困難をケーススタディと思うことで見えてくるモノ

小巻亜矢氏(以下、小巻):テーマパーク事業ですけれども、お陰様でここ数年すごく業績が上がってきました。よくV字回復の立て役者のように、取材依頼をいただくのですが、ちょうどいい機会なので、みなさんにもお伝えしたいと思います。

まず、私がV字回復を引っ張ったわけではなくて、本当に数年間に渡って、スタッフ一人ひとりのそれこそレジリエンスの力を発揮した結果なんですね。長い間ずっと低迷していた時に、蓄積してきたノウハウやアイデアや熱量が、パーンと跳ね返った。その結果、V字回復という結果がついてきた。

そこにまつわるたくさんのエピソードを思い出すだけでも、本当に胸が熱くなるような出来事がたくさんあります。本当に苦しい中、逃げずにがんばってくれたなと思います。そんな経験をさせてもらって、私は本当に幸せ者だなと思います。

そして、光と影で言うならば、やはり影の部分があるからこそ、眩しい光に気付くことができるんじゃないかなと思います。影にいる時は光を見たくなかったりしますけれども。まぁそういうところで、コロナがやってきたことによって、なかなか厳しい状況の方もたくさんいらっしゃると思います。

できれば自分が与えられている経験の中で、「これは自分に何を教えてくれてるのか」ってケーススタディだと思えた瞬間に、少しだけ客観的になれて、そこにある“学びの種”に気付くことができるんじゃないかなと思います。

何かこう説教臭いことを言うつもりは毛頭ないんですが、私自身がいろいろな経験の中からそんなふうに思っている次第です。

壮大な壁の乗り越え方

そしてよく、「どうやって小巻さんは壁を乗り越えてきたんですか?」という質問をたくさん受けます。

逆境を乗り越えるエネルギーになったものは、やっぱり悔しさだったんじゃないかなと思います。「こんなはずじゃなかった」とか、「もっともっとできるはずなのに」とか。そういう悔しさが私を引っ張ってきてくれたような気がします。

そして、影を光に切り替えることで言うと、親しい家族が突然亡くなるとか、特に母親にとって子どもを亡くすといった経験を、光に切り替えることは本当に難しかったです。その悲しさがなくなることは、たぶん一生ないんだろうと思います。

でも、「そこに光があるとするなら」と考えてみた時に、2歳で亡くなったところにフォーカスし続けるのではなくて、たった2年という寿命を持ってでも、私の元に産まれてきてくれたことに光を当ててみようと思いました。

そう思ってからだいぶ気持ちが楽になってきて、笑顔を取り戻すことができています。ですから、いろんな出来事の中で、なんとか光を見つけようという気持ちさえ忘れなければ、跳ね返るとか復元するってことができるんじゃないかなと思います。

存在意義が自分の軸を作っていく

そして、レジリエンスの次にお話していくのは、「PURPOSE(パーパス)」についてです。このパーパスという言葉も、今年のマーケティング業界やビジネス書でよく聞かれた言葉だと思います。例えば、パーパス・ドリブンとかですね。パーパスは、存在意義という意味で使われることが多いんですね。

例えば、何のために自分たちの会社があるのか。その目的や存在意義を共有して、強い組織になって乗り越えていこう! という意味で、パーパスという言葉はたくさん聞かれました。

そして、人生いろんなことがある中で、自分自身の個人的なパーパスは、光と影を繰り返す中で浮かび上がってくるような気がするんですね。螺旋階段を上っていくように、自分が少しずつ成長していった時に振り返ってみると、「あぁ、あの出来事はこれを教えてくれるためにあったんじゃないかな。」と。

すると、自分が今ここにいる意味は、「女性に対してもっともっと自分を大切に生きてね」というメッセージを発信するために、いろいろな痛みを与えられたのかなと思えるんですね。

命の大切さみたいなものを嚙み締めた時に、「これからみんなが自分を大切にして、自分と仲良くやっていってね」ということを、やっていくために、そういう出来事があったのかなって思います。

存在意義については、自分で見出すことは難しいという意見を、いろんなところで耳にします。本当に災害の多かった平成からこの令和になって、東京オリンピックで盛り上がるような華やかな令和のはずが、違った経験をみんながしています。

でも、なぜこの時代に自分がいて、この仲間たちと一緒にやっているんだろう? そんなことを思うと、自分が進むべき道や、自分がここにいる意味が見つかるんじゃないかなといつもお答えさせていただいています。

パーパス。難しい言葉でもありますが、これが見えてくると自分の軸ができると言いましょうか。そこに立ち戻ることができると思います。私自身も、今年はパーパスを特に意識してやってきたように思います。

悔しさだけでは終わらずに、その先に進んでいく意識

そして、最後に「BOUNCE FORWARD」という言葉についてです。跳ね返すことを英語で「Bounceback」と言います。叩きつけられたら元に戻るという意味ですね。

でも私は、元に戻るだけじゃちょっと悔しいなと思うんですね。コロナ禍の前は、サンリオピューロランド・ハーモニーランド、共に上向きで元気でした。だから本当に悔しいんです。

特に期末のボーナスとかですね。そういうかたちでスタッフにお返しできたはずだった。それが数ヶ月も休園することになって、本当に悔しい。

でも、そこで止まっていては、悔しいだけでやられっぱなしです。やっぱり、ここから何かを掴んでやりたいと、私は思うんですね。

ですからBounce backではなくForwordする。みんなと一緒に悔しさの先に進んでいきたいと強く思います。より強く跳ね返って、元に戻るだけではなく、その先に迎える新しい世界に対して、「HELLO」と言いたいなと思っています。

これはなかなか難しいことかもしれません。「元に戻るだけでも大変だよ」と思う方もたくさんいらっしゃると思います。そういう時は少し休んだり、少しがんばらなくてもいいと思います。私自身が長く笑顔でいられなかったり、光を見たくなかった時期が長かったので、その気持ちはすごくよくわかるんです。

サンリオピューロランドでも、キティちゃんにその想いを託しています。「誰だって笑顔になれない時がある。光を見たくない時もある。でも私は待ちたい」ってキティちゃんは言ってくれるんですね。

やっぱり待ちたいですよね。自分自身も強く跳ね戻って、その先の「BOUNCE FORWARD」にいきたい。その力を信じて待ちたい思っていますし、サンリオピューロランド・ハーモニーランドのスタッフ一人ひとり、そして今日これを聞いてくださっているみなさんの中にも、その力が必ずあると信じて、待っていただけたらいいなと思っています。

為す術がないような絶望的な状況ではまったくない

新しい世界では、デジタル化だとたくさん言われていますけれども、その他にもやれることはたくさんあります。今日のこのイベントも、こうしてオンラインでお届けしているように、もう何もすることがない、為す術がないような絶望的な状況ではまったくないと思っています。

デジタル化の中でも、新しいエンターテイメントの扉もどんどん開いていこうと思っていますし、まだまだ私自身はBOUNCE FORWARDを見据えて、がんばっていきたいなと思っています。

本日は、「乗り越える」というテーマですが、本当にこう……、なんて言うんでしょう。壁に杭を打って登っていく達成感とか、ちょっと苦しいけどがんばってる自分自身が好きなんだと思うんです。

ですから、みんなその力があると信じて、私自身にもその力があると信じて、がんばっていきたいなと思っています。限られた時間で話があっちにいったりこっちにいったり、お聞き苦しかったかと思いますが、ぜひみんなと一緒にBOUNCE FORWARDでHello New Worldと言いたいと思います。ご清聴どうもありがとうございました。

働くママさんには、「ごめんなさい」を「ありがとう」に変えてみて欲しい

司会者:小巻さんありがとうございました。お話を聞きながら私自身、胸がぐっと熱くなる瞬間がありました。素敵な講演をありがとうございます。ここで視聴いただいているみなさんから質問をご紹介をさせていただきたいと思います。

まず1つ目のご質問です。「新米ママリーマンです。子育てと並行したキャリア形成に悩んでいます。同じ母として小巻さんから何かアドバイスがほしいです!」りこmamaさんから、ご質問をいただいております。 

小巻:そうですね。働くママさんって、時間のやりくりに関して、子どもや会社に申し訳ないってよく言っていると思うんです。

1つアドバイスできるとしたら、どっちにも「ごめんなさい」ではなくて、「ありがとう」に変えてみて欲しいと思いました。ママさんはベストを尽くしてがんばっているわけですから、自分自身にねぎらいと、がんばっているという気持ちを持ってほしいなと思います。

今苦労してることは、必ず後に身になります。タイムマネージメント力はグンと上がりますし、世間や世界を広く見る視野が必ず育っていますので、自信を持って自分や周りに「ありがとう」を言いながら、やっていただけたらなと思います。

司会者:ありがとうございます。では、続いてのご質問です。「小巻さんの学習意欲はどこから湧き出ているんですか?」せいいちろうさんからのご質問です。

小巻:そうですね。知らないことに対して悔しさがあるからだと思うんです。化粧品をやっていれば、「誰よりも知りたい」「知らないところを突かれるのが悔しい」とかですね。負けず嫌いなところから来てるのかもしれませんけれども。

やはり知ることで世界が広がって、「あぁ、まだこんなことも知らないんだ」ということが次から次へと生まれてくる。無知の知という言葉を時々使うんですけれども。知らなかったことを知ってしまうと、どうしても次を知りたくなる。知りたいの連鎖ですね。すごく努力家なわけでは(なくて)、ただ知りたいだけかもしれないです。

従業員とのコミュニケーションを高めるたった1つのコツ

司会者:知的探究心がすごいんですね。では続いて3つめの質問です。「何にも興味がわかないとき、どうやって心が動くものを見つければいいでしょうか?」PepcoNさんからです。

小巻:そういう時がありますよね。私も、ぼーっと心が動かない時はありました。無理やり見つけなくても、そういう時は自分を癒やしてあげるのもいいと思いますし、あえて新しいことをやってみる。私よく三日坊主を推奨していて。

ずっと続くかわからないけれど、とりあえず本屋さんに行ってみるとか、ググってみるとか。やっているうちに何かがアンテナが触れたらそれをやってみる。やってみて興味がなかったなと分かったら、「あぁここは興味がなかったんだな」って分かるだけでもOKだと思うので。

そんなに無理する必要がないということ。三日坊主でもいいのでやってみるのはどうでしょうか。

司会者:ありがとうございます。私からも質問させてください。

「いろんなことに興味を持って、次々に勉強されているイメージを持ったのですが、今一番勉強したいことはなんでしょうか?」

小巻:今はですね、まさにデジタル化が進んでいる中で、私自身はその必要性はよく分かっているんですが、そこに詳しいわけではないので、もっともっと世界中でどんなことが行われていて、どんなことが可能になるのかに対して、ものすごく興味があります。

司会者:なるほど。ありがとうございます。では最後に、「業績のV字回復は社員の方のおかげだ」と先ほどおっしゃっていましたが、従業員の方とコミュニケーションを取る上でどういうことを意識されているのかお伺いしたいです。

小巻:そうですね。すごくわかりやすいことで言うと、挨拶をする時に、「おはよう」ではなくて、「黒田さんおはよう」とか「吉田さんおはよう」と名前を冒頭につけると、「あ、自分のことを個別認識されている」と思うので、1つのコツかなと思います。

加えて心がけているのは、「この人はこういう人だ」って決めない。私が知っているその人は、本当に私が見えているたった数パーセントだけですから。その人の人生の一部でしかないので、レッテルを貼らずに対峙することを心がけています。自戒の意味も込めてですが。

司会者:ありがとうございます。たくさんお話を伺ってきたんですが、お時間となってしまいました。小巻さん、本日は本当にありがとうございました。

小巻:ありがとうございました。