イヌの加齢スピードに関する俗説

ハンク・グリーン氏:イヌは、私たち人間よりも、明らかに早く年を取りますね。例えば、イヌの年齢は人間の7倍などとも言われています。しかし実は、これはまことしやかな“俗説”なのです。

科学的に調査したところ、これまで考えられていたよりも不思議で興味深いことがわかりました。実は、みなさんのワンちゃんは、早く加齢すると同時にゆっくりと加齢してもいるのです。

イヌの年齢を人間の年齢に換算すること自体がバカバカしいことかもしれませんが、獣医師は、患畜に必要な処置を決定するために、こういった年齢比較を用いることがあります。イヌの体も、多くの点で人体と良く似た加齢をするからです。例えば、イヌにも白髪は生えますし、足腰や関節が衰えます。僕自身にはまだ早い話ではありますが。

しかし、イヌが加齢するスピードは、人間のそれとはまったく異なり、人生の初期における加齢スピードがずっと速いのです。

1953年、一人のフランスの研究者が、加齢の速さを把握するために「思春期」や「死」などの、ヒトとイヌの大きなライフイベントを並列比較してみました。すると、仔イヌの加齢速度は、人間の15倍から20倍も速いことがわかったのです。例えば、1歳のイヌであれば、人間で言えばだいたい15歳に相当します。

しかし、完全に成熟した後の加齢速度は鈍化します。この研究者は、イヌの加齢速度は最終的には5分の1に落ち、横ばい状態になると考えました。つまり、イヌの1年の加齢状態は、人間で言えば5年に相当するようになります。

イヌの年齢をヒトの年齢へ、より正確に換算すると?

ところが、2020年に論文を刊行したカリフォルニア大学サンディエゴ校医学部の研究者らによりますと、イヌの加齢はこれよりも早く、かつ遅いことがわかりました。

これは、時の経過で変化するDNA上のマークを観測することでわかりました。このマークは、水素に囲まれた炭素原子であるメチル基が結合してできることから、メチル化マークと呼ばれます。

DNAにメチル基が結合されると、その領域の遺伝子の活性状況に影響を及ぼします。そのため、加齢や疾患などによって、ゲノム上における(DNA)メチル化のパターンは、変化していくのです。

研究者らは、イヌの年齢をヒトの年齢へより正確に換算するために、このメチル化パターンを用いました。研究者らは、生後数週間から16歳のラブラドールレトリバー104頭のDNAメチル化パターンを調べました。そして、イヌとヒト双方の発達の目安を注視しつつ、様々な年齢のヒトのDNAメチル化パターンと比較しました。

すると、生後1年のラブラドールレトリバーの体は、人間の30歳のそれに相当することがわかったのです。

ところが、約7年経過後には、イヌの1年の加齢速度はヒトの1.6年相当にまで鈍化します。つまり、年齢の上がった若犬になると、加齢はこれまで考えられていたよりも、ずっとゆっくりだったのです。

もちろん、数字が正確にすべてのイヌに該当するわけではありません。これより前の研究でも、犬種やイヌの体格により、加齢に差が出ることが示されています。今後はより多くのイヌの研究が必要です。ひょっとすると、将来には犬種ごとに加齢の比較ができるようになるかもしれません。

これらの研究結果からは、イヌの加齢の割合について、より正確な感覚を得られます。このような知識のおかげで、未来の獣医師はイヌの老化による症状について、より適切な診断や処置ができるようになるかもしれません。例えば、イヌの初期のライフステージのうちに、なんらかのテストを施したり、処置をしてあげることができるかもしれません。

4歳のワンちゃんが実はもう中年だなんて、あまり考えたくはありませんが、仔イヌの年齢を人間に換算して考えることは、それほどバカげたことではないかもしれません。毛むくじゃらの友人が、健康長寿を得られる可能性があるのです。