オンライン・ファシリテーターとしての初仕事

西村佳哲氏(以下、西村):そっか。ちょっと話は変わっちゃうけど、4月1日からもう百何本とやってきたファシリテーターの仕事というのは、本来やるはずだったリアルでのミーティングをオンラインに切り替えたものがけっこうあるの?

青木将幸氏(以下、青木):いや、それはほとんどないです。ぜんぜん新しく。

西村:おー、マーキーの新しい看板に来たんだ。

青木:はい。

(西村、拍手)

青木:ありがとうございます(笑)。「もともと予定していたミーティングをオンラインでできますか?」という話はほとんどなくて。その時に真っ先に声をかけてくれたところがあって、自分でも「あっ!」と思ってうれしかったんだけれども。

僕は大学生の頃、ボランティア活動をけっこうやっていたほうなんです。学業そっちのけで、1円にもならない環境のボランティアとか、NPO法という法律を作るボランティアをしていました。それこそ震災があれば、当時は阪神淡路大震災の被災地に物資を送るボランティアをしたり。学生の頃そういうボランティア活動に一生懸命で、熱心な子だったのね。そこでいろんな経験をさせていただいたので、今の僕があるとも思うんだけれど。

僕がオンライン・ファシリテーターの仕事を始めた時に、一番最初に声をかけてくれたのは、学生が集うボランティアセンターさんでした。大学ボランティアセンターというところがいくつかあるんです。東北の被災地に通って、今も継続して東北との絆を温める活動をしている子は、コロナで動けないから東北に行けないわけ。東北に行けないどころか、だんだん大学にも行けなくなってくる。

今の大学1年生はキャンパスを踏んだことがないというぐらいの状態で、にっちもさっちもいかなくて、精神的にもちょっと追い込まれてきたり、授業も全部オンラインだというと、横のつながりもできないで情報ばっかり入ってきて、課題ばっかりやらされて。

ボランティアの子たちも意気消沈して、「東北の被災地のために何かをしようと思っても何もできない僕たちの存在意義はどうなんだ」と。ぐーっと落ち込んでいた状態の学生たちがオンラインで話せるように、進行役をしてやってくれと頼まれたんです。

(西村、拍手)

10校以上の大学で、コロナ禍の学生たちの本音を訊く

青木:うわーと思って。「みんな、今どんな感じなの?」「ご飯食べられてるの?」という感じのところから、「寝られてるの?」とか、「オンライン授業つまんなくないの?」というぶっちゃけ話をいっぱいして。最後のほうで学生が「僕たちは被災地に行って、被災者のためになんとかしようと思ったんだけれど、コロナで何が起きているかというと、僕たちが被災者だったということですね」と言って気がついて。

本当に孤立化して苦しんでいる学生が君らの真横にいて、君ら自身もそうかもしれない。社会の状況が変われば、ボランティアで必要とされることは変わるので、今はコロナで右も左もよくわからない混乱期だから、私たちができるボランティアを話し合いましょう、と。

みんなに「何をしたらいいと思うんだい?」と訊いて、アイディア出しをすると、もういくつもクリエイティブなことが出てきて、「今すぐそれをやろう」というところをお手伝いさせてもらったのが、僕にとってはありがたかったなと思っている。

西村:それは初っ端?

青木:ほぼ初っ端ですね。一番初めはまったく仕事がなかったので、「なんでもいけるぜ」という感じで(笑)。まずはオンライン・ファシリテーターの経験がないので、料金をいくら取っていいのかもわからないから、初めは投げ銭制とか激安プランとかで工夫しているわけ。「マーキーを安く使えるんだったら、学生が大学にも呼べる!」とか言って。

昔学生の頃に活動していた仲間が、今はボランティアセンターでバックアップや職員をやっているんだけど。「ちょっと気軽に呼んでいい?」と言われて、「ぜんぜん行く!」とか言って(笑)。学生たちとそんな話をしていると、大学ごとに学生さんのカラーも経済状況も苦しみもぜんぜん違うわけです。それは10校以上の大学でやったかな。

西村:へー!

青木:ハイソな頭のいい大学から、お世辞にもそうとは言えない学校までいろいろあって。こんなに格差があるんだと思ったり、こんなに力量の差があるんだと思ったり、この学校にこんな気持ちが良い子たちがいるんだと思ったり。僕にとって、すごく良い時間だった。

限られた時間でも、ぶっちゃけ話とアイデア出しを両立

西村:最初にぶっちゃけ話を始めて、「この状況で自分たちにできることを考えてみよう」というミーティングは全部で何人ぐらいの参加者数がいて、何時間ぐらいの枠だったの?

青木:一番最初にやった時は7人のところから始まって、別の大学で一番多かったのは45人ぐらい。でも、どっちも時間は90分から120分ぐらい。学生がジョインできる時間はそれぐらいなんですけれど。オンライン授業がバーっとある時には、もう6限目までオンライン授業で、クタクタになった学生が19時半から21時までつないでくれたりしたわけ。

「オンライン嫌です!」って怒っている学生とか、「嫌い! お尻が痛い!」とか言って(笑)。そうね、お尻……だいたいの学生の家には、そんなに立派な椅子なんてないわけで、お尻が痛いのもわかる。「パケット死にそう!」「そうだよね!」という感じで「わかった、わかった!」と言っていっぱい話を聞かせてもらった(笑)。

西村:私がマーキーのミーティングの組み方で、いつも「プロだなぁ、立派だな」と思うのは、例えばそのぶっちゃけ話はたっぷりやろうと思えばいくらでもできちゃうじゃん。

青木:できちゃう。

西村:じっくりやろうと思えば時間がかかること。それから、アイディアを出していってというのだって、やろうと思えばちゃんと時間がかかることで。でも、それをちゃんと所定の時間の中に納めて、両方成立させていくところですね。

主催者と参加者の「期待」は、ほぼ絶対に一致しない

青木:お互いさまだと思っているので。主催者ならびにファシリテーターが、「ここのテーマでこのことを話したい、話させたい」と。例えば、ボランティアセンターが僕に依頼してくる内容も、本当に学生が今話したいかことかというと、ちょっと別問題だと思っていて。

学生が話したいのは「昨日何食った?」とか「あの授業つまんないよね」という話だし、「お前パソコン何使ってんの?」だったり、「バイト行けてるの!? マジそれ。どのバイト行けるの!?」という話だし(笑)。

そういうのは、大学のボランティアセンターが話してほしいこととはちょっと違うよね。僕はやっぱり、両方を成立させるほうがお互いに気持ちがいいということを仕事の中で学んだんだろうね。

西村:主催者の期待と参加者の期待とか思いとか。

青木:「今、一番話したいことは何ですか?」と聞くと、ほぼ絶対に主催者の思いと違うことを話したいわけ(笑)。

(一同笑)

そのへんが分かっている主催者は(話してほしいことを)バチンとはめているので、手間が少ないのは大変ありがたいんですけれど。多くの場合、主催者が話させたいことと、参加する人が話したいこと、あるいは会社で言うと社長が社員に話させたいことと、社員さんが今一番話したいことは絶対に違うわけ。

僕がもし社長側についてしまうと、「あの人は社長側についた人なんだな」と社員からは見られるし、僕が社員側にだけについてしまうと、「こいつは役立たずだな」と社長には思われる(笑)。この間は非常に大事なゾーンで。両方はお互いさまだと思っています。組織側が求めるものと個人が本当に話したいことを、お互いさまのゾーンで話し合いたいなとは思っている。

時間管理は「命を預かっているつもりでやれ」

西村:さらにそれを所定の時間の中に収める。マーキーは時間管理をすごく重視しているよね。ちょっと伸びちゃって「5分押しちゃいました」ということがないようにしているじゃん。

青木:なるべくオンタイムで終わりたいですよ。僕は今日の終わりの時間が気になっていると、「今日って21時でしたっけ?」とか言って(笑)。

西村:21時半です。

青木:「よかったー!」という感じですね(笑)。終わりの時間を確認しておいてよかったという感じ。21時半だとすると、これぐらいでちょうどハーフタイム。

時間の管理はすごく大事で。僕が社会人1年生の頃の先輩に、人の時間はとっても大事なんだと指導をいただいたことがあって。「遅刻することは、他の人の時間を奪うことなので絶対にしないこと。短い人生の何分の1かもしれない時間を割いてお前とのミーティングをセットしてくれているのに、遅れてくるというのは何事だ」と。

「相手の人生を削っているようなものだから、遅刻は絶対にするな」と教わって。ミーティングのファシリテーションをすると、参加している人たちの時間をまるまるお預かりするわけ。今日は丸1日ミーティングですというと、貴重な1週間の中の丸1日の命というか、他にもいろんなことができた時間を僕は預かっているんだと思うと、時間管理は一生懸命やらなきゃね。重たく言うと「命を預かっているつもりでやれ」というふうに言われているし、思っているわけ。

西村:そこはずっと大事にされていますよね。

青木:ありがとうございます(笑)。そんなふうに見ていただいているなんて、大変うれしく思います。

西村:尊敬ポイントがいっぱいあるんですよ。

青木:本当!? うれしいなぁ。

西村:今度、箇条書きにして送ります(笑)。

青木:ありがとうございます。