独特な方法でヒット作に成長していった『左ききのエレン』

小林琢磨氏(以下、小林):ではさっそく、本日登壇するお二人をご紹介したいと思います。漫画家のかっぴーさんとアル代表取締役CEOのけんすうさんです! 

かっぴー氏(以下、かっぴー):よろしくお願いします。

けんすう氏(以下、けんすう):よろしくお願いします。

(会場拍手)

小林:じゃあ、けんすうさんから。簡単な自己紹介をお願いしてもいいですか? 

けんすう:はい。アル株式会社のけんすうこと古川健介と申します。私は漫画家ではなく、漫画サービスをやっているものとして、ここに登壇しております。

このテーマだと、どちらかというと『左ききのエレン』の単なる1ファンとして来ているような感じだと思います。盛り上げていきたいなと思いますのでよろしくお願いします。

(会場拍手)

小林:よろしくお願いします。続いてかっぴーさん! 

かっぴー:漫画家のかっぴーです。よろしくお願いします。

今回は、自分の作品名がセッションテーマになってるっていう……。この、なんでしょう。つるし上げられている感がえげつないんですけど(笑)。

自己紹介としては、『左ききのエレン』という漫画をインディーズで描き始めて、今現在はリメイクと作画をお迎えして、『少年ジャンプ+』というアプリでも連載しております。

なので肩書きとしては、漫画家と漫画原作者になります。よろしくお願いします。かっぴーです。

(会場拍手)

小林:というわけで今回は、大きく4つのテーマをお話していきたいなと思っています。

まずは『左ききのエレン』ヒットの歩みについて。そして、『左ききのエレン』のつくり方。『左ききのエレン』が読者を惹きつける理由。最後に、第二の『左ききのエレン』は生まれるのか? という、この4つのテーマで話していきたいと思っております。

『左ききのエレン』のスタートは商業誌の連載からではなかった

ではさっそくですが、最初のテーマ『左ききのエレン』ヒットの歩みに移っていきたいと思います。『左ききのエレン』のヒットの歩みをニュース形式かつ時系列にまとめさせていただきました。

かっぴー:いや俺は、どういう顔で聞いてたらいいの?(笑)。

(一同笑)

小林:かっぴーさんにぜひ「おぉー!」という感じの顔で聞いててもらいたいんですけど。

かっぴー:あぁ、まんざらじゃねぇぞみたいな顔して。

小林:まんざらじゃねぇ顔でお願いします。

かっぴー:わかりました(笑)。

小林:ご存じの方のほうが多いと思いますけれども、この作品の凄さは商業誌の連載がスタートではなかったことだと思っています。一番最初は、2015年に読み切りを描かれたということで、かっぴーさん間違いないですか?

かっぴー:2015年だと思います。たぶん、はい。

小林:読み切りの『左ききのエレン』が、第1回cakesクリエイターコンテストの特選を受賞して、その後2016年に『左ききのエレン』がcakesにて連載が開始されたと。

その1年後に『少年ジャンプ+』で、リメイク版『左ききのエレン』の連載が開始。もうこれ、3年前になるんですね。

かっぴー:いやぁ、3年経ちましたたね。ついこないだ3周年目のカラー扉を描いたんで。はや! 

具体的なヒットは予測していなかった

小林:読み切りの『左ききのエレン』から考えると、もう5年経つんですね。けんすうさんはどこら辺ぐらいから『左ききのエレン』って、知ってました? 

けんすう:僕は2016年ですね。1年で『ジャンプ+』に行ったのはけっこう驚きで。「あ、もう『エレン』ここまで来たか!」と思った記憶があります。

小林:原作の『エレン』は2~3年連載して、1部の完結の時に、『ジャンプ+』でリメイクが始まります、みたいなのが発表されたので、「あぁ、けっこう連載してたなぁ」ってイメージが僕もあったんですけど。たった1年なんですね。

かっぴー:連載期間は1年半ぐらいですね。その後の第2部が、2年ぐらい経つのかな。

小林:2019年にcakesにて第2部『左ききのエレン HYPE』の連載開始って書いてありますので、もう2年ですね。ちなみにいやらしいことを聞くことで非常に恐縮なんですけど、2016年の連載から今のヒットって想像できていました? 

かっぴー:いや、ぜんぜん! 具体的には想像できてないですね。ただまぁ「おもしろいのになぁ」とは思ってた(笑)。

なんか本当にドヤりたいわけじゃなくて、僕はおもしろいと思って描いているけど、ぜんぜん広まんないなぁと思ってたから、すげぇ悔しいなとは思っていたかな。

ファンが増え、知名度も上がったのに儲からなかった理由

小林:けんすうさんは、IT業界で『左ききのエレン』の知名度の高さとか、「おもしろい!」みたいな話題ってめちゃくちゃご存知でしたよね。

けんすう:反応は最初からめちゃくちゃありましたよね。cakesに載ってる時は、インターネット業界で知る人ぞ知るみたい感じでしたが、『ジャンプ+』への掲載が始まってから一般の漫画読者にも広がったという印象があります。

小林:本当にその感じはありますよね。IT業界のアンテナが鋭い人たちが、「エレンおもしろい! やばい!」っておっしゃってて、俺たちの『エレン』がついに『ジャンプ』にいったー!! みたいな感覚はありましたね。

けんすう:ありましたね〜。

かっぴー:でもね、その時の俺はけっこう冷静だったんですよ。

確かに周りだけを見ると、すごく盛り上がってて。例えば、知り合いに誘われてイベントとかに出るじゃないですか。

そうすると、「いつも見てます、ファンです!」って言ってくれる人が名刺交換したら著名な方だったりして。けんすうさんもまさにそれなんですけど、でもなんかそれにしてはぜんぜん儲からない……。

小林:(笑)。

けんすう:ほぉー! 

かっぴー:これ真面目な話、なんでだろうと思って。冷静に考えて、トークイベントに行けば、「ファンです!」「ファンです!」って言ってもらえて、有名な方からも、「読んでます~」って言われて。

「わ、すごい! 俺の漫画みんな読んでる! うわー!」と思うのに、ぜんぜん儲からないから、どうなってるんだろうと思って調べたら、東京のNewsPicksとか読んでるビジネスマン層にしか読まれてなかったんです、最初。

けんすう:うん。うん。

かっぴー:ああいう、言ってしまえば意識高く、感度高く情報収集されている、それこそベンチャー企業の社長さんとかなんでしょうね。

ビジネスヒーローのホリエモンさんの本を読んでいるタイプの人とか、ビジネス感度が高い東京の人に読まれていて、かつ僕が周りにそういう人が多いからちやほやされてたけど気付いて。

冷静に考えたら、「あ、これ、あれだ……。ローカルアイドルみたいな感じだ」ってなって。

けんすう:あぁー、なるほど。

かっぴー:だから金にならないし、絶対に勘違いしちゃダメだと思っていました。

『ジャンプ+』での連載開始の裏で感じていたこと

小林:でもそのローカルアイドルから、『ジャンプ+』という全国区にいったわけじゃないですか。そこで、ファン層は確実に拡大したと思うんですけれども、どうでした?

かっぴー:そうですね。読者の数とか細かい数字を別にすると、まぁ10倍以上にはなっている。

小林:おぉー。

かっぴー:cakesで読まれていた時よりも、たぶん『ジャンプ+』のほうが読者数は10倍以上にはなっていて。というのがまず大きい。

でも不思議なことに、例えば最新話更新されて、反応が来るんだけど、その熱量はなんか変わらない。だから熱量に関して言うと、インディーズ時代も相当高かった気はしているんですよ。

熱量という意味では、熱量が10倍になっているわけじゃない。読者数は10倍なんですけど。

小林:なるほど。ちなみに、『左ききのエレン』って、もともとインディーズから始まって、メジャーど真ん中の集英社さんで連載をして、ドラマ化も決まって。最近だと舞台も行いまして。

ぶっちゃけ売れたと思った瞬間ってどこなんですか? 

かっぴー:ぶっちゃけ売れたかぁ……。俯瞰して総合評価で言うと、ぜんぜん売れてないと思っています。マジで今でも。

小林:謙虚! 

かっぴー:謙虚とかじゃない。だって、売れたら……。もっとお金あるもん!(笑)。

(一同笑)

かっぴー:だから、もっともっと売れたい! 売れたいし、ぜんぜんまだ売れてないと思っているけど、うーん……。

かっぴー氏が語る「環境が変わったなぁと思った瞬間」

かっぴー:でも、なんか本当に環境が変わったなと思ったのは、ドラマ化した時ですかねぇ。ドラマ化した時に、第1話の試写会イベントとか、雑誌の取材とか、テレビの取材とか。要は取材系がめちゃくちゃどっと増えて。

1日中タクシーで移動しながら、いろんな現場で取材を受けて、登壇して。その度に「どうも、漫画家のかっぴーです!」というのをずっとやっていたんです。その時に「あ、俺は何やってるんだろう」という気はしていて。

まだ『エレン』を読んだことがない人は何の話かわからないと思いますけど、『左ききのエレン』って、インディーズ漫画で、いわゆる読んだことがない人が想像するレベルのインディーズ漫画じゃないんですよ。

本当に、コピー用紙の裏にボールペンで描いてた漫画なんですよ。だから正直な話「なんだこれ」って思ったのは、その時。だから「うわー、変わった」と思って。

最初の頃は物珍しさというか、「Twitterでちょっとなんか最近ちやほやされてるね」ぐらいの雰囲気の漫画家だったと思うんです。でもその時に、漫画家かはわからないけど、“なんか”になったなという感じはします。

小林:何者かになった。まさに『左ききのエレン』で言うと、「何者かになりたい」になれた感じですね。

かっぴー:なんかその実感もあって。「ああ、やったなぁ」と思った記憶はあります。ただ別に売れちゃいねぇ。本当に。

小林:なるほど。ありがとうございます(笑)。