人間より活動量の多い動物の秘密の呼吸法

ハンク・グリーン氏:はいみなさん。息を吸ってください。吐いてください。オーケー、今のはずいぶん効率が悪かったですね。

私たち哺乳類は、息を吐いて肺を空にしますが、その時間はなんとも無駄に思われます。酸素を吸収できる新鮮な空気が、体内からなくなってしまうのですから。

さて、恐竜はまったく異なる呼吸を行っていました。恐竜の呼吸は、「一方向流」であったことがほぼ確実にわかっています。ティラノサウルスやその仲間たちの肺は、みなさんのそれよりも性能が良かったはずです。現生の羽の生えた恐竜のいとこたちは、今でも一方向流の呼吸を行っており、実はこの適応によって鳥は空を席捲できたのです。

一方向流の呼吸の流れは次のとおりです。鳥が吸った息は、肺ではなく、その付属器官の「気嚢」に入ります。空気が肺に入るのは、その後に息を吐いた時です。古い空気は、このように、外付けの新鮮な空気の隠し袋によって、すべて入れ替えられるのです。つまり肺は、酸素を豊富に含んだ空気が入ってくる。次の呼吸まで待つ必要はまったくありません。

もし人間にこのような呼吸が可能なら、アスリートのパフォーマンスは劇的に向上するはずです。酸素が欠乏し、息を吐くステップを節約できるからです。そもそも、酸素をいかに多く取り入れるかは、血液ドーピングなどのような生理的ライフハックの基本なのです。

生物学者たちは当初、鳥がこのような巧妙な技巧を発達させたのは、酸素を継続的に供給することにより、空を飛ぶためだと考えていました。

しかし、この説には1つ問題点があります。アリゲーター、クロコダイル、他にもイグアナの一部やオオトカゲなど、一方向流の呼法を取り入れている動物がたくさんいることがわかってきたのですが、その多くは飛べないのです。

大絶滅から生き伸びた理由は呼吸法だった?

これらの動物たちも一方向流の呼吸をしていることがわかってくるにつれ、生物学者らは、この呼吸法が進化したわけや、進化を遂げた時期をすら、推定することが難しくなってきました。

一方向流の呼吸をしているのは、鳥やワニ、トカゲの一部などであることから、この呼吸は、これらの生物グループの共通の祖先が、3億1,000万年以上前に発達させたのかもしれません。恐らくこれら初期の爬虫類が、肺を空にする手段として発達させたのでしょう。

私たち人間は、呼吸すると古い空気を少し残してしまいます。体を動かさなかったり、深い呼吸をしていなかったりする場合、古い空気は特に多く残りがちです。これが貴重な空間を占拠して、ひと呼吸当たりで摂取できる酸素量が減るため、あまり効率がよいとは言えません。

初期の爬虫類が、現生の爬虫類と同様にあまり動き回らなかったのであれば、こうした残存の空気は大きな問題だったはずです。空気をすべて排出する手段を進化させただけでも十分だったのかもしれません。

ところで、一方向性の呼吸は、トカゲでは数種類にのみ見つかっているにすぎません。トカゲ類の一方向性の呼吸は、「収斂進化」の一形態として、鳥類やワニの類とはまったく別に進化した可能性があります。

ということは、一方向性の呼吸の発祥は、これらの生物と祖先が共通であった最後の時期、2億5,000万年前にまで絞ることができます。これはまさに、地球史上最大の大量絶滅である「P-T境界」の時期です。これはきわめて大規模な絶滅であったため、科学者らは「大絶滅」と呼んでいます。

まさにこの大絶滅のタイミングで、大気中の酸素濃度が劇的に低下しました。一部の学者は、この系列の爬虫類は、一方向性の呼吸を発達させることにより窒息死を免れたと考えています。大絶滅を生き伸びた理由や、一方向性の呼吸が発達した理由は、これで説明がつきます。

2億5,000万年前であれ、3億1,000万年前であれ、一方向性の呼吸様式は、鳥類が空に飛び立つかなり前に発達したことは間違いありません。そして現在でも、鳥類が空の覇者なのは一方向性の呼吸のおかげなのです。

さて、空を飛ぶ哺乳類、つまりコウモリもいますよね。しかしコウモリは、鳥類ほど高くも遠くにも飛ぶことはできません。息だけで比較すれば、鳥類もコウモリも、摂取する酸素量は同じですが、鳥類の非常にスムーズな呼吸は、どんな環境であろうと絶えず新鮮な空気を取り込むことができます。そのため、コウモリが窒息するような超高度の酸素濃度が低い環境下でも、鳥類ははるかにうまく飛ぶことができるのです。

一方向性の呼吸が、飛ぶために発達したのではないとしても、鳥の飛翔にはとても役立っていることは確かです。