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MEETING #07 ミーティング・ファシリテーターの仕事|青木将幸さん × 西村佳哲(全6記事)

コロナ禍にミーティングの質が良くないのは致命的 会社専属のオンライン・ファシリテーターという仕事

日本ではアイスブレイクやグラフィックレコーディングという言葉も知られていなかった頃から、青木将幸ファシリテーター事務所を立ち上げ、「ミーティング・ファシリテーター」の先駆けの一人として活躍している青木将幸氏。「結果的にどこへ辿り着くかあらかじめはわからないけど、集まった人同士がちゃんと話し合える場をつくり、本人たち自身で歩いてゆくことを可能にする」というファシリテーションを体現してきました。コロナ禍でリアルでのコミュニケーションが制限される中で、「ミーティング・ファシリテーターの仕事」はどのように変わっていくのか。本パートでは、リビングワールド代表/プランニング・ディレクター/働き方研究家の西村佳哲氏の紹介で知り合った、ある企業での忘れられない仕事について語りました。

失敗に終わりかけた、あるリアル会議での出来事

西村佳哲氏(以下、西村):この半年間の中で、マーキーの印象に残ったこと、あるいは自分にとって大事だなと思ったミーティングについて聞いてみたいんですけど、どうでしょうか? この間、モノサスの話をしてたよね。

青木将幸氏(以下、青木):モノサスさんとの仕事は、僕が落ち込んでリアル会議がすべてなくなったあと、「オンライン・ファシリテーターとして生まれなおします」という宣言をしてから、ほぼ間をおかないぐらいの頃でした。モノサスというIT系の会社で、西村さんの紹介で知り合ったので、ご存知だと思うんですけど。そのモノサスさんが「青木ホーダイやりませんか」とおっしゃってくださって。

西村:それは何月何日くらい?(笑)。

青木:4月に1回、オンラインで仕事させてもらったんです。僕はちゃんとした請求書を書いて、お仕事としてお引き受けして。まだオンラインで仕事を始めたばかりだったので本当にありがたかった……。

西村:その前に、リアルのミーティングをどういうふうにやっていたか、という話をしないと。

青木:東京にモノサスという会社があって、徳島県の神山町にもサテライトオフィスがあったり、会社がどんどん大きくなっていって、スタッフさんが出たり入ったりする流れで、まだリアルでミーティングしていた頃に、僕が逗子で1回、合宿をお手伝いすることができました。そこでは、会社の中心メンバーがお集まりになって話し合いをするわけです。

ちょうど今日、僕が今いるような古民家をリノベしてできた施設で、クーラーもなくて、くそ暑い夏に汗をだらだらかきながら、参加しているメンバーも「なんでIT企業の私たちがこんなアナログなところで、しかもクーラーも効いてないし」という感じで、初日はぜんぜん成果が出ないミーティングでした。

僕もこれは申し訳ないことをしたなという。何も前に進んでいないじゃないかという感じで、2日間のうちの初日は混沌の時間で終えて。僕の中で敗北感があった仕事だね。「お役に立てなくて申し訳ないな」と思っていたら、その初日の夜に遅れてきた参加者の方が加わったあたりで、ググっと状況が変わって。

オンライン・コミュニケーションの質を高める方法

青木:ミーティングが終わってから、つまりファシリテーターの仕事が終わってから、夜にその人たちとガチンコで議論を始めて(笑)。翌朝ガンガン上がっていくんだよね。今思えば、リアルの合宿はそういうところがあるからいいよな。

夜に飲む時間とか、話す時間とか、風呂に入る時間でガシガシ、「ちょっとさっきのやつなんだけどさ、僕納得いかないんだよね」という感じで続いていき、夜中までやって翌朝また違った状態で「おはようございます」と言うと、お互いがぐっと噛み合っていくわけ。

僕の仕事じゃないよなと。「夜のアルコールに勝てるファシリテーターはいない」と言われているぐらい、みんなでお酒を飲んでワーワー。そんなことを経験させてもらって、でもそのメンバーでそうやって噛み合ったのは良かったねということなのか、もう1回リアルで話し合いの接待をさせていただいて。僕たちは会社自体の新しい方向性について話し合える場にいましたというところで、コロナが来て。

会社の体制がバーンと大きく変わったところで、すぐコロナになって僕は暇になり、「オンラインに生まれ変わります」と言ったところで、モノサスの社長の林さんが、「みんながオンラインでやり取りしているけど、ミーティングの質が良くないのは致命的だから。コロナで家にこもっていてコミュニケーションが取りにくい時こそ、オンラインのコミュニケーションは質を良くしていかないといけないから入ってくれ」と。

西村:林さん偉い。うれしいな。

青木:びっくりするなと思って。僕も駆け出しだから「はい、わかりました!」と言うんだけど。それまでは「いい準備をして、1本のいいミーティングを作りましょう。だから、それなりにご予算もかかります、がんばります!」という感じでやっていたのが、自分も値段をいくらにしたらいいかわからないし。

みんなもてんでバラバラの状態で、お互いの顔も見ていないということで、1回1回見積もりを取って、計画をしてお金を払ってということではなくて、「とにかく1ヶ月、青木君を使わせてくれない?」という感じでした。

西村:ははは(笑)。

3ヶ月限定で会社専属のファシリテーターに

青木:先方に“青木ホーダイ”、あのパケホーダイみたいな使い放題にしたいと言われて。僕も「いや、ちょっと考えます」という感じで、すごくいろいろ悩んで、向こうとも相談して、会社として“青木ホーダイ”というのを月額でボーンと払うから、社員には好きなだけ青木を使えという見せ方で売っていただいて。部と部を超える連携のミーティング、あるいは僕と1on1で話す。

西村:壁打ちみたいなやつ。

青木:そうそう。「どんなミーティングでも青木君を呼べます」と。「“青木ホーダイ”です!」と言って打ち出してくださって。最初はみんな「誰それ?」という状態なわけ(笑)。

西村:え、本当?

青木:逗子のミーティングは中心メンバーだけだったので、部長クラスは僕を知っているけど、それ以外の社員は全員知らないわけ。モノサスラジオというのにも登場させてもらって、「どうも、“青木ホーダイ”というので今月お世話になっている青木です」と自己紹介をしたり。どんなミーティングであったとしても、「僕は林社長の持っていきたい方向に持っていきません!」という宣言をしたり(笑)。

西村:ははは(笑)。

青木:僕の仕事は、社長の思っている方向に会社や会議の結論を持っていくことじゃなくて、みなさんがオンラインでも十分に話し合える状況を作ること。「オンラインでここまでできるんだ」という状況を作ることが僕の仕事なので、「ぜひお使いください!」という感じでやりました。

3ヶ月の契約で、始めの月はそんなに利用はなかったんだけど、月を追うごとにどんどん利用が増えていって。最後の最後は一番大きな部の部員全員が集まりました。モノサスさんはタイにも支社があるから、タイ時間と日本時間で都合を合わせて全員が集まって「私たちの部署はいったい何を目指すのか、何が僕たちが出せる価値なのか」ということを話し合ったんです。その時は40人近くいたと思うんですけれど、オンラインで3時間みっちり話し合いをやらせていただいて。

深入りを避けてきたファシリテーターが心動かされた会社

青木:僕としては、オンラインのミーティング・ファシリテーターとして冥利に尽きる、本当にありがたい仕事。あそこで鍛えられたので、僕は「あ、わかった! オンラインでどんなミーティングでもやれる」という状況まで、仕事を通じて成長させていただきました。

西村:なるほど、道場的な時間になったわけだ(笑)。

青木:そうですね。やっぱり100回ぐらいやらないとわからないことがあるので。その百何本とやったうちの何十本かはモノサスさんとの“青木ホーダイ”の本数ですね(笑)。

西村:それはマーキーにとっても大きかったんだね。

青木:僕は1つの会社と組織にあまり深入りしすぎないように、ちょっとニュートラル・マーキーのような感じでいたい気持ちもあったので。1つの会社に深くコミットし続けることは避けてきた部分もあるんですけど、この度モノサスさんに関わらせていただいて、ものすごくこの会社のことが好きになった。

大好きで。それで、“青木ホーダイ”が切れてからも「僕のほうがモノサス・ロスだろ」という状態でした。「あの会社のみんなはどうしてるんだろう」「なんとかさん元気かなぁ」という(笑)。それが気になって、もう一度寄りを戻しましょうという感じで「もう少し何かお手伝いできることありませんか」というふうに、今一生懸命ラブレターを書いています。

西村:ははは(笑)。ファシリテーター側からのそういうのって珍しいね。

青木:ファシリテーターがその会社にぞっこんになっちゃうというのはね。そういうこともありましたということで、危機的な状況でお仕事をいただいたことも本当にありがたかったし、全幅の信頼を置いて僕を使ってくださったので。

僕は若い頃にずっと、世の中を変える大きなことをしたいとか、社会を変えたいと思ってきて、今もそういう気持ちもないわけじゃないけど、モノサスさんみたいにお顔の見える、「この会社いいな、この人たち素敵だな」と思える人たちのために、一生懸命やれたことは、僕の仕事観や働き方にいい影響を与えてくださっていると思います。

西村:ようございました(笑)。

積み上げてきた経験や考えを良い意味で壊せる機会

青木:というわけで、モノサスさんは西村さんの紹介だよね(笑)。モノサスさんと出会えたのは何年も前ですけれども、本当にありがとうございます。

西村:相性も良かったんでしょうね。相性がほぼすべてじゃないですか(笑)。

青木:本当にね。相性が悪いと何一つね(笑)。モノサスの営業のスタッフの方が、男の人なんだけど、僕のことを好きになってくれて。“ファシリテーターとしての青木”をすごく大事に思ってくれる感じを受け取って、僕はますますモノサスさんのことが好きになっていくんだけど。

彼は、ファシリテーターとしての技術や聞く技術といった、何かテクニックを持っているわけじゃないんだけれど、僕のことを大事に思ってくれたり、興味を持ってくれたり、好感を持ってくれている。それによって僕自身が引き出されて、「より一生懸命仕事をしよう」と思えるようになったので、参りましたという感じでした。

「営業ってそういうことなんだ!」と。僕は営業の仕事をわかっていなかった。ものを売るのが営業だと思っていたけど、違うんだな。「仕事を頼むなら、この人に頼みたい」と本当に思っちゃったもの。この人のために一生懸命仕事をしたいって。

そういうふうに思わせていただいたことも、すごくいい経験になった。僕はやっぱりこのファシリテーターという1本の仕事でぎゅっとやってきちゃったところもあるので。

西村:きちゃった?

青木:本当に世間知らずだったなぁと思って。今回のコロナは、そういった意味で僕が積み上げてきてしまったものを、良い意味で壊していける機会なので。ゼロから組み立て直す良い機会をもらったと思っています。

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