BSを大きくする、ルーティンの存在

山岸園子氏(以下、山岸):節目が大事という話でしたね。そうしたら今度、考える機会を経て考えたあと。次は、やっぱり実現していかなきゃいけないと思うんです。

じゃあ実現していくためには何が必要なんだろうか? さっき北野さんご自身がおっしゃったとおり、まさにお金に換えていく、資本市場の中で生きていくため・勝っていくためには、お金に換えていく力も当然、重要だと思う。

そういったところも含めて、実現をしていくにあたって大事になることって何なのか? を、ぜひお聞かせください。

北野唯我氏(以下、北野):価値観を言語化した後ですか? 

山岸:はい。言語化して、自分の生き方を定めましたと。「自分がこうありたい、これからの生き方はこうしたい」と定めた後、実現に向けてのプロセスの中で大事にしたほうがいいことですね。 

北野:なるほど。これは、いわゆる成功法則系の本のほうがたくさん載っていると思うので、僕が専門というよりも、そういう本。いわゆる『7つの習慣』的な本のほうが、たぶん方法論がたくさん載っていると思うんで。

なんか僕がここで論じても、そんなに付加価値がないのかなという気もするんですけども。

山岸:北野さんご自身が意識されていることをお聞きになりたい方も、多いんじゃないかなと思うので、ぜひ。

北野:そうですよね。そういうベースラインとは別に、重要としていることでいうとですが、事業を何か設計する際とかもそうなんですけれども、コアのストラテジーサイクルみたいなものを作るんですね。

それはどういうことかというと、このサイクルをぐるぐる回していけば、必ずBS(貸借対照表)が大きくなるというイメージを持つんですね。

山岸:はい、はい。

北野:そのBSというのは、いわゆる資産といわれる財務諸表に載るものではなくて、人的資産という「人のつながり」とかもそうだし、自分のナレッジ・知見とかデータとかもそうですし。僕にとっては本を作るとかコンテンツというものも、BSになりえるので。

そういう、フローだけじゃなくてBSを大きくするようなルーティンを1個でも入れて、それが自分の夢とか目標に向かって大きくなるというイメージを持つのは、極めて重要ですよね。

夢に向かうためのルーティンを持てるかどうか

北野:例えば、私はYouTubeとかVoicyみたいなのをやらせていただいているんですけど。

YouTubeで僕は毎日10分間の『SomoSomoRadio』というのをやっているんですけれども、チャンネル登録者数550人ぐらいしかいないんですよ(イベント当時)。始めて2ヶ月ぐらい経ってるんですけど。

それで会社のメンバーとかにその話、やり始めた時とかに言ったら、みんなが「え、唯我さんそんなのやる必要なくないっスか!?」みたいな。「YouTubeとかやる必要ないじゃないですか」みたいな。「なんでやってるんすか?」みたいな感じで言われて。実際にある程度メディアに出ている人の中でチャンネル登録者数550人って、ちょっと恥ずかしいパフォーマンスだと思うんです。正直ね。

でも僕にとっては絶対に進んでるって感覚があって。だって最初に始めた時、チャンネル登録者数ゼロだったものが、今では550人に増えていて。それは自分にとっては、毎日のルーティンの中に入っていてBSが貯まっていくというイメージがあるんですね。

それを本当に1個でもいいんで、夢に向かって持てるかどうか? というのは、やっぱり重要だと思っていて。むちゃくちゃ当たり前なことを言うので、みなさん本当にすみませんね。

先週の金曜日にラジオに出たんですけど、その時にリスナーの方に質問いただいたんですよ。それは、シングルマザーでお子さんを育てていて、今は派遣社員だと。「正社員になりたくて転職活動をしたんだけどだめで、派遣社員として続けるようになりました」と。

「今は正直、目の前、生きていくだけでいっぱいいっぱいで。この先どうすればいいかわからないけど、でもがんばっていきたいと思います」みたいなことをおっしゃっていて。「今は英語を勉強しています」みたいなことをおっしゃっていたんですね。

それで僕がその時に僭越ながらお伝えしたのは、本当に1日2分でも3分でもいいんで、英語をやりたいんであれば勉強をするという、その自分の中にBSを貯めるということをできるかどうか? が重要じゃないですか。1日に3時間~5時間やる必要は、まったくないと思うんですけど。

2分とか3分でもいいんで、自分の中にBSを貯めていく感覚を持っているというのは、すごく重要だなと思いますね。なんか答えになってないかな?

自分にとってのBSってなんなんだろう?

山岸:すごく参考になる、おもしろい話だと思いました。というのも今回のこの本の中にも、ちょっと趣旨は違うかもしれませんが「仕事だけで満たすのではなくて、分散させることが大事」というお話がありましたよね。

これからの生き方。自分はこのままでいいのか?と問い直すときに読む本

今のお話のBSを貯めていくというのに近いのかなと思いました。仕事と家だけではない、なにか別のコミュニティなりサードプレイスなりを持ったりして、自分の幅を深める場を持っていくことによって、知見・ネットワークが広がっていく。そんなイメージなのかなと思って、聞いていました。

北野:そうですね。フローだけでビジネスや人生をやっていくと、本当に一瞬で人生って終わっていくと思うんで。自分にとってのBSってなんなんだろう? って考えるのは、むちゃくちゃ重要ですね。ビジネスでも本当一緒ですからね。

山岸:なるほど。「自分にとってのBSとは何か?」ありがとうございます。おそらく今日の参加者の中には、グロービスに通ってる方もいらっしゃるかなと思うんですけど。おそらくみなさんも、会社とご家庭だけではない3つめの場所もしくは4つめの場所として、グロービスにお越しいただいている方も多いんじゃないかなと思います。

いろんな思いを持って学校に通っていただいているんだと思うんですけれども、自分にとって「グロービスを経て、何を広げていきたいのか?」みたいなことも、改めて考えてみていただけるとおもしろいのかな? と思って聞いておりました。ありがとうございます。

北野氏が実感した「自分に求められているバリュー」

山岸:ではここから、参加者の皆さんからの質問をお受けしていく時間にしたいなと思います。

基本的に「いいね!」順をベースにいきたいなと思うんですけども。これ、さっき出た話題でもあるんですけど、ぜひお伺いさせてください。「コロナ禍において何を最も考え、何を変えましたか?」。

さっきビジネスの面においては、自分たちの事業のドメインをどうしていくかといったところで相当に悩まれた、というお話がありましたが。ビジネスのほうでもかまいませんし、北野さんご自身の価値観の変化みたいなところで何かあったのか、ぜひお伺いできればと思います。

北野:そうですね。正直、僕自身はそんなにものすごく変わったということはなかったですね。なぜかというと、常に「いつ死ぬかわからんな」という感覚があったので。それが、よりリアルにあったので。ものすごく変わったというわけではなかったんですけど。

ただやっぱり、周りの人とか仲間とかを元気にするということが自分に求められているバリューだなというのは、なんか当たり前なんですけれども思いましたね。

コロナになって、体調を崩したりメンタルダウンしそうなメンバーって、やっぱり増えたんで。そういう人たちに対して「何か自分ができるかな?」っていうのを考えるようにはなりましたけどね。そういう意味では、正直あまり変わらなかったですね。すみません。

死ぬまでの間に何人の人を幸せにできるか?

山岸:いえいえ。それってまさにいろんなところでおっしゃっている、北野さんご自身の座右の銘じゃないですけれども「働く人への応援ソングを作っていきたい、提供していきたい」ということがご自分の中心だなと改めて思った、そんな感じでしょうか。

北野:本当にそうですね。やっぱり「北野さんのファンです」と言われるよりも、ぜんぜん知らない人からTwitterとかで「『転職の思考法』を読んで、人生が変わった」って言われるほうが、100倍ぐらいうれしかったんですね。

このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法

「北野さんのファンです」と言われても、正直「あぁ、ありがとうございます」みたいな感じだったんですよ。うれしいですよ。うれしいし、素敵な人に言われたらめっちゃうれしいですけど。

でもそれよりも、ぜんぜん知らない人が「『転職の思考法』を読んで変わった」とか「『天才を殺す凡人』を読んで救われた」ってほうが、100倍ぐらいうれしかったんですけど。

天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ

コロナで唯一変わったなと思うのは、なんかあまりそういうのは関係ないなというのは思いましたね。「自分の人間としての価値は、死ぬまでの間に何人の人を幸せにできるか? 元気にできるか?」でしか決まらないというのは、改めてすごく思いましたね。

自分が死んだ時の“価値”を決めるものとは?

北野:この前『SomoSomoRadio』で言ったので、知っている方もいらっしゃるかもしれないんですけど。

flier(フライヤー)さんというメディアで取材を受けたんですけれども。それで、先方のある方がいらっしゃって、その人と何回も打ち合わせをするんですけれども、むちゃくちゃ気を遣ってきたんですよ。

それでなんか、僕は正直、居心地が悪かったんですね。なんでかというと「いや、そんなに気を遣わんでええのにな」というか。しかも何回も「企画出てください」って言われるんで、すごい自分が“こすられてる”感覚があったんですね。

コンテンツ作れる人って、やっぱりメディアにこすられるんですね。こすられるって言うのは“消費される”んですよ。愛のないメディアもたくさんあるんで、flierさんもそういう感じかなと思ってたんですね。

つい最近また30分くらいの打ち合わせがあって。25分ぐらい経った時に聞いたんですよ。「なんでそんなに気を遣うんですか?」と言ったら「えっ!?」って。

「私、そんな気を遣ってますか?」みたいな。「めっちゃ気ぃ遣ってますね」って言ったら「すみません、私、北野さんの大ファンなんです」って。

「だから時間を取って、本当に申し訳ないと思ってしまっているんで、必要以上にちょっと礼儀っぽくなってしまったかもしれません」と言われた時に、僕、めっちゃ反省して。

なんか自分が、なんて心の小さい人間だと思ったんですよ。仮に消費されたとしても、別に関係ないじゃないですか。目の前の人が自分を好いてくれてて、本当はちゃんと元気にできるのに、精一杯答えずに「あぁ、なんか……。あぁ……」って感じで受けてたんで、正直。

その時に、なんか自分の人間としてのフェーズがやっぱり変わったんだな、という感じはしました。だから作品がどうとか関係なくて、今も600人ぐらいの方が聞いてくださってると思うんですけど、600人の方の一人ひとりに何を届けられるかってことでしか、自分が死んだ時の価値が決まらないなとは、このコロナ禍においてめちゃくちゃ再確認しましたね。

山岸:あの、ぜんぜん忖度するわけじゃないんですけど。私のチームメンバー北野さんの「転職の思考法」を読んで転職を決めて、本当に弊社に来ました(笑)。

北野:ありがとうございます(笑)。

山岸:ということを申し伝えておきます。

北野氏の頭の中にある“4つの国”

山岸:今のはまさに「北野さんを尊敬してます」というファンの方からの目線でしたが、逆に今、一番トップに来ている質問が「北野さんが尊敬している方、注目している方ってどういう方なんですか?」。ぜひ教えてください。

北野:すごくいっぱいいるんですけど。いっぱいいるというか、リスペクトしている人はいっぱいいるんですけれども。『分断を生むエジソン』という本をぜひ読んでいただきたいんですけれども。

分断を生むエジソン

僕は理屈っぽくて本当に申し訳ないんですけれども“4つの国”が、いつも自分の中の頭にあるんですけど。

それぞれの国の人たちの中で、尊敬している人たちがいまして。例えば僕の中の“西の国”にいるのは、キングコングの西野さんなんですよ。やっぱり彼がすべての世界を見ているとは思ってはいないんですけど、なんか新しいことをやるという点においてはものすごい解像度だし。西野さんが考えていることとかを見ていたりしますし。

一方で“東”って僕は呼んでいるんですけど、大きな会社の経営者であれば、僕はこれまで会ってきた経営者のほとんどを、すごくリスペクトしています。あとは大愚和尚、大きな愚かな和尚というお坊さんが大好きなんですけれど。和尚さんのこともリスペクトしていますし。それぞれいるという感じですね。

全員のその考えを自分の中でも取り入れながら、今、何が自分に足りないのか? というのを育てているという感覚がありますね。

山岸:なるほど。

北野:たくさんの方がいらっしゃいます。

山岸:やっぱり『分断を生むエジソン』にもあるように、自分の中でいろいろ棲み分けながら、足りないところを先人たちから学ぶという、そういうのも含めてルーティン・習慣化されて、意識してキャッチアップされてるんだろうなと思います。

北野:そうですね。前澤(友作)さんのお金配りとかも、あれって賛否両論分かれてると思うんですけど。やっぱり経営者とか投資家としては、お金の使い方はもう天才的だなと思います。

やっぱり絶対、ROIが1は超えますから。でもあれを文化という観点から見て品があるかというと、それはまぁ、品はないという論もわかるじゃないですか。

山岸:はい。

北野:だからその世界ってどの角度から見るかによって、ぜんぜん違うので。だから僕なんか、基本的にはその世界でがんばっている人であれば、誰からでも学ぶことってあるなってめちゃくちゃ思うんですよね。なんか優等生っぽい答えをしちゃってますけど、それがリアルなんで。