製薬会社が「患者視点」で治療を考える重要性
ティナ・シュ氏:みなさま、こんにちは。中国におります、ティナ・シュと申します。私はデジタルマーケティングとコマーシャル、イノベーションを中国で担当しております。私からは、中国でどういう進捗があったのかという話をいたします。
ご参考までに、自己紹介です。私はハイ・テクノロジーの世界からヘルスケアに移って、新しいビジネスモデルを模索したり、最新の技術を統合したりしています。例えばIoT(Internet of Things)ですとか、5G・AI・ビッグデータなどの活用を推進しています。そして、イノベーションのビジネスモデルを模索しています。それによって、ヘルスケアのセクターの強化を図りたいと思っています。
アストラゼネカは製薬企業ですので、弊社ではもちろん患者さんの治療を中心に考えるわけです。例えば創薬から始まって、第一相、第二相、第三相という臨床試験を行って、それから製品を申請して市場に供給するというわけです。
しかし、患者さんの観点からすれば、「治療」だけが重要なステージではないのです。ですから、患者さんが全体を理解できることがとても重要です。どのように疾患に対応すべきなのか、そして診断をするのか。それから初めて治療という段階に入るわけです。
慢性疾患の治療や長期的なフォローアップをいかに改善するか
慢性疾患に関して言えば、入院の治療で済むわけではありません。退院して自宅に戻ってからも、在宅でどのように管理するのか、どのように長期の経過観察をするのか。慢性疾患は長期の治療、フォローアップがとても重要です。
また、特にがん患者さんに関しては、特別な対応が必要な場合があります。例えば、前立腺がんにおいては、一部のがんの治療は5年、10年続くわけです。そして経過観察の期間においても、やはり慢性疾患のようにフォローアップが必要です。こういった患者さんが辿る過程すべてを考えていく必要があります。ですから、患者さんの(治療の過程の)全体を見る研究をしていくことがとても重要です。
また、患者さんの体験していること、患者さんがどのような気持ちを持つのか。医学的な見地だけではなくて、ペーシェント・エクスペリエンス(患者体験)がとても重要です。
例えば中国やそれ以外の国々においては、医療システムの経験のある先生、専門職の方々は、そんなに潤沢に存在していません。また、分布にばらつきがあり、多くの場合は大都市に集中しています。
経験のある先生は、第3レベルの高度医療センターに集中しているわけです。大半の患者さんはさまざまな地方におり、大都市だけにいるわけではないので、どこでも同じ質の医療が提供されるように担保しなければなりません。それも患者さんの全体の治療過程を見ていく時に重要な要素です。
「患者体験」を向上させるために医療業界が協力
このように患者さんの辿る過程(ペーシェント・ジャーニー)を見ていく時に、ほとんどのイノベーションのビジネスモデルは、アストラゼネカだけではなくて、他の製薬企業も持っているわけです。医療機器や診断機器の会社、デジタルの企業など製薬企業以外のプレイヤーと、患者さんのペーシェント・ジャーニー全体に貢献できるように協力することは、とても重要です。それによって、患者さんのペーシェント・エクスペリエンスを向上させることができると思います。
そこで、こういったイノベーション、企業のインキュベーションを促進する基盤となるプラットフォームとして「I-Campus(インターナショナル・ライフサイエンスイノベーションキャンパス)」が創られました。このライフサイエンスイノベーション企業を支えるにあたって、中国市場に参入する機会を提供していければと思っています。その時には政府などとも協力して、中国の市場で会社が育成されるように取り組んでいます。
そして、中国でアクセラレーションプログラムが促進できるように、これらの企業が中国市場で急速に立ち上がって成長できるように支援していきたいと思っています。I-Campusは、2019年9月にキックオフしました。コロナ禍の中でも、I-Campusは2020年4月に全面運用が開始され、最初の企業が入居しました。すでに30社程度がこのI-Campusに参画しており、政府が提供するリソースや投資も活用することが可能になっています。
これらの企業は、アストラゼネカからのみならず、アストラゼネカのグローバルイノベーションネットワークからも支援を受けることができます。また、イノベイティブな企業が成長するのは投資ファンドの形成がとても重要です。アストラゼネカは中国の主要なパートナーと一緒にイノベーション・ファンドを創設するのみならず、ヘルスケア・ライフサイエンス業界にフォーカスしている資本パートナーとも協力をして企業の成長促進をサポートします。
今日は中国で何をやっているのかというご紹介をさせていただきました。そして、日本の方々にもぜひ関心を持っていただければと思います。よりコラボレーションし、イノベーションを起こす企業の中国における成長をサポートしければと思います。ご清聴ありがとうございました。
現地の患者さんのニーズに応えようとする姿勢
宮田裕章氏(以下、宮田):ここまでグローバルの事例を見てきましたが、米津さん、いかがですか。
米津雅史氏(以下、米津):みなさんのそれぞれのお話を聞いて、とても興味深いなと思っていました。今のティナさんのお話もそうなんですが、まさにミッションは明確だと。「患者さんのために」ということで、もしかすると未病のところからも患者さんをご覧になるのかもしれませんけれども。そこでキーになってくるのが、患者さんのニーズをどう捉えていくのかであると。
そのためにはたぶんいろんな組み合わせ、ソリューションが必要になってくると思います。今はいろんなかたちでパートナーがいらっしゃると思いますけれども、やはりさまざまな業種のコアとなっているお姿に非常に感銘を受けました。また、NHI(ノルディック・イノベーション・ハウス)のシンガポールのサミ(・ヤースケライネン)さんのお話もお伺いして、やはり「現地のニーズを捉えて」という言葉は簡単なんですが、非常に難しいと思っています。
それはNIH東京支部のみなさまからも感じるんですが、まずコミュニティに根ざした姿勢が非常に明確です。これはむしろ、我々がきちんと学んでいくべきことの1つなのかなと思いますし、そうした思想が貫かれていることに非常に関心を持ちました。
宮田:そうですよね。このNIHの取り組みはスウェディッシュではなくて、ノルディックなんですよね。文化が違う中で現地のニーズをしっかりつかむことは、我々が日本から外に出る時にもとても大事になってきます。
ノルディックのケースを見て、日本でバラバラにやるより、例えば東京と大阪が組んだりすることで、アウトリーチの部分で何か連携できるといいなと。米津さんとまったく同感ということで(笑)。今日ここから何か、新しいコラボレーションがもう始まりそうですね(笑)。素晴らしい。
国や企業を越えてWin-Winの関係を築くお手本
宮田:前半は世界のケースを見てきたんですが、最後にお話ししたようなアウトリーチも連携できるんじゃないかという学び以外にも、本当に多くの共通点の中から学びがありました。それこそスウェーデンのGoCoであったり、あるいはI-Campusですね。ニーズをつかむことや患者さん中心であること、デジタル技術もしっかり取り込むと。
これはもうグローバルで共通だなと改めて感じるとともに、このスウェーデンの取り組みを体系的に見て、学びも多くありました。シンセティックMRがまさに企業を越えてコラボレーションをサポートするということでしたが、我々はどうしても利害が衝突する中に入っていくと、いろいろなところから殴られるので。
アカデミアも行政も遠慮しがちだったところが、しっかりWin-Winのネットワークを作れているといった取り組みもすごく学びだと思います。あるいは大使館が国益を背負って一企業を推すだけじゃなくて、現地での価値やニーズを捉えた上でWin-Winを作っていくためのサポートを行っていくというお話もありました。
日本がここから先、どうすればより良く展開していけるかという学びも非常に多かったと思います。前半のセッションはまずここまでにして、後半ではグローバルコラボレーションをどう深めていくのかについて、お話しできればと思います。