今注目を浴びている『プロセス・エコノミー』とは?

小林琢磨氏(以下、小林):さて、ちょっと次の議題に移りましょうか。今回かっぴーさんにセッションに出ていただいた理由でもあるんですが、『左ききのエレン』ってインディーズから始まってるんですよね。

つまり独立系漫画の星なんですよ。インディーズから始まって、『ジャンプ+』という一番いいところで連載して、ドラマ・舞台化もされた。

そんな『左ききのエレン』なんですけど、第2の『左ききのエレン』は生まれていくのか? について、再びけんすうさんにお話をお伺いしていきたいなと思っております。

けんすう氏(以下、けんすう):はい。じゃあまた、スライドを使ってお話していこうと思います。

まず前提として“プロセス・エコノミー”という僕が作った造語について話しますね。

けんすう:これの対比として、“アウトプット・エコノミー”があると思っていて。普通の漫画とか音楽のCDとかと一緒で、アウトプット・エコノミーは、作った作品を売ってお金にするということです。

けんすう:ほとんどの業界はこれをやっているわけですけども、今はアウトプットの質がすごい高いところで高止まりして、差がそんなになくなってきている状態です。

例えば飲食店で考えると、どの店に行ってもけっこうおいしいよね、みたいになっていますよね。漫画やドラマも同様に、どれを見てもけっこうおもしろいとなってるので、コンテンツの差がなくなった結果、どれだけ宣伝するかという勝負になってしまっていると思うんですね。

結果マーケティング合戦になると。すると強いところがより勝つ。そして、だんだん新しい人とかが露出できなくなっていると思っています。

という中で、今注目を浴びている、ユーザーが求めているのが、プロセス・エコノミー。プロセスだと思っています。

「モノ消費」「コト消費」と来て……今求められる「トキ消費」

けんすう氏:どういうことかと言うと、プロセスの段階から見せて、そこでファンが応援したりとか、課金をしたりとかすることで、アウトプットが出る前からお客さんと一緒にやっていく経済活動が増えてるんじゃないかなと。

なぜかと言うと、昔はモノ消費でちょっと前はコト消費って言われてて。今はトキ消費って言われています。今ここにしかないコンテンツのほうが重要だとされているんですね。

なので、『左ききのエレン』の2016年の熱狂って今の人は絶対味わえないわけですよね。

小林:味わえないかもしれないですね。

けんすう:だから、あれは価値があったという。逆に言うと、『ジャンプ+』のリメイク版の単行本で楽しむことはできても、あの時の熱狂を味わえないので価値がある。

なので、作品をもっと応援したいニーズがこれから増えてくるのかなぁと思っていたりします。

あとやっぱり、『エレン』はプロセスがすごかったと思っていて。例えば画力1つとっても最初はこう本当に……。

かっぴー氏(以下、かっぴー):まぁ最初と比べたら。

小林:あんまり大きな声では言えないですけど、まぁ下手くそだったよなって(笑)。

かっぴー:下手だよ。普通に(笑)!

けんすう:でも、その前の『SNSポリス』とかで、かっぴーさんの知名度が上がった時も、位置で言うとブログの延長みたいな。手作り感があるからみんな熱狂しておもしろがったというのがあって。初期の頃はやっぱりそれなんですよね。

手作り感があってすごくいいっていう。それがだんだんプロコンテンツになっていくというプロセスが見えたりとか。あと、noteでエレンが伝えたい3つのメッセージとかを発信したりだとか。

小林:あれはエモかった。めちゃくちゃ読みこんでましたもん。

かっぴー:へー、マジっすか。

第2の『エレン』が生まれるために必要なこと

けんすう:意外と漫画家さんって、作品で語るのが筋であり、自分で説明したくないという人が多いので、逆にそれを見せてもらえるのって、ファンとしてはすごいありがたくて。

小林:確かにすごく知りたいですよね。好きな作家さんの考えとか、好きな本とか読みたいけど誰も出してくれない。でも、かっぴーさんは出してくれたんで。読者としては嬉しかったかも。

かっぴー:僕が好きなんですよ、それを見るのが。見るのが好きだし、考察するのが好き。なんか、そういう深掘りした作品を楽しむのが好きなタイプなんで、自分の作品はそうしてもらえるように、こっちから材料を提供しているという感じ。

なんか、それがまさに今回のプロセス・エコノミーに刺さっていたというか。

けんすう:そうですね! 逆に言うと『エレン』って、単行本が売れないのはある意味当たり前で。でもクラウドファンディングだと5,000万集まる作品という。

たぶん、プロセス側でちゃんと単行本が売れるぐらいの経済活動ができるようになると、第2の『エレン』が出てくる、そういう感じになるかなという気がちょっとしていますね。

けんすう:次のページ、ちょっと自社の宣伝っぽくなってあれなんですけど。

けんすう:とはいえ実際に、かっぴーさんレベルの漫画家まで行くと、noteを書くとかTwitterをやるのはけっこう難しいと思っていて。あれはやっぱ別の技術なんですよね。

なので、作業をライブ配信するという。しゃべらなくてもいいし、ユーザーさんとコミュニケーションをしなくてもいいけど、「今ネームを書いています」みたいな存在があるとお客さんやファンはうれしいと思ってて。

小林:これ、漫画家さんが最近使ってる感じしますよね。

けんすう:実はまだ、正式リリース前なんですけど。ちょっとテスト的にデバッグを兼ねて数名の方に使ってもらったら、そこからぶぁーっと増えて。今は陶芸家の人が……。

かっぴー:おもしろそう。

けんすう:「作曲してます」みたいに、いろんな人がプロセスを配信するようになっていて。そこで投げ銭とか差し入れをするわけですね。

これをやってると、お金も入ってくるし、クリエイターさんも孤独感がないというか。1人で作ってる感がない。

ファン視点で考えても、「この陶芸家は知らないけど、陶芸を作ってるのを見てたらちょっと応援したくなる」みたいになって、熱量の高いファンが生まれている。

なので、こういう場所を作って、第2の『エレン』的なものができないかなと思っているのが最近ですね。

かっぴー:そうなんだ。

今の読者が本当に求めているかもしれないこと

小林:ちなみに、お二人が「第2の『エレン』と言ったらこの作品じゃないか」みたいに、注目している作品があれば教えてほしいんですけれども。

けんすう:第2の『エレン』的なもの……あんのかなぁ。いや、ないっすね。今思い浮かぶのは。

かっぴー:僕からすると、やっぱりその、絵があれだけど話がおもしろい系の漫画って昔からあるじゃないですか。

小林:あります、あります。

かっぴー:昔からそう言われているポジションの漫画ってあると思いますけど、そう言われているすべての漫画が、僕からするとめっちゃうまいんですよ。

(一同笑)

かっぴー:俺なんてコピー用紙にボールペン、しかも消せるボールペンよ。フリクションのボールペンで書いてたから。

小林:漫画家は絶対使わないボールペン。というか、そんな人が出てくるわけなくない?出てきちゃだめだし。

けんすう:(笑)。

小林:なんかでも、インディーズから出てヒットするみたいなもので言うと、個人的には『ブス界へようこそ』とかは……。

ブス界へようこそ

けんすう:あー、はい、はい。確かに!

小林:第2の『エレン』になるんじゃないかなぁとか。その絵がとかじゃなくて、インディーズから出て、メインに行くんじゃないかみたいな。

かっぴー:あれ、めちゃくちゃおもしろいですよね。

小林:はい。でもタイトル通り、いきなり最初に商業誌で連載とかはちょっと厳しい。インディーズだからできたタイトルだと思ってて。

かっぴー:あぁ~。確かになぁ。

小林:インディーズだからできた内容でもあるんですよ。美人を食べて綺麗になるとか。

かっぴー:確かに、そう言われたら、なんか……。

小林:商業誌じゃ絶対連載できないみたいな。

かっぴー:なんかYouTubeとかでも最近、作りこんだものよりも、手作り感があって、本当iPhoneだけで撮ったようなもののほうがウケるという話があって。

小林:わかります。わかります。

けんすう:本当にコピー用紙の裏にライブドローイングみたいに、一筆書きでぱっと描くみたいなほうが、実は読者が求めているけど、みんなクオリティ高く仕上げちゃってるので、商業誌と戦っちゃってるみたいなのは、もしかしてあるのかなと思ったりはしますね。

かっぴー:あぁ~、確かになぁ。

かっぴー氏が語る第二のエレンが出てこないわけ

小林:Twitterで連載するんだったら、意外とネームとかのほうがバズったりするとかもありますからね。

けんすう:確かに、ネームと本番の間みたいな。本当『エレン』みたいな。あんな感じのものって、もうちょっと出てくるかなと思ってたんですけど。

かっぴー:でも出てこない理由はすごいわかる。マジで儲からないから。

(一同笑)

かっぴー:なんかでも笑い事じゃなくて。マネタイズの方法がないんですよ。

俺はサラリーマン歴があったから、はっきり言って、漫画家しかやったことない人よりビジネスをわかってるつもりだし、マネタイズポイントをいくつか作ってるんですよ。

だから、なんとかなってるだけであって、普通にやったら、あれお金にならないと思う。マジで。

小林:今日のセッションで出た、食えるまでの期間がどうしても時間があるから、パトロンサービスでお金を稼ぐなのか。

でも、今回のこの00:00 Studio(フォーゼロスタジオ)で、描くプロセスを配信して、投げ銭とかで活躍していける場所や事例が生まれたら、それはなんか1つの可能性は見えてくるのかなとかは思いますよね。

けんすう:でも、ちゃんと食えるようになるというのはけっこう重要で。やっぱりTwitterでバズっても単行本が売れないとお金になりませんみたいなのがあったりする。

かっぴー:本当にそう。Twitterでバズっても意味ないし、フォロワーが増えても意味ないという世界なんですよね。

けんすう:そこをもうちょっと、何かで解決できるといいですよね。

小林:本当に今だと、昔はなかったようなサービスというのがどんどん増えてきているので、これを見ている漫画家のみなさまも、いろんなサービスをぜひ調べていただきたいと思います。