2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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――ここからは後半戦なのですが、次は通常盤面VS飛車角のみ盤面(玉将を含む)で、勝敗を予想していただきたいと思います。
遠山:なるほど……これ、盤面のすべて飛車と角だと、初手で飛車か角が必ず成れてしまいますね。通常盤面にはいくつか隙があってですね。
う〜ん、これは確実に飛車角のみ盤面が有利ですね。いや、10:0で飛車角のみ盤面が勝ちますね、間違いないです(笑)。
――では仮に、素人とトップ棋士で戦った場合はどうでしょう?
遠山:そうですね。それでも通常盤面が勝つのは相当大変じゃないかな。それでやっと五分五分ぐらいかもしれないですね。相当なハンデだと思います。
――棋士はすごいという感想は一旦置いておいて……どういった展開を予想されますか?
遠山:まず、通常盤面が相手の攻めを守りきれないのが辛いところですね。ちゃんと守れるのであればそこそこ戦えると思うんですけど……やはり、いきなり波状攻撃を食らってボロボロにされてしまうので、それがかなり厳しいですよね。
――実は、この盤面を着想した時に、NetflixVS日本のテレビ局みたいなイメージをしたんです。人間を将棋の駒で考えさせてしまうことは大変恐縮なのですが。
ただ、世界中の飛車角のようなトップ人材が、どんどんおもしろいコンテンツで攻めてきて、日本はただ守るしかないみたいな現状に近いのかなと思っていまして。そういったイメージで考えた時に、日本がNetflixに勝機を見出せる糸口ってどこにあるのでしょうか?
遠山:これは……どう考えても反撃する暇がないんですよね。どうすればいいかな……。
(熟考……)
遠山:そうですね。はい、もう反則を使うしかないです(笑)。
歩の後ろに金とか銀を持ってきて。そのくらいの資本増強しないと厳しいです、Netflixに勝つためには(笑)。
――超優秀な人材が集まった組織に勝つためには、普通の戦い方をしていたら勝てない。
遠山:そうですね。勝機を見出すとすれば、まず反則をして、歩の後ろに金銀を5つくらい並べて歩を守ることでしょうね。
その上で、勝負のポイントになるのは、相手の飛車角を討ち取って味方にするところでしょうね。
前提条件として、Netflixと対等に戦うためには、優秀な新人社員を中堅社員がしっかり守ること。まずはそこが重要です。
――通常盤面が圧倒的に強い布陣に勝つための前提条件は、歩を守ること。
遠山:はい。あとは"と金”(歩が敵陣に侵入して成った際の名称)を多く作れるかが大事ですね。新人社員を守りながら成功体験をしていただいて、能力を進化させてあげることでしょうね。
――では、先ほど勝負のポイントになるとおっしゃっていた、優秀な飛車角を討ち取って味方にすることができた場合は、どう使えば状況を有利に持っていけるのでしょうか?
遠山:最初は隙を突くしかないです。例えば、角をうまく使って、玉と飛車の両方狙える状況を作るみたいなことでしょうね。将棋の世界では、これを王手飛車取りと言います。
ここまでをまとめると、手厚く新人を守り、成功体験を積ませて進化していただく。
そして、もし優秀な人材を獲得できたら、期を逃さずに優秀な人材を獲得していく。この繰り返しができれば、状況は好転していくと思います。辛抱強く、少しずつ状況を良くしていくしかないですね。
――まさに今、新人世代って厳しい状況に置かれていると思うんです。テレビ局に入ってもパイは小さいし、きっとNetflixには勝てないと理解している。そういう状況で、何を考えるべきでしょうか?
遠山:そうですね。やはり強い駒が後ろでサポートしてくれていると、歩は輝くことができますし、十分にチャンスを見出すことができると理解すると良いかもしれませんね。
逆に言えば、サポートがなければ歩は輝くことができません。例えば、通常盤面で考えた時に、角の前に置かれている歩って、実はサポートがまったくないんです。
遠山:逆にその隣の歩は、角と桂と香から手厚い三重のサポートがあるんですね。これはあくまで将棋での話ですが、歩を新入社員とした時に、ちゃんと守ってもらえる環境なのか? もしチャレンジした時はサポートが期待できる環境か? そのあたりは、困難を切り拓いていく上で、大事な考え方になるのかもしれないですね。
――リアルな組織論に置き変えると、良い上司がちゃんと見てくれているのか。見ているようで見ていない職場なのか? みたいなことかもしれません。
遠山:なるほど。見ているようで見ていないこともあるんですね(笑)。
――じゃあ逆に、遠山棋士が飛車角のみ盤面を操る場合、何を考えて攻めるのでしょうか?
遠山:そうですね。飛車と角だけだと強いんですけど、それだけで勝つのはけっこう大変だと思うんですよ。
――ええ! そうなんですか?
遠山:意外と苦労すると思いますよ。金と銀でちゃんと守ったら、簡単には攻め込めないので。不用意に攻めると、相手に優秀な駒が渡ってしまいますから。
戦い方としては、討ち取った歩を"と金”にして攻めていくと簡単に勝てるでしょうね。
なので、NetflixVS日本のテレビ局の構図に置き変えると、日本の優秀な若手の活かし方が大事になるかもしれません。
――Netflixは日本中にファンを作って優秀な若手を積極的に雇用する。そして、優秀な人材と協力して成功体験を積んでもらって、能力を覚醒させてから攻めるのが一番効果的というか。
遠山:一番効率が良いでしょうね。
――逆に飛車角のような超優秀な人材が集まりすぎた場合のデメリットってないんですか?
遠山:う〜ん、それで言うと、実は守りが弱いことでしょうね。
――飛車と角って守りが弱いんですか?
遠山:はい。飛車角って基本的には守りが弱いとされています。角は前後左右が弱点で、飛車は両前後斜めが弱点です。なので場合によっては、守備がすごく弱かったりするんですね。
――スーパーなエンジニアやクリエイター、超優秀な営業マンだけが集まっているイメージで、みんなが好き勝手やってたら困っちゃうって感じですかね。
遠山:そうですね。でも、Netflixはちゃんと守りも強そうですけどね(笑)。
ただ将棋界も同じような課題があって。将棋が強い棋士がたくさんいても、将棋を広める人がいないと将棋界は発展していきません。何事もバランスが大切ですね。
――では次の質問です。日本にも超優秀な人材がいると思います。例えば、SNSやテクノロジーや人脈を使いながら、1人でも縦横無尽に突破していける人材です。そういう飛車角人材は、どう成長すると組織にとって良いのでしょうか?
遠山:それはもう「成ることに尽きる」でしょうね。飛車と角は非常に強い駒なんですが、成るとそれぞれ「竜」と「馬」に進化するんですね。そうすると、弱点が克服されて最強の駒になるんです。
なので、飛車角レベルまで成長した人材は、さまざまなサポートを受けながら更なる成功体験を掴んで、もう一段進化して欲しいですね。そうすると、圧倒的にプラスになると思います。あくまで将棋の場合の話ですが(笑)。
――なるほど。大きな成果を挙げていける人材は、さらに大きな成功体験を掴み取って覚醒して"成れ”ってことですね。
遠山:はい、それができると組織の戦力も大幅アップするでしょうね。
――ただ、日本企業の場合は、優秀な飛車角人材に守りも要求する側面があると思っていて。新人や中堅社員の教育や採用にも、時間を使って欲しいという空気感があると思うんです。
遠山:なるほど。組織論の参考になるか分かりませんが、例えば将棋の格言に「竜は敵陣で使え。馬は自陣で使え」という言葉があってですね。
角は成ると守りが強くなるので守りに使え。飛車は成ると攻撃が強くなるので敵陣で使え。という格言があるんです。
なので優秀な人材は、「自分は飛車なのか、角なのか」を正しく認識することが組織力を最大限に高める上で重要になるのかもしれません。
――ちなみに、自分が飛車か角かを見分ける方法ってありますか?
遠山:これは合っているかどうか、まったくわからないですけど……。
飛車はさっきも言ったように、敵陣で成ってそのまま攻めまくった方が良いんですね。逆に角は、成った後に自陣に戻ってきたほうが良いとされています。
つまり、優秀な人材に成長して、さらに大きな成果をあげた瞬間に、「もっと攻めたい」と感じたのか、「人を育たり組織を守りたい」と感じたかは、自分のタイプを見分ける判断軸になるかもしれません。
これは何となくですけど、海外の企業ってそこがはっきりしてるイメージがあって。AppleやAmazonは、すごく優秀で実績のある人間が最前線で戦いまくったり、自陣に戻って経営に参画する役割分担がしっかりしている気がしていて。
まとめると、大きな成果をあげた瞬間の気持ちで、自分のタイプがわかるのではないか?という仮説ですね。根拠はまったくないので恐縮ですけども(笑)。
――なるほど。これは将棋ならではのおもしろい考え方だと思いました。もしかしたら組織論でも活かせるのかもしれません。
遠山:そうですか、よかったです。ただ本業は棋士なもので、その辺はわかりませんから。あまり鵜呑みにしないでください(笑)。
――あはは(笑)。少しさっきと被る部分もあるのですが、将棋の定説的には、敵陣にいる竜(飛車が成った時の名称)は、自陣の守備も頭に置いていたほうが良いですか? もう攻めまくったほうが良いんですかね?
遠山:う〜ん、いいんじゃないですか。攻めまくって(笑)。
やはり一手でも速く相手の玉将を捕まえるのが使命なので、基本的には敵陣で攻めることを考えてもらってたほうがいいです。
ただ、それだけ強い駒だと、相手も竜を使わせないようにやってくるわけです。そこをうまく掻い潜って力を発揮して成果を上げることが大事ですね。
――やはり日本って、攻めばかりやっていたら反感を買いそうというか。
遠山:確かに日本は優秀な人材を自社に閉じ込めちゃうパターンが多いかもしれないですね。
ただ、将棋の視点から言えば、せっかく飛車が竜に成れたなら、どんどん攻めてもらった方が組織が得るものは大きいと思いますね。
――では最後に、超優秀な人材が集まった組織に、普通の組織が勝つためのポイントをまとめていただけますか?
遠山:私が組織論についてまとめるのはおこがましいと思いますが、まずは歩みたいな若手を守ること。そして、成功体験を積んでもらって、できるだけ多くの若手を"と金”にしてほしいですね。それが勝ちにつながることが将棋でも多いので。
あとはやはり、飛車角のような優秀な人材を伸び伸びと活躍させて、成ってもらうことが大事ですかね。
金銀がちゃんと守っていれば、十分勝機を見出せると思います。日本はみんなで守る意識が強すぎちゃう気がするので(笑)。
――若手と飛車角人材の覚醒が勝負の分け目になる。
遠山:将棋の視点からお伝えできるのは、その辺りだと思いますね。あとは覚醒した飛車角人材を正しく使うことですね。
若手の活躍の機会を増やすとか、すごい人材が能力を最大限発揮できるようにする、という感じでやっていただくのが良いのかなと思ったりはします。
――すみません、最後に追加でいいですか。飛車角のような強い駒を獲得できた時に、棋士の方が意識しているポイントがあれば教えてください。
遠山:なるほど。将棋では持ち駒をどう使うかは、ものすごく大事なポイントです。例えば、金って守りの駒なんですけど、相手の金を取った時には攻めに使うんですね。
「金はトドメに残せ」という格言もあって。必ずとは言わないですけど、最後に金があれば勝てる場合がけっこうあってですね。なので、自陣にいる金と手駒の金は役割が違ったりするんです。
――仕事が丁寧な中堅社員を、組織の守りに使うか、攻めの一手で使うのか、みたいな話ですかね。
遠山:はい。その辺の使いどころは将棋でも大事ですし、きっと優秀な人材を取った時に、どこで使うかは経営者の勝負どころですよね。
――例えば飛車角のような人材に入社してもらったら、組織はどうすべきでしょうか?
遠山:手駒に飛車角がある場合は、なるべく早く暴れさせたほうがいいですね。早めに敵陣に打ち込んで、成ることを目指したいです。
――なるほどですね。ありがとうございます。
遠山:最後に、子どもに将棋を教えるときには「待つ」ことを教えるのが大切なんですね。将棋って、自分が指した後に相手が指すまで待っていなくちゃいけないので。
本来の将棋は、まったく五分の戦力で戦うので簡単には勝てません。自分が一方的に攻めて「はい、勝ち」というのはけっこう難しくて。ちょっと相手に攻めさせて、その力を利用して逆に攻め返すとかが必要になります。
なので、あえて我慢してみる。「攻めることもできるけど今は我慢しよう」みたいな。勝つためには、そういう戦況を見極める部分がすごく大事だったりするんです。
これは子どもの教育にも良いとされている部分でもあり、もしかしたら経営やビジネスやマネジメントにも、ヒントになるのかもしれません。
――なるほどですね。本日は素敵なお話をどうもありがとうございました!
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