「単文」の多用が、文章にリズムを生み出す

松尾茂起氏:では残り時間を使って、演出メソッド9つをご紹介していきます。残りは8つしか書いてないですが、8つプラス最後に1つ紹介します。8つは文章の作成メソッドを簡単にご説明していきます。

1つ目。『沈黙』シリーズでは実は複文がすごく少ない。

複文というのは、いわゆる段落が複数行に渡るような文章のことです。例えば「私はVAIOのPCを持ちながら、マウスを触った手で髪をかき上げた」。何のこっちゃわかんないけど、そういう文章です(笑)。

こういう意味がたくさん入っているものを複文といいます。『沈黙』シリーズはできるだけ単文にすることによって、リズムよく読んでもらえるようにしました。

例えば今の会話でいくと「私はVAIOを持ち上げた。そしてマウスを握りしめ、髪をかき上げた」という感じです。今は2つの文に分けたかたちですね。こういう書き方を意識しているので、リズムよく読みやすくなります。

『沈黙』シリーズは、(主人公の)ボーンの言葉や会話がすごく少なめでシンプルなのに、みんながブワーと語ると全体のバランスがおかしくなるので、基本はボーンに合わせています。

オーケストラでいうと、繊細な音を奏でるバイオリニストの横で、めちゃめちゃ弾きまくるバイオリニストが来たらハーモニーが潰れますよね。だから基本的にボーンのトーンに合わせて、みんなの言葉を単純化したところがあります。

語尾は聞き手の印象に残りやすい

そして2つ目、語尾に気を配ることも意識しました。

語尾はすごく重要なポイントで、今回のセミナーで私はこんなふうにしゃべってますけれども、みなさんの記憶にどの言葉が残るかというと。私のしゃべる最後の……今「最後“の”」って言いましたけど「の」みたいな語尾がすごく残るんですよ。

今も「ですよ」って言いましたけど、この「よ」が重なっていくと「この人『よ』って言う人なんだ」「ノリがいい人なんだ」って印象がどんどんついていくわけです。

語尾はすごく重要で。文章を書いてる時にはあまり意識しないですけど、しゃべった時に「あ、語尾ってこんなに意識されるんだ」と気づくと思います。なので語尾をものすごく大切に紡いで、この『沈黙のWeb』シリーズを書き上げました。

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みなさんもしゃべった言葉を文字起こしするとわかると思いますが、けっこう自分のしゃべりって癖があるんですよ。私の場合は「ですよ」ってよくなるんです。例えば、Voicyなどの音声メディアでしゃべる時は「~なんですね」というかたちで「ね」を使うんですよね。

それは文字起こしをした時にわかったんですけれども、なぜ音声メディアの時は語尾が「〜ね」になるのかというと、音声メディアってiPhoneとかで聞く方が多いんですけれども、自分の側にいる人に向かって言葉を伝えることになるので、寄り添う必要があるんですよね。

だから心理的に「~ですよ」よりも「~ですよね」となる。無意識にそうなっていたと気づいたくらい、語尾はおもしろいんです。ノウハウについてはあまり深く触れることはできないですが、とにかく語尾に注目していただけるとおもしろいと思います。『沈黙』シリーズはそこにすごくこだわりました。

背景情報を背負ったパワーワードの活用

続いて3つ目。印象的な言葉を作ることも、文章メソッドの中で意識をしました。

『沈黙』シリーズはいろんな言葉が出てきます。例えば「今夜もインデックスが加速する!」「エモーショナルライティング!」「フィードバックループ!」「オレの校正を受けて、人生を更生してこい」など。あとは「今度は光の道を歩くライター(Lighter)に生まれ変われ」といった言葉が出てくるんですけれども。

これらの言葉は何気なく書いたわけではなく、いろいろな背景情報を背負っている「パワーワード」なんです。

だからこれらの言葉が劇中で出てきた時に「あ~、なるほど。ボーンがこう言いたくなる気持ちがわかる」という気持ちを、この短いパッセージというか、文章の中に込めました。

こういったかたちで文章を書く際にも、その中の背景情報、いわゆる文脈情報を背負えるようなパワーワードを作るのはすごくおすすめです。このノウハウは、若干コピーライティングの話になってくるので、短い時間内に詳しく話せないですけれども、こういったことをしているのを知っておいてください。

間違った日本語は、聞き手の信用を損なう

続いて4つ目。間違った日本語には注意する。

間違った日本語を一度使っただけで、信用が落ちることがいっぱいあるんですね。特にテレビなどで、すごく賢そうだった人が時々間違った日本語を使ってると「ん?」って思ったりしますよね。

場合によっては誤字より恥ずかしいこともあります。世の中には「この人ずっと間違った日本語使ってるけど、物事の意味を知らないかも」と思ってしまう人がいるということです。

「Yahoo!ニュース」のコメント欄とか見ても「今まですごく品のいい人だと思ってたのに、間違った日本語使ってるからダメだよね」みたいなことが平気で書かれている。今まで積み上げてきた信用がすぐに落ちてしまうので、間違った日本語を使わないようにしましょう。

このあたりはスライドを見ておいてください。日本語をちゃんと正しく使えないと、どんなに格好つけてもシャツを裏表逆に着ているような感じになるので気をつけましょう、というところです。

宣伝みたいになって恐縮なんですけれども、間違った日本語を使うことによる無駄な印象悪化や劣化を防ぎたいので、実は「文賢」というツールを使いながら、自分たちが紡いだ言葉が間違ってないかを日常的にチェックしています。

いきなり宣伝になっていますけれども、ウェブライダーの文章作成ノウハウが注ぎ込まれたクラウド型の文章チェックツールなので、興味がある方はサイトをのぞいてください。

こういうツールを使って日本語をチェックするのもおすすめです。実際に『沈黙のWeb』シリーズもこういうツールでチェックしています。

「強い言葉」と「周囲への敬意」

次は5番目ですね。強い言葉を使う時ほど周囲への敬意に気を配るところです。

『沈黙』シリーズはボーン・片桐が世界最強のWebマーケッターという設定なので、けっこう言葉が強い。正直、私だったら言わない。周りから怒られそうなことを平気で言っちゃう人なので。

みんなが言わないことを端的な言葉で言い切るところに、彼の良さがあるんですけれども。とはいえ、彼が何でもかんでも言ってしまうと、本を読んだ人の印象が悪くなると思ったので、基本的に読んだ人が傷つく表現は極力避けています。

そんな中でも、このページの右にある「そんな化石のような知識は忘れろ」というのは、きつい言葉だと思うんです。これはちょっと厳しい言葉を紡ぎたいくらい、この知識に振り回されている方が多い現状があったので、あえてきつく言いました。

こういう強い言葉を使う際には、周囲への配慮や敬意に気をつけましょう。化石のような知識って言ってますけど、化石もいいですからね。化石も価値が出てきますから(笑)。

もし「化石って言われたんだけど!」って怒った人がやってきた時には「いやいや、化石もいいですよ」と。「化石は今に価値が出るので、その施策やったらいいんじゃないですか」と言おうと思ってましたけど、本当にそうならなくてよかったです。

読み手の想像力に期待した、コンテンツ制作

続いて6つ目、読み手の想像力を信じる。

これも意識したところです。『沈黙のWeb』シリーズは小説のように見えて小説じゃない、漫画のように見えて漫画じゃない。私が言うのもなんですけど、ちょっと不思議なコンテンツだと思っています。

なぜかというと背景描写が少ないんです。「今、この人たちどこにいるんだっけ?」みたいな描写がほとんどない。実は前半には「ここはみやび屋です」とか「今、ボーンたちがこの街に降り立った」などの説明があるんですけど、途中からどんどんなくなっていきます。

どんどんナレーターがいなくなっていく、謎の世界観が演出されています(笑)。なぜかというと、いらないと思ったからです。説明いらん、と。説明しなくてもここまで読んでくれた読者は頭の中で絵を想像してくれるから、どんどんカットしていこうと思ってそうなったんです。

このセッションを聞いていただいたあとで、もう1回読み返していただくと「背景描写めっちゃ少ない」と気づくと思います。そういうところは、あえて意識して演出していますね。私たちは想像の中で情報を補完することができるので、その想像力に期待してコンテンツを作るのも重要です。

同じことを何度も繰り返すことの大切さ

この想像にもつながってくるんですけれども、次の7つ目。要約を増やすというテクニックも使っています。

『沈黙』シリーズには、同じ話が何度も何度も言葉を変えてでてきます。正直なところ、ストーリーはもう少し圧縮できるんです。けれども同じことを何度も何度も繰り返し言うべきだと思ったので、要約がたくさん入っています。

「つまり」とか「要するに」といったかたちで、違う表現や言葉で置き換えているシーンがいっぱい出てきます。何を意図しているかと言うと、反復することを意図しているんです。

私の座右の銘なんですけど、人って1回言われたことをすぐ忘れます。言われたことを業務で使わない限り、すぐ忘れます。本読んでる時は別に何も使わないで、一方的に受け手になってる状態。そういう時は、何度も大事なことをインプットする状況に身を置いたほうがいいんですね。

だから『沈黙のWeb』シリーズは要約をうまく使うことによって、大事なことを何度も何度も繰り返して言っている。だからこそ読者の方は理解が深まっていく演出を行っています。

このアプローチは『沈黙』シリーズの話だけじゃなくて、Webの記事でも使えます。Webの記事をよく見ていると1回だけ言って、2回目は言わないみたいな方がいらっしゃると思います。Googleさんに配慮しているのかもしれないですが、私は何度も大事なことを言葉に変えて言うべきだと思っています。そうしないと伝わらない。

だからウェブライダーが作るコンテンツは同じことを何度も何度も言っています。『美味しいワイン』というメディアでも、大事なことは何度も繰り返して言っています。

私の中で要約という言葉が今ホットになっていて、我が社では、あるコンテンツのアプローチを始めています。(スライドを指して)それはこちらです。「サマライズコンテンツ」という名前のコンテンツを今、増やし始めています。

我が社の造語なんですけれども、サマライズが何かというと「サマリーを作る」いわゆる要約することです。要約されたコンテンツを、ちょっと格好つけてサマライズコンテンツって呼んでいます。

どういうコンテンツかというと、ウェブライダーのサイトが今日プチリニューアルしたばかりですが、まさにサマライズコンテンツになっています。スライドが縦にブワーっと並んでいます。

ウェブライダーは昔から同じアプローチをよくやっていて、最近では『クマレル』というサイトのティザーサイトでもやりました。スライドをブワーッと並べると、実はめちゃめちゃ読みやすいんです。

なぜかというと、スライドとスライドの間にある情報を読み手が勝手に脳内で補完してくれるので、実はすべて語るよりもより深く理解してくれて、より読みやすくわかりやすくてスピーディーに情報取得してくれるんです。

だからこのサマライズコンテンツの中にテキストを入れたり「スライド×テキスト×画像」のコンテンツを作ったり、もちろん動画も入れたり。そういったことを意識して今やろうとしています。

全文をスライドにすると、Googleがインデックスした時にaltに言葉を入れてないと「中身がないコンテンツ」と思われてしまいそうなので、ちゃんとaltも入れなきゃいけないんですけれども。

とにかく、こういったサマライズコンテンツがうちの中では熱くなっていて。これは何よりも私が「めっちゃ読みやすい!」と勝手に盛り上がっています。気になる方は「ウェブライダー」で検索していただいてサイトを見てください。

サマライズコンテンツの実例

今、トップページに「何これ?」ってくらいスライドが並んでいて、めっちゃ読みやすいです。ただ、サイトは今プチリニューアルなので、冬にかけて大々的にリニューアルします。さらにスライドも洗練されたものになるので、ぜひ楽しみにしてください。

最近、ビズリーチさんの記事の中で書かせていただいたコンテンツでも、同じアプローチをやってます。

「ビズリーチ ウェブライダー」で検索していただくと表示される記事が、まさに文章とスライドを組み合わせたサマライズコンテンツです。手前味噌ですけどけっこう読みやすいと思います。

さらにいうと、スライドになると画像保存ができちゃうんです。Google Keepを使ってらっしゃる方であれば、そのスライドを保存してあとで見返すこともできます。機能的にも使いやすいコンテンツなので、よかったら「ビズリーチ ウェブライダー」で検索してみてください。

ビズリーチさんにサマライズコンテンツの提案したら「いいですね。やりましょう!」って言ってくださって。すごくコンテンツに対する愛がある会社さんだと思って、感動しました。それで実際にやらせていただいております。

サマライズコンテンツは、すでに完成したコンテンツに要約を加えてより磨き上げる新しいアプローチです。みなさんがすでに書かれている記事の中に、スライドを足すアプローチでもいいと思います。私が書いた中で「会社辞めたい」で検索すると今1位を取っている記事(注:イベント当時)があるんですが、そちらもサマライズコンテンツのかたちをとっています。

サマライズコンテンツは要約を足すので、キュレーションではない。まとめあげるのではなく、要約をそこに掲載するかたちになります。場合によっては要約がメインになるコンテンツも出てくるかもしれないですが、キュレーションではない。サマライズだと知っておいてください。

大事なことなので何度も言いますけど、めちゃめちゃ重要です。ただ、要約はなかなか難しいので、要約力を鍛えないと適当にスライドにして掲載してもうまくいかない。あんまりおもしろくなかったり、読みやすくなくなったりします。

そのあたりは我が社が今後発信していく、サマライズコンテンツのノウハウを参考にしていただければと思います。とにかくサマライズをすれば、作りすぎたコンテンツがあっても、それらを要約すれば再び輝かせることができるメリットがあります。

「フィードバック」でなく「フィードフォワード」の活用

『沈黙』シリーズが意識していた8つの文章メソッドの、最後の8つ目。『沈黙』シリーズはウェブライダー全員が「フィードフォワード」という名の、チェックと改善案を出して生まれたものです。

本当は『沈黙』シリーズのスプレッドシートがあって、そこにみんなが読者の気持ちになって「ここよくわかんない」「ここ読みにくい」などを書いてくれたシートがあります。指摘箇所だけでも400ヶ所とか、もっとあるかもしれないです。それぐらいみんなに指摘してもらっています。

そうすることによって、どんどん読みやすく磨かれていきます。『沈黙』シリーズが読みにくいとかわかりにくいという評価が出てしまったら、それはウェブライダー全員の敗北になると考えています。今のところそういった声はすごく少ないのでありがたいですね。

これだけの人数をかけてチェックして、フィードフォワードしたので、しっかり読みやすくなっていると思っています。こういったフィードバックのことをフィードフォワードと呼ぶ会社さんが増えていて、実は私もほかの方に教えてもらってから使い始めています。

フィードバックは過去に関する振り返りである一方、フィードフォワードは未来に関する改善点を振り返る言葉なので、ポジティブにみんなで動ける。なのでフィードフォワードという言葉を、少しずつ使い始めています。

最近ではコンサルティングのお客様から「ウェブライダーに記事をチェックしてほしい」「それだけサービスになりませんか?」というお声をいただくことが多かったので、また宣伝みたくなって恐縮ですけど(笑)。最近、フィードフォワードだけやる事業も始めています。

もし1回フィードフォワードしてほしいとか、ウェブライダーが自分の記事を見た時にどうチェックしてくれるのか興味ある方は、ぜひサイトのスライドの中にフィードフォワードに関する話が出てくるので、見ていただきたいです。発注したい方は発注もできます。値段もそんなに高くないです。最近始めた事業でいろいろやりたいと思っているので、よかったらチェックしてください。

人の視点を見るのはおもしろいです。私も自分の書いた記事をウェブライダー全員にガンガンチェックしてもらって、フィードフォワードもらっているくらいです。やっぱり人の数だけ視点がある。

正義や知見、人生とかいろいろありますが、自分はこう思ったけどほかの人が見てどうかわからない。だからフィードフォワードは、できるだけいろんな角度からやったほうがいいと思っています。

そういったこともうちの『文賢』というツールの中にも入れています。うちは文賢を使って、フィードフォワードもみんなでやっています。

あとは、最近うちが始めた『クマレル』というサイトもフィードフォワードとして使えます。例えば、みなさんが書いた記事を『クマレル』の中で「誰か見てくれませんか?」「見て何か感想くれませんか?」と聞くと、人がそれを手伝ってくれるサービスです。

ソーシャルリスニングサービスと呼んでいますが、それ以外にも自分の悩みを聞いてもらったり、誰から何か教えてもらったり、いろいろな用途に使えます。そして『クマレル』はすごく利用料が安いです。

なぜかというと、ウェブライダーが社会にどう貢献できるのかを考えて作り上げたサービスなので、CSRというか、この事業でビジネスするために作ったことではないんです。人の振り返りがほしいとか、意見がほしい人向けに展開しているサービスです。

なので、よかったら『クマレル』をぜひチェックしていただければと思います。ビジネスとしてはそこまで意識してないとは言いましたけれども、ものすごくリソースを使っています。もしかすると、今後いろんな展開があるかもしれないです。