“昭和の親父”が感じる「転勤拒否社員」への嫌悪感

川島高之氏(以下、川島):カルビーの石井さん、どうですか? だって社員が自由に「俺は好きなところで働きたい」「私は転勤が嫌だ」と。「こんなこと言ってたら会社回らねぇじゃないか。ふざけんな、お前ら!」って、上のおじさんたちは思ったりしている人もいると思うんですけども。実際、そういう部分はありませんかね? 

石井信江氏(以下、石井):個々でどう感じているかは、わからないですけれども(笑)。ただ、それぞれがこれから少なくとも、なにも制約がなく仕事に100パーセント心血を注げるという……(ここで石井氏のPCがフリーズする)

川島:PCが固まっちゃいましたかね。じゃあそのボールを……AIGの宇田さん、同じ昭和の親父だと思うんですけども。昭和の親父から見たら、やっぱり学生時代から「自分はこうしたい!」なんてちょっとね。まだ経験もないので、そういうこと考えるよりは、例えば20代だったら海外だろうが、国内だろうが、どんな場所だろうがグルグル回したほうが本人にとってはいいっていう一面は、ありませんかね?

宇田直人氏(以下、宇田):それはあるかと思います。弊社に入社する新卒に関しては、3年間はNon-MobileとMobileを選択できないことになっています。

川島:そうなんだ。

宇田:彼らにはある程度幅広く見てもらって、何年か経ってから選択してもらおうと考えているので。もちろんできるだけ希望は聞きますが、そこは幅広く見てほしいということで、うまくマッチングしない場合には、配属の時にご自分が希望されない勤務地に配属される場合もあります。

川島:そうですよね。

宇田:私自身も富士通時代の話ですけど、イギリスに2年間駐在に行かせていただく機会があり、社内公募で手をあげて、選考を経て派遣していただきました。もちろん合致するのがベストですけど、転勤を私も否定はしません。ただ、社員が選択でできるようにするというのがポイントだと思います。

社員の自主性を高めるための社内研修を行う、カルビー

川島:そこに行き着くわけですね。さっき(回線が)途切れちゃったカルビーの石井さん、また別の質問をしますけれども。「社員の自主性アップ」というキーワードをおっしゃっていたじゃないですか。そうなると転勤を無理にはさせないよと、逆に成長もあなた自身が考えてねっていう、こういう会社にしていこうということですよね?

石井:そうですね……それも半分、あと会社側からの提案も半分。

川島:提案もあるけどもと。「あなたがもっと自主性をもって、自分のキャリアを考えていきなさい」と。

石井:はい。

川島:その自主性を高めるための社内研修みたいなのって、簡単に言うとどんなのがあります?

石井:今、マネジメントに対してまず始めているんですけれども。特に離れてマネジメントしていくということになると、がんばっているかどうかというよりも、きちんと仕事が進捗しているかというのと、報告を待つんじゃなくて、きちんと自分から見に行こうよと。

あとはメンバー側からも、きちんと自分が今何をしているのかということをアピールするような、そんなアクションを起こさせようよと。そんなことを今マネジメントに2、3ヶ月くらいかけて順番に研修をやっているようなところですね。

川島:そうか。部下の自主性を高めるためにマネジメントとしてどうすべきか? っていうマネジメント研修を、今やっていると。

石井:そうですね。ありがとうございます。

川島:そうこうしているうちに、たぶん半年後くらいには若い部下たち向けの自主性アップのセミナーも検討されると。

石井:はい。新しい評価制度として、行動を見ていきましょうと。

富士通が実践する「社内ポスティング制度」

川島:富士通の猪田さん。御社の場合は社員の自律性という言い方をね、自主性じゃなくて自律性という言い方をされていました。これらは同じ意味だと思いますけれども。やはり転勤も働く場所も含めて、自立性を高めさせると。これが御社の方向性ですよね。

猪田昌平氏(以下、猪田):はい、そうです。

川島:同じ質問なんですけど、そのためにやっている研修なり、制度なりっていうのはありますか?

猪田:1つとして、人事異動の部分を会社命令によるものから、いわゆる社内公募を大幅に拡大して、それをベースに異動していくという割合を、大きく拡大をしていきたいと思っております。

そうすることで会社が「あなたはどこどこに異動ね、転勤ね」と言うことをなくして、自分で行きたいポジション、行きたい仕事を探してそこに手をあげて応募していただく。それでマッチングされればそこに異動できるという、そういう仕組みを広げていくということを、進めております。

川島:いわゆる、フリーエージェント制度みたいな。そんな感覚ですか?

猪田:弊社では、社内ポスティングという言い方をしておりますが。ポスティングということで「こういう仕事ができますよ」というのを社内のページに載せてですね。それを見ていただいて「こういう仕事がしたいな」と思うのがあれば、手をあげていただくと。

その中に、勤務地ですとか仕事の内容ですとか、そういったところも書かれておりますので。仕事の内容ですとか勤務地とかも見ながら、希望するポジションに手をあげてもらえる。そういった仕組みになります。

川島:完全に海外の考え方ですよね。ポスティングで手をあげてほしいと。要は、仕事したい人と欲しい人とのマッチング。社内でそれをやると。

猪田:はい、おっしゃるとおりです。

川島:なるほどね。大変失礼な質問を1個していいですかね? オンラインだからぶん殴られる可能性がないので、言っちゃいますけども。昔、御社はアメリカ型の成果主義をそのまま導入して、大失敗したじゃないですか?

猪田:はい(笑)。

川島:同じことになるリスクってないんでしょうか? 今お話いただいたポスティング制度って、海外、アメリカのやり方だと思うんですけども。昔の大失敗の轍を踏むみたいな、そんな不安とか疑問とか課題というのは、社内で出てないですかね?

猪田:今の成果主義の流れとポスティングの大幅な拡大というところは、あんまり大きくリンクはしないかなとは、正直思っています。

川島:大変失礼しました(笑)。

猪田:そういった意味で言うと、成果をしっかりと評価するというのは今も継続して続けていることではございますので。そういった仕組みを維持しながら、社員が自律的にやりたい仕事に自ら手をあげて動けるという、そういう仕組みを入れていくということですね。

日本で定着しない「社内公募」を“続けること”の大切さ

川島:武石さん、まさに専門がキャリアデベロップメント、キャリアデザインだと思うんですけれども。「自分でキャリアを築きなさい。それに対して会社も可能な限り提案したり、サポートしたりするよ」というのが今日の事例だと思うんですけども。

学生たちや若い人たちが「実はキャリアデザインを自分でやったことがないのでできない、どうしたらいい?」という、そういう声もけっこう若い人から聞くんですけども。やっぱりまだまだ自分でキャリアデザインできない若手、学生が多いという感じですかね? 多い場合は、どういうことを学ばせればいいのか?

武石恵美子氏(以下、武石):キャリアデザインができないというか「キャリアデザインって何?」というところだと思うんですね。私はあんまりデザインしすぎないほうがいい、ということを学生に言っています。

川島:むしろね。

武石:ええ。ただ、ゆるやかなデザインをしながら自分に必要な研修を受けるとか、ネットワークを作るとかって重要だと思うんですが。「私がやりたいのはこれ!」って決めてやってしまうと、非常に狭くなってしまうので。しかも世の中は変わっていますから。その(デザインの)とおりになんか、どうせならないので。デザインをしても、今の時代はちょっと仕方が違うんじゃないか、というのは1つですね。

あと猪田さんがおっしゃっていることと関連して。私は「自律的なキャリアに人事制度がどう関わるか」という分析をしたことがあるのですが、社内公募とか、評価基準の明確化とか、そういう人事制度が、従業員の自律性を高めることがわかっています。

今、社内公募制度は、日本の企業では定着していないし、制度があっても実績が少なくて、うまく運用されていない会社さんが多いんです。ただ、うまくいかないからやめるのではなく、こういうことをきちんと続けるという会社からのメッセージはすごく重要だと思います。必要な制度であれば、きちんと制度が運用されていくような仕組みを作ることが重要です。

ちょっとやると、うまくいかなくてやめちゃうみたいな。さっきの成果主義じゃないですけど(笑)。そうならないで、どういうふうに自律を高めていくかというのは、息の長い話だと思うので、それは必要なことだろうと思います。

川島:なるほどね。前者の話で言うと、あんまり固定的なキャリアをデザインしようとするよりも、ある程度は柔軟性を持って。そういう意味では、カルビーの石井さんがおっしゃったとおり、会社からの提案なんかもある程度は積極的に受けるっていうことも、実は若い人にとっては……あるいはAIGの宇田さんがおっしゃったとおり20代の頃はグルグル回るというのも、1つのキャリア形成としては重要じゃないかと。そんなようなことですかね。

武石:そうですね。

「3つの“ない”」で学生の求人応募が10倍になったAIG

川島:AIGの宇田さん。私、何度かAIGさんとイベントなり講演なりさせていただいていますけれども、やっぱりインパクトがあるのが「転勤ない、単身赴任ない、社内異動ない」。これはインパクトありますよね~。社内外に対して。

宇田:そうですね。先ほど申し上げたとおり、Non-MobileとMobileということで社員に選択肢を与えて、それでNon-Mobileを選んだ人たちに関しては、できるだけ社員の意向を尊重するということでインパクトもありましたし、応募者数も増えました。

ただ、先ほど申し上げた7割弱の社員がNon-Mobileを選択して、現在は94パーセントがマッチングしていますけど。残りの6パーセントを詰める作業があり。うまくマッチングできるように、来年の9月末まで緻密に行う必要があります。

川島:やっぱりキーワードはマッチングですね。噂によると、採用面接は学生の応募が10倍になったと。御社がこの3つの「ない」を発表してから。

宇田:……のようです。実は私、去年の9月にAIGに転職しているので、その話は私の入社以前の話ですが、おっしゃるとおりですね。

川島:「全国転勤が当たり前で、場合によっては会社の辞令で行く(のが普通だった)ところを。そういうのに悩んでいた学生がAIGさんに」みたいに。応募が10倍になったっていうね。これは見える効果ですよね。

登壇者4名からの、締めの一言

川島:もう時間が限られてきましたので、最後に1人1分なにか言い忘れたこと、あるいは強調したいこと。どんなことでもけっこうですので、お願いしたいと思います。どなたからいきましょうかね? じゃあ若い、富士通の猪田さんから。先頭バッターお願いします。

猪田:ありがとうございます。先頭バッターということで(笑)。今日はWork Life Shiftのコンセプトを説明させていただきましたが、そこでも少し説明したとおり、やはり社員の自律というところが1つ、重要なキーワードになってくるかなと思っております。

会社は従業員の自律をしっかりと支える、選択肢を広げて提案をするという、そういった形が理想かなと思っていますので、会社としてそういった制度、仕組みをしっかりとこれからも作っていきたいと思っています。

コロナ禍においていろいろなやりにくさもある中で、オンラインだからできることをしっかり活用しながら、前に進んでいければいいなと思っております。本日はありがとうございました。

川島:社員の自律、それを支える会社、そしてそれをさらにシステム。いわゆるオンラインというかたちで支えていくと。そんな富士通さんです。それでは2番バッター、カルビーの石井さんお願いします。

石井:7月からスタートいたしました新しい働き方なんですが、けっして万端に準備が整ったわけではなくてですね。いろいろな方向性を示しながら、まずはやってみようというトップの判断のもとスタートしておりまして。これが吉と出るか凶と出るかは私たち次第かなというところは、非常に社員一人ひとりが感じているところです。

これから特に大事になってくるのは、コロナ禍のこの状況を体験して、今まで当たり前だったことが当たり前じゃなくなったということが、はっきりよくわかりましたので。ここから会社の今の方向性に対して「どこまで自分がどうしていけばいいのか」というところを、一人ひとりが高い視座を持って対応していかなくちゃいけないというところですね。これからが進化の見せ所かなと思っています。今日はありがとうございました。

川島:以前、松本会長がいらっしゃった時の「松本イズム」というのは、まだ残っている感じですか?

石井:いいところはたくさん残していただきましたので、その部分を引き継ぎながら変えるところは変えていく。そんなかたちです。

川島:ありがとうございます。それでは3番バッター、法政大学の武石さんお願いします。

武石:今日はありがとうございました。働く人の「自律」とか「自主的な」というのが、今日のキーワードだったと思います。転勤政策というのは、従業員の希望、自律というところと企業側の都合が衝突する典型的な場面だろうと思います。

そこは、なんらか調整をする必要があります。転勤をゼロにするわけにはいかないと思うので、その調整のところでどう納得できる仕組みを作っていくいうところが重要です。できるだけ(従業員の)希望が反映されればいいですけれども、最終、そうならない人たちも出てくると思うので。そこにどういう施策を打っていくかというところは、人事的な課題になるのかなと思います。

加えて、今日は育成というところで私が問題提起をさせていただきました。転勤をして育成につながる人とつながらない人。これも個人差があると思うのです。転勤をするというところだけを捉えて、そこでプレミアム・ペナルティということではなくて、トータルな視点で、従業員がどう育ってきたか、どんな経験をしてきたかということのトータルな視点からの人事評価ということも、重要になってくるのかなと思いました。ありがとうございます。

川島:そうですよね。転勤だけをピックアップしてプラスだマイナスだ、育成だ、インセンティブだって、なんかそれっておかしいですよね。もっとトータルでっていう、そんなところですかね。

武石:はい。

川島:それでは最後は重鎮、AIGの宇田さん。イクボスの最初の11人に入っておられた。

宇田:まあ、おじさんになりましたけど。

川島:昭和のおじさんなんでね。

宇田:そうですね。ポイントはやっぱり、従業員それぞれのライフステージに合ったかたちで仕事を合致させる。勤務地だとか転勤というのはその一環であって、これは本当にダイバーシティインクルージョン戦略だと思います。

いろんな社員の多様なニーズを提供してインクルーシブな企業文化、カルチャーを作ることによって社員のモチベーションも上がりますし、コミットメントも高まりますし、リテンションも高まりますし。それが企業の人材の強化、企業全体の競争力につながっていくと思いま。

本当におっしゃるとおり、転勤がないとか単身赴任がないっていうのは、インクルーシブなカルチャーを作る、Best Place to Workというカルチャーを作るための一環だと思います。各社でそのような環境作りに工夫し、日本全体の競争力にもつながる話だと思いますので、引き続きいろいろ知恵を出しながらやっていきたいと思います。

紙切れ1枚で「どっか行ってきなさい」という時代ではない

川島:ありがとうございます。それではこのへんで、最後3、4分でクロージングに向かいたいと思います。冒頭、安藤代表からイクボスについてご説明があったと思います。イクボスについてはここでは省略しますけども、この3つの定義と同時に、10ヶ条というのを私のほうで……6年半前ですかね。世に出したわけですけれども。

1から10まであるんですけど、5つ目に実は……もうこれ6年半前、7年近く前なんですけど、転勤というのを入れました。当時は、ほかの9個はもうちょっと幅広いことを述べているのが、この5個目だけ「転勤、単身赴任」みたいに、ちょっとスペシフィックに焦点を絞った10ヶ条の1つになってね。

何人かからは「これだけ変だよ」と言われたことがあるんですけれども。私はこの5個目というのは、あえて転勤だけクローズアップした10ヶ条の1つにしたいと思って。6年半前、7年前ですか、これを強調して入れたのを思い出したところなんですけども。

私の話で恐縮なんですけど、私自身が子どもが生まれた頃、海外に単身赴任していました。子どもがちびっこで、妻も働きながら子どもを育てていたわけですけど、その時に単身赴任。

日曜日になると、成田エクスプレスに乗って飛行機で帰ると。子どもを置いて、ワーキングマザーの妻を置いてね。あの胸が張り裂かれる思い。そこまでして僕を転勤させる必要があったのかって、実はその時、すごく思いました。一方では、海外へ行ってすごく成長にもなったなっていうのがあります。

なぜ5個目にこれを入れたかと言ったら、やっぱり転勤させるにはその彼、彼女の私生活に大きく影響を及ぼすんだよと。一方では、仕事上でもいろんなプラス面、マイナス面あるのであると。そこまで全体を考えて、異動辞令を出そうよと。

そういうことを伝えたかったので、5個目にこれを入れました。紙切れ1枚で「君、どっか行ってきなさい」という時代ではない、ということを伝えたかったからです。

今日はみなさん、すばらしいご発言をいただきました。やっぱり自律性、会社がそれをサポート。ぜひイクボス10ヶ条と同時に会社全体でも転勤問題を1つ取って、社員がもっと働きやすいそんな会社、職場にしていってほしいなと思います。

また社員自身はね。会社がそう変わるっていうことは、社員自身が自律性を高める努力をしていくという、そういうことも必要になってくるかなと思います。しゃべり始めると5時半くらいまでかかりそうですし、そろそろ宇田さんが眠くなってきた顔をされましたのでね。私の話、このパネルディスカッションを終わりにしたいと思います。

お忙しい中ありがとうございました。 

司会者:みなさん、ありがとうございました。今後、イクボス企業同盟にご興味ある方はは、ぜひ事務局までお問い合わせいただきたいと思います。そしてファザーリング・ジャパンのSNSですとか、Peatix、今フォローいただいていると思いますが、引き続きフォローいただいてご関心を持っていただいて、またイベントがある時はご参加いただければと思います。

それでは今日はありがとうございました。パネリストのみなさまも、遅くまでありがとうございました。