ワークスタイル専門家・沢渡あまね氏

斉藤知明氏(以下、斉藤):では改めまして「働き方改革の潮流とこれからの組織マネジメント」と題して、沢渡さんからお話いただければと思います。よろしくお願いします。

沢渡あまね氏(以下、沢渡):はい、よろしくお願いします。改めまして「沢が渡る」と書いて、沢渡あまねと申します。物書きをしています。

ワークスタイル専門家です。フリーランス、企業の取締役、顧問といったパラレルキャリアをしています。さらに浜松東京の二重生活。働く方場所もテレワーク、リモートワーク、それから今日は顧問先ノキオのオフィスから配信していますけれども、オフィスもハイブリッドな働き方をしています。

経験職種は大きく2つで、ITと広報ですね。企業内、それからお客様向けのITソリューションを提供する。ITの事業×広報ですね。

主にインターナルコミュニケーションといいまして、海外拠点を含めたグループグローバルに、社内報や社内イベントなどを通じてビジョンを伝えていく仕事をしていました。すなわち、組織のコミュニケーションの景色を変えることによって組織の問題、課題を解決していく。その経験が豊富です。

私、ダム巡りが好きでね。最近、ワーケーションなんて流行ってますよね? 

斉藤:はい(笑)。

沢渡:ダム際で働くと、私はめっちゃ生産性上がるんですけれども。電話は鳴らないし、物書きに集中できます。「#ダム際ワーキング」のプロモーションしていて、ダム漫画家さんに漫画を描いてもらいリリースもしました。#ダム際ワーキングのサイト、ちょうど昨日リリースしましたので見てください。よろしくお願いします。

歴史から紐解く「働き方改革の潮流」

沢渡:「働き方改革の潮流」の話をしたいと思います。なにごとも歴史を紐解くのは大事でして「働き方改革」という言葉がどのようなマネジメントキーワードとして、問題・課題として変化してきたのか紐解いていきたいと思います。

働き方改革。この言葉が注目されたのは、なんといっても2016年の高橋まつりさん事件ですね。悲しい事件が起こったわけですが。ここから企業は主に人事制度、ルール整備に力を入れました。ところが、単に「残業削減しました」「休暇促進しました」だけでは、本質的な問題課題は解決しないわけですね。

そして2017年。経営者は「果たして生産性向上、生産性は上がったのか?」と、次なる疑問を持ちました。さらにはこのころから「労働人口の減少」が企業を襲うリスクとして、いよいよニュースでも取り上げられるようになりました。

そうすると「いかにして、より少ない労働人口で本質的な生産性を上げていくのか」が経営課題になります。そのために企業は環境整備やメンタルヘルスも含めた対策を講じるようになり、新しい働き方であるテレワークなども注目され始めるようになってきたのが、2017年かなと思っています。

しかしながらですね。働く人たちはモヤモヤするわけですよね。「無理やり残業を減らされても、手取り減るだけやん。誰も得しないやん」とかですね。あるいは当然のことながら、今までは従業員より企業が優位に立てたのが、人が減れば減るほど、むしろ従業員側の意見を優先しないと人が辞めていく。あるいは、いい人が定着しない時代になっていくと。

次なるテーマ、エンゲージメントに関心が向けられます。エンゲージメント、すなわち組織・仕事に対する繋がりの強さ、もしくは帰属意識ですね。ひと昔前は「愛社精神」などといわれましたが、今はエンゲージメントの対象は会社だけではありません。プロジェクト型。あるいは協力会社の人がそのプロジェクトに参画して、その仕事だけにフルコミットできる仕事に対する誇り、エンゲージメントの高さ。こういったものが注目されるようになってきました。

この時、確かNHKのニュースでしたかね。エンゲージメントを「やる気偏差値」と訳して炎上したわけですね(笑)。それが起こったのも2018年です。さらにDX、デジタルトランスフォーメーションが声高にいわれてきたのも、この時期かなと思っています。

そして2019年になると「SDGs」が、日本でも注目され始めました。すなわち組織と個人が社会と共存しながら、いかに事業継続・発展していくか。そこも求められてきているわけですね。

そして2020年。だれもが想定しなかったCOVID-19が猛威を振るい、アフターコロナ、ウィズコロナ、ニューノーマル。すなわち不確実なリスクと向き合いながら、いかに事業継続していくか。組織も個人も成長していくか。ここに今、注目が集まっている。こんな時代かなと思います。

いかがでしょうか? 「働き方改革」というキーワードから、このようなキーワードが生まれてきた。その潮流を見て取れるかなと思います。

2021年のキーワードは何なのか? これをみなさんと一緒に、斉藤さんと一緒に、考えていきたいと思います。

「過去60年」と「これから」で大いに変わる、日本のマネジメント

沢渡:世の中のキーワードが変わってきている中、これからの組織のマネジメントのあり方を考えようではないか、という話をしたいと思います。(スライドを指して)この絵、私が最近の講演や書籍でもしつこく出していますが、凄く大事なので今日も強調します。

過去50年、60年の日本で支配的だったマネジメントと、これからの時代のマネジメントを端的に示した絵がこれです。過去50年、60年の「ものづくり大国日本」。製造業を中心とした現場に人が集まる労働集約型で、基本的にピラミッド、統制型。

これまでは例えば、トップが「この車作れば売れるで~!」と言ったら、それに基づいて「ハハッ!」と各部門は最適にその車を正しく作って、さらに正しく売れるようなプロセスを作って。そして基本的に、同じ現場に8時~17時に全員が集まって「例外は認めません」。統制、管理型のマネジメントをすることによって、パフォーマンスを出していくやり方に最適化されてきたのですね。

人事制度もそう、職場環境の制度もそう、さらには法制度もそうですね。労働基準法は基本的にピラミッド型、統制型、製造業型の固定的な場所で人が同じ作業をして、逸脱しないようにするやり方に最適化されてきたわけですね。

これ、別に間違っているわけではないんです。それで勝てた時代だから。さらに終身雇用の世の中、基本的に言われたことをきちんと真面目にこなしていれば、60歳になれば「おめでとうございます、ゴールです! あなたには潤沢な退職金、さらには年金が待っていて、家族ともども幸せに暮らせます」と。

だから個人にとって理不尽な人事異動や転勤辞令も、まあ受け入れられたわけですね。それに従うのを“よし”としてきたわけですね。それがコミュニケーションの仕方とか仕事の進め方、制度・風土、さまざまな側面に現れていますね。

ところがこれからの時代、それだけでは勝てないわけですね。オープン型。個人と個人がつながって、さらには部署と部署とがつながって、社外と社内の組織がつながって不確実な問題に向き合っていく。新たな価値を創造していく。オープン型、イノベーションモデル。部分的にでもオープンなやり方を取り入れていかないと、組織は勝っていけない。生き残っていけない。そんな時代になってきているのかなと思います。

この過渡期において「どこにどう風穴を開けていったらいいの? どこから変えていったらいいの?」こんな前向きな議論を、今日はしていけたらなと思います。一言でいうと「ものづくりオンリー・工場労働型オンリーの発想で、そうでない職種の人たちも縛りつけてきたのが、過去50年60年における我々の反省点なんだ」と、認識しています。

クリエイティブな人たちを育てる「発想・思考・成長のサイクル」

沢渡:そうするとクリエイティブな職種、新しいものを生み出す人たちを育てるためには、今から申し上げる発想・思考・成長のサイクルをどう作っていくか? ここが肝になってくると思います。

クリエイティブという言い方をしましたけれども、クリエイティブの対義語はオペレーティブですね。オペレーション。決められた仕事を真面目にこなす人たち、職種。対してクリエイティブ、新しいものを作っていく、問題課題を解決していく人たち、職種。クリエイティブ、オペレーティブ、どちらも正しいんですよ。どちらも価値があるんですよ。

クリエイティブな職種、クリエイティブな人たちが正しく活用できるサイクルって、(スライドを指して)これなんですね。

新たなテーマを投げ込む。あるいは問題課題に気づく。あるいは問題課題を料理するフレームワークを思考しながら、思考のアンテナを立てていく。

例えば「デジタルでこの課題をどう解決できるかなぁ?」とかね。あるいは「新しいマーケティングを成功させるには、新しいマーケットにリーチするためには、どうしたらいいかな?」と、日々意識して過ごす。そしてひらめくわけですね。調べたり、深く考えたり、まとめたり。あるいは雑談を通じてヒントや答えを持っている人とつながっていく。そして行動し、解決する。

個人の中にも組織の中にも答えがない時代ですから、コラボレーションによって解決していく。それによって知的一体感、エンゲージメントが高まる。さらにそのワチャワチャやっていく中で、新たなテーマ、次なるテーマが見つかる。あるいは、今持っているテーマの解像度がより高くなって、さらに思考のアンテナが立つ。

このサイクルって、固定的な環境……9時~17時で働く工場のように規定された場所で、同じメンバーだけで顔を合わせていて回り得ますか? という話なんですね。我々は、いかに自由になっていくか。そこがこれからの組織として、そこで働く個人としての生き残り戦略、成長戦略を左右すると、私は確信しています。

健全な組織のバリューサイクル

沢渡:もう1つ。我々、働き方改革とかDXとか、そのキーワードを“点”として自己目的化すると、たいていうまくいかないんですね。そのために、それぞれのキーワードを1つの宇宙の中で“面”として関連付けて解決していかなければいけないなと。その宇宙の絵が(スライドを指して)こちらです。

「健全な組織のバリューサイクル」。これはちなみに、もう言ってしまうと書籍化します。今、一生懸命に書いてます。そもそも働き方改革なり、DXなり、ニューノーマルなり、いろんなバズワードがありますけれども。目的なりゴールは何かというと、1つしかなくて。ビジネスモデル変革なんですよ。

これまでの当たり前を疑って、より自由になって、高利益を得られる。さらにその利益を地域にも働く人たちにも取引先にも還元して、ともに幸せになっていくモデルを作っていくのが、企業の「公器」としての責任、社会的責任ですよね。

ビジネスモデル変革に興味がないトップ、経営者はいないはずなんですよ。ビジネスモデル変革をゴールとした時に、それぞれイノベーション、コラボレーション、DXをどう道具として活用して、どう解決していくか。

「エンゲージメントが高まると、最終的にビジネスモデル変革にこうつながるよ」というような、それぞれ点でバラけている星を、1つの宇宙の中の惑星帯としてどう位置付け、関連付けて相互に解決していくか。この議論をしてかないと。

この絵の中で「トップはこう変わる」「現場のマネジメントはこう変わる」「現場の一人ひとりはこう変わる」。あるいは部門ごとで「総務はこういう価値を出す」「経理はこういう価値を出す」「研究部門はこういう価値を出す」「情報システム部門はこういう価値を出す」。それぞれの役割を正しくアップデートしていって、成長していく。

それがないと、結局それぞれのキーワードを単独で目的化する“ごっご遊び”にしかならない。“仕事ごっこ”にしかならないと、私は危機感を覚えています。ぜひこの宇宙の中でそれぞれがどういう役割を果たすのか、どう成長していったらいいのか、どう協力していったらいいのか。議論するための叩き台として、使っていただければなと思います。

そうはいっても私も大企業出身です。今日も大企業の方多いと思います。なかなかすぐには変われないですよね。いわゆるレガシーな組織、ウォーターフォール型の指示待ち組織が、いかに小さいオープン型に変わっていくか? そんなストーリー、リアルな小説と解説を『ここはウォーターフォール市、アジャイル町』という本にもたっぷり書きましたので、よろしければ手に取っていただければなぁと思います。

ここはウォーターフォール市、アジャイル町 ストーリーで学ぶアジャイルな組織のつくり方

私からは以上です。ありがとうございました。

斉藤:沢渡さん、ありがとうございました。いや~、濃い!(笑)。

沢渡:ありがとうございます。1個、すごく大事なことを言っていいですか?

斉藤:はい。

沢渡:誤解されると嫌なので、しつこいぐらい言ってるんですけども。私は統制型のマネジメントを否定している訳ではないのです。統制型が勝てる現場や職種には、統制型の合理性があるんですよ。

ただ、統制型一辺倒で負けパターンになっていないか? これを一回疑ってみて、……あるいはコミュニケーションの仕方、ITの仕組み、など部分的にでもオープン型を取り入れていってほしい。ハイブリッドな考え方で勝ちパターンを目指していってほしい。これが本日の私のキーメッセージです。

日本人って、二項対立が大好きなんですよね。オープン型、統制型といった瞬間、アジャイル、ウォーターフォールとかいった瞬間に、どちらかに寄せようとする。至上主義や原理主義に陥り、戦争を始めたりする。うまくないですね。ハイブリッド発想で、いいとこ取りをしていってください。