生き方が決まらなければ、働き方は決まらない

山岸園子氏(以下、山岸):ちなみに、データを貯めていく・記録を取っていくことが大事だとおっしゃったんですけれども。北野さんが今、ご自身でルーティンにしている記録の付け方って、なにかあったりするんですか? 

Twitterとかいろんなことをやられているのはもちろん存じ上げていますけれども、日々のところで何かされていますか? 

北野唯我氏(以下、北野):まずルーティンは驚くほど多いんですけれども、その中の記録という点でいうと。もちろん日記は付けていますし、他には毎朝トレーニングするんですけれど、その回数・分数とかも測っていますし、データはいっぱいありますね。

山岸:なるほど。ありがとうございます。

冒頭にありました、ご自身の「死んだ時に後悔しない」という価値観を大事にしてきたというところからの今のお話だったんですけれども。

“そもそも論”で恐縮ですが、その価値観みたいなものをなぜクリアにしなければならないのか? というところについて。ご著書『これからの生き方。』でも、いろんなところで触れてはいただいているんですけど。

これからの生き方。自分はこのままでいいのか?と問い直すときに読む本

改めて、なぜ価値観が大事なのか? という問いに対して、ぜひ伺えますか?

北野:山岸さんはすごくちゃんとしている方なので、その価値観について質問してくださるんですけど、まずその価値観について考えなければいけないか? というと、ぶっちゃけ、別に考えなくてもいいと思うんですよ。

本当は人それぞれだと思うので。自由だと思うんですけど。ただ『これからの生き方。』という本のタイトルにもあるんですけど、1個だけおそらく真理であろうことをお伝えするのであれば、生き方が決まっていないと働き方って決まらないですよね。

山岸:はい。

北野:これは昔、カゴメの前社長(寺田直行氏)と日経ビジネスで対談させていただいたことがあって。前社長はカゴメをV字回復させて、過去最高益を連続で出されたすばらしい経営者の方で、話しててもすごく素敵な方なんですけれども。おっしゃっていたのは「働き方改革は、生き方改革だ」と。

それ、冷静に考えてみて本当にそうじゃないですか。働き方改革が論点になりえるのはなぜかというと、個人ベースで考えた時に生き方が決まっていないからだと思うんですよ。

つまりどういうことかというと、まずカゴメさんの例だと19時に帰っている人が17時、18時に帰れるとなった時、重要なのは「その1、2時間で従業員の人たちが何をやりたいのか?」という問いを、上が投げることだって言ってたんですね。

そうじゃなければ「働き方改革で労働時間を下げます」と言っても「それ会社が利益を出したいだけでしょ?」で終わると。でも本質的には労働時間が短くなって生産性が上がるということは、それだけ個人個人の使える時間が増えるということなので。自分の人生の選択権が増えるということじゃないですか。それって僕はむちゃくちゃ本質だと思っていて。

当然、働くために生きているわけじゃないと思うので。よりよく生きるために、仕事があるということなので。だから生き方というものが定まっていたほうが、働き方が定まりやすいという論理的な構造があると。

じゃあ「生き方ってなんなんだ?」となった時に、それこそ“志”みたいに一発でバシッと決まる人もいるじゃないですか。孫(正義)さんみたいなね。

「すごい!」「やばい!」みたいな。イーロン・マスクみたいなね。いるじゃないですか。

山岸:います。

北野:でもほとんどの人は生き方っていった時に、その下の構造的に価値観といういくつかの要素が分解されていて。「これは70パーセントぐらいで、これは30パーセントぐらい。こっちはあんまりいらんな、これはいるな」という、その構造でできているって考えのほうが普通だと思うんですよ。

なので、価値観を分解して言語化したほうがいいのではないですか? という提案ですね。

楽しいかな、この話。大丈夫ですか? 

山岸:大丈夫です。私は楽しいです(笑)。

北野:本当ですか。

「大事にしたい価値観」と「自分の強み」の棲み分け

山岸:ちなみに今、志を考えるにあたっては価値観の分解が大事ですという話をいただきました。参加者からは「強みについて教えてください」という質問があったんですね。それ自体にも、後でぜひお答えいただきたいんですけれども「価値観、大事にしたいもの」と「自分の強み」って、同じこともあれば違うこともあるかなと思っています。

お聞きしたいこととしては、キャリア戦略、生き方とか働き方を考えようと思った時に、価値観と強みってどのように棲み分けして捉えればいいか? についてお伺いしてみたいなと思いました。

北野:それは難しい質問ですね(笑)。

山岸:(笑)。

北野:我々がいう意味での“強み”というのは、やっぱり「資本市場の中に乗っていて、お金を稼げる可能性のあるもの」というのが、わかりやすい定義だと思うんですね。

例えば、いつも例でお伝えするんですけれども『これからの生き方。』という本にちょっと似ているタイトルで『君たちはどう生きるか』という作品があると思うんですね。

あの作品って本当にすばらしいものだと思うんですけど、でもやっぱり資本市場には乗っていないと思うんですよ。

すなわち読んで「うわ、心洗われた」「若い時こういうのあったわ」で終わりだと思うんですね。それって「自分の人生、何を大事にしたほうがいいか?」とか、そういう視点はあると思うんですけど「じゃあ現実的にどうやってお金を稼げばいいのか?」という視点はあまりないと思うんですよ。

僕らがいう強みというものは、文脈的にいうと「自分がナチュラルにできていて、しかも誰かから感謝されやすい項目」という、いわゆるプロダクトアウトとマーケットインのクロスするポイントが強みというイメージなんじゃないですか。

一方で価値観とは何かというと、そんなことはあまり関係なく「そもそも自分が何を大切にしたいか?」というものだと思うんで。そんなにクロスしているイメージはないですけどね。

山岸:なるほど。では、価値観と強みは少し別物として自分の中で捉えて、それぞれの箱の中に閉まってとっておいてよいと捉えていいですかね。うーん、なるほど。ありがとうございます。

「これからの生き方」に、どういったタイミングで向き合うべきか

山岸:では次の質問、いってみたいなと思います。まさに今、価値観を見い出すことが結局は自分のこれからの生き方を定めていくことになる、というお話があったので。

これからの生き方みたいなものを、どういうタイミングで自分自身に問うていけばいいのか? ということをお伺いしたいです。というのも、今回この書籍の冒頭で「苦しい時にこそ、自分の人生の生き方を否応なしに問われるんです」と。「問い直すべきタイミングが存在している」と書かれていたのが、印象的でした。

まさに今のコロナ禍のようなタイミングにおいて外発的動機というか、外部環境の大きい変化に伴って生き方を考えざるを得ないということが往々にしてあると思う一方で、価値観とか自分自身が目指したい方向自体もわりと変化が激しいものだったり、常にアップデートされる側面もあるのかなと思います。

なので、これからの生き方という極めて大きい問いに、私たちはどういうタイミングでどう向き合っていけばいいのか? というところを、ぜひお話していただきたいなと思いました。

北野:そうですよね。たぶん、これからの生き方とか価値観とかを、しょっちゅう考えていても仕方ないと思うんですよね。だから人生の節目のタイミングで考えるというのが、重要なのかなと思いますけどね。一番つらい時・苦しい時とかって、人間の本質が出るじゃないですか。経営とかも本当に一緒だなと思うんですけど、やっぱり今回のコロナの件によって、僕が月曜から金曜まで働いている会社(ワンキャリア)も、事業転換せざるを得ないタイミングがすごくあったんですね。

そういう時「どちらかを選ばないといけないんだけれども、どちらも超重要である」というシチュエーションにぶつかったんです。その時、我々は何を大切にしたいんだっけ? というのを散々考えさせられたんですよ。

例えばなんですけど、今はワンキャリアという会社の取締役をしているんですけれども。2月の下旬ぐらいに、コロナの影響で都知事から「イベントは全部中止にしてください」という要請があったんですね。

その時に、我々にとっては売り上げがすごく下がるんで、困るというのは困るんですけど。でも「自分たちが本当に何のために仕事をするんだっけ?」って考えた時に、苦しい意思決定とか、考えさせられるシチュエーションというのはすごくあったんですよね。

だからそういった時とかは、本当に価値観とかが問われたなと思うんです。だから結論としては、人生の節目において考えるべきものだと思います。

じゃあそれに何の価値があるか? というと、結局は“言語”というものの強みって、検索性じゃないですか。すなわち、Googleの検索をイメージするとわかりやすいと思うんですけれども。

今って言葉・単語を知っていたら、それって検索しやすいと思うんですけど、そもそも「これが何という名前なのかわからない」ものに関してアプローチするのは、極めて難しいわけですね。それは人間の脳みそもそうじゃないですか。

だから自分の中で価値観というものが、例えば14タイプあって「自分はこれとこれが大事である」ということを理解しておけば、苦しいタイミングとか大変なタイミングにおいて、自分の脳みその中で検索しやすいという効果はあるので。

だからその節目のタイミングできちんと言語化した方がいい。それこそ「座右の銘は?」って質問でいただいてたと思うんですけど。こういったものを、ふとした瞬間にすぐに索引できるというか、引っ張ってこられるという効能はあるとは思いますけれどね。

「習慣に落とし込まなければ、忘れて終わり」

山岸:なるほど。ありがとうございます。今、節目で考えるというお話がありましたが、ちょうど参加者からのチャットで「意図的に節目を作るのも大事かもしれませんね」とあるんですけど、意図的に節目を作るというのはできるんでしょうか? 

北野:意図的に節目、絶対できますよね(笑)。例えば1日お休みをいただいて、違う場所に行くとか。そういうので節目って作ることができますし、みんな年末年始で考えますからね。でも、意図的に節目を作り出すことにおいて極めて重要なのは、よく言うと思うんですけど「習慣に落とし込まなければ、忘れて終わり」というのは、たぶんあると思うので。いかにして習慣にして落とし込めるかどうか? というのは重要だと思いますけどね。

山岸:なるほど。意図的に作ることはできるけれども、単発ではあまり意味がなくて、いかに習慣に落とすことができるか。そういった意味で北野さんが先ほどおっしゃった、日々の中のルーティンが相当数あるというのは、まさに節目を作るというところにも通じるのかなと思って聞いていました。

今の「ルーティンにする」というところから紐付いて、参加者から質問が来ています。「いつも本やVoicy、YouTubeを通じて新しい発見をいただいております。聞きたかったのですが、北野さんが何かじっくり考えたいと思った時、どんな環境を選んでいますか? 場所とか、曲とかってあるんですか?」と。せっかくなので伺ってみたいです。

北野:聞いていただいてありがとうございます。そうですね(笑)。そのシチュエーションによって変わりますけれども、何か本当に考えたいことがある時、まぁ散歩をして、私は寺に行くんですけれども。寺に行って竹に触れるということをしますね。ルーティンで(笑)。

山岸:お寺。 

北野:自然と共にあるというのを、けっこう……真面目に答えるとそうなんですけれども。カフェにもよく行きますよ。カフェに行って、その時々によって聴く曲は違いますけど。ジャスティン・ビーバー聴いたりとか。すみません。普通で。ごめんなさい(笑)。

山岸:意外とポップなものを聴いてらっしゃいますね。いや、一番これが(質問の中で)「いいね!」の数が多かったので(笑)。せっかくなので聞かせていただきました。ありがとうございます。

北野:(笑)。