創業者が現場を離れる際の葛藤と新しく生まれるもの

岡島悦子氏(以下、岡島):塩田さんには、アカツキの件で伺っていきたいんですけれども。今非常勤でどれぐらい出社されているんですか? 

塩田元規氏(以下、塩田):ゼロですね(笑)。会議もほとんど出ていないです。実は先週、先々週まではオンラインミーティングをしていたところを、1回だけ経営陣と新しい取締役、社外取も含めて集まって、1日オフサイドみたいなことをやったんです。

そこに出た時に、逆になんと言ったらいいのかな。経営者として創業者がずっとその場で発言していくこと自体が、子どもの教育上よくないみたいな(笑)。

岡島:なるほど。

塩田:結局どこまでいっても、創業者がいるとその顔を見ちゃうと思いますし。僕自身がどこまでいってもアカツキのことを愛しているから、少し言いたくなっちゃうと感じてしまったので。そのタイミングの後に、定例ミーティングに出ないことにして、取締役会だけにしました。

岡島:偉いですね。でもそれって本当はすごくみんなやりたいけど、やっぱり寂しくなっちゃうとか。創業者あるあるだと思うんですけど。どうしても「俺は聞いてない」ってケースがけっこうあって。あとは人事がすごく気になるみたいな。その辺の心の葛藤はどうしているんですか? 

塩田:葛藤はやっぱりあって。発表してから3ヶ月の中で、徐々にみんな一人ひとりの発言を見ていて。はっきり言って、能力的にというより、若い人たちがやる発想ってピュアでおもしろいんで。

むしろ刺激を受けていたことも多くあったし、自分自身がそういう事象を見て、「僕がそんなにしゃべらないほうがアカツキにとってはいいのかも」と感じた時に、その事象から自分が何を受け取るかをコーチングじゃないですけど、いろんなメンターの人と話させてもらって。

逆に言うと、自分がアカツキに執着している感情を捉えて(笑)。そこを抜いて、自分もアカツキに胸を張れるように歩くという感じですね。

岡島:ちょっとかっこよすぎないですか? 

塩田:かっこいい感じで言いました(笑)。でもちょっとびびりました。

岡島:その執着に決別できないと、新しいことをやりたくなることもあるんじゃないかという気はしますよね。

塩田:そうですよね。でもコミュニケーションでいくと、アカツキの文化としてこういう1つの発言、話の会話の中で、基本的にはそれが自分にとってどういう意味を持つのかを問い戻す習慣があるので。

例えばこういう発言を誰かにした後、自分はどうしてそうしたんだと振り返る訓練が、僕自身もできていて。結果としてしょうがないと思いながら諦められています。

アカツキがリモート化に対応できた理由

岡島:そういう意味で言うと、さっきのヤフーさんとも近いですけれど。やっぱり説教くさい意味じゃなくて、文化ができているというか。エモい感じでのハートドリブンな感じがあって、問いを大事にすることを丁寧にやってきたことが、組織にちゃんと浸透しているんでしょうね。

塩田:そうですね。まさに羊一さんがおっしゃっていた1on1も、僕たちもすごく大事にやっていた。でもそれを文化といった時は、まずは在り方を先に定義して、合わせていく感じで作っていくと思うんです。

どちらかというと、アカツキは、新しい人が来た時にカルチャーをフィットさせるんじゃなくて、アドしていく考え方で。逆にそれ自体を取り込めることが文化だという考え方なんですね。

だからコミュニケーションという意味だと、すぐに否定したりとか、安心・安全がない環境を作らないことを一番大事にしています。

基本的には何を発言してもいい。正解・不正解はここには存在していない。むしろそこから何を掴んで、何を作っていくかを大事にすることを、いろんなプログラムを用いながら丁寧にやっている感じですかね。

岡島:心理的安全性みたいなものが組織にあることもあって、オンラインのコミュニケーションに入りやすい状況なんでしょうね。

塩田:圧倒的にそう思います。あとはオンラインミーティングの時も、基本はチェックインから入ることが多くて。まず一人ひとり、最近の近況と感情を分かち合う。全ミーティングでやっているかはわからないですけど、取締役会もそういう感じでやりますね。

そうすると、いろんな感情が最初に出てから議題に入れる。すごく楽な感じで始められますね。それもたぶん、オンラインでやる習慣ができているんだと思います。

田端氏が推測する「オンライン化すべきではない企業」の特徴

岡島:ありがとうございます。続いて田端さんに伺いたいんですけど。いろんな組織も見てきた中で、「オンラインの良さ」や「リアルの使い分け」について教えていただければと思います。

田端信太郎氏(以下、田端):僕は、営業組織を見ていることが多かったのですが、オンラインになって思うのは、一人前のプロフェッショナルとしてフルコミッションしている営業マンを横に並べて、プロダクトもできているようなフェーズだとしたら、オンラインのほうが比較的効率もいいのがすごくわかって。

そうなると、組織の境界線をどこに置くかですけれど。それは結果的に売り上げが増えたりすれば、組織がグロースしていると言えなくもないので、問題ないと感じると思うんですね。

ただ、若い人たちがたくさんいて、かつプロダクトもまだしっかりできあがっていない場合は、部署間の連携をしないといけないのが前提で、どうやってオンラインでやっていくかはすごく難しいだろうなと思います。

今、塩田さんがおっしゃられたとおりですけど、コミュニケーションは結果的にインフォメーションとエモーションの2つから成り立っているところがあって。

SlackやFacebookメッセンジャー、Zoomなどオンラインもたくさんあると思うんですけど、オンラインのアーキテクチャって、基本的にイシューがあって「それを解決しましょう」というかたちで来ることが、無意識の前提としてあると思うんです。

そういった時に、感情を共有するところは、組織が1つあるんでしょうけど。主体性を持って有機体のように振る舞う中ではすごく大事だと思うんですけれども、相当意識的にやらないと感情ってシェアできないよなと。

心理的安全性を高める「ノイズ」

田端:オンライン飲み会をいろいろ試したんですけど、最終的に足りないのは食べ物をシェアできないことなんですよ。

岡島:みんなでUber Eats頼んだりしてますけどね。

田端:そういう工夫もあるんだけど。僕がまじめな話してるんだけど、「でも田端さん、この焼き鳥うまいっすね」みたいに話の途中に入ってきて「確かにうまいなこれ」みたいな。ノイズなんだけど一緒に食べ物をシェアしている、場をシェアしている、感情をシェアしているところがあったうえで、さっき言った安全性みたいな話も出てくるのかなと。

オンラインでどういった感情をシェアするのかとか、馬鹿話というかね。僕なんかだと、わざわざアイドル動画のウォッチパーティーをやったり、そういうのをかなり意識的にやらないと。LINEでもくだらないスタンプを連打しまくったりとか、部門長がなんかやったり、そういうノイズを意図的に混ぜていくことがけっこう大事な気がしています。

リアルの会話でも、岡島さんが最初に意識的にアイスブレイクから入られましたけど。そのシグナルとノイズの比率が、100対0になっちゃうと、車間距離0の高速道路みたいな感じになる(笑)。それが故の非効率が、そのうち出てくるところのトレードオフをどれぐらい意識できるかが重要で。

岡島:さっき羊一さんが言っていたヤフーの話でも「家族とこんなに過ごせる」はノイズかもしれないけど、Zoom上に子どもが出てくるとか、猫が出てくるとか、家の風景が見えることが、むしろエモい感じを少し作っているかもしれないですね。

田端:そうそう。だから部屋の背景に、最近気になっていることとか、自分が好きなものを意識的に並べてみるとか。外資系だったら机の上に家族の写真があったり、好きなアニメのフィギュアがあったりして。それって無意識のうちに「俺ってこういうのが好きなんだよ」と発信していたりするじゃないですか。そういう工夫はこれからもっと求められていくと思います。

伊藤羊一氏(以下、伊藤):確かに背景がみんな同じだと……。ここもさっき僕らが事前打ち合わせしている時よりはよそ行きっぽいですよね。

(一同笑)

岡島:そうですか? 

伊藤:なんか部屋が映っていたほうがよくありません? 

岡島:じゃあ、戻します?(笑)。

伊藤:そういう微妙な……。なんて言うんだろうな。

岡島:フォーマット化された感じが出ちゃうのかもしれないですね(笑)。

「リモートはマネージャーにとって非常にキツい」の真意

岡島:では次に、リアルのところを議論したいんですけれども。澤さんはマイクロソフトでリモートワークがかなりあったと思うんです。

澤円氏(以下、澤):そうですね。

岡島:澤さんに最初に出会った時は、私がマイクロソフトでオンライン講演をした時で、澤さんが「岡島さんのプレゼン好き」と言ってくれたという。

:そうそう。

岡島:その時はオンラインで向こう側にいらして、6年ぐらい前の話だと思います。

:まさにそうです。もう6~7年前ですかね。

岡島:もともとグローバルということもあると思うんですけど、定常的なリモートの中での変化についてお願いできますか?

:そうですね。今回のCOVID-19の話ですごくおもしろいと思ったのが、もともとリモートには慣れていたんですよ。僕の上司も半分は日本、半分はアメリカという状態で、全世界にそういう立場の人間がいっぱいいる。

リモートで何かをするのは日常茶飯事だからぜんぜん気にならないんですね。さっき田端さんがおっしゃったフルコミッション型の営業組織で言うと、subsidiary(子会社)は全部そうなんです。

それ以上のことはぜんぜん求められていなくて。subsidiaryは、もう全世界すべてがただの営業販売店なんですよ。なので、数字や売り上げがすべてと言い切っていますね。

ただ、それだとドライになりすぎてしまうので、会社の体にして、マネジメントがうまくやるような余地を残している感じだった。

それがCOVID-19によって、完全にリモートですべて数値管理になってくる。マイクロソフトはもともと数字による管理をクレイジーなぐらい完璧にやっていたので。なのでドライさが顕著になってきた印象はありますね。

岡島:なるほどね。

:ドライになりすぎると、日本外資系IT株式会社の人事異動は定期的に行われるんです。要するにマイクロソフトからGoogleに行く。GoogleからAmazonに行く。AmazonからFacebookに行くという感じで、定期的な渡り歩きが加速するんですよね。

ある程度経ってしんどいと思ったら、「一回ここ抜けよう」という感じで他に行くのがだんだん加速していったりする。今はハイアリング(雇用)が止まっているところもあるんですけど。

だからドライを進めていくと、プロフェッショナルがすぐに他へ飛んでいくのもある。その一方で、若手は伸びしろが大きいけど、手をかけて育てる時間もないんですよね。そうなってくると、リモートは実はマネージャーにとって非常にキツい。

今までは「取引先に一緒に行こうか」とか、机の横に行って「どれどれ、ちょっと手伝おうか?」とか、効率的に相手に何かを渡したり、引き出したりするんですけれども、リモートになると超高回転に全員が巻き込まれている状態になっているんで。「一番負荷が高くなるのはマネージャーになっている」ということですね。

岡島:なるほど。

リモート下のマイクロソフトで起きていたこと

:たぶん、これは全世界で同じことが起きていると思いますね。

岡島:なるほど。私のイメージとはだいぶ違いました。マイクロソフトは復活する時にサティア・ナデラがCEOになって、もう一回ビジョンの焼き直しというか。世界観みたいなことを伝えて、理念経営に戻しますか? みたいなことをやっていたので。

:そうそう。

岡島:数値管理の逆をしているのかなという仮説だったんですけど。

:意外とまだそうでもないです。理念経営ってマチュリティ(成熟度)レベルがむちゃくちゃ高くないと、すぐには浸透しないんですね。「私はこう考える」というのと「会社の理念」を自分なりにすり合わせることができて、自然と自分の行動に反映できる人にとっては最高なんですけど。

そうじゃない人にとっては「私は何をすればいいんですか、よくわからないんですけど」という状態になりかねない。どっちかと言うと、マイクロソフトはそっちのほうがメジャーなんですよね。

なのでsubsidiaryに関しては、サティアの会社という印象はぜんぜんないですよ。グローバルのセールスマーケティングを見ているジャンフィリップ・クルトワという人がいるんですが、フランス人でフランスで5番目に金持ちとかいうすごい嫌なやつなんです。

岡島:(笑)。

:ぶっちゃけsubsidiaryはそいつの会社なんですよ。トップ経営者がその人で、「うん」と言わない限りはサティアのところまで情報は届かないんですね。

岡島:トヨタとトヨタ販売みたいな感じになっているという。

:そうそう、まさにそれ。

岡島:やっぱり世界観じゃないんですね。

:もちろん、サティアの世界観のファンであることは間違いない。僕も含めてマイクロソフトの社員は、みんなサティアのファンではあるんです。

でも、日々のオペレーションには若干のギャップが常にあり続けたんですね。リアルな場ではある程度マネージャーがやったりして、マッチャーじゃない人たちのケアができたんだけど、今はそれができていないので、しんどい人はかなりしんどい状態ですね。

岡島:それで言うと、多くのベンチャー企業はいくら自律分散にしたいと言っても、組織の人々のマチュリティを上げるのは難しいことだと思っていて。ただ、さっき羊一さんが言っていたヤフーはそれができていたんですかね。

伊藤:そう思いますね。