対立を乗り越えるための3つの方法

竹林一氏:「How to」よりも大事なことがあって、実は「ほんまに覚悟ありますか」という話ですね。周りを説得するには、自分に覚悟がなかったらできないです。また、むやみに壁にぶち当たらないことですよね。「あの人は抵抗勢力や」ってぶち当たってもしんどいです。

だって、彼らは慣性の法則で働いているから。何が重要になってくるかというと、幽体離脱で上空から客観的に見てみることですよね。客観的に見たら、壁や壁やと思うけれども、その壁は短いかもしれないんです。

万里の長城やと思って、そこだけ見ているからすごいなと思っているけど、上空にから見たら「ここ開いてるで」とか「数百キロ歩いて迂回しよか」とか、いろいろな道が見えてきます。

本を出版するとか、お客さんが「おもろいな」と言い始めはったら、社内もみんな「おもろいな」と言い始めるんですよね。だから、目の前の壁だけを説得しようとか言うてたら無理で、いったん鳥瞰して考えるのがコツです。

それはアライアンスの時も一緒ですね。“オムロンの竹林”としてビジネスモデルを書いてしまうと、うちがどう儲けようかとなるんですけど、いったん鳥瞰するとオムロンの良さ、その先のお客さんの良さが見えてくるので、全体像が見えるんですね。そこでさっきのブランドデザインや軸を作ることが非常に重要になってきます。

現代のイノベーターが仕掛けていくべきポイント

さっきも言いましたけど、従来の価値観が変わってきているんですね。慣性の法則が働いていますから。ところが今、新型コロナウイルスという大変なことが起こっていますよね。このコロナが外部からの力を加えてしまったんですよね。

転がっている『インディ・ジョーンズ』の岩を止めてしもたんです。岩、止めてしもたらいろんな歪みが見えてきたんですよね。「ビジネスの賞味期限切れてんのちゃいますか」とか、「働き方っておかしいのとちゃいますか」って。慣性が止められてしまったから。

今まではピラミッド組織で意思決定してきました。目標もやることも明確やったら、ピラミッド組織で良かったと思うんです。でも、ピラミッドってお墓ですからね。クフ王の墓やから、いつまでクフ王の組織で意思決定しているんですかという話です。

新しい新規事業は誰もやったことないんです。上の人より現場に情報がある。例えば、Zoomなどで「情報共有して素早く意思決定しよう」と言った時に、みんながZoomなどで参加できるんです。その時にみんなが対等な立場でディスカッションしたらいいんですね。

だって、トップの人たちも、そんな新規事業や新しい世界観を描く上では経験がないので、みんながフラットなんです。より情報を持っているやつのほうがいいので、そういうフラットな組織もイノベーションの仕組みの中で作っていける。

そんな組織の新しい仕組みをどんどん作っていけますし、Zoomでお客さんともつながれるんですよね。組織を超えて、会社の中でも部門間を超えて、Zoom会議ができるわけです。

僕が見たある会社では、昼休みにいろいろな外部有識者を呼んできて、誰でも話を聞けるようにしていました。この前、役員の人も含めて100人とか200人が聞いていましたね。そこには上下関係なかったですよね。そこから新しいヒントがどんどん生まれる。そういう風土をデザインしていく必要があるということです。

要するにそれは、ものすごくチャンスなんです。ここに気づけるかどうかです。ただ単に新規事業を立ち上げるというのじゃないんです。新規事業を立ち上げる仕組みとかコミュニケーションとか情報網でさえ、今は作っていける時代になっています。イノベーターというのは、そこも含めて仕掛けていかないといけないということです。

日本のビジネスモデルは「創業者と番頭」の二人三脚

3つ目はいつもお話するこの起承転結ですね。そういう風土を作った時に「人材はどうやねん」というお話です。人の部分はクリエーションが得意な「起承」人材と、オペレーションが得意な「転結」人材のバランスが非常に重要になってくる話ですよね。この話はいろんなところでしていて、から破り道場でも以前お話させていただきました。

新しい価値を作ったり、新規事業を立ち上げるためには、この起承転結の人材がいるという話ですね。0から1を立ち上げられる「起」の人材。0から1をN倍化させる過程でさっきの軸の話ですね。軸を設定しビジネス構造をデザインできる「承」の人材。

構造が出てきたら、さっきのA、B、Cのアイデアが1個ずつあるじゃないですか。その事業構造を明確化して、事業デザインをしてリスク管理して、新規事業一つひとつの事業計画を立てられる人材。これは「転」ですね。「結」は、その事業計画に沿ってきっちりオペレーション回して、QCD(品質・コスト・納期)を守れる人材。どれが欠けてもダメなので、全部重要です。

特に、起承はイノベーション系ですね。転結はオペレーション系。設計でいうと、起はもう妄想設計していますし、承はブランドデザイン×構想設計ですね。転の人材は機能設計、結の人材は詳細設計。これは、どれがいい悪いじゃないんですよね。

だいたい起の人間は、10年先を考えています。だから、逆にいうと新規事業になりにくいんですよね。ところが、10年後そういう世界になっていて、「やっといたらよかった」とか、「俺らそんなん言うてたっけ」。あるいは「早くやりすぎてポシャってた。もう1回やり直せばええやん」というのが起の人です。

承の人はトンネルの真ん中を考えているんですね。ところが、事業というと3年~5年ぐらいで立ち上げていかなあかんから、転の人が中期計画。3年考える。Goがかかったら結の人が1年1年のQCDを守る。これはどれも重要なんです。あなたの会社は、これが揃っていますか? 揃って初めて新規事業が立ち上げられます、という話ですね。

日本っておもしろくて、実は起承は創業者がやってたんですね。転結は番頭さんと言われる人がやっていたんです。この両輪が揃っていたので勝っていたんです。かつて起承が考えたビジネスモデルは、今はさっきの賞味期限が切れて臭いがし始めたうどんなんですね。だから、もう1回この起承に当たるイノベーターたちが、新しい軸を考えなあかんのです。

「A、B、Cというサービスを1個ずつ考えろ」と言うてないんですよ。もう1回軸を設定した中で、その軸に合うような新規事業を考えてかなあかんということですね。

人を活かすには、2パターンのマネジメントが必要

これも何回も話しているんでご存知だと思うんですけど、転結のマネジメントと起承のマネジメントは違うんですよね。転結のマネジメントは明確に目標管理です。目標が決まっていてきっちりやる。だから組織もピラミッドで運用できるんですね。

ところが、起承のマネジメントはピラミッド構造じゃないんです。だって、目標が定まっていないから、意見はみんなフラットなんですね。あえて言うならば、上司は今までの経験から知っている人を紹介してあげるとか、こうやったらよりアイデアは広がるねという、目標のレビューをしたらあかんのです。「こうやったらより広がるで」とアドバイスをしなあかんのですね。

よく新規事業を立ち上げようとした起承の人に対して、転結のレビュワーがいっぱい出てきて、重箱の隅を突きたおす。こんなんでは絶対新規事業は立ち上がらないです。この2つのパターンのマネジメントがあるというのも非常に重要になってきますよね。

失敗したら切腹の武士の文化と、生きて帰る忍者の文化

これもお話させていただいているのが、ソフトウェアの世界も一緒なんです。転結はウォーターフォールと呼ばれて、安定重視型のプログラム開発なんですね。これはこれで重要で、失敗が許されない領域で安定的に動くプログラムは、このウォーターフォールというモデルで作らなあかんのです。

ところが、モード2はアジャイル型というやつですね。リーン・スタートアップとか、何やっていいのかわからへんから、プログラムを組みながらお客さんの反応を見ながら作っていくというプログラムモードですね。これはスピード重視で、時代の変化に早く対応するようなプロジェクトマネジメントです。これはどっちも重要なんです。

「新しいビジネスを立ち上げるのはモード2や」とやって、ある程度立ち上がってきた時に、例えば情報漏えいしたりして、会社潰れたりするのはモード2だけでやっているところ。僕もヘルスケアの会社の社長をやっていましたけど、アプリケーションのレイヤーは、このモード2で早く開発していくんですね。

ただ、100万人の顧客管理はモード1という安定重視型で組んどかなあかんのです。このコントロールが非常に重要になってきます。これはどっちがいい・悪いじゃないんです。バイモーダルでマネジメントするのが重要になってくる。

これもよくお話しするのが、転結は失敗したらあかんから、武士の文化と言われているんですね。武士の文化ってなんやというと、失敗したら切腹しなあかんので、絶対切腹せんようになっているんですね。「稟議書にいっぱい判子押すで」って、誰から切腹したらええかわからんようになってるんです。

その代わり、絶対リスク管理して情報漏えいしたらあかんし、誰かが責任取りたくないので、時間がかかりますよね。起承は忍者の文化と呼ばれていて、忍者は切腹しないですよね。相手の城に忍び込んで、見つかって切腹している忍者はいないですよね。生きて帰ってきて情報を伝えないといけないんです。

忍者はイノベーターかと思ったら、『ニンジャイノベーション』って本が出ているんですよね。ゲイリー・シャピロと言う人が書いているんです。外人はこれに気づいているんです。日本がいつまで武士をやってますかという話ですね。