研修後すぐに希望のアメリカ支社で働けた理由

青野慶久氏(以下、青野):それでは最後のゲストをお招きしたいと思います。今回EGO&PEACEというテーマを掲げまして、どなたに登壇いただこうかと思っている時に、『その仕事、全部やめてみよう』という1冊の本がこの夏に流行りました。

私はこう思ったわけです。「なんというエゴの塊だと(笑)」。

この著者は小野和俊さんと言いまして、私も以前から仲良くさせていただいております。今日は小野さんにお越しいただいておりますので、お招きしたいと思います。小野さん、よろしくお願いします。

(会場拍手)

青野:ようこそお越しくださいました。

小野和俊氏(以下、小野):こんにちは。

青野:よろしくお願いします。たぶん小野さんのことを知っている方はたくさんいらっしゃると思うんですよね。でも、クレディセゾンの役員というより、DataSpider(※株式会社セゾン情報システムズが開発販売するデータ連携ソフトウェア)の開発者と言ったほうが、肩書はわかりやすいかと思います。

小野さんは経歴がすごくおもしろくて。もともとサン・マイクロシステムズにいらっしゃった(※アメリカ合衆国カリフォルニア州サンタクララに本社を置いていたコンピュータの製造・ソフトウェア開発・ITサービス企業)。

小野:はい、そうですね。

青野:その時、アメリカで働いておられたんですか?

小野:入社時は日本配属だったんですけれども、アメリカって5年先を進んでいるみたいなことが当時から言われていたので、ぜひ行ってみたいと希望を出していたんですよね。

青野:さっそくエゴが(笑)。

小野:そう、エゴをいきなり出してた(笑)。でも爽やかに出してたんですよ。「なんで行かせてくれないんですか?」とかじゃなくて、目をキラキラさせて「すごく見てみたいんですよね~!」って言ってたら、「君は若いんだし、応援するから行ってごらんよ」って。研修が終わってすぐにアメリカに行かせてもらって、向こうでちょっと仕事をしたっていう感じですね。

青野:すごいですね。EGO&PEACEがネイティブにできている感じですね。そのあと起業されてアプレッソを立ち上げられて、セゾン情報システムズと一緒になって、今はクレディセゾンのCTOをされている。すごい経歴ですよね。

小野:それこそ全部、EGO&PEACEみたいな感じで。「楽しそう」だとか「こっちのほうがもっといろいろできるな」っていう「ワクワク」と「喜び」と「エゴ」で来ている感じですけどね。

レガシーな大企業へのモチベーション

青野:そこがすごく意外で……。私もITベンチャーを立ち上げた人間で、もともとパナソニックを見てきたこともありますから、「できたら大企業に取り込まれたくないな」とか思うわけです。

今はある意味、小さいながらも自分の城で楽しくできているところを、あえてレガシーなところへ行かれているという。このあたりの小野さんのモチベーションについて、ちょっと聞いてみたいんですけど。

小野:アメリカで仕事をしていた時に一番思ったのは、「やっぱり僕は日本が好きだな」ということだったんですよね。食べ物も一番いいなと思えるし、電車の中でうっかり寝ちゃっても盗まれる確率が低い。卵が割れてたり、逆さまだったりしないし、日本語もいいなと思うし、気候も四季があっていいし。

昔、ダイヤモンド社が平成を総括するような特集を組んだことがあって。平成元年の世界の時価総額50位が半分以上が日本だったんですよね。まさにJapan as No.1っていう。ベスト5は全部日本みたいな。

ところが、これが平成のほぼ終わりの平成30年にはトヨタ1社しか残ってなかった。僕がすごくいいなぁと思っていた日本の企業が、この30年で一気に落ちていっちゃった。そんな情報を見た時に、「そうじゃない事例、つまり日本の企業だけれどもすごくスピーディーにデジタルに変わって成長して良くなった。だからみんなできるじゃん!」ということを、証明できたらいいなと思ったんですよね。これもエゴなんですけど(笑)。

青野:なるほど。それであえて大きいところへ。

小野:そうですね。

青野:そうすると今、クレディセゾンのCTOだと、もう見る範囲がめっちゃ広いじゃないですか。DataSpiderはもちろんありますけども、セゾン情報さんという意味では、HULFT(※企業のファイル連携、データ連携ツール)も見ておられるし。もっと言うとクレディセゾンだと、レガシーなシステムをいろいろ見ておられるわけですか?

小野:システム全部というよりは、今は常務CTOというかたちで、デジタル系部門を全部見ています。あと10月から全セクションをデジタル化するところも見ているんですけど。半年ごとに見る範囲がどんどん大きくなっていってるというか。

青野:レガシーな会社をデジタル化していく。まさに21世紀型に変えていくような。

小野:システムもそうだし、考え方ややり方も含めてという感じですかね。すごく楽しいですけどね。

青野:そうですか!

小野:めっちゃ楽しいです(笑)。

レガシー企業にベンチャーの価値観を持ち込むための技

青野:でも、みなさん意外じゃないですか? 「小野さんってそういうタイプなんだ」っていうね。小野さんはナチュラルな素直さをお持ちですよね。

小野:例えば旅に行く時に、初めて行く場所にワクワクしたり、この温泉おもしろいね! というふうに、新しいものと触れる時って、基本的にみんな気分が良くなりますよね。

僕はずっとベンチャーで来たので、日本の歴史ある金融の会社でそれなりの規模もあるところの行動様式とか、その中での発言とか、全部新しいんですよね。「わかる!」とか「おもしろい!」とか「なるほど~!」みたいな感じで。

「違うものに触れる=難しいけど楽しい」というものがあるじゃないですか。それですごく楽しいっていう感じですね。

青野:ストレスになることはないですか? 「そのやり方はねぇだろう!」というのも、たぶんいっぱい見てこられたんじゃないかと思うんですけど。

小野:例えばベンチャーのやり方を正義とした時に、「明らかにベンチャー価値観で見たら違うよね」というものを目の当たりにしますよね。

それで「間違えてる」とか「いまだにこんなことやってて古い」と攻撃したりすると、それは相手もこっちも嫌な気持ちになる。喧嘩して合わなかったね、となっちゃうと思うんですけれども。

逆に全力で理解しようとすると、自分と反対の意見だったとしても意外と納得できる。意外とというか、ほぼ確実に納得できるなにかがあるんですよね。それが見つかった時ってめちゃくちゃおもしろいんですよね。

青野:「そんなことを言っている背景に実はこんなものが……なるほどー!」みたいな?

小野:はい。それも知らずに表面的な発言だけ見て、「自分と違う」とか言っちゃうのはやっぱり良くないよねって。ものすごく反省するような気持ちになるんですよね。

青野:なるほど。

意見が衝突した時の解決策は「ディベート」にあり

小野:僕は大学の時にディベートをやっていて、「自分の主張をぶつける前に、相手の立場を理解することの重要性」を強く感じたんです。

もともとこうだっていう意見がある領域ってあるわけですよ。政治でもなんでもそうですけど。でも、自分とまったく反対のことを徹底的に調べたりとか、(相手に)感情移入しようとする人がほとんどいなくて。

ディベートってどっちからも完璧に言えるようにすることなので、両方やるんですよね。そうすると、反対側の意見を調べると意見が変わったりすることがすごくよくあります。

同じような感じで、ベンチャー的な価値観で見てるけど、「大企業の人がなぜそういうふうにするのか」というのをその人に徹底的になりきってみる。対立や敵か味方かじゃなくて、ってことをやると、「なるほど!」ってなる要素がかなりあるんですよね。

青野:「その人がこういう背景から、こういうことを言っているからこそ、こういう意見なんだ」みたいな。

小野:その通りです。あとは組織がある程度大きくなると、「こういう行動様式にしておかないとものごとが進まないからこうしている」とか。これもすごく納得できるんですよね。

青野:なるほど。おもしろいですね。それを理解して楽しもうという気持ちがあるからこそ、今楽しめているんでしょうね。

小野:なおかつ、こっちが全力で理解しにいくので、「君けっこうわかるじゃないか」ってなるじゃないですか。そうすると、こっちが言っていることも聞いてもらえるんですよね。

青野:あ、なるほど! 今まではバンバン攻撃されて古いとかなんとか言われていたのが、小野さんみたいな新しい人が入ってきて、全力で理解しようとしてくれたら……。それはうれしいですよね。

小野:「自分のエゴを出す前に相手のエゴを受け止める」ことが、本当は一番基本だと思うんです。それをしないで自分のエゴを出すとうまくいかないし、つまらなくなるんじゃないですかね。

青野:なるほど。自分のエゴを通すためには、あえて相手のエゴを理解するところから。吸収して飲み込んでいく。

小野:と言うと、自分のエゴを通すことが最終目的に聞こえますけど(笑)。もっとオーガニックに「教えて、教えて」という好奇心で聞きにいく。

青野:最初は自分のエゴをちょっと脇に置いておくくらいの感じでいいのかもしれませんね。

小野:自分の意見か相手の意見かなんてどっちでもよくて、最終的にいい結論に至るのが大事なわけじゃないですか。そしたら別に意見がどっちの持ち物かなんてどうでもいいと思うので。「そう思うんですね。なるほど。いま私はこう思ったんですけど……」って変わっていくわけですよね。会話していく中で。

青野:そうか、最初から答えを出しちゃうからいけないんですね。

小野:意見を自分で決めつけていること自体が、その人の成長を自分で止めているというか。柔軟性を自分で放棄しているみたいな感じに見えますよね。

青野:ハンマーと釘っていうところでもね、「いつの間にか目的だったものが手段になって、それ(目的を実現)をするためにどうすればいいんだ」っていう発想をし始めると。そういうところがありますよね。

エンジニアを輝かせる「エンジニア風林火山」

青野:ちょっと小野さんの本にも触れていいですか? 個人的にすごくおもしろかったのが、エンジニアを理解できる内容がいっぱいあったところです。おそらくみなさんもITの会社に勤めていたらエンジニアが社内にいると思うんですが、エンジニアの言うことってよくわからないですよね(笑)。

なんか難しい言葉を使って言いくるめようとするし(笑)。エンジニア同士がよく喧嘩するじゃないですか。しかも罵り合って……。そこまで言うことねぇだろみたいな。あのへんがすごくおもしろくて。

なぜそうなるのか。エンジニアにも実はいろいろ特性があるんだというのを、ご紹介していただけますか? エンジニア風林火山について。

小野:エンジニアとかプログラマというと、「プログラマとしてできるプログラマ」、「エンジニアとしてできるプログラマ」、「できないプログラマ」、「できないエンジニア」というふうに、1つの価値観がまっすぐに一直線であって。その高いところにあるか低いところにあるかと直線的に見てしまいがちなんですけれども。

でも実際エンジニアにもいろんなタイプがいます。例えば「風のプログラマ」っていうのは、すごく仕事が速い。

「山のプログラマ」っていうのは、その人がチェックすると抜け漏れなくバグを見つけ出す、安定感をもたらすプログラマ。

「火のプログラマ」っていうのは燃え盛る情熱で新技術を貪欲に取り入れて、「これ使ってみましょう!」って社内にどんどん持ち込む。

「林のプログラマ」っていうのは、トラブルが起きて、みんなが「どうしよ、どうしよ」となってる時に、「まあ、落ち着け」というふうに静けさを常にもたらしてくれる。

こんな感じで、みんながどれかに属するんですよ。「全部持ってる人なんて存在しない」っていう。そういうようなことを書いた話ですね。

青野:おもしろいですよね。それを読んで私の社内でも、「だからあの人たちは意見が合わないんだ」とか「山のプログラマの安定を活かして、バグのない安定したシステムを運用しようとしているところ」とか「火のプログラマの、今のソフトなんて古くなってるんだから新しいことどんどんいきましょうぜ!」ってところがあるなと。

これを見た時に、「エンジニアやプログラマの属性を理解しながらプロジェクトを任せていかないと、彼らはやっぱり楽しく働けないんだなぁ」と思いました。

ペアプログラミングでパフォーマンスが上がるわけ

小野:実はエンジニアの人からの評価が一番高かったのが、エンジニア風林火山だったんですよね。この本の中でも、もともとのブログの中でも。よく言われたのが、「救われた気持ちになりました」ってコメントだったんですよね。

「実現できないような高みを目指して、自分は全部できなきゃいけないんだって気を張っていたんだけれども、自分は山のエンジニアでテストとかすごく得意だけど派手さがない。だけど、それでいいんだって認められたような気持ちになりました」と。

なぜエンジニア同士で喧嘩するかと言うと、お互い完全じゃない中で、「俺はアレができるのにお前ときたら……」とか「お前はこっちが苦手じゃねぇか」って。自分は完全じゃないという前提があるからぶつかっちゃう。相手にも自分にも完全を求めちゃう。でも、そんなふうに存在しないものを求めても意味がないわけですよね。

なので「あなたはそれでいいんだよ。山のエンジニアだから。本当に君がいて助かってるから」って言うと、ツーって涙が出てきたり(笑)。

青野:そっかそっか。エンジニア同士でも、属性の考え方をそんなに理解してないわけですね。やっぱり完全なエンジニアを想像しながら、自分はそのうちの一部を持っていて、それを持ってない相手がいるから、「なんでないんだ!」ってなっちゃう。逆にそれを言われると、持ってない自分を否定されたような気分になって。

小野:そうですね。全員で実現不可能な夢を見てもしょうがないので、それよりも違いを認めて、違いの良さを使ってチームを強くしていくほうがいいんじゃないかなっていう考え方です。

青野:おもしろいですねぇ。エンジニア風林火山っていうとね、なんかチーム感がありますよね。風林火山でみんなで組んでやろうぜみたいなね。

小野:全部あると本当に最強なんですけど、どれか1個でも欠けるとダメなのがおもしろいんです。

青野:チームとしてはそれぞれの要素を持ったメンバーがいないと、いいものができない。なるほど~。おもしろいですね。

ちなみに「ペアプログラミング」のことも書いていましたよね。ペアプログラミングっていうのは、2人で一緒に同じ画面を見ながら開発する手法なんですけど。たぶん10年くらい前に「青野さん、ペアプロいいっすよ~」って言われて。

その時は、「何がいいのかよくわかんない! だって2人いるんだったら別々の画面見ながら作ったほうが2人分作れてよさそうじゃないですか」って思ってたんですが、今サイボウズの社内を見たら、ほぼペアプロなんですよ。

小野:すばらしいですね。

青野:ひどい時なんて「モブプロ」っていって、4、5人でずっと同じ画面見て(笑)。それが楽しいし、効率もいいって言うんですよね。

小野:ペアプロとかモブプロって、人間の心理を仕事の効率化に取り込んでいる考え方だと思うんですよね。

というのも、役割分担をして「このパートはAさん」、「このパートはBさんで」っていうふうにやったほうが、確かにマネージャーや管理職から見てると効率がいいんだけれども……。

ただ仕事しているのは人間なので。「女優は見られてきれいになる」みたいな話がありますけど、プログラマも見られてきれいになるんですよ。プログラマ同士でも、「昨日覚えた技使っちゃおうかな」みたいな。「ちょっと最近これ気になってて」とか言いながら、その技をとなりで人が見ているところで使うと、すごくテンションが上がるんですよね。

青野:「すごいねー!」とかって。

小野:そうなんですよ。それで褒められたりすると「これいいなぁ!」とかってモチベーションが上がるわけですよね。そうすると仕事のパフォーマンスが全部上がるわけで。

1人だったら別にかっこつけないで、背伸びしないから、昨日と同じやり方をするかもしれないですけども。人に見せるから「ちょっと……」ってかっこつけるんですよね。それでチーム全体にナレッジが広がっていって伸びていったりするわけですよね。

最新のテクニック社内に取り入れる方法

青野:そうらしいですね。設計が上手な人を見て若い人が学ぶことができたりとか。若い人が失敗するのを見て、教えることの楽しさを見出す人が出てきたり。

小野:意外と完全に上と下にはならないんですよ。「ナビゲーターとドライバー」って言うんですけど、これは「見てるほうとやってるほうを相互に交代していくこと」なんです。

なので、いつもシニアの人が教えるわけではなくて。やっぱり最近流行りのショートカットキーとかは、若い人のほうが先にキャッチしてたりしています。

「ナビゲーター:お前今何やったの? ドライバー:あ、ちょっと同期から聞いて……」みたいな。すると周りが「それいいなぁ!」って集まってくる。

上の人が「おぉ、いいじゃんそれ!」って言ってると、周りは「なんだ、なんだ?」ってワーっと集まってきて、そこから自然にモブプロになったりするわけですよね。

そういうコミュニケーションとか、人の気持ちが上がると、パフォーマンスの成果も上がる。要するに、「人の気持ちを仕事の効率化のために使っていく」ってことですね。

青野:まさにピースな世界ですね。

小野:かっこつけたいのもエゴなわけですよ。それを見て「ワオ!」ってなるのもエゴだし、それで「なんだろ、なんだろ?」ってザワザワって見学に来るのもやっぱりエゴで。エゴが全部混ざったら、結局ピースみたいな。今日のテーマですよ。

青野:おもしろい! その辺りのエゴがぐるぐる回るように。でもそれをお互い攻撃し合わないように、お互いの個性を理解し合いながら、ピースな世界を作っていくイメージなんですね。おもしろいですね〜。

社内のキレやすい人にはどう対処すべきなのか?

青野:またおもしろかったのは、社内にもいるんですよ……キレる人が(笑)! 「このクソコードが!」とかってすぐ言い出す人がいるんですけど。そのことも書籍に書いてて。

キレる人がいるのは、ある意味その人が高みを目指している。理想が高いところにあるから、「もっといいものを作りたい」っていうエゴが、そういうかたちで表現されるんだと思うんですが、そこの背景をちゃんと理解してあげないといけないと。これは「なるほどな」と思って。

小野:すごく平和で温和で、みんなが仲良くしている職場は、これはこれで1つの会社の目指すべき姿だと思うんですよ。ただやっぱり「世の中にいいものを届けていこう」っていう目標の視線が高い人って、現状とギャップがあると、ときどきキレるんですよね。

単にオーガニックにキレやすい人もいるんですけれども、目標が高いからキレるっていう人の意見は、絶対に聞いたほうがよくて。だけどチームだからあんまり周りを傷つけすぎちゃいけないわけですよね。だから優しく聞くっていうか。

例えば言葉が強すぎる人だったら、「とりあえず僕に言ってくれたら」って言って、僕が聞いて解釈しながら、「〇〇さんが言ってたのってこういうことだよ」ってみんなに共有する。

すると「Aさんはそれでキレてたんだ!」みたいに、通訳役として僕が入るとか。そういうコミュニケーションの設計も含めて、キレる人のアイデアを持ち込んでいくというのをやっていますね。

青野:おもしろい。コミュニケーションの設計も小野さんらしい表現ですね。ちょっと1個面白い話を紹介すると、「ヒヨコード」。これすごくうまい言葉で(笑)。

すぐキレるプログラマはすぐ「クソコードクソコード」って言い出すんですよね。でもヒヨコードって言葉を変えるだけで、「なんかピヨピヨ感があってワクワクする」みたいな。まさにクリエイティブで安全な指摘な感じがしますよね。このへんもすごくうまいなぁと思って読ませていただきました。

小野:やっぱり「ペアプロ」も「コードレビュー」もそうなんですけども、問題があることを見つけて、指摘するためのレビューなわけじゃないですか。だから、ネガティブなことを言わなきゃいけないんですよ。

ときどきEQ(※心の知能指数 Emotional Intelligence Quotientの略)が高い人とかで、問題に気づいても傷つけちゃいけないからって言わない人がいるんですよね。

だってプログラムは、プログラマの作品なわけですから。自信満々で「ちょっと見てくださいよ!」ってこうなってる時に、「あ、ここバグありますよ」って言うと、作品を否定するみたいになっちゃうので。だから言いにくい部分は正直あるんですよね。

プログラムの世界ってよくないことに「Unicode」っていう文字コード規格があって。あれのiを取ると……まあ、こういう場なので言いませんけど。そういう言葉になっちゃったりとかですね(笑)。

そういう罵倒するような表現が使われやすいんですよね。だけど、自分の作品をボロクソ言われることは当然望んでいないわけで。

言わなきゃいけないんだけど、全力で優しく言う。パンチするんだけど、ボクシングのグローブがパフパフになってて、しかもパウダーまで付いてるみたいな。殴られたのか殴られてないのかがわからないぐらいに優しく言わなきゃいけないんですよね。

それがヒヨコードで。ヒヨコって基本的に愛される生き物だし、伸びしろしかないから、すごく期待と愛情を込めて、「ここは課題があるね」って言うみたいな。そういうコミュニケーションの工夫ですね。

青野:いいですよね。笑い合って「あ、ヒヨコードっぽいね」って言うと、笑って「あ、なるほど。こうですか」ってなりますけど。いきなりひどい言葉を言われたら心折れますからね。

小野:もちろんヒヨコードって言うと逆にキレられるパターンもあるので、本当にやばい時とかに「ヒヨコードだね」って言うと、「ふざけたこと言わないでくださいよ!」ってなるんです(笑)。そこらへんは空気を読まないといけないですけど(笑)。

青野:やっぱり柔軟に空気を読まないといけないですね。言っていい相手と、言っていいシチュエーション。その辺りもマニュアル化されてて。

どうしてもエンジニアの方々って、コミュニケーション自体はそんなに得意じゃない人が多い中で、攻略本のような感じがしました。エンジニアが社会で生きていくための……まさに社会のインフラとなっていくエンジニアが生きていくための攻略本みたいな。すごくおもしろい本でした。

日本の大企業を短期間でデジタル化してみたい

小野:たぶん逆の使い方もあって。今って「デジタル化だ、DXだ」みたいな話で、デジタル人材を事業の強さにつなげていくって、みんな必要だって言われているじゃないですか。

だけどエンジニアってわかんないと思うんですよね。会社のマネージャーや経営陣が、エンジニアを受け止めるためのマニュアルとも考えられるはずで。

青野:そうなんです。私はこの書籍をマネージャーにもおすすめしたいんですよ。たくさんのマネージャーがエンジニアと会話をしていかないといけない時代になると思うんです。その時に、エンジニアっていう漠然とした知識の中で会話をすると、たぶんうまく進まない。

「エンジニアってこういう見方をするんだ」とか「エンジニアにもいろいろいるんだ」、「エンジニアにもいろいろなプライドがあって、いろんな喜びがあって、いろんなエゴがあってやっているんだなぁ」みたいな。それがすごくわかるので、おすすめしたいなと思います。

ちょっと残り時間が少なくなってきたので、小野さんの個人的なエゴをお聞きしてもよろしいですか?

小野:僕のエゴで言うと。今クレディセゾンにいる理由そのものでもあるんですけど。 先ほどお話したような、「日本の大企業がちゃんと中から短期間でデジタル化をさせること」ですよね。しかも金融って、いろんな制約もあって、けっこう難しいんですよね。

日本の大企業は「デジタル・ディスラプション※でもう終わった」みたいなことを言う人がたくさんいらっしゃるんですけど。そうじゃない事例を作れたらめっちゃおもしろいと思うので、1つはそれをやりたいです。

(※デジタルテクノロジーによる破壊的イノベーションを指す。すでにある産業を根底から揺るがし、崩壊させてしまうような革新的なイノベーションの意)

あと僕らのチームって、めちゃめちゃな作り方をしていて。僕の個人ブログだけで作ったんですよね。普通はエージェント経由とか、エグゼクティブクラスのヘッドハンターとかがやるじゃないですか。

でもそういうの一切なしで、僕の個人ブログでメッセージを出して、それに反応して入ってきてくれた人たちなんです。そうするとやっぱり、そういうルートで来てるのでクセがある人が多くて本当に猛獣園です。(笑)

今日この会場にもいろんな動物がいると思いますけど、それぞれの生き物がそれぞれの個性を持って、それぞれの主張を好きなようにして、ぶつかることもあるんだけれども最終的に成果を出していくっていう。まさにこの会場のコンセプトのようなチームが作れているんですよね。

「このチームが今までのクレディセゾンという会社の中で、どうやってコンフリクトを起こさずに活躍するようにどうやってやっていくか」っていうのを考えてると、もう楽しくてしょうがなくて(笑)。

青野:いや~すごい。ある意味日本で一番堅い金融ってところに猛獣園を作っていくという。それがまた事例になってね。「金融できるんだったらこっちの会社もできんじゃね? 」ってね。

小野:できない理由はないですからね。

青野:あ~……すばらしいです。

小野:それがすごく楽しいですね。

青野:すごい。小野さんのエゴの先に日本の未来があるような気がいたしました。どうもありがとうございます。

小野:ありがとうございます。