、それより上なのか下なのかというのがなかなか見えていないというか。たぶん今、「情報の非対称性があるよね」というところが、社内で議論になっているんじゃないかなと思うんですけど。

「給与公開アプリ」で約70名の社員が自分の給与を明かした

熱田:そこで、私の1歳上の杉山さんという開発の先輩がいらっしゃるんですけど。ある日いきなり「給与公開アプリを作ります」と言って、ご自身の給料を詳細に公開し始めたんですよね。

大槻:すごいですね(笑)。

熱田:本当にびっくりしたんですけど(笑)。しかも昨日、この画面キャプチャーを私、サンプルデータにしていたんですよ。

大槻:あぁ、プレゼン用にね。

熱田:そうです。プレゼン用にサンプルデータにしていたら、杉山さんが「僕のキャプチャーを使っていいですよ」というか、「リアルなキャプチャーにしないですか」と言われて。「じゃあ使っていいですか」という感じで。

青野:露出狂だね、もう。

(一同笑)

熱田:今日は杉山さんのそのままのキャプチャーを使ってるんですけど。見ていただければわかるように、1年目は「あんまり交渉しなかったのでそれなりでした」とか、2年目は「こんなふうに交渉したらこれくらい上がりました」とか。その上で「いくらでした」というのを公開していて。

それに伴って「僕も公開します」「私も公開します」という方が続いて、今は70人くらいの方が給与公開アプリに登録をしているという、サイボウズの中ですごいムーブが起こっています。人事の方に言わずにというか、たぶん勝手に始めた取り組みなんですけど(笑)。

まだピースになっているかはわからないんですのですが、「やっぱり、なんとなくの給与カーブを知りたいよね」というエゴに対して、正社員のメンバーがみんな共感してくれて、公開したい人は給与公開しているという感じなんですよね。青野さんから見たら、どうなんですか?

青野:これはまたすごいよね。自分の給料を全社員に公開するわけだもん。

熱田:(社員が)1,000人いますからね。会ったことのない人にも自分の給料を知らせちゃいますから、すごいなぁと思います。

給与額だけでなく交渉の中身まで公開

青野:実は、全員の給与を全員に公開する運営をしている会社もあるんですけど。僕も言い出してみようかなと思ったけど、やっぱり経営者から言い出すのはなかなか難しくて。「お前ら、来年から全員の給料が見えるようにするぞ」「えぇ⁉」みたいな(笑)。

それはプライバシーだから、「見せないでください!」って思うじゃないですか。だから言えなくて、どうなっていくのかなと思ったら、こうやって自発的に公開して。しかも給与の金額だけじゃないのがいいよね。

熱田:そうなんです。「こういうふうに交渉したらこれぐらい上がりました」とか、「私はこの仕事でリーダーをやって、この年はこう上がりました」とか、詳細に見られるのがけっこうすごいなというか。

青野:そうですよね。それで、見せても構わないという人がここにちゃんと解釈を付けた上で出してくれるから、やっぱり学びが大きいですよね。単に給与の金額だけで見ちゃうと感情的にも揺さぶられるのを「そういう背景があるんだ」とかね。この動きは、今年、私も衝撃を受けた1つですね。

大槻:青野さんも公開されるんですか?

(一同笑)

青野:そう、私も書き込もうと思って、実は新規レコード登録ボタンを用意したんですけど(笑)。

(一同笑)

ただ「ちょっと待てよ」と。やっぱりこれを見て、誰がどんな感情を抱くのか。まだそこに責任をとる自信がなかったので、とりあえず置いてるんですけど。理想は、やっぱりオープンにしていく方向に向かっていくんだろうなと思いますね。

大槻:本当にそうですね。いろんな解釈というか、考え方があるので。やっぱり反応としても、この給与を出すことで、給与だけで判断されてしまう怖さを心配している人とか。「この人がこれぐらいの年収だから」という。給与だけじゃない価値観の方も多いので、まだまだ議論が続きそうなテーマですね。

ピースを探っていく感じがします。すごいですね、なんだか生々しい(笑)。現在進行形のエゴとピースが出てきます。

50代部長が「ヒマなので複業始めました」

大槻:続いて、僕からも1つお話したいなと思うんですが。やっぱり昭和代表としては、「50代部長がヒマで複業開始」というものが(笑)。

熱田:これはTwitterでも2件ぐらい、気になるとコメントが来ていました。

大槻:本当ですか。それでは取り上げさせていただきたいんですけれども……。

営業本部副本部長の森岡さんが突然、社内のkintoneに「複業始めました」と書いたんですよね。これ自体は今やサイボウズではそんなになんですけれども。一番最後に、「ヒマなので」と書いてあるんですよね(笑)。

「部長が」「ヒマで」というきっかけと相まって、ものすごく社内で話題になって、大変なことになりました。僕もTwitterでつぶやきましたけど、すごく反響が大きかったんです。これを見た時にいろんな反応がありましたが、熱田さんもなにか書いていましたよね。

熱田:そうですね。森岡さんが複業を始めて、「ヒマだから始めました」で、「こういうことをしようと思ってるんですけど、よかったら複業先を紹介してください」という内容だったんですよね。

それに対して、すでに複業を始めてる先輩の30代の方などがたくさんアドバイスしている中で、私が「よかったら、私、複業で会社を経営してるので、お話しませんか?」という感じで、お誘いするという……(笑)。

(一同笑)

部長の複業先を20代の社長が紹介

大槻:若手が部長を(笑)。

青野:50代の副本部長の複業宣言に応える20代の社長という、すごい構造ですよね(笑)。

大槻:ちなみにどうなったんですか(笑)。

熱田:ちゃんと面談というか、お話をさせていただいて(笑)。

大槻:進んでるんですね(笑)。

青野:そして、「すいません、お断りします」って(笑)。

大槻:「ちょっとスキル不足ですね」と(笑)。

(一同笑)

熱田:いえいえいえ! それはさすがにないです(笑)。森岡さんは「今、私はこれができます」。それで、私が「今は会社がこんな状態なので、具体的にはたぶんこれぐらいお金を出せそうですけど」という(笑)。

大槻:生々しい(笑)。

熱田:そんな話をすることがありました(笑)。

大槻:本当に昭和世代のおじさんからすると、こんなことを社内でつぶやくのは相当に勇気がいるというか、エゴだなぁと思うんですけれども。青野さん的には40代・50代、シニア世代が複業ということは、どう捉えていらっしゃるんですか?

青野:この1件に関して言うと、やっぱり「森岡さん、すごいな」と思いますね。まずはテレワークをうまくやって、業務改善が進んだことで自分がヒマになった。「ヒマになった」ってなかなか社内で言えないですよね。

大槻:言えないです(笑)。

青野:どれぐらい攻撃されるかわからないのに、ちゃんと公明正大に言えるところ。それとともに、自分のキャリアをもう1回作っていくことをオープンに宣言していく。

逆に言うと、これぐらいのオープンさがあると複業先も見つかりやすいですよね。「森岡さんの複業先、あそこを紹介してみようかな」という気にもなりますよね。もういくつか始められているという話もあって、スムーズですね。このあたりも「人生100年時代」における、1つのロールモデルになるんじゃないかなと思います。

大槻:なるほど。ありがとうございます。

権限移譲ではなく「権限共有」という考え方

熱田:今Twitterでは「想像責任」と「20代社員が役員に公開ダメ出し」の2つが、気になっている方が多いみたいですね。

大槻:なるほど、どうしましょう。最後、青野さんに選んでいただこうかと思ってますが。

青野:ちょっとホットなトピックで、「権限委譲」を拾ってみたいんですけど。今年出したことの1つに、「社長10人化計画」というものがあって。サイボウズも大きくなってきたので、もう私が全部見きれないので。「社長を10人くらいにしたいっす」と、いろんなところでつぶやいてるんですけど。

実は、この「権限移譲」という感じではないんですよ。権限移譲というのは、まずは代表取締役社長の私が全権を持っていて、これを移譲していく。切って渡すような感じですよね。パイを切って人に渡していく。これが権限委譲のイメージだと思うんですけど、そうはしたくないんですよ。

私は私の権限はずっと持っておきたい。自分でやりたいことをやりたい。でも、「あなたも同じように権限を持っていいよ」と。全員がすべての権限を持つという考え方は、権限移譲とはちょっとニュアンスが違いますよね。

吉原:「権限共有」みたいな感じですかね。

青野:そうね、権限共有かもしれないね。

大槻:権限共有。新しいですね。

サイボウズの取締役は自薦・他薦で立候補

青野:権限がたくさんあって、社内で何をやっていいよという権限を、みんなが持っていいんじゃないですか。そんな考え方なんですよ。それで、昨日ちょうどプレスリリースで出たのが、「取締役は社内公募にしましょう」ということですね(笑)。

取締役は会社法で規定された権限があるんですけど、「やりたい人がやったらいいんじゃない?」という考え方ですね。それで、実はもうたくさんの自薦・他薦の社員が立候補してくれていて。次の株主総会は、非常におもしろい取締役選任になるんじゃないかなと思っているんですけどね。

大槻:すごいですよね、なんだかAKBの総選挙みたいな感じで(笑)。候補者がずらっと並ぶわけですよね。

青野:ずらっと並んで、それは新人であろうが外国(籍)だろうが関係なく、「俺、取締役やりたいんでやらせてください!」みたいなね(笑)。そんな感じでおもしろいなと。

大槻:株主さんもいろいろ問われますね。承認という1票を入れるわけですもんね。サイボウズの理想に共感していないとできないですね。

青野:そうですね。こういう組織運営に共感してほしいなと思って。権限委譲じゃなくて、権限共有を進めていきたいなと思っています。

大槻:なるほど、わかりました。