半径1キロの話と5メートルの話を行き来する“対話”

斉藤知明氏(以下、斉藤):ありがとうございます。次の質問に移らせてください。「小さな問題を言語化するが一歩ずつですね」と書いていらっしゃる方の質問なんですけれども。「いわゆる『やるぞー!』というものだったりですとか、なにか新しい提案をした時に『どういう方法でやるの? どういう成果が得られるの?』ということにフォーカスが当たりがちだと。

その前に『どういう組織でありたいかとか、どういう組織になりたいか?』という思考に対して『アライン(揃える)してるの? してないの?』というところにシフトしたほうがいいんじゃないかと思っているんだけれども。それはどう思いますか? ないし、そうだとしたらどういう対話をしていますか?」という質問でございます。

沢渡あまね氏(以下、沢渡):すごくいい質問をありがとうございます。だから私、先ほどお見せした「健全な組織のバリューサイクル」の絵を描き始めました。

私は、半径1キロの話と5メートルの話を行き来する“対話”が大事だと思っていて。

半径5メートルというのは、そもそも現場の問題や課題を言語化して、それをどう解決していこうかというところの問いかけだとか、対話。その場も設けています。でも時に、さっきのような1キロの話もするんですよ。

最終的にビジネスモデル変革だよね、そこにいわゆる経営層が言っている課題はこういうものがあるよね、っていうアンテナを立てていく。これを行き来していかないと、人ってずっと近視眼的になるか、あるいは遠い世界だけ、半径1キロの高い話だけをして噛み合わないっていうのが、起こりがちですよね。

具体的に私がクライアント先にやっているのは、例えば、まず共通言語を作ることですから、あのバリューサイクルの話を講演で全社員にします。その時ピンとこなくてもいいんです。既視感を持ってくれればいいんです。

そのあとに実際、半径5メートル以内の現場の改善活動のアドバイザーとかをやって一緒に悩みながら、ある時ふっと、そのバリューサイクルの上に立ち返るんですね。「今ここができてきたよね。ってことは本来価値が見えてきたよね?」とかね。あるいは「ビジネスモデル変革ってこういうことじゃない?」というところの意味付けをしていくと、そこから目線がワーっと上がります。

半径1キロの高い会話と、半径5メートル以内のいわゆる地表レベルの会話を繰り返している。目線の上げ下げを繰り返すことかなと思っています。

「提案したらやらされる。だから言わない」

斉藤:ありがとうございます。そのまま次の問いに行かせてください。「経営者層と従業員がお互いに刺激し合えると、会社がよりクリエイティブに変化する気がしますけれども、従業員にはその方法を作ることが難しい。提案はリスクを伴うと感じる。どうしたらいいでしょうか?」。

沢渡:経営層も現場も、両方変わらないといけないと思います。どういうことかというと「提案はリスクを伴います」この部分。この下の句の部分は、提案して批判されない環境を経営層が作るしかないんですよ。部門長でも課長でもいいけどね。提案して、結局それで島流しとか村八分っていうところは、やっぱり心理的安全性が削がれた状態になりますから、誰も提案しなくなりますよね。

だからそれは、正しく新たな提案を受け入れる場を設けるだとか、あるいは、例えばなにか新しい提案をして、それがいい提案だと認められたらポイントが上がるとか。そのような制度を作っていくしかないのかな、と思います。

よくあるのが“言ったもん負け”。「提案したらその人がやらされる。だから言わない」っていうのがあるので。提案者と実行者を分離するっていうマネジメントも、大事だったりしますね。このやり方だけで1時間くらい語りたいんですけれども(笑)。

斉藤:なるほどね(笑)。

心理的安全性と並ぶ、心理的柔軟性という概念

沢渡:もう1つは、ふだん何を問題や課題だと思うのか、あるいは提案を組み立てていくというようなスキルアップの育成だとか研修だとかは、絶対やったほうがいいですね。武器がないと、王様から布の服と棍棒と50ゴールドしか与えられなくて「魔王を倒して参れ」みたいなことを言われちゃって。「そんな、ご無体な」って話でしょ(笑)。武器を与えてくださいって話です。

斉藤:心理的安全性というワードを軸においたセミナーも、石井遼介さんという方と一緒にさせていただいたことがあるんですけど。心理的安全性って「『発信してもいいよ』って思えている状態が心理的安全性が高い。健全な衝突が起こせる状態」と定義されていますけれども、並び立つ概念として、心理的柔軟性という概念があります。

この柔軟性は何かというと、なにか耳に痛いことを言われた時に反発する「なんだなんだ! お前うるさいな!」ではなくて「なんでそういう言葉が出てきたんだろうな? 自分がなにか悪かったのかもしれないな。どういうことだろうな?」って1回受け止める力が、心理的柔軟性であるといわれております。沢渡さんには、釈迦に説法だと思うんですけど。

心理的柔軟性という概念がある中で、今ご質問いただいてたものに関しては、まさに「提案はリスクを伴う」って思わせちゃっている経営者はどうなの!? っていうところなんでしょうね。

沢渡:そうです。『業務改善の問題地図』3章に、この辺りじっくり書いてます(笑)。

業務改善の問題地図 ~「で、どこから変える?」~進まない、続かない、だれトク改善ごっこ

斉藤:ぜひ3章をご参照ください(笑)。ありがとうございます。

ネガティブな意見を持つ人には、むしろ権限を与える?

斉藤:次は「これまでのUniposのセミナーでは『あえて混ぜる』みたいな提案もありましたが、ネガティブな人はやはり外したほうがいいですか?」という問いでございます。

先に沢渡さんに補足をさせていただきますと。これまでのセミナーの中で出てきた「混ぜる」というお話って、ネガティブな人、例えばなにかを起こそうとした時にネガティブな人っているじゃないですか。

沢渡:はい。

斉藤:ネガティブってことは、意見を持っている人だと。「私はその方法に対してはネガティブだ」っていう人だから、むしろその人に対して権限を渡しちゃいます。

その人をプロジェクトの中心に置いてしまったりだとか、渡してしまうことによって、その人がやりたいことが出てきて。ネガティブな、つまり今とは違う方向なんだけど、そっちに向かって進められるプロジェクトの推進力になってくれるんじゃないでしょうか? という話をしていたんですよ。

沢渡:ふんふん。なるほど。

斉藤:これがたぶん質問者さんがおっしゃっている「ネガティブな人をあえて巻き込むっていう方法もあるんじゃないですか」と。これはまさに、心理的安全性について石井さんとセミナーした時に出てきたお話だったんですけど。沢渡さんはどう思われますか?

沢渡:月並みですけど、本当にケースバイケースなんですよね。

斉藤:うんうん。

沢渡:場の空気を乱すようなネガティブな人は、それは外れてもらったほうがいい。ただ、きちんと責任感だとか、思いがあってネガティブである人に関しては、まさに権限を与える。あるいは、やっぱりサポート体制をきちんと作ることですよね。

例えば、ネガティブな人がネガティブになりすぎないようなファシリテーター、第三者を置くだけでも、そのネガティブな意見はきちんと捌いたうえで前に向いていく、ビジョンに向かってということができるわけですよね。

あるいは、ネガティブな人の話を個別で聞くメンターを置くでもいいですけれども。ネガティブたらしめている要因に向き合ってポジティブにやれるのであれば、巻き込んだほうがむしろいいと思います。

他人の話を受け入れる人は、腹落ちすれば強力な味方になる

斉藤:ありがとうございます。ここのある意味、分岐点はどこなのかなって、今お話を聞きながら思っていたんですけど。それがビジョンの共感だと思いました。

沢渡:話を聞ける人だったら巻き込んだほうがいい。ただ、話聞けない人だったら即外したほうがいい、ですかね

斉藤:なるほど、なるほど。

沢渡:話せばわかる、経験すれば変わり得る人だったら巻き込んだほうがいいかもしれない。こういう人って、ネガティブだけどもポリシーがあったりだとか、ちゃんと他人の話を受け入れる人って、腹落ちすれば動いて強力な味方になるんですよ。

ヤフーさんにそういう話を聞いたことがあって。ヤフーさんがオフィスをガラッと変える時に、まず反対している部門長から一緒に向き合って友だちになって、それによって「新しい働き方いいよね。なんでやらないの?」って味方に変えたという話があって。そうすると社内で「え、あの人が変わったの!? 」という説得力が生まれて、みんな従ったみたいな話があったらしいです。

斉藤:へ~! 

沢渡:これおもしろいと思いません? だから経験すれば、腹落ちすれば、話を聞く余地のある人であれば、むしろ味方になり得るという話なんですよね。

斉藤:そうですね。経験すれば変わるという中でも、同じほうを向いている……ビジョンというワードを出したのは、僕は同じほうを向いているというのが大事かなと思いました。

沢渡:そう、ビジョンドリブンですね。

斉藤:そもそもやりたいことが違います、と。成したい理想が違って、その人たちを巻き込んでも理想が変わるので、もちろん理想の多様性があってしまうと組織はバラバラになってしまうので。理想としては一緒なんだけど、手段に対してネガティブだ。こういう人は巻き込んでもいいのかな、と思いました。

沢渡:私が『問題地図』を書いたり、先ほどの「健全な組織のバリューサイクル」の絵を描いたりしたのも、そこなんですよね。「目指すところはここだよね、ここ関連してるよね」という、相手との結節点を見出すために宇宙の絵、地図を広げました。

それがないと、点と点でバラバラに水掛け論が始まります。「目指すところはここだよね」って気づいた瞬間に、ふっと心がゆるくなったり。あるいは「まあ、聞いてやらんこともない」くらいになるじゃないですか。

斉藤:こちらの方が書いてくださった「心理的柔軟性を持ったネガティブな人は、味方になる可能性があるので巻き込んでもいい」。これはまさにそういう。

沢渡:そうですね。

「成果は数値化で評価される。変化は言語化で評価される」

斉藤:では最後の質問にしたいと思います。「提案者と実行者を変えると、実行者に被害者意識が生まれるようなことはないですか?」。これはまさにさっきおっしゃった、共存させたほうがいいということなんですかね?

沢渡:実行者を全力で評価してください。実行者が割を食う世の中はダメですね。まさに「日本の組織の改善改革は、気の利いたボランティア依存型」というのを、この『業務改善の問題地図』でも何度も書いたんですけれども。

最初は正義感でもって手をあげても、周りはついてこない、梯子は外される、評価されない、だと保たないんですよ。バカらしくなってしまう。だから実行した人、もちろん提案した人も正しく評価してあげる。仕事として認めるとかね。そういうところからやっていかないと、孤独な勇者になって。孤独な勇者は、そのうちほかの会社に行ってしまいますよ。当たり前ですよ、人間ですから。

斉藤:そうですよね。報われないですもんね。せっかくやってるのに。

沢渡:そうです。評価もいろいろありますよ。成果だけではなくて、変化も評価してあげたいですね。「あなたが新しいことをやったうえで、まだ成果は出てないけどもちょっと職場の空気が変わってきたね」とか。あるいは「なんか仕事が楽になった気がするなぁ」でも良いと思います。

変化は言語化で承認されます。ですから「変わったね!」って言葉は、なるべく職位がある人ほど声かけてほしい。そうすれば「この人見てくれてるんだな」という、組織のエンゲージメントになりますからね。

私がよく言う言葉を最後にお伝えします。「成果は数値化で評価される。変化は言語化で評価される」。

斉藤:なるほど。言語化でも評価できるっていうことですよね。

沢渡:そうです。そのためにUniposさんの仕組みは良いと思います。「こういうことをしてくれて助かった」とか。それって、変化を言語化する仕組みなわけじゃないですか。

斉藤:ありがとうございます。まさに私も、マネジメントでチームのみんなと対話をする時は、先にその人のUniposで“もらった”一覧を見るんですよね。そうすると周りの人がみんな言語化してくれているので。それを再解釈する。

沢渡:さすがですね。

斉藤:Uniposのおかげです(笑)。ではですね、収まりもいいところで、お時間を迎えてしまいましたので。いやぁ、盛り上がってしまって、延長に延長を重ねて失礼いたしました。沢渡さんも、最後までお付き合いいただきありがとうございました。みなさんも、参加いただいた半数以上の方がまだ残っていただいていました。

沢渡:あ~うれしいですね。

斉藤:とても盛り上がったウェビナーだったと思います。本日はみなさん、朝早くからありがとうございました。沢渡さんもありがとうございました!

沢渡:いやぁ、楽しかったです。ありがとうございました! またやりたいですね!

斉藤:よかった~! またやりましょう。

沢渡:そうですね。ぜひやりましょう。

斉藤:また新しい書籍も出たらば、それをテーマにしてやるのもいいかもしれないですね。

沢渡:そうですね。まずは『ここアジャ』(『ここはウォーターフォール市、アジャイル町 ストーリーで学ぶアジャイルな組織のつくり』)を読んでもらえると、堅苦しい組織が柔らかくなっていくというのを体感いただけると思いますので。

ここはウォーターフォール市、アジャイル町 ストーリーで学ぶアジャイルな組織のつくり方

斉藤:では、改めましてお時間となりましたので、終了とさせていただければと思います。本日はありがとうございました!

沢渡:ありがとうございました!