三戸政和氏が「営業はいらない」と言える、3つの理由

司会者:最初の質問は私からいいですか? 「どうして営業はいらないと言えますか?」その理由を……例えば3つ挙げるとすると、というのが最初の質問なんですけども。

三戸政和氏(以下、三戸):大きく理由を挙げるとすると……。まずは現時点で「営業はいらない」と、私は別に思っていなくて。これから「5年とか10年経つと、営業はいらなくなる」と思っている、と。それはなぜかと言うと、一番はやっぱりテクノロジーの進化だと思うんですよね。営業のほとんどの部分は、情報のやり取り。つまり「買いたいなと思う人と、売りたいなと思う人のマッチング」が基本的なところになっていると思うんですよね。

そのマッチングさせていくというところが、情報の技術が発達することによって、相当程度、そこにアービトラージがないというか、壁がなくなると思っています。それが5年後10年後に、技術的に現実となってくると、その情報がまったくなくても、売りたい人と買いたい人が自動的にマッチングされていく、ということが行われるだろうと。

するとその時に、いわゆる今の時代に考える“営業”というのがいるのかな? と言うと、ほとんどがもういらなくなっていくでしょうというのが、まず一番ベースなんですよね。それがBtoCという意味でいうと、ある程度、Amazonであったり楽天であったり。

今、もしかしたらFacebookとかもそうかもしれないですけど。相当程度、今できている状態になっていると思うんですよね。BtoBというところにも、かなりその技術が浸透していくと思っています。というのが1番ですかね。3つもあんのかな?

(一同笑)

司会者:3つは「例えば」です(笑)。今のがベースになるわけですよね。

三戸:まず、ベースですね。

どのような経緯で『営業はいらない』は生まれた?

高橋浩一氏(以下、高橋):ちょっと違った観点から伺ってもいいですか?

司会者:どうぞ、どうぞ。

高橋:なんでそもそも、本を書こうと思われたのかなと思って。

営業はいらない (SB新書)

三戸:それはもう本当のところを言うと、(担当編集者の)石塚さんが「こんなんどうすかね?」と言っていた、というだけの話です。だけど、Twitterにも書いていたと思うんですけど。私もめちゃめちゃ営業やっていたんですけど、とにもかくにも「あんまり価値がないな」というか「意味がないな」というか。「効率が悪いな」と思っていたというのは、まず真実のところですよね。

さっきみたいに情報のやりとりとかが究極的に、情報の流通コストがもう限りなくゼロになっていけば、別にがんばって根性で営業しようとか。高橋さんはもうちょっと「ちゃんと構造的に仕組み化させて」とか、いろんなふうに考えてはおられると思うんですけども。とは言いながら、その作業自体は別になくなっていったほうが、いいのはいいじゃないですか。

高橋:そうですね。

三戸:というふうに、自分でもずっと思っていたし。そうするためには、どうやったらいいのかなぁ? というのはずっと考えていたから。

価値観の変化が、ビジネスの変化に繋がる

三戸:実際に自分も、もちろん今、営業はやっていますけど。特にこの本とか、山ほど営業しているんですけど。これ(今回の対談イベント)自体も営業なんですけど(笑)。これだって、私発信ですもんね? だから営業なんですけど(笑)。

それ(営業の作業自体)はないほうがいいし、ベストだよなということですよね。だから別にグッド・ベターだなということの議論もあるとは思うんですけど、ベストは何かというと、たぶん「売りたいな」とか「これみんなに伝えたいな」とか「みんなにこれを使って欲しいな」って思うこととか。

物とかサービスがなにもなく、一番使って欲しい人に(情報が)伝わることになっていく社会のほうが、たぶんベストだよなと思うので。そうすると、今でいう営業自体はなくなっていく方向で作っていったほうが、考えていったほうが、行動していったほうがいいだろうなと。そのためにはやっぱり、けっこう考え方も変えていかないといけないなと思うんですよね。

本にも書いていますけど、例えば「足しげく通う営業マンからのほうが、物を買ってあげたくなる」なんてシーンがあったりするじゃないですか。そんなのって、感情的なところで。「よく会うやつとぜんぜん来ないやつだったら、よく会うやつのほうが価値がある」って、けっこう価値観の問題だから。

別にそんなことよりかは、物が良ければ、自分が対価としてお金を払う物の価値が高ければ、そっちを買ってあげるべきだと思うけど。なんとなく「営業としてよく来てくれる人から買ってあげたいな」と思う心理というのは、やっぱり価値観の問題だから。

そういう価値観を変えていくためには、やっぱりこういう本とかをある程度出していって、世の中の考え方を変えていったほうがいいなと思って。それでこの本を出したということなんですね。それからコロナでも実際に「会わないほうがいいよね」とか(笑)。「来ないでね」という時代になっていって。

コロナで名刺も……名刺は総務省が廃止するかなにか、あったんですかね? Sansanみたいなのを使おうという時代になった時に、一気に「やっぱ、そうやん!」みたいになったじゃないですか。それってコロナの前と後じゃ、別になにも変わらなかったのに。別に技術がいきなりこの1ヶ月で、一瞬で進化したワケでもなんでもないじゃないですか。

人間の価値観が変わっただけだと思うんですよね。「会わないほうがいいよね」とか「(会わなくても相手に)迷惑かけないよね」という。今まで「会わないと迷惑だよね」みたいなことになっていたのが、価値観が変わったことによって、一気にこの営業というもの自体とか、ビジネス全体もそうですけど、考え方が変わったので。

なんとなくこの本の意味も変わってくれたと思うんですけど……というのを本として、私の考え方として伝えたかったという感じですね。そんな感じでもいいんでしょうか(笑)。

営業行為がいらなくなるまで、10年は早すぎる?

高橋:ハハハ(笑)。この本の全体に書かれていることは、僕は異論はそんなになくて。ただ、(従来型の営業行為が必要なくなるまで)10年はちょっと早いかな? という感じで。なんとなく20年かなという感じはしています。

三戸:時間の問題は、もちろんいろんな議論があると思うんですけど。私が前職でベンチャーキャピタルをやっていたものの見方からすると、思ったより技術って一気に加速することが、やっぱりあるなと思っているし。例としてFacebookを挙げていましたけど、そういうインターネットと情報通信って、すごく親和性が高いので。

スマホなんかもそうですけど、そういうものが広く浸透していった瞬間に、一気にこのブレイクポイントが現れる時があると思うんですよね。そういう時に、一気に情報・サービスの技術が広まっていくということになっていけば、たぶん「営業というものはいらないよね」ってなる瞬間が、けっこう前倒しに来るんじゃないかな思うんですよね。

今、ネットとかスマホとかが浸透し始めて、相当程度、加速度的にそういうサービスとかが進んでいってますから。たぶん今回でも「Sansanを導入しましょうよ」とか。クラウドサインもそうですけど。

本当にドキュメント(書類)でやっていたやつは、全部オンライン化していきましょうとなった時に、人ってどのくらい、やっぱりそこに介在するのかな? みたいな。営業でいうとベルフェイスとかああいうのが、どんどん進化していった時に「本当に人が物を売ることって、要るのかな?」ということですね。たぶん相当程度、考えさせられる時代になるし。

それは今、現時点でもけっこう起こっているので。もうトークを全部テキスト化していって。それをAI的なやつで解析して、どのトークがどう刺さっていくかというのを全部分析していって。いわゆるスーパー営業マンの方の、一番のトークテーマがあって。トークスクリプトをみんなでやりましょう、ということになっていってるんですよね。

一番「ありがとう」と言う回数が多い営業マンが、一番物を売っているらしいんですけど。そういうのがわかる。その「ありがとう」はわかりやすいですけど、そういうことがわかってくるじゃないですか。

そうすると、ビッグデータ的に「こうやってこう売っていけば、儲かる」ということになっていけば、わざわざ100人の人にやってもらう必要はなくって。伝えたい情報とか伝え方というのが、もう完全マニュアル化されるわけだから。

ほとんどのものは広告とか、そういうテキスト的・動画的なところで、お客さまに伝えていけばいいということになっていくから。別にインタラクティブなコミュニケーションを、100人それぞれやらせていくということも必要なくなっていくと思うんですよね。

だからそういうのって、目の前に来ているというか。今もう、まさにやっているから。コロナもあって20年もかからへんのちゃうかな? という気はしますけどね(笑)。10年ぐらいでホンマにあり得るなって。

正直、ちょっとフカして言ってましたけど。10年ぐらいであり得るんちゃうかなって思ってますけどね。もちろんそれが「100パーセント営業はいらない」だったらアレですけど(笑)。「相当程度、営業はいらない」だと、たぶんそうなるんじゃないかなと思います。

ネット通販が当たり前になったよう、営業不要も当たり前に

司会者:実際にテスラの事例とかがあると思うんですけども、アメリカではもう随時始まっていると。「必ず日本でも起こる」とありましたけど、そこについては……。

三戸:そうですね。すべての商材がそうじゃないとは思いますけど、やっぱりアメリカで起こっていることを日本が追随していくというのは、スマホもそうだったしネットもそうだったし。最近SNSもそうだし。基本的には、多くの部分でそういうところになっていくと思うし。

トヨタが時価総額を抜かれて……時価総額の考え方、(日本とアメリカでは)ちょっと違うんですけど。抜かれたみたいなのもあるんですけど。やっぱりアメリカで起こっていることというのが、けっこう日本で起こるというシーンはありますし。実際「アメリカで起こっているから日本で起こる」ということじゃなくて、やっぱり「あるべきことをアメリカがやっているケース」がけっこう多いから。

時代を捉えている、芯食ってるケースが多いから、日本で起こると私は思うんですけどね。だから、すべてのアメリカのものがこっち(日本)に来るってことじゃないと思うんですけど。

ただ彼らがトレンドを作るし、ビジネスの作り方をしているということもあるから。それがすべて日本に入ってくる、ということではないんですけど。でもやっぱりそういうケースが多いし。テスラなんかは、完全にインターネットだけで販売しましょうとか……直営店は、なくしましょうということになっていってるし。

やっぱり自動車産業というのも相当、営業コストがかかっていた産業だと思うんですけど。そこを真正面から潰しにいっているテスラを見ていると、やっぱりそっちのほうが中間マージンを相当落とせるのを睨んでいるから。その利益分がテスラ社にも落ちるんだというビジネスモデルの考え方のもと、テスラはそういうビジネス戦略を作っているんだと思うんですけど。そういったところをやっぱりなくしていけば、お互いWin-Winですよね。

テスラ社自体も利益の中間マージンをバーっと潰していくことによって、利益率が当然上がっていきますし。お客さんもその無駄な中間マージンを減らすことで、品質の良いものを手に入れることができるかもしれないし、安く買えるかもしれないし、便利に買えるかもしれない。

それもテクノロジーの進化なので。「スマホをいじれない人は買えないよね」みたいな議論が、これまでってけっこうあったと思うんですよね。スマホ内でなにかを買うということ自体難しいとか。もっと言うと、2000年代って「インターネットで物を買うなんか、恐ろしくてできません」とか。

「決済、これスキミングされるんじゃないですか?」とかなんとか。「注文しても、物が届かないんじゃないですか?」とか言われていた2000年代の頃から20年を経て、今はもうネットで物を買うのが当たり前の時代になっているし。だから車を営業マンぜんぜん関係なく買うというのも……「車の複雑なものを決めていくには、営業マンがいるよね?」って反論が、たぶんあると思うんですけど。

でもそれって、20年前のeコマースの楽天で「物を買うのって訳わかんなくて怖くて難しいよね」と言っていたころと同じような状態だと思っていて。その営業マンがいなくても買いやすい商品設計にするとか。

もしくはネットで工夫をするとか、もしくは動画で見せるとか。もしくはVRで見せるとか。もうリアルに「テスラ社ってこんなんですよ」というのがわかるような状態になっていれば、別に80歳のおじいちゃんだってインターネットを「ポチッ」だけで、買えるということになってきていると思うんですよね。

実際、20万台か30万台ぐらい、この間のサイバートラックが売れていたりしますけど。1日か2日ぐらいで。そういうことになっていくと思うんですよね。