セカンドキャリアも「野球を続けよう」と思った理由

司会者3:そしてその後エンゼルスだったり、アスレチックスだったりでプレーされて、2012年に引退して。現在はヤンキースのアドバイザーでしたり、NPO法人で子どもたちに野球を教えたり。私も取材に伺わせていただきましたけど、本当に選手に対してもそうだし、子どもたちに対しても野球愛あふれる指導。すごく楽しそうだなと思って、拝見させていただいたんですが。

セカンドキャリアも野球を続けようと思ったのは、どういう思いだったんですか?

松井秀喜氏(以下、松井):逆に言えば、それ以外はなかなか難しいかなと思いますよね(笑)。

司会者3:いえいえ、そんなことない。サラリーマンとかどうですか?

松井:「自分が経験してきた野球を通じて」というものが、やはり一番伝えやすいなっていうのは当たり前なので。たまたまヤンキースにそういう話をいただいて「どうだ?」と言われたので。

毎日球場行ったりとか、チームの遠征についていくのは20年やってきたので「それはもういいです」っていうことで(笑)。じゃあ自分の好きな時に行って見てやってくれということで「それだったらやります」ということでやらせてもらってるんですけど。

もちろん教えることも、彼らがいい成績を残してくれれば非常にうれしいんですけど。でも自分にとって勉強になっているなと思います。

司会者3:どういうところですか?

松井:教えるということをあまり経験していなかったので。言い方は悪いですけど、あまり責任のない立場でね(笑)。そういう経験をさせてもらっているというのは、これはなかなかいい経験だなと思います。

司会者3:でもやっぱり、松井さんの中で教えるというのは楽しいですか? 

松井:楽しくはないですね。

司会者3:楽しくないんですか!?

松井:楽しくないですね。やっぱり難しいです。先ほど責任がないとは言いましたけど、彼らが打ってくれないとやっぱりね。自分もなんか「いまいちだったかなぁ」とか。ずっと上にいけなかったりとかしたら「もっと違った伝え方があったかなぁ」と。

現役時代と違って今は通訳がいないので、自分の下手くそな英語でどうやって伝えるんだとかね(笑)。そういう意味では、英語の勉強にもなるんですけど。そのへんは非常にいい経験の場をいただいているなと思います。

子どもたちに関しては、とにかく野球を好きになってほしい。野球を好きになって「野球が楽しい、やりたい」って思ってくれることを第一に接しています。

理屈はなく、ただ野球が好き

司会者3:3、4歳で始められた野球に、ずーっと今なお携わっていらっしゃるその“野球愛”の根源は、どういうところから来ているんですか?

松井:根源ですか。う~ん、あんまり考えたことないですね。野球……理屈はないと思いますね。ただ好きだっていう。小さい時から野球に触れてきて、野球というスポーツが好き。

その魅力は何だ? ということは、一番はやっぱりチームスポーツだっていうことだと思いますね。やはり仲間がいて、いろんなポジション、試合に出られない人もいっぱいいるし。そういう中で、みんなで1つの勝利を目指していく。チームとして成長していく。というのは少年野球の時から現在まで、まったく変わらないですね。

もちろんアマチュアとプロっていう違いはあります。これは正直ぜんぜん違います。やっぱりプロは厳しい世界ですけど。でもアマチュアでもプロでも、ひとたびユニフォームを着てグラウンドに出れば、自分の一番いいプレーをしてチームを勝ちに導こうっていうね。その気持ちでみんなやってますから。やっぱりそういうところだと思いますけどね。

「野球をやってて、いいことのほうが少なかった」

司会者3:松井さんにとって、生きる力というのはどういうものですか?

松井:生きる力ですか。いいことばかりじゃないですよね。生きていく以上ね。

司会者3:今もコロナ禍で本当に大変な思いをされている方も、たくさんいらっしゃると思います。

松井:そうですよね。こうやって大変なこととか、周りから見れば挫折だとかね、壁にぶち当たるとかね。そういうことはたくさんあると思いますけど。それを乗り越えようとしたりとか、なんとか前へ進もうという心意気というか、そういう部分じゃないかなと思います。

むしろいいことのほうが少ないですね。僕は野球やってて、いいことのほうが少なかったような気がします。特にバッターなのでね。基本的には打てない。アウトになることのほうが多いんですよね。「3割打ったらいいバッターだ」っていわれる世界ですから。ということは7割失敗しても、逆にいえばいいバッターなんですけど(笑)。

その7割の失敗を、どうやって3割のほうを増やすように持っていくか? 考え方としては、失敗から学んでその割合をどうやって変えていくか。じゃあ次どうしようか? とか、そういうことじゃないかなと思います。自分の中ではね。

自分の中ではどうしても野球とつなげちゃうので。生きる力というか、自分が成長しようとする力というかね。自分が野球の中で考えていたのは、そういうことだったような気がしますけどね。

司会者3:常に立ち止まらないで、今の自分を考え、一歩一歩先へ先へと進んでいってらっしゃる感じですよね。

松井:そうですね。そういうことに関しては、あまり苦じゃなかったというかね。自然とその思考回路というか、それは持てたような気がしますね。

これからチャレンジしたいこと

司会者3:これからどうしましょうか? チャレンジしてみたいことは、ほかにありますか?

松井:チャレンジしたいことですか。何ですかね(笑)。

司会者3:今は、子育ても忙しくていらっしゃると思いますけど。

松井:よく聞かれるのは「どこかのチームでコーチとか監督とかしないんですか?」とかね。そういうことはよく聞かれますけど。正直、今はそういう気持ちはあんまり持ってないですね。どちらかというと、今の生活というか。プライベートと仕事のバランスという意味ではね。とりあえず、今が心地いいかなと思ってますので(笑)。

20年間プロ野球生活、ほぼ野球中心の生活を送ってきて、引退してもう8年……早いですけど、もう8年も経っちゃうんですけど。

司会者3:早いですねぇ。

松井:そういう情熱みたいなものは、今はないので。とにかく今は、家族と一緒にその時間を大切にしながらね。なおかつ、そういう貴重な場をいただいているので、そこでなにかを得ていきながら、その先になにかが見えた時にはまた新たなチャレンジをしたいなと思います。

司会者3:楽しみです。

松井:ありがとうございます。

司会者3:でも本当お忙しいですもんね。

現役時代、影響を受けた選手は落合氏

司会者1:こちらライブ会場です。聞こえますでしょうか?

司会者3:はいはーい。聞こえております。

司会者1:今回、Climbersの記念すべき第1回目のトップバッターを松井さんに飾っていただくことができまして、本当に光栄です。ありがとうございます! 

松井:とんでもないです。こちらこそありがとうございます。

司会者1:たった今、視聴者のみなさまから松井さんへの質問を続々といただいておりまして。せっかくなので、いくつかお答えいただいてもよろしいでしょうか?

松井:もちろんです。

司会者1:ありがとうございます。

司会者3:では私から質問をさせていただきます。視聴者のみなさんから質問です。「日米問わず、現役時代に影響を受けた選手はいますか?」。 

松井:ジャイアンツ時代だと、落合(博満)さん。

司会者3:ほー! それは?

松井:三冠王を3度取ったバッターが、常に目の前にいるっていう。当時、落合さんが(中日ドラゴンズから)来られて、僕が3番バッターで、落合さんが4番バッターだったんですけど。落合さんは一番近くで僕のバッティングを見ているわけですよね。次の、ネクストバッターズサークルにいますから。その中でいろいろ、ふとした時に教えてくれました。

司会者3:教えてくださるんですか。

松井:教えてくれました。風呂場でよく教えてくれたんですよね(笑)。

司会者3:どういうことですか、それは。

松井:落合さんも僕もけっこうのんびりなので、みんな試合終わってシャワー浴びてすぐ帰るんですけど、僕はゆっくりお風呂入ってて。落合さんもゆっくりだったので、よくお風呂場で2人になったんですよ。

司会者3:へ~。

松井:それで「お前、何だ。そのバッティングは」みたいな感じで、よく言われましたね。貴重なアドバイスをいただきました。ジャイアンツに来た頃はもう晩年でね。もちろん三冠王を3度取った時ほどの成績ではなかったですけど、でもあれだけの経験をしたバッターに直接教えていただいたっていうのはね。選手では落合さんだけのような気がしますね。もちろん、基本的には長嶋さんがね! 

司会者3:長嶋さんがすごく一緒にバッティングを……

松井:常に私のバッティングを見てくださったんですけど(笑)。選手という意味では、落合さんですかね。後輩だと高橋由伸じゃないですかね。

司会者3:そうですか。

松井:彼の走攻守すべてにおいての技術の高さというのは、歳は僕より1つ下ですけど、かなりの選手だなっていうのはすぐわかりましたね。だから彼が入ってきて、いい刺激になりました。

司会者3:今でも交流したりしてらっしゃるんですか?

松井:ええ。去年だったですかね。(高橋氏が)監督を辞めて、わざわざニューヨークまで来たので。一緒にヤンキーススタジアム行ったりとか、久しぶりに食事したりとか。

司会者3:なるほど。そうなんですね。

好きだから、もっとうまくなりたい

司会者3:ではもう1問いきますね。「私はなにかを継続することが苦手です。やり抜くための心構えを教えてください」。

松井:僕も苦手ですけどね(笑)。

司会者3:え、そうですか!? 継続してるじゃないですか。野球(笑)。

松井:野球だけですかね~。

司会者3:でもね、ピアノをされたりとか。

松井:ピアノは挫折しました。本当に挫折したんで(笑)。

司会者3:失礼しました(笑)。

松井:そうですねぇ。先ほどの話をつながりますけど、やっぱり好きっていうかね。それだと思います。こういうコツっていうのはないんですよね。好きだから苦にならないっていう。ただそれだけなんですよね。

好きだからもっとうまくなりたい。好きだからもっといっぱい打ちたい。いい選手になりたい。チームの力になりたいっていうね。野球が好きだからっていう、そこだけだと思います。ですから、苦にならなかった。

だからアドバイスっていったら変ですけど、そのことを好きになることかなと思いますね。そうなったら、多少のアップダウンはもちろんあったとしても、続けることは苦にならないような気がしますけどね。

司会者3:あえて好きになるわけですね。

松井:僕は自然に好きになりましたけど、野球に関してはね(笑)。一番簡単なのは、本当に好きだっていうものが見つかれば早いかもしれないですね。

松井秀喜氏からのメッセージ

司会者3:そうですね。残念ながらここでお時間がそれぞれ来てしまいましたので、最後に松井さんからご覧いただいているみなさんに、メッセージをお願いできますでしょうか。

松井:松井秀喜です。今日のお話がみなさまの心に少しでも残って、また明日からの新たなパワーにつながってくれれば、私自身もうれしく思います。これから日本だけじゃなく、世界中でみなさん活躍されると思います。これからもみなさまの活躍を心から期待しております。今、世の中は大変な時期ではありますけど、それに負けずに、体に気を付けてこれからもがんばってください。応援しております。

司会者3:ありがとうございました。松井さんもどうぞ、お体お気をつけて。まだまだ野球との楽しみがつながっていくと思いますけれども、また次のチャレンジも、ぜひそんな時はまたお話を伺わせてください。本日はありがとうございました! 

松井:とんでもないです。こちらこそ、ありがとうございました。

司会者3:トップバッターは松井秀喜さんでした。