コロナ禍で大きな成長を遂げたライブ配信市場

司会者:まず私より、ライブ配信市場に関するマクロトレンドを簡単にお話させていただきたいなと思います。

今、お見せしているスライドは「ライブ配信市場における各月のダウンロード数、トップ10のアプリのダウンロード数の合計の値」の1月〜9月分をお見せしています。ご覧の通り、ダウンロード数においては右肩上がりで、5月には1月対比でプラス80パーセントという、大きな成長を見せた市場となっております。

ダウンロード数だけでなく、アプリ内課金も右肩上がりで成長しております。こちらも8月と1月の対比で見ると、145パーセント成長と大きな伸びを見せております。このようにライブ配信市場は、利用者、並びに消費支出が伸びている注目されるべき市場になっております。

今回は、そんなライブ配信市場の成長をけん引されている、SHOWROOM株式会社 前田裕二様に基調講演をお願いしております。

前田裕二氏:よろしくお願いします。改めて、SHOWROOMの前田と申します。本日は平日のお忙しい中、お時間いただきありがとうございます。

今日は30分程度お時間をいただいているので、我々が普段、モバイル市場においてどういうスタンスで開発に取り組んでいるのか? これからどんな戦略を持って進んでいこうとしているのか? について、簡単にみなさんに共有したいと思います。

今アプリを作られている方や、これからモバイル市場に参入しようと考えている方々にとって、少しでも示唆のある話ができたらと思っております。

SHOWROOMが大切にするファクトドリブンの開発とは?

まず我々は、本当に普段からよく「ファクト」という言葉を使用している気がします。自分たちのサービスが、ユーザーの皆様にとってどのように使われているのか? という実際の利用動向をベースに、プロダクトの舵取りを決めます。その部分をメインにお話できたらと思っております。

まず、展開するサービスは大きく2つあります。1つが「SHOWROOM」というライブ配信サービスです。マネタイズは「ギフティング」という仕組みをとっており、Youtubeと同じ動画市場といえど、こちらはtoCでの収益化がメインになっています。もともと日本ではそこまで一般認知された市場ではありませんでしたが、コロナ禍で少しずつ浸透してきたかなと思います。

そして2つ目が、発表したばかりの「smash.」という短尺な動画サービスです。大きく、その2つのサービスを展開しています。

まずは「SHOWROOM」というライブ配信サービスが、どのように生まれて成長してきたか? についてお伝えしていきます。

まずSHOWROOMの特徴の一つは「オーディエンスの可視化」です。一般的なライブ配信サービスは、縦型で配信者の方が思い切り全面に出ているサービスUIを取っているのですが、SHOWROOMでは“視聴者が可視化されていて、オーディエンスが見える化”されています。

こういった機能は元々オーディエンス側のエンゲージメント、すなわちコメントの量や滞在時間、ギフティング熱量などといった「参加度を上げるには」という仮説、狙いを持ってスタートしました。当然のことですが、常に開発の裏側には「なぜどのようにその機能がサービスに成長をもたらし得るのか?」という、なるべく具体的な「仮説」を敷き、それを元にユーザーの利用動向を見ながら検証を繰り返し、サービスを改善させています。

そして次に意識しているのが、ファクトドリブンの開発です。まず仮説を素早くリリースする。自分たちのセンスや感性を最初の一歩として大事にしつつ、原則としては「ユーザーや市場が最も正しいんだ」ということを一番に信じて、改善を行ってきました。ユーザーの期待や想像を超えるサービスは、ユーザーリクエストからは出てこない事も多く、例えばガラケーの時代にスマホは要望されないし、馬の時代にも車は要望されないでしょう。

その意味で、自分たちによる「最初の一歩の感性」、イノベーションセンスは非常に大事にしているのですが、一方でひとたびリリースした後は、継続的に自分たちの感覚も大切に見つめつつも、特に市場の動き、ユーザーの利用動向データを大きな根拠にしながら、開発や意思決定進めています。

前田氏が語る「盛大に失敗した」と振り返る開発事例

今回は「我々が盛大に失敗したなと思っていること」も共有したいなと思います。

まず当時の我々の課題は、ユーザーの回遊性を高めることでした。例えばライブ配信というと、アイドルのようなコミュニケーション能力に長けた方々が「○○さん、ありがとうございます。今日も来てくださって……」と配信するイメージが湧く方もいらっしゃると思います。

初期のSHOWROOMは、ある1人のユーザーが特定演者に対して没入する状況を作るのは実現できていたのですが、他の演者B、演者C、演者Dというふうに、ユーザーのみなさんの回遊を起こして、まだファンの少ない演者でもきちんとまず多くのユーザーの目に触れる、という設計をいかに施すかが、大きな課題になっていました。

実際に回遊のデータを見ても数字が上がってこなかったので、我々は「ユーザーがフォローしているルームを開示する」という施策を打ちました。

具体的に説明すると「ユーザーAがフォローしているのは、演者A、B、Cですよ」というを、ユーザーAのプロフィール上で可視化してあげる。このことによって、他のユーザーが「このユーザーさんは演者Bさんも応援しているんだな」と感じて、回遊のきっかけになってくれるんじゃないかと思っていたんです。

これは感覚的に正しそうと思っていたんですが、この機能を1週間くらいでバっと開発して出してみたところ、著しくユーザーのリターンレートが下がったり、離脱率が上がりました。あと、SNSも荒れました(笑)。

ここで「そんなはずはない。他のユーザーが誰に興味を持っているのかがわかるほうが、心地がいいはずだ!」と、自身の仮説を信じて走り続けることもできたんですが、データをドライに観察して「これは違うな」と判断しました。

実際のデータでもそうでしたし、実際にサービスやSNS上で、ユーザーのみなさまがフィードバックしてくれていたことは「自分が特定の演者を応援していることが他のユーザー、ひいては演者には伝わってほしくない」ということでした。

ユーザーの多くは、他の演者も応援していることを他者に伝えたくないインサイトがあったんですね。これを受けて、付随する改善仮説をすべて取り下げる判断を、一瞬でしました。これが盛大に失敗した事例の1つです。

「仮説は3秒で立てて判断しろ」がもたらすもの

もう1つ今日お伝えしたいポイントは、スピードについてです。社内でよく言っているのは「仮説は3秒で立てて判断しろ」ということです。

3秒はちょっと大げさなんですけど、仮説から意思決定までの時間を極力引き下げて、実際にサービスを出してから、我々が観察するデータを元にプロダクト開発に落としていく、ということをすごく大事にしていました。

1つ事例を紹介すると、ライブ配信市場の最初の成長仮説として、すでに一般的に少し知名度があるような演者さんのルームにおいて、ギフティングが盛り上がっていく仮説を持っていました。

今となっては不思議なことなんですが、それが収益軸になるという事業計画が、我々の中核になっていたんです。リリース2〜3ヶ月間はこれを信じて運用していました。

そして、ユーザーの課金利用データがどうなっていったか。無課金ユーザーが課金ユーザーに転換するにあたって、既に認知の高いコンテンツだと意外にも伸び悩むデータが見て取れました。

そこで感じたのは、ユーザーにとって価値になるのは「完成品」ではなくて「未完成品が完成品に至るまでのプロセス」なのではないか。成長の過程において感情移入して、ギフティングをしていくものなんじゃないか? という仮説にすぐに立て直しました。

リリース前に立てていた仮説を3ヶ月で捨てたわけです。大きな判断だったと思うんですけれども、判断スピードはすごく速くかった。これは自分たちの過去の意思決定を振り返っても、最も正しかったなと思うことの1つです。

ここから、生き物のように一気にサービスが成長していった経緯がありました。

こだわりを捨て、現象と真剣に対峙していかないと、この判断はできなかったなという学びがありました。実際にサービスを運用していくと、自分たちが持っている仮説ってすごく正しそうに思えているというか、それが気付けば“謎のこだわり”になって、そこから中々抜け出せない。

でも確かに、ある種の根拠のない自信を元にサービスをリリースしてがんばっているわけなので、それを投げ捨てて新しい仮説に飛び移ってサービスをブラッシュアップしていくって、なかなか難しいなと思うんです。

しかしながら、これが我々SHOWROOMを成長させる上で、最も重要なことだったなと振り返っており、少しでも皆さんの開発の参考になればいいなと思います。