学生にムカつかれない、SNSネイティブなコミュニケーション

秋山真氏(以下、秋山):どうでしょう、寺口さん。

寺口浩大氏(以下、寺口):なるほど、ありがとうございます。合同説明会とか「偶然の出会い」みたいなのがなくなってしまったじゃないですか。なのでオンライン採用について企業さんから相談を受けるのが「もともと自社に興味を持っている学生さんしか来てくれなくて、エントリーが足りない」ということ。

あとは、会社名で受けにきちゃう。有名な企業さんだったら、名前だけでエントリーしてくれる学生さんに「どちらかというと、中身でエントリーしてほしいのに」という、2つの悩みがあるんですよね。母集団を作るきっかけがないというところと、もう1つが母集団はたくさん集まるけれども、エントリーの動機がいまいちよくわからない。

エントリーのエンゲージメントが高くないんじゃないか、みたいな話と。あとは常に知名度がある企業さんでも、今はマーケティングのメソッドで、どちらかというと消費材のマーケティングに近いんですけど。マーケットのパイがやっぱり限られているので「どういう企業を受けている学生さんに、併願して受けてもらったらいいんだっけ?」みたいな、コミュニケーションを取るんですよね。

なので、イベントなどでも「あそこの企業が出るんだったら出たいですね」「あそこの企業が出るんだったら、それを目当てで来ている学生さんに、うちのブースにも来て欲しいです」という感じで。最近、コンサルティングファームも多くベンチマークされているんですが、そういった「競合を重視したマーケティング」もやっぱりあるんです。

今のお話を聞いていると、他社にブリッジをかける合同説明会のようなマーケティングが、SNSなどのオンライン施策に変わってきているのかなと思ったんですけど、実際に「社名や知名度が低くても、SNSでしっかり興味喚起できているところがある」ということですよ。

秋山:そうです。あと、すごくうまく使っている企業さんでいうと、SNSのアカウントを運用しているわけではなくて、例えばStories広告やTwitterのフィード広告を、彼ら(ターゲット)が見ているメディアの中に、うまく織り交ぜているんですよね。それもいきなり「採用やります!」とかじゃない、SNSネイティブなコミュニケーションで。

SNSで採用チックな広告を出してしまうと、見ている学生とテンションがぜんぜん違うのでネガティブになりがちですが。コンテンツとしてもフックになるような、日常的に目にしても気持ち悪くないようなクリエイティブで打ち出して、タッチポイントとして使えると、寺口さんがおっしゃっていただいたようなワークの仕方をしていくかなと思っています。

寺口:なるほど、ありがとうございます。そうですよね。メディアに合わせてやっていかないといけないなと思っていて。やっぱりTwitterで配信する広告とInstagramで配信する広告って、やっぱり内容もトンマナもぜんぜん違って。浮いたら基本的に嫌われるというのが、たぶんあるなと思っていて。

基本的に学生さんと話す時に「最近ムカついた広告って何?」ってけっこう聞いているんですよ。めっちゃおもしろいです。けっこう、すぐ嫌われるんだなぁと思って(笑)。

メディアによってトンマナも変えたほうがいいなというのは、最近のオンライン化での学びでした。

インターン・説明会で失敗する、企業のあるある

寺口:あとは「オンライン採用のあるあるギャップ」のところで、スパイスボックスさんは興味喚起で「説明会をとにかくやりまくったらいいんだ」みたいなところから、どうやってオウンドで深めて、アーンド、ペイドというメディアをうまく使って興味喚起をするか。

自社のことをもともと知らない学生さんに、どう興味を持ってもらう仕掛けを作るかというところが、先ほどのスライド構造にあったのかなと思うんですけど。僕はどちらかというと、(学生を)呼んでからの体験の話をしたいなと思っています。一応、ちょっと調べて来まして。

オンライン・インターンで失敗してしまっているケースだと、いくつかポイントがあって。ワンキャリアのクチコミのまとめ、22年卒のインターンのレーティングを見ていたんですけど。満足しているところの1位、2位がオフラインなんですよ。

学生さんは意外と、ソーシャルディスタンスとかアルコール消毒とかをちゃんとやっているところであれば、オフラインを求めているみたいなところも実は……僕はぜんぜん推してないんですけど。意外と企業さんが思っているほど、学生さんはオフラインにネガティブじゃないんだなというところはありました。

もう1つ。「フェイスガードを付けながらグループディスカッションをした」というところがあったんですけれども。これに対する意見であったのは「フェイスガードを付けてまで参加する価値はなかった」と。「オンラインでも、これできたじゃん」という声があったんですよ。これ、ポイントだなぁと思っていて。

オンラインでもできてしまっている手前、オフラインでやるには「オフラインでやる理由」を分厚めに説明しないと「オンラインでできたじゃん」という声に対して対応できない、というのは今のクチコミからはわかりやすい。

学生の満足度が高い説明会の「ベスト3とワースト3」

寺口:もう1つおまけでご説明すると、満足度の高い説明会に共通している学生の声ベスト3と、満足度の低い説明会に共通している学生の声ワースト3を調べてきたんですけど。

実は今、新卒採用の最新のマーケットについての「10問10答でどれだけわかりますか?」というクイズみたいなものを作っているんですけど。ちょっとだけ先出ししてしまうと、ベスト3で答えを言うと、1位「プレゼンがわかりやすい」、2位「参加学生のレベルが高い」、3位「座談会など質問がしっかりできる」なんですよね。当たり前と言えば当たり前なんですけど。

意外なのはこの2位で。参加学生のレベルみたいなのって、GD型のオンライン説明会みたいなのだったら「来ている他の学生をけっこう見ている」というところがあって。それは意外でした。あともう1つ。すごくこれ気をつけないといけないなというのは、現場社員の方々が参加しているセミナーですね。

説明会とかインターンとかで、学生さんからめっちゃ聞くのが「今しゃべっていない現場社員の方が、けっこう内職してる」という話で。これ、学生さんは見ているらしくて。ずっと(画面の参加者)一覧のところを「どんな社員の人がいるのかな?」って見ているらしいんですよ。

そこで人事の方がめちゃくちゃちゃんと説明しているのに、現場社員の方が意外と満足度を下げてしまっているパターンとかって、けっこうあるらしくて。これは体験をどう高めるか相談に来た企業さんには、説明しています。「それ、ぜんぜん周知していなかったです」みたいな話がけっこうあるので。ぜひ、みなさまも気をつけていただければなと思っています。

これ、しゃべり始めたら1時間が終わってしまうのですが、ドボンしないために重要かなと思います。ちなみに、ワースト3は1位が「Webで仕入れられる情報しか話してくれない」。

2位が「参加している社員が少なくて組織風土が理解できない」。これ、たぶんオンラインならではだと思います。3位が「一方的に話されてばかりで質問できない」。これは普通かなとは思います。

1位のところが大事で。オンライン説明会をうまくやっている人事の方って、ホームページをすでに読んできている学生さんの満足度を、しっかり高めにいこうとしているんですね。

なので、ちょっとだけ話して「これはホームページに載ってるので、リンク送っときますね」みたいなかたちで、リアルタイムでチャットでリンクを送ったりすると、学生さんの満足度がかなり上がる。かつ、事前に調べている学生さんというのは志望度がすでに高い状態なので、その学生さんの満足度下げないことがけっこう重要と。

もともと知らない学生さんもついていけるように、リアルタイムで送っていくというのがけっこう大事みたいです。あとは、すでにあるコンテンツ、インタビューコンテンツとか記事コンテンツとか、我々のライブに出ているYouTubeの動画コンテンツとかを事前にメールで送ってしまって、完全対話型にしている企業さんとかもいるみたいです。

よく「オフラインか? オンラインか?」みたいなのって話されるんですけど、オフラインとオンラインを両方使う。これ、オムニチャネル・マーケティングというんですかね。「O2O」とか、広告の業界だったら古い言葉かもしれないですけど。

フォーカスポイントは明らかに認知から体験にシフトしていますね。キャンディデート・エクスペリエンスを起点に「いつ、どういうふうにコンテンツに触れて、そのコンテンツに触れた人がどういう気持ちになって」「その人を前提にすると、当日どういう体験をしてもらえたらベストなんだっけ?」「その人は志望度が高いんだっけ? 低いんだっけ?」「その人を自社は採りたいんだっけ? 採りたくないんだっけ?」みたいな感じで、4象限に分けたりとか。

そういうかたちで、「どこ(どんな候補者)を採ればいいのか」というところからコンテンツを作っている企業さんが、ちょっとずつ増えてきています。

採用情報のみで自社SNSを周知させるのは難しい

寺口:QAが1個だけ来ています。これは秋山さん、もしご存知だったら教えて欲しいです。「自社のSNS(Instagram)をもっと拡大、周知させる方法があれば教えてください」と。

秋山:ありがとうございます。これも実は「オンライン採用のあるあるギャップ」の中の1つです。やっぱりSNS活用って、前々から言われている中で、SNSのアカウントを作って運用していくという方向をまず試される企業さん、多いんですけど。そこはけっこう、落とし穴にはまる要素かなと思っています。

SNSでフォロワーを増やすとなると、継続してそのターゲットにとって有益な情報を発信することが必要になるので。採用にまつわる情報だけ、イベントの告知などのアナウンスだけだと、なかなかフォロワーというのはついていかないと思います。なので、コンテンツマーケティングを地道に行う必要があります。

あとはそのターゲットによって「彼らにとって何がメリットになるのか、役に立つのか?」ということを起点にして考えていくと、すごくいいのかなと思っています。SNSのInstagramのアカウントではありませんが、例えばサイボウズさんのブランディングは、そこがすごくうまくて。

『サイボウズ式』を使いながら、お役立ち情報とコンテンツマーケティングをやっているので。そういった視点で、Instagramを運用していけるといいのかなと思っています。あとは最近、まだ成功事例がないんですけど、Instagramではライブコンテンツが使えるので。うまくインスタライブなどを使いながら社員さんのリアルを発信するとか、近い距離でコミュニケーションできるような機能を使っていけるといいと思います。

SNSを企業の発信として、どう使っていけばいいのか?

寺口:確かに。そうですね。ライブはけっこう、上手に使っている企業さんもありますよね。僕、サイバーエージェントさんのインスタのリクルーティングのアカウントをフォローしているんですけども。参考になること、めちゃくちゃ多いなと思います。あとTV局で、アナウンサーが出演されてライブをやっているところとかあったはずです。コンテンツの作り方が勉強になるなと思って見ていますね。

秋山:サイバーエージェントさんは確かに、高いエンゲージメントを獲得しています。

寺口:そうなんですね。以前に見せていただいた、スパイスボックスさんが出されていた「Z世代のエンゲージメントが高いブランドランキング」みたいなやつ。確か、SNSでエンゲージしやすい共通点みたいなところも示唆があると思うので。教えていただいてもいいですか?

秋山:もちろんです。(学生が)SNSを見ているということは、もうみんな、採用担当者さんも知っているというか、絶対に肌感として持っているじゃないですか。だけどやっぱり「自分も日常的に見るけど、それを企業の発信としてどう使っていいのか?」ってすごく悩まれますよね。

寺口:そうですよね。けっこうリスクを取りにくい領域だなと思っていて。企業のオフィシャルアカウント自体が炎上してしまったら困るので。スパイスボックスさんのおっしゃっている「学生がエンゲージして代わりに呟いてもらうためには、どういうものが好かれるのかな?」みたいなほうが、自社がリスクを負わずに済むじゃないですか。どちらかというと。

僕は1社目が、SMBCなんですけど。そこで新卒採用をやるってなってSNSアカウントを運用しろと言われたら、たぶん怖くてできないと思っていて。だったら普通に学生さんにいいように言ってもらったらうれしいなと、けっこう思うと思うんですよ。コーポレートのアカウントは、ちょっと背負えないなと思って。

秋山:そうですよね。なので、SNSをアカウントとして使っていける企業さんと、それが向いていない企業さんというのは、まさに今の寺口さんの事例がすごくわかりやすいんですが、正直あるかなとも思います。

実は、ちょうどタイムリーなことに昨日、ダイヤモンドオンラインさんに『SNSデータから見る注目企業2020』のリリースに関してインタビューしていただいた記事が公開されました。今、Twitter上で、けっこういろんな方がコメントしてくださっています(笑)。ダイヤモンドオンラインさんの記事を見ていただくと、より理解できるかなと思うんですけども。

こういうふうに我々がTHINKを使って、どれだけSNSで企業名や、採用にまつわる情報がエンゲージメントしているのかを収集しています。10,000ENG(エンゲージメント)以上とか、6,000ENG~9,000ENGといった形で分類されているのですが。(スライドを指して)一番上の、いちからさん、カバーさん、ヤフーさん、ソフトバンクさんは、業界もスタイルもぜんぜん違っていて興味深いですよね。

いちからさんとかカバーさんは、もしかしたら聞いたことない方もいらっしゃるかもしませんが。理系の学生コミュニティによっては「いちからとかカバー、めっちゃ行きたい!」といった声も出ています。

この2社はWantedlyというプラットフォームをうまく使いながら、そこでエンゲージメントを獲得しています。WantedlyはどちらかというとSNSにすごく近いプラットフォームで、自社でこまめにコンテンツを作って、運用していくスタイルの企業がエンゲージメントを獲得しています。

彼らは、ビジネス的にもVTuberやアニメ関連などの商品を持ってるので、ファンもうまく巻き込みながら職業を伝えているんですね。エンタメ要素もあるので、エンゲージメントが強いのでは? と読みといています。

ヤフーさん、ソフトバンクさんは、先ほど寺口さんがおっしゃっておられたように、一担当者さんが背負える責任というのはすごく大きいと思うんです。なので、どちらかというと彼らは、SNSとかWantedlyをアカウントとして運用するのではなく、メディアで特集を組んで、それをSNS上でシェアされる仕組みになっています。なので、彼らはコンテンツ数もそれほど多いわけではないのですが、一歩一歩がすごく大きい。

しっかりとコントロールしたコンテンツを、メディアに置いて展開しているというのがポイントですね。なのでそれら4社以外の企業さんもワンキャリアさんなどのメディアを使いながら、記事広告をうまく使って、SNSやWEB上で学生さんの注目を集めているような印象もあったりします。