イノベーションを多産する、「起承転結」の組織づくり

竹林一氏:僕は経団連の委員もいくつかやっているので、やはり日本のビジネスを担うトップの方々にも知っといてほしいなあというので、「イノベーションを加速させる忍者と武士」という原稿を、8月の『月刊 経団連』に掲載させていただきました。今、いろんな会社の社長さんから、「どんな人材育成したらいいんですか」というアポイントメントが来ているところですね。

実は、起承転結は人だけじゃないです。これは組織にも当てはまって、僕がいる組織は起承転結で組まれています。起をデザインするところは僕の部門じゃなくて、オムロンベンチャーキャピタルや、あるいはオムロンサイニックエックス株式会社というところが最先端で、世の中の何が変わっていくねんというのを常にウォッチングして、うちの部門は「これはビジネスになるのんちゃうか」というアイデアを持ち込まれたら、それを絵にして、最終的にビジネスにしていくことが仕事なんですね。

「全部自分らでアイデアを思いついて、事業までやっていけ」ということだと、人の数だけしかできないんですけど、こういう仕組みを作っちゃうと、イノベーションが多産できる仕組みができてきます。

こんなイノベーションの多産の仕組みもあります。起承の人材は外にいっぱいいるんですね。このキーマンを連れてきて、場合によっては外部から複業で採用してきて、軸を切り直して、例えばベンチャーのキーマンとこちらの大企業がこの軸で行こうというのをどっちもWin-Winのかたちにしたら、一気に大企業が持っている人・物・金の資源を投入して、会社を設立してしまえというモデルですね。

これは、僕が一番最近見たモデルとしてはすごいモデルです。起承の一から市場を勉強するんじゃなくて、その市場を一番知っているやつを連れてきて、複業でコミットメントさせて、お互いをWin-Winにするモデル。

トップが僕の友だちなので。こういうビジネスモデルもあるし、全社からアイデア公募して立ち上げていくという仕組みもありますね。自分だけで考えるというのもありますけど、いろんなアイデアが入ってきて新規事業を立ち上げ続ける仕組みをどう作ればいいかということを、僕らのほうで考えています。

優れた起業家たちに共通する“行動様式”

最後ですね。じゃあ、承のクリエーションの人たちは、どんな思考で動いているかをお話をさせていただきます。僕はエフェクチュエーションという理論を勉強していて、京大で何をやっているかと言うと、「京都に100年続くベンチャーが生まれ育つ都」を作りたいと思っているんですね。

京都ってオムロン、京セラ、日本電産、村田製作所、堀場(堀場製作所)、任天堂、ワコールほか、みんなベンチャーだったんですね。

そのベンチャーがいかにしてメガベンチャーになっていったかというところに、新しい事業を立ち上げる仕組みがあるんちゃうかなと思っていて。それが何かを研究・実践することが、僕の京都大学の客員教授としてのミッションです。

エフェクチュエーション(優れた起業家が用いる意思決定理論)という言葉、聞いたことあります? 実は起業家の中でも、特に連続して新しい事業を立ち上げている優れた起業家には、共通の思考プロセスがあったんですね。それを研究しているのが、ノーベル経済学賞を受賞したハーバード・サイモン教授の弟子のインド人の経営者ですね。サラス・サラスバシーという女性です。ここでも「しーさん」なんですけど、「しーさん」が体系化したんがエフェクチュエーションなんです。

これまた研究者の間で「サラスバシーで一緒ですね」と言ったら、きっと研究者のみなさんから怒られると思うんですけど、エフェクチュエーションというのだけ覚えていただいたらお役に立てると思います。新規事業を立ち上げる人って、絶対にこういう行動様式があるんです。

どんな思考プロセスで動いているのかというと、2つの思考プロセスがあると言われているんですね。1つはコーゼーションです。目的から逆算で意思決定するというやつですね。100億円のビジネスを立ち上げるためにどうすんねんという。そのために市場調査して、競合分析しますよね。今の商品の延長線上だったら、このプロセス使えます。

考えるべきは目的ではなく、自分が何者か

ところが、まったく新しい思考プロセスで世の中が大きく変わってくる。これまでは手段ありきで意思決定するというのが、創業者がやってきたことですね。「自分、何持ってんねん。何ができんねん」というところ。

GAFAの創業者たちは「何兆円のビジネスを立ち上げたろう」ということを分析してやっていましたか、という話です。「俺、こんなことやりたい」というのを回してたら、GAFAになりましたという話ですね。「Facebookで人をつなげなあかん」とか「Googleであらゆるものが検索できる世界を作るねん」ということをやってたらでかくなっていったという話で、何兆円の売り上げを出すためにGoogleやりました、ちゃうんですよね。

その思考パターンが5つの法則になっていて、1つは目的主導ではない既存の手段をどう使うのかということで新しいものを見ていく。2つ目も重要ですね。利益の最大化ではなく、どこまでは許されるねんという、許容可能な範囲を定めておくのは非常に重要になってくると思います。

ベンチャーのアドバイザーとしてコメントを求められた時には、僕はエフェクチュエーションという理論でアドバイスします。目的じゃないんですね。100億円、200億円やるためじゃなくて、僕は何者か、私は誰か。

「鉄道のカードシステム知ってまっせ。東京の街、全部歩きましたよ。出版もしましたから、鉄道の人脈もありますね。じゃあ、これ使って何できるの?」という話ですね。僕は、「駅は街の入り口だとおもろないの?」というところから入っていって、A、B、C、1個ずつはみんなでサービスを考えてねと言ったら、みんなおもろいこと考えてくれるんですね。

エフェクチュエーションという本をぜひ読んでもらったらいいんですけど、ちょっと分厚いんですよ。でも、その本で何言うてるかというと、実はわらしべ長者なんです。

エフェクチュエーション (【碩学舎/碩学叢書】)

「わらしべ長者」とエフェクチュエーションの共通点

立命館大学の吉田(満梨)さんという、ものすごく素敵な先生に京大に来てもらって、講演してもらってディスカッションしていただいたんですけれども、まさに「わらしべ長者と一緒やな」という話をしています。

わらしべ長者って、転んでわらをつかむんですね。わらをつかんで歩いていたらアブが止まるんです。アブを持って歩いていたら、男の子が出てきて「あのアブが欲しい」と言うたら、お母さんが「みかん持っているからみかんと替えて」と言わはるんですね。

みかんと替えると、今度は商人が出てきて「喉乾いたから、うちの反物と替えて」。反物を持って歩いていたら武士が来て、「お金でこの馬を替えなあかんのだけど、弱っているから、その反物と馬替えて」。

弱った馬を看病したらまた元気になって歩いていたら、長者さんが来て「田んぼと屋敷があるんやけど、今、町まですぐ行かなあかん。その馬貸してくれ。帰ってきたらお礼ちゃんとするから、田んぼと屋敷見といて」と言うて、長者さんそのまま帰ってこなかったんですね。

田んぼと屋敷を手に入れて、奥さんもらってハッピーハッピーという話なんですけど、これと一緒なんですね。わらしべ長者は、田んぼと屋敷を手に入れるために、マーケティングしましたかという話ですね。実はこういう理論で動いているという話です。

このからやぶり道場もそうですよね。やっている間に、こうして1,100人のプラットフォームになってきた。1,100人揃えたくてやったんじゃないんです。これは試行錯誤をして、アブが止まったからこれをやってみようかとか、このパターンがあかんかったからというのをエフェクチュエーションを回しているんですね。

ただ、今度大企業にいくと、エフェクチュエーションだけじゃだめで、転結がわかりやすいように翻訳してあげなあかんのです。承の人材がうまく翻訳すると、転結の人たちも動き始めます。これもエフェクチュエーションがいいとか、コーゼーション(注:目的からの逆算で意思決定を行う手法)がいいとかいう話ではなく、タイミングやビジネスの過程によってバイモーダルでマネージメントすることが重要ですねと言う話です。

傾いた事業を立て直す“ビジネス整体師”が必要

最後ですね。今一連の話をさせていただきました。イノベーションには軸が必要。まずは風土が大切です。コミュニケーションとモチベーション。コンフリクション、ハレーション。コミュニケーション、モチベーションのほうの重心が重いのか、コンフリクション、ハレーションが重いのかって、シーソーゲームみたいになっていますから。

コンフリクション、ハレーションは起こります。それ以上のモチベーションが自分の中にあるかどうかですね。あるいは、コンフリクション、ハレーションが起こっても、コミュニケーションでみんなが「やってみようや」と思ってもらえるような組織にできているかどうか。これが重要になってきますし、さっき言うたクリエーションとオペレーションが重要になってくる。その時、起承人材と転結人材が組織の中でバランスが取れているか。

その中でエフェクチュエーションを回す。みなさんのような起業家と、それをN倍化してお金を何十億円、何百億円にしていくための転換をする組織をつなぐのが承の役割になってきますよというので、私の話を終わらせていただきます。

今の法則をまとめたのが、5つの法則という話ですね。何かに似ているなと思ったら、これは体と一緒なんですね。まず背骨が曲がっていたらダメでっせという話です。背骨曲がってて猫背になっている人に、「新規事業起こせ」「早く走れ」とか言われたって、余計背中痛くなったりしますよね。

会社でうまく新規事業立ち上がらなかったりするのは、この左側の「あなたの会社、ゆがんでいませんか」というので、「あなたの体がゆがんでませんか」と一緒なんですね。これに気づいて、僕は“ビジネス整体師”になろうかなと思っていて。

新規事業を成功させるには、組織変革から視野に入れるべき

新規事業って、真ん中のイノベーションってみんな言うてはるけど、「あんたの会社、猫背になってるで」とかね。「部下が1人で重い荷物背負ってたら、ぎっくり腰になるで」とかね。これでおもしろいのが、例えばぎっくり腰になったらそこだけ治してやったらええっちゅうもんじゃないんです。実は原因が首から来ていたりするんで。

新規事業のところだけ見ていても事業が立ち上がらないんで、これを全体で鳥瞰して見た時に、どこから治していかなあかんのやというのを見ながら、事業を立ち上げる人が必要になってきます。

そのためには、組織を変革する組織イノベーターと、事業を立ち上げる事業イノベーター、起業家というのをうまく企業の中でマッチングさせない限り、僕は立ち上がらないなと思います。

最後にみなさん、目指せイノベータ~というところで、まずはとりあえず「し~さん」とFacebookで友だちになっていただくと、「こんなことをやってんねん」って書いています。ただ、基本リアルあるいはテレ講演でお会いした方、本記事を読んでいただいた方で感想メッセージをいただいただいた方のみですのでよろしくお願いいたします。

そうすると京大のほうのオープン講座の情報も発信しているので参加いただけます。毎月基本第3月曜日ですね。ゲストがとても素敵で、講演ののちファシリテーションさせていただき、「100年続くベンチャーが生まれ育つ都」からイノベーションが起こる仕組みを議論しています。

内緒ですけど、明日からYouTube「し~ちゃんねる 未来予測 で検索」始めるんで、とりあえずFacebookで友だちになったら、YouTubeチャンネルもわかりますんで、そこから始めてほしいなと思います。

最後ですね。「イノベーション、イノベーション」と言いますけど、やっているときにはハレーションが起こるので、やりたいことを信念持ってやり続ける。そこに賛同した人たちが集まって、イノベーションが起こるという話で、イノベーションが起こった時に、外部の人が「あれ、イノベーションやて。あの会社イノベーション起こしたで」と言います。

というので、ちょっと長くなりましたけど、私の話を終わらせていただきます。ありがとうございました。以上です。