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スタートアップ流の大企業との戦い方(全4記事)

楽天の元CTOが語る、戦わないスタートアップの勝ち筋 競合より顧客に向き合うべき理由

「ベンチャー企業は大企業を倒せるのか?」というテーマで、3年前にヤフー株式会社の川邊健太郎氏が語った伝説の講演。2020年のIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)では、ヤフー株式会社COOの小澤隆生氏、Junify CSOの安武弘晃氏、ヘイ株式会社CEOの佐藤裕介氏を迎えて、再びこのテーマについて語りました。ベンチャー企業が蓄えておくべきアセットと、大企業と真っ向勝負する以外の戦略とは。

「自分でもやれるんだ」という、前向きな“勘違い”と実行力

溝口勇児氏(以下、溝口):うーん、おもしろいですね。安武さんは楽天に長くいらして、それこそ先ほど名前が挙がった方たちも含めて、“楽天マフィア”という言葉があるぐらい、本当に活躍されている方たちが多いじゃないですか。

安武弘晃氏(以下、安武):いっぱい辞めてますからね。

溝口:そうですよね。だから、そういう方たちの共通項とか伸びる人の共通項、今回だとまず起業家がいます。そして、投資家の方たちもいますね。

起業家だとそういった人の共通項になるべく自分を近づけたいし、投資家だったらそういう人に投資したいと思うんですよね。その観点で尖った人材に関して、安武さんが俯瞰して見たときにお気づきの点があったらシェアしていただきたいんですが、いかがですか? 

安武:でも大雑把には2つの要素で、1つは小澤さんがすでにおっしゃっていたんですけれども。それは「自分で大きなビジネスを作ってもいいんだ」というか、「自分でやれるんだ」というふうに、まずは勘違いすることだと思うんですよね。これが1点目で、何かやってもいいんだという感覚。楽天みたいな場にいると、パーミッションができるんですよね。

だから自分も勘違いして「やっちゃおう」というところがある。本当に当たるか当たらないかはけっこう運の要素がありますけど。ただ、その要素を持っている人は、行動はするので当たる確率が高くなるんですよね。

2点目は楽天って超体育会系で、めっちゃ数字にうるさくて、ものすごく実行にうるさいんですよね。だから本当にちゃんと実行できる。この2つの要素があると、けっこうそこそこのところまで行けると思うんですね。あとは時流に乗るとか時の運、タイミングはあると思うんですけど、私はこの2つの要素が大事だと思っています。

溝口:ありがとうございます。そろそろ参加者に振ろうと思って参加者のリストを見ているんですけれど、ちょっと誰かに振るので、裕介はその間をつないでおいてもらっていいですか? 

(一同笑)

佐藤裕介氏(以下、佐藤):なんで(笑)。

エンジェル投資家が人を見る時のポイント

溝口:でも、今とまったく同じ問いを裕介にすると、どんな回答になりますか? 

佐藤:今と同じ問いって、なんだっけ。

溝口:そういえば、めちゃくちゃ投資パフォーマンスやばいじゃん。ほぼ上場してるでしょ、というぐらい。

佐藤:いやいや。

溝口:本当に当て方がすごいなと思うし、そもそも昔からいろんな人とのつながりがある中で、IPOあるいはイグジットしてそのまま活躍する人もいれば、そうでない人も見てきていると思うんだよね。その中で人を見るポイントはどういうところにあるのかを聞きたいなと思って。

佐藤:そうですね。やっぱり当然、個人での投資もうまくいっていないものももちろんあるけど、やっぱりさっきの話と同じで、なんだかんだちゃんと基礎的なこと、どこか「当たり前だよね」と言われるようなことを普通にちゃんとする人だと思いますけどね。そうやって数字に執着することもそうだし。

早く仕事を片付けることもそうかもしれない。言葉にするとあまりにも凡庸すぎて、こんなことを言ったって誰の得にもならないようなことをちょっとずつできる人で。なんだかうまくいかない人は、やっぱり普通にあんまり働いてなかったなと思うし。単純に物量でも、こいつちゃんと夜まで働いてねえじゃねえかとか、飲んでるんじゃねーかという人はうまくいっていないし。そういうふうに、残念ながらけっこう普通なんですよね。

スタートアップならではの“後のなさ”という原動力

安武:その点、大企業に比べてスタートアップがいいのは、スタートアップはちゃんとやらないと会社が潰れることが目の前に見えているので、強制的にちゃんとやるんですもんね。

佐藤:そうですよね。そのプレッシャーにさらされているから、やらざるを得ない。僕もたぶんそういう性格。やはり大企業のGoogleにいた時は、かなりゆったりしていたし。そういう恐怖を感じてやっていなかったものをある意味、強制的に型にはめてくれるので、ちゃんとさせようとするというか。逆にスタートアップをやっていて遊ぶ人って、マジで精神強いなと思うんですけど。

(一同笑)

溝口:確かに。なんかNetflixばっかり見てる人とかけっこういるよね。

佐藤:(笑)。

安武:マジすか。それはすごい。

溝口:あれはすごいなって思うもん。ちなみに今のお話も、佐藤裕介が言うから刺さるなと思っていて。なんかもう戦略……。

佐藤:僕、ゆるふわ系だから。

溝口:そう、一見ゆるふわ系だしね。戦略とか戦術とか、頭脳で勝ってきたイメージをけっこう多くの人が持っている。でも、その佐藤裕介がちゃんと凡事徹底だということを言うのは、ある意味すごく深いなと思いました。

いずれ大企業と戦うことを見越してどう備えていくか

溝口:ちょっと聴衆に当てたいなと思うんですけれども、IVSのメインスポンサーでいらっしゃる中嶋汰朗大社長がいらっしゃるんですけれども。じゃあ中嶋くん。

中嶋汰朗氏(以下、中嶋):やめてください。はい、こんにちは。

溝口:どうですか、中嶋くんのおかげでみんなにもダンボールが送れたし、今だと配信の仕組みを少し整えたりとか、ちょっと怒られちゃったりしたけど。

中嶋:いえいえ。

溝口:そういう方たちにも来ていただけるようになりまして、本当に大変感謝しています。ここまでを通じてどうですか。ちゃんとお三方は中嶋くんに刺さるような言葉を言ってくれていますか? 

中嶋:やっぱり当たり前のことをちゃんとやろうってなりますよね。自分にはまだ大企業とちゃんと戦う経験はなくて。まだそういう事業をやれていないというところもあるんですけど。

いずれそうなるということまで、果たして今から見越して、どうチームを作るのか。この辺はまだぜんぜんやれていないなということを、お聞きしている中で率直に思いました。まだやっぱり自分が陣頭をとってがんばっちゃってるな。今の小澤さんの話で言うと、風呂敷を広げることよりも、わりと手元の細かいところにまだ自分が時間を使っているなと。

やっぱりここでどこか限界がきてしまうんだろうなということがわかっているんですけど、なかなかそのループから抜け出せていないようなことは最近感じますね。

溝口:中嶋くん、ありがとうございます。

10年後には「小銭」も「お釣り」も昔話に

溝口:ちなみに僕が見落としていたんですけれども、小澤さんに質問が来ていました。「これからの日本社会の支払いの仕方はどうなっていくと予想していますか? やはり電子決済がキャッシュやカード決済を圧倒していきますか?」という質問があります。

佐藤:聞きたい、聞きたい。

小澤隆生氏(以下、小澤):そんなもん、もちろんですよ。

(一同笑)

溝口:そんなのもちろんだと。

小澤:だってみなさん、現金なんてもう誰も使わないでしょ。

溝口:まぁそうですよね。

小澤:誰が触ったかもわからないお札とかお釣りとか、本当に嫌でしょ。もう電子マネーをやったらお釣りがないんですよ。絶対嫌に決まってるじゃないですか。

溝口:確かに小銭とか持ってないですよね。

小澤:だから、あと10年も経てば「昔は小銭持ってましたね」とか、「そもそも昔はお釣りをもらってましたね」と。あのお釣りというのが一番意味がないですよ。物の価格より多く渡して戻してもらうとか。そのためにレジにお金を用意して両替をして。もうお釣りをなくすためにがんばっているようなものですよ。あれが一番不毛。

溝口:確かに。

スタートアップは大企業と戦う必要はない

小澤:あと、中嶋さんの話で言うと、大企業と真っ正面から戦う必要もないですね。結局ヤフーとか楽天とかも、そもそもその時いた大企業と戦っているわけじゃなく、新しい二歩三歩先の未来を自分たちで作って、気づいたら自分たちが大企業側になるというだけですから。

スタートアップが限られた資金力である会社に挑んでいくよりは、大企業はどうせ動きが遅いんだから、二歩三歩先を見越したうえで、自分たちができるだけ早くそこに到達するという戦い方だと思います。同じレイヤーじゃないと思います。だから戦う必要はないです。戦ったらだめです。

中嶋:戦うとPayPayみたいになっちゃうということですよね(笑)。

小澤:まぁ、だから我々はクレジットカードと戦っているというよりは、軸をずらしているわけですよね。新しいクレジットカード会社に1,000億円を突っ込んでいるわけじゃなくて、そのクレジットカードの先を。やっぱりコンビニでクレジットカードを出すのは面倒くさいし、サインとか暗証番号も嫌じゃないですか。

QRコードだって面倒くさいから、当然NFCとか、もっと言うと顔認証とか手のひらの認証になると思いますよ。そういうポジションを取りにいっているということだと思います。

溝口:ありがとうございます。気づけばラスト5分前を切りまして、そろそろ締めに向かいたいなと思います。今日は川邊さんが2017年にお話ししてくださったスタートアップ流の大企業との戦い方として「リソースを局地戦に集中特化せよ」と、「情報を隠しながら成長せよ」と、「尖った人材を集めろ」ということで、ここから少しずつ広げながら話をしてきたんですけれども。

今日来られている方たちの多くは、ヤフーのような会社を作りたいと思っているし、楽天とかそれこそフリークアウトとかヘイみたいに本当に多くにインパクトを与える会社を作りたいと思っている人たちなので、そういった方たちへのメッセージも踏まえて、一人ずつ1~2分でお言葉をいただけたらなと思うんですけれども。まず裕介からお願いしてもいいですか? 

軸をずらして小さい市場を独占し、いざというときに戦える装備を

佐藤:はい。でも本当にそのテーマのところから言うと、さっきも小澤さんがおっしゃってくださった通り、とにかく戦っちゃいけないんだと。だから、どうやってセグメントを絞って適切なアングルで市場に参入していくか。

これは本当に『ZERO to ONE』でもよく言われていることで、やっぱり小さい市場を独占していかないといけない、ずらしていかないといけないというのは、間違いがないのかなと思います。

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

そこからすごく隣接している市場に事業を広げていく中で、最終的に大企業とぶつかっていくこと。対象の市場がでかくなる中で大企業とぶつかっていくことはあると思うんですけれど。だから、そのぶつかる時点においては、過去に蓄積してきたアセットで勝てるようになっておく。

それがネットワーク効果なのか、ブランドのアセットなのか、データのエフェクトなのか。いろんなバリアがあると思うんですけど、大企業とぶつかるときにはぶつかるなりのバリアがちゃんと構築されている状況にならないと。そもそもやっぱり、すごくお金がある人たちと真正面からぶん殴り合いをすることほど不毛なことはないと思うので。

僕らもそのトライの途上ではあるんですけれども、常にどうやったらずれた場所で戦えるか。大企業と出会う時に、いろんな装備がある状態を、今のうちからどうやって準備できるかはすごく考えるようにしていますね。

溝口:わかりやすい。ありがとうございます。安武さんもお願いできますか? 

お客さんにフォーカスするという突破口

安武:はい。基本は同じなんですけれど、ステージに行ったら戦わなきゃいけないときがある。その前はやっぱり小さく広げていくことになるんですけど、私はお客さんにフォーカスするのがいいかなと思っていまして。今我々も使っていますけど、やっぱりZoomはすごいと思うんですね。

溝口:確かに。

安武:ビデオ通話なんて枯れたところで、Ciscoがすごい市場を持っていて、そのCiscoを飛び出てここまでやってきているので。お客さんに使ってもらえる理由を探して、我々も今1つ大きなお客さんにプロダクトを使ってもらっているんですけど。

この間聞いたら、大企業が同じようなものを1年前か2年前に提案したらしいんですけど、お客さんの声を聞かなかったらしいんですよね。うちらはそれに応えたから使ってもらえたらしくて。それは後から知らされたんですけれど、スタートアップはそういうところからドアをこじ開けていけば、まだ道はあるかなと思っています。

溝口:ありがとうございます。最後は千葉にいる……。千葉ですよね? 小澤さんからお願いします。

会社という枠組みにとらわれないほうが幅が広がる

小澤:そうですね、はい。みなさん、ありがとうございました。お二方がまとめてくださったので、私は最後に別の角度からだけお話をしますが、スタートアップとしての戦い方はいろいろなやり方があって、私が最終的にとったのは、楽天の時に安武さんから後を継いで、ヤフオク!を倒せというかたちになって、2~3年やって「いや難しいな」と思ったんですね。

でも今は紆余曲折があって、結果的にヤフーの中でヤフオク!を担当しているんですね。この領域において今、メルカリと一緒にトップシェアを取っているわけですね。小澤個人で言ったら、その領域に関してはトップまで来ましたと。

いわゆる自分の会社として何を成し遂げたいか、自分個人として何を成し遂げたいかという時に、あまり会社という枠組みにとらわれずに柔軟な考え方をしていくと、自分のやりたいことの幅が広がりますよと。私は自分の会社だけで「ヤフオク!を倒す~!」とやっていたら、いまだに叶ってはいないと思いますけれども、結果的に叶うというか、傘下にはあるんですよね。

そういうことがいっぱいあって、一休とかZOZOも、「ZOZOをなんとか倒したいなぁ」と思っていたけど、今はグループに入っていただいたと。ZOZOを買うためには自分の会社じゃなくて、ヤフーにいなければいけなかったということで言うと、小澤個人としての大企業との戦い方は、今1つのモデルとしてはあるんじゃないですかと。

なので、一企業として自分の会社として見るか、一個人として見るか。最終的に何を成し遂げたいかというものに対して、いろんな山の登り方がありますよと言うことをぜひ柔軟に考えていただけたらいいかなと思います。以上です。

溝口:ありがとうございます。確かに最後は人生をかけてどんな課題を解決して、一体何を実現するのか、本当にそこに尽きるという小澤さんのお話だったかなと思うんですけれども。

今日は本当に1時間を通して僕自身も学びが多かったですし、このSlackもけっこう盛り上がったので、きっと参加された方も満足されたんじゃないかなと思いますし、もし良かったという人はこの拍手とか、このボタンを押してくれるとうれしいですね。

課題ありき・顧客ありきで物事を考えるべき時代

溝口:みなさん、ありがとうございます。どうでした?

佐藤:すげぇ、こんなのあるんだ。

溝口:(聴衆のリアクションに対して)ありがとうございます。うれしい。

小澤:雨がすごいな。

佐藤:(笑)。

溝口:ちなみに小澤さんがずっと怖い顔をしているのは、おそらく風が強いからです(笑)。

小澤:けっこう周りに人がいるんですよねぇ。

(一同笑)

溝口:周りに人がいるんですか。ちょっと怪しい人に見られてませんか? 大丈夫ですか? 

(一同笑)

小澤:気まずくて移動したよ(笑)。

溝口:小澤さんがリモートでそんな海岸から話してくれるのも、なんだか新しい時代の到来を感じますけれども、こういった新しい時代とか新しいテクノロジーとか、いつでも何かしら生活様式が変わったタイミングで、今までにはない新しい何かが生まれて、それが結果として社会を大きく変えていく。

まさに僕たちは安武さんからも、大企業と戦うということじゃなくて、お客さまと向き合うという話もあったように、やっぱり我々起業家、あるいは挑戦に関わる人たちはよりよい社会を作るために、課題ありき・顧客ありきで物事を考えることが、最後に行き着く結論としてはすごくきれいだったかなと思います。

今回の「スタートアップ流の大企業との戦い方」は、これにて終わりにしたいなと思います。

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