世界各国の「AI先進企業」での活用事例

孫正義氏(以下、孫):ソフトバンクグループのファミリーカンパニーでは、AIを実際に活用した、新しいスタートアップの企業が続々と生まれてきております。ソフトバンク・ビジョン・ファンドで約100社ほど投資した中から、特にAIを活用している企業をいくつか紹介したいと思います。よろしくお願いします。

それぞれの事業分野でAIをどのように活用し始めているかを具体的に紹介したいと思います。こちらの会社は、もうすでに我々ソフトバンク・ビジョン・ファンドが投資をしている、具体的なAIの活用事例となります。さっそく始めましょう。

まず最初に、今は新型コロナウィルス感染症のパンデミックということで、世界中の人々が大変苦しんでおります。新型コロナと向い合う上で、AIがその力をすでに発揮し始めております。例えばVir Biotechnologyはまだ設立数年の若い会社ですけれども、すでに今年アメリカの市場で上場いたしました。

今盛んにワクチンの開発について報道がなされておりますけれども、実はワクチンは必ずしもすべての人に効くわけではないんですね。特に高齢の人々にはワクチンは効きにくい。なぜならば、ワクチンは体に入れて、自分の体が抗体を作り出して初めてコロナウィルスに対抗できるというもので、高齢の方の場合は自分の体が抗体を作りきらないという問題があります。

もともと高齢の方ほど危険なんですけれども、そうした方々を守るためのより良いアプローチは、医療用の抗体そのものを作って体に入れることです。こちらをVir Biotechnologyが開発しております。

まず数百万の抗体の候補を見つけて、その中から数百に絞り込んで、AIの力を使っていろいろな組み合わせを、1日に1,000万個、2,000万個、3,000万個というような規模の組み合わせをどんどんコンピューティングで試して、AIで洗い出していきます。

結果、2つの最有力の抗体が今すでに臨床試験に入っております。もうじき試験が終わって、医療用の抗体として大量生産が始まるということであります。ぜひ期待をしたいと思います。

コストは10分の1、開発期間は半分で、新素材開発が可能

次は医療の世界ではないんですけれども、新素材ですね。新しい素材をどうやって開発するのかということで、Zymergen(ザイマージェン)がすばらしい成果を上げ始めております。

まずAIを使って実験を自動化します。ロボットを組み合わせて実験を自動化し、遺伝子の組み換えをするんですけれども。そして、微生物を設計していくんですね。普通の人は聞いただけで「何だそれは?」ということになりそうですけれども(笑)。

そのようにAIを使って、遺伝子の組み換えを設計します。そしてそれを実験します。ロボットを使って圧倒的に早く、効率よく、正確にテストを行う。結果、何ができるのかと言うと、例えば電子製品向けの高性能のフィルム、プリント基板やタッチセンサーをカバーするフィルム。

あるいは最近は、OLED(Organic Light Emitting Diode:有機EL)などのディスプレイも曲がるようなものの開発が進んできておりますけれども。そういったフレキシブルな光学用のフィルムなど、今までに存在していないものを新素材で作る。その新素材そのものを開発しているのがZymergenですね。

また、蚊に刺された結果、病気になって亡くなっている人々が世界中の死因の中で実は非常に大きな数になっています。特にアフリカや中南米、東南アジアなどでこのような問題があります。それを天然成分由来の虫除け剤ということで、AIを使って新素材で開発をしているということでございます。

どんなメリットがあるのかと言うと、まず1つの新素材を作るのに、開発コストが300億円くらいかかっていたのが、10分の1のコストでできます。新素材の開発は10年くらいかかるのが普通なんですけれども、これが半分の5年くらいでできると。

このスピードアップと開発コストが10分の1ということは、画期的な新素材、分子レベルの世界のものの新たな発明につながります。新素材を発明していくという世界でAIが続々と成果を上げ始めているということであります。少し動画を見ていただきたいと思います。

(動画再生)

目指すは「ロボットデータ工場」

ナレーション:従来方式の実験ではピペットを使用します。これらは精密な注射器です。使い捨てプラスチックチップを先端に付けます。しっかり挿入して付けます。

:これは過去、今まではこうやっていたということですね。これは私自身がZymergenに行って見てきました。

(動画再生)

ナレーション:今先端に1マイクロリットルの液体が付きました。バクテリアと外来種のDNAを混合しています。1マイクロリットルを手で取り扱うので、非常にミスが起きやすいです。このプロセスは多くの実験ラボで行われています。

目標部分から非常に正確な吸引をします。先端だけ触れ、吸引します。

あちらのボックスの中を映しています。これはトランスデューサー、つまりスピーカーです。電気を圧力・音に変換します。液体に触れず、トランスデューサーを使用して液体までの高さを検出します。そして圧力をかけ、液滴を噴出させます。先ほど手で1マイクロリットルを動かしました。この機械は2.5ナノメートルを動かすことが可能です。

Zymergenの自動化の未来です。そして、これは他社にはないテクノロジーです。中央リニアモーターラインの周りに多数の機器があります。さまざまな作業順番を組み合わせて任意の実験を実行できます。私たちが実現しようとしているのはデータのための工場、ロボットデータ工場です。

:すごいですね。ロボットによるデータファクトリーを作るんだと。いちいち人間が試験管のようなものに入れるのではなく、超音波を使って噴き出して、ナノの世界で新素材を作り出していく。従来の研究所では考えられないやり方ですね。これがAIで一気に加速されるということであります。

コストが高くハイリスクな新薬開発にAIを活用

:次は、XtalPi(エクスタルパイ)、こちらもおもしろいですね。似たような話なんですけれども、今度は新素材ではなくて新しい薬ですね。新薬の開発にAIを活用しました。

従来は分子レベルのシミュレーションをしていたので精度も低いし、カバレッジも狭かったんですけれども、このXtalPiは量子物理学の世界、こちらとAI、クラウドを結び付けて、またロボットで続々と新しい組み合わせを作り出しています。予測のスピードが10倍に向上しております。こちらも動画を見ていただきたいと思います。

(動画再生)

ナレーション:新たな治療薬の研究はコストが高く、時間もかかるうえに失敗に終わるリスクも高いものです。XtalPiは量子物理学、AI、高性能クラウドコンピューティングを組み合わせたインテリジェントなデジタル創薬・開発プラットフォーム(ID4)を作り、創薬の研究開発における重要なステップを強化するとともに、開発コスト・リスクを低下させながら開発効率を向上させています。

XtalPiのID4プラットフォームは、AIと100万コア以上のコンピューティングパワーによって強化されています。数百億に及ぶ分子データベースによって、ID4は創薬における探索可能な化学空間を大幅に拡張でき、原子・素粒子レベルでの薬物とプロテインの相互作用を正確に計算することで、特定のターゲットに対して数千万の新しい化合物を生成することが可能です。

XtalPiは高精度な力場と自由エネルギー摂動(FEP)ワークフローを開発しました。これらの新しい方法と改良された方法によって、タンパク質ーリガンド複合体の全原子シミュレーションを提供し、その結合親和性を確実に予測することができます。

XtalPiの自動化された機械学習プラットフォームは、医薬品特性の予測向けに30以上のAIモデルを提供し、新しいモデルの迅速な開発とカスタマイズをサポートしています。科学者たちがいくつかの重要な特性をパラメータとして医薬品候補を評価し、医薬品の開発性や潜在的なリスクを総合的に評価することを支援します。

XtalPiは、AIが生成した何千万もの化合物から、最も有力なポテンシャルを持つ数十の分子の中で最高の性能を持つものを迅速に特定し、スクリーニングのために要する期間を平均3週間に短縮することができます。現在、XtalPiのAIが発見したいくつかの分子は前臨床試験が行われています。

問いの勇気と答えの深さによって、我々の世界は有意義なものになる。カール・セーガン

:すごいですねぇ。量子レベルで新しい薬をシミュレーションしながら、どんどん開発していくということでありました。

99パーセントの精度で、14日前に心不全を予知

:次はBiofourmis(バイオフォーミス)。こちらも同じ医療の世界ですけれども、さらに徹底的に臨床データを使って心臓疾患を事前に予測します。410万人の従来の患者のデータを活用いたしました。そして、いろいろなバイオマーカー、症状などをデータで徹底的に分析し、診断のいろいろな手法や、どんな診断をしたか、どんな治療をしたか、そしてどんな薬を処方した結果どうなったかということも全部、データ解析しております。

有力な製薬会社であるNovartis(ノバルティス)やMayo Clinic(メイヨー・クリニック)などとも提携をしています。重要なのはここです。今や世界中で心臓疾患、心臓病で亡くなる人は、特にアメリカ、日本、ヨーロッパなどでは、交通事故やがんを超えて最も大きな死因の1つというところにまでなってきております。

これがもし、みなさんが心不全を起こす14日前に「心不全を起こしますよ!」ということを教えてもらえたならば、そして適切な治療や薬、あるいはすぐに専門のお医者さんに診てもらえれば命が助かるわけですね。

99パーセントの精度で、14日前に心不全を予知してくれる。まるで未来のクリスタルボールを持ったような世界ですけれども、それで自分の命が助かるということであります。不整脈の検知という意味では感度が91パーセント、特異度98パーセントということで、専門医を超えるような精度が出てきているということです。

ということは、我々はもう急な心不全で亡くならなくても済むということであります。適切な投薬ができることで、すでに心臓疾患になっている人がもう一度入院するということが70パーセント減ると。

AIが人々の命を救う、予防医療の可能性

:また、重症になってから治療するのは非常に難しいんですけれども、早く認知して14日前にわかれば、そもそも医療費が一気に減る。38パーセントも減るという実績が上がってきております。ちょっと動画を見てください。

(動画再生)

ナレーション:バイオフォーミスはパーソナライズ化された予防医療を強化するデジタル治療分野における急成長中のグローバルリーダーです。機械学習とディープニューラルネットワークによってBiovitalsプラットフォームは臨床医が慢性患者の深刻な症状悪化を予測し、未然に防ぐための実用的な洞察をリアルタイムで提供します。

心不全と診断されたスーザンは自宅での症状管理のため、「Biovitals HF」という心不全デジタル治療ソリューションが処方されました。ウェアラブル生体センサーと連動アプリによって20を超える生体生理信号の継続的なモニタリングを行い、FDA認可済みの解析エンジンを用いてパーソナライズ化された生体認証を確立し、生理学的な変化を検知します。

「Biovitals HF」はAIによって患者の心不全悪化を99パーセントの精度で、14日前までに予測します。Biovitalsの解析エンジンによって症状悪化前の兆候が特定されると、臨床医にアラートを発することで、治療を行ったり病気の進行軌道を変えることができます。

AIが臨床医に治療法の提案を行い、遠隔から投薬量の最適化を行うことができます。これにより、バイオフォーミスは慢性疾患患者の死亡率を減少させ、総合的なQOLを向上させることが可能となります。Biovitalsプラットフォームは、癌・呼吸器疾患・急性循環器疾患・慢性疼痛など、さまざまな治療領域に渡って簡単にカスタマイズすることができます。

バイオフォーミスは、病気・データ・機械学習・臨床基準のハードウェアを1つのエコシステムに統合することで、患者の結果改善をもたらします。Biovitalsプラットフォームは、患者データだけではなく、患者の未来を見通す手助けとなってくれます。バイオフォーミスは、パーソナライズ化された予防医療を強化します。

:すごいですね。AIが命を救う。こういう世界がやってまいりました。

スマホのカメラで写真を撮ると、瞬時に宿題の答えがわかる

:次に教育ですね。これもZuoyebang(作业帮)というおもしろい会社です。学生の一番の悩みとして宿題が解けない、問題が解けない、どうやって解いたらいいかわからないというような問題があります。

僕も経験がありますが、学生諸君はこのために膨大な時間を無駄にしていると言いますか、効率の悪いことをしておりますが、こちらはスマホのカメラで問題をパシャっと撮ると、瞬間に答えの解き方、答え合わせができてしまうということであります。まず問題を理解しなければいけないので、AIを使って2億5,000万問の問題のデータベースを蓄積いたしました。2億5,000万も問題があるのかということですけれど、それだけの問題のデータベースを蓄積しました。

そして、それぞれに徹底的に答えをマッチングさせて作っております。問題を解く手順を学生諸君にスマホで教えてあげるということです。中国ではもうすでに月間1億7,000万人もの学生がアクティブユーザーとして使っているということであります。

先生からすると、宿題を出してもうちの生徒はみんな正解かと。答えが全員正解ということで返ってくるならば宿題を出す意味がないじゃないかと思いがちですけれども、そんなことはなくてですね、どっちみち「翌日に学生が正しい答えを持ってくるだろう」ということは、先生にもわかっているわけです。なぜならば、もう1億7,000万人もの学生がZuoyebangを使っているから、答えは正確に出てくるんですけれども。

大事なことは、実際にその生徒の学習能力が上がっているかどうかですね。どっちみち正しい答えがAIで出てくるわけですから。

このZuoyebangは類似問題を続々と出してくれるので、生徒が自分で「正しい答えは何なのか」ということがわかるだけではなくて、事前にちゃんと解けたかどうかを自分で判断して、そして答え合わせをして、間違っていたら手順をちゃんと教えてもらえる。そして、ちゃんと理解しているかどうかを(確かめるために)類似問題を次々に出してくれる。だから、その生徒は類似問題もどんどん解ける能力が身につくということですね。

結果、生徒の試験の成績は上がっていると。試験の時はもちろん使えないわけですから、試験の成績結果もどんどん改善して、中国の学生はますます賢くなっている。AIのおかげだということであります。ちょっと動画を見ていただきたいと思います。

(動画再生)

AIで「パーソナライズ化された学習コンテンツ」を実現

ナレーション:Zuoyebangは、小学生~高校生向けの中国最大のオンライン教育プラットフォームです。対象学年の生徒の7割がZuoyebangを使っています。

ZuoyebangのAIテクノロジー。問題を撮影して検索すると、瞬時に解答が提示されます。また、解説ビデオを通じて類似問題についても学べることで理解を深めることができます。

Zuoyebangは、これまでに累計で350億回以上の宿題サポートや問題解説を提供してきました。3億回を超える類似問題演習と100万時間以上の解説を行ってきました。結果、良い学習習慣が身に付くことで学習効率が向上し、学生の負担軽減にも大きく貢献しました。

我々はAIを教材やサービスに活用しています。AI+ビッグデータによる最適な教育モデルを作り、優れたオンライン教育プラットフォームを構築しました。AIがもたらした最大の変化は「パーソナライズ化された学習コンテンツ」を提供することです。

「問題を撮影して検索」し「学習状況を把握」することを通じて、個人の学習履歴が蓄積されます。ビッグデータで総合的に分析することで、個々の学習能力、理解度を把握することができます。そして、AIによりタイムリーで効果的な「問題と解答」や「補習」を提供することができます。

これによって、生徒は不明点があればすぐに質問することができ、積極的な学習習慣を身に付けることができます。

:すごいですね。AIが中国の学生をどんどん賢くしていっていると。成績が良くなってきていると。考える力もどんどん付いてきてるということであります。日本の学生も負けてられませんね。先生方もどんどんAIを使って、日本の生徒たちをもっと賢くしていくべきだと私は思いますね。