経営者が“意志”を持たないと、生産性は上がらない

前田ヒロ氏(以下、前田):ちなみにラクスルさんって、いろんな印刷会社と連携していかないといけないと思うんですけど。その中でけっこうすんなりとみんな、ラクスルのプラットフォームに乗ってくれるものなのか。それともさっきの「大きい仕事・小さい仕事」のような、マインドセットのチェンジ、マインドシフトみたいなのが必要な部分って、まだまだあったりするんですか?

松本恭攝氏(以下、松本):いわゆるソフトウェアを扱っているインターネット企業と違うところで、我々はリアルを扱っていて。まったく生産のフローが違うんですね。単価で見ると、我々の仕事ってやっぱり安いんですよ。見積もりだけ見ると「え、その仕事そんなに安いの!?」って思われるところが、正直あります。

ただ我々の仕事の特徴って効率を上げることによって、生産性を3倍、5倍、10倍に上げることができます。実はこの生産プロセスに慣れてしまえば、単価は低くても印刷会社さんにとってはものすごく収益性の高い仕事になるんです。

印刷会社さんとして、インターネットで全国から営業をかけずに小さな仕事をたくさん取ってくる。これまでは大きな仕事を取ってきて、8時間……1回印刷機回して、あとはタバコ吸ってればよかったんですよね。

我々の仕事を取った瞬間に1時間に4回、5回版を入れ替えて、切って。これまで1社に送ればよかったのが8社とか10社に別々に梱包して送らないといけなくなるので。けっこう忙しくなったり、そこに対して生産性を上げる努力をしないといけないっていうのがあって。

このプロセスに慣れると、実は現場はすごく働いている生きがいを感じて。がんばればがんばるほど自分たちの給与が上がっていく、というところが作れるのでいいんですけど。

さっきの質問に戻ると、最初のハードルがけっこうあります。それはまさに経営者が「自分たちの会社を、インターネット時代に適合した印刷会社にしていく」っていう意志を持った会社でないと、生産性を上げられないんですね。我々は、上げるサポートは全力でするんですけど。

なのでリアルをやっている大変さは、まさにここのデジタルシフトをするとオペレーションもシフトしないといけないっていうところ。ここへの対応はちょっと大変です。

前田:なるほど。いろんな意味でのトランスフォーメーションが発生しないといけないという感じですね。

金融業界で高まりつつある、課題意識

前田:辻さんはどうですか? 金融業界でいろんな銀行とか金融機関と連携してるんですけど、マインドシフトの……感じられている課題とかってあったりします? 

辻庸介氏(以下、辻):オペレーション全体を変えないと効率化はしないので。サービスだけ入れて上っ面だけ変えてなんか楽になりましたって言うと……それはそれでちょっと楽になるんですけど。オペレーション全体をやらないと「50パーセント良くなりました」とか「2倍3倍良くなりました」みたいなことって起こらないので。

そこはかなり決意というか、経営の意志が入ってくるなぁというのは、すごくあります。逆に言うと、その世界をどうやって「こういうふうになったら、こういういいことが起こりますよ」みたいなことを、僕たちがどれだけBeforeAfterをしっかりお見せできるかだと思ってます。

金融機関さんも、最近ものすごく課題意識が高まってきていて、そのあたりはすごく導入が進んでいると思うので。2年前とかよりまったく変わったな、っていうのが感想ですね。

あと、会計事務所様も僕らのお客様なんですけど。今回すごくよかったなと思ったのが、コロナ禍でまったく出社できない状況になって、大企業とかだと結局リモートワークとかすぐできちゃうんですけど。5人10人の会計事務所さんって、なかなか難しくて。リモートワークする仕組みもないですし、やっぱり紙が中心だし。

なんですけど、我々とずっと前から進めてくださっていた方々って、リモートにすぐ切り替えて会社にもいかなくてよくなったし、紙そのものをOCR(光学文字認識機能)とかで消してるので。すごく社員が安心して働けたとか。

すごく喜んでいただいたのと同時に、単純作業をかなり自動化できてきているので、その空いた時間をお客さんと向き合う時間に取れるようになってて。そうすると顧問先さんって、飲食店さんを中心にめちゃくちゃキツかったので、今回。今もキツいですけど。

そのときに寄付金の対応をするとか、とにかくなんとか生き延びるために融資をどうやって引っ張るかとか。そういうことへの対応にすげぇ時間が取れて。「こんなに会計事務所で働いていることを誇りに思ったことはない」っていうのを、けっこうおっしゃってたんですよ。

こういうことは、本当に僕らはうれしくて。やっぱりこういう、付加価値を出せるようなお手伝いをするのはすごくおもしろいし、社会的にも意味があるので。そういう成功事例を作っていきたいというのは、強く思いますね。

前田:トランスフォーメーション後のメリットはかなり多いですよね、本当に。

:多いんですけど、見える化されないとなかなか……痛みも伴うので。かなりインフラ、業務、ビジネスモデルとか変えていくにつれて。そこですよね。

DXは「目的」でなく「手段」である

前田:お二人の話でけっこう共通するなっていう部分は、経営レベルでの覚悟が必要と。ビジネスモデルもそうですし、業務プロセスもそうだし、従業員の在り方とかモチベーションも、これらすべてがトランスフォーメーションされていくのでかなりの覚悟が必要という部分で。

今、デジタルトランスフォーメーションをミッションとして動いている経営者だったりとか、それに興味がある経営者に向けて「こういった準備をしたほうがいいよ」とか「こういうところをまず考えるべきですよ」みたいなのってあったりします?

松本:私、デジタルトランスフォーメーションは目的ではないと思ってます。デジタルトランスフォーメーションというのはあくまで手段でしかなくて、デジタル化をしたところで働き方とか収益性が変わらないんだったら、別にやる意味ないと思うんですよ。紙のままでもいいし、なんならけっこうそういうこともあると思うんですよね。

あくまでデジタルトランスフォーメーションというのは手段であって、目的は自分たちの会社をどうしていきたいかっていう、もう一段、上段なんじゃないかなと思います。

だいたいそれを、なにか変化をしていく、これからの時代に対応していく会社を作っていこうとすると、必然的にデジタルの導入はしないといけないし。場合によってはビジネスモデルを変えていくとか、大きな変化をする必要が出てきて。

そうすると先ほどの印刷会社さんの例でも、例えば給与体系を変える。もっとがんばったら報われる体系にしていきましょうとか。そういうところから変えたり。働き方、オペレーション、ビジネスモデル、全部変わっていくんですが。

目的を達成するためにはあれも必要だし、これも必要だしという中で、デジタルっていうのを一番フラットに見て導入する。変わっていくことに対して、あくまでデジタル化をするのではなくて、未来の会社をしっかりと作っていく。これからの時代に対応した会社を作っていくっていうことを、一番に考えていく必要があるんじゃないかなと思います。

あんまり歳とかも関係ないと思いますし。もちろん若い人のほうがデジタルに慣れてるんですけど、やっぱり経営者がやらないと。ツールの導入ではないので。プロセスであったり、組織体系であったり、そのものがけっこう変わっていく。逆にそこが変わらないデジタル化って、あんまりインパクトのない施策になってしまう。むしろベンダーが儲かるみたいなことのほうが多いと思うので(笑)。

トップが変革をしていくというマインドを持っていくことが、重要なのかなと思います。精神論ですみません。

前田:なるほどですね。この精神論がきちんとしてないと、本当にうまく活用できないという感じですよね。

松本:「DXしよう!」って言ってる人って、3年前には「AIを使おう!」って言っていた気がして。その2年前に「これからはIoTだ!」って。「VRの時代が来る!」って2年前に言っているような気がしていて。

別にAIも使えるし、IoTもものすごく変わるし、DXっていうのはそれらの総称なのかもしれないですけど。あくまですべて手段であって、最終的な目的は今の時代に対応したビジネスの在り方を作っていく。組織の在り方を作っていくということだと思うので。

冒頭にヒロさんがおっしゃったように、ある種のバズワードだと思っていて。バズワードは2年単位で変わっていくので、たぶんDXって数年後には誰も言わなくなってると思うので。ただその上でしっかりとDXしていくと(笑)。はい、思います。

ユーザーへの提供価値をどう上げる?

前田:いやぁ、すばらしいです。辻さん何かあります? 付け加えたいこと。

:今ちょっとお聞きしてて「手段です」と。なのでユーザーの……まぁユーザーだけじゃないですね。何の課題をどう解決するのかっていうコンセプトがたぶんあって、そこで……ちょっとこのブレイクダウン、僕もまだ整理できてないんですけど。今、聞きながら書いてたので。

売上なのか、コストなのか。先ほどから出てる売上の中身を変える話なのか、コストを変える話なのか。コストサイドだと、例えばインフラなのか、業務なのかとかにもなりますし。さっきの松本さんがおっしゃった、ビジネスモデルが研究開発みたいな話もありますし。けっこう広いので、どこの部分の何の課題をどう解決するのかという整理を、1回するのが必要なんだろうなという話と。

あとユーザーへの提供価値をどう上げるんですか? みたいな議論もあると。それはものすごく大事だと思ってまして。例えばFinTech的な……FinTechって昔すごくバズワードになりましたけど、今だいぶ言われなくなってきてると思ってて。あれはまあ、日常になってきたと思うんですよね。

サービスで支払いってお金の流れで絶対に発生するので、そのサービスの中にどうやってFinTechサービスを入れてユーザーさんがスムーズに決済できるかとか、お金を動かせるかみたいなところは、本当に提供価値を上げるために絶対必須になってくるので。じゃあそこをDXでどういうふうにやっていくのか? みたいなところは、ものすごくいろいろできることはあるなと。

なので経営者がそれを整理して、どこからいきましょうか、どういう優先順位でやりましょうか、それを実際にやるエグゼキューションを考えたときに誰ができるんでしたっけ? みたいな話になります。たぶん社内のメンバーでできるメンバーがいる場合は、その人たちを抜擢すればいいと思いますし。いない場合は外から採用するしかないと思うんですよね。

東京都で宮坂(学)さんが副知事になられて、東京都のデジタルな発信って明らかに変わったと思うし。取り組みもものすごく本質的な取り組みが増えたと思うので、やっぱり人だと思います。デジタル庁の話もあるので、経営とデジタルの両方をわかっている宮坂さんみたいな人を採用するっていう話と。

できればエンジニア・デザイナーが社内にいると、ディスカッションの中で経営者が悩んでいることをエンジニアとかが「こう解決すればいいんじゃないですか?」「こんなん一瞬ですよ!」みたいな思考があったり。

「デザインでこういうふうに見せると、ユーザーさんはもっと便利になりますよ」とか。デザインシンキングみたいな考え方とか、そういうことが必要になると思うので。エンジニア、デザイナーを中で持つとか、いいパートナーを持つとか。そういうことは必須になってくるのかな、というのは今お聞きしてて思いました。

必須となる「実装する人と設計する人」のキャッチボール

前田:確かに、人はすごく大事だなとは感じますね。セッションの直前の雑談の中でも、人の重要性みたいな話が出てたと思うんですけど。

特に辻さんとか松本さんたちが、これから変革をもたらせようとしているパートナーだったりとかお客様だったりとか。そっち側に最低限こういう体制なのか、こういう人員なのかはそろえていたほうがスムーズにいきますよ、みたいなのはあったりするんですか?

:すごくあります。例えば会計事務所さんだと、せめて社内にIT担当は1人いないとなかなかキツいですよね。全部が全部、一緒にできないので。そうすると一定以上の規模が必要になってくるんですよ。本当は、IT担当とかマーケティング担当とかいらっしゃる会社が伸びているので。それくらい、ITが売上とかコストに与えるインパクトがどんどん大きくなってるということだと思うんですけど。

そういう意味では、M&Aとか一緒になっていって、ある一定以上の規模があり、そういう方々を採用できる規模にならないと、今後キツくなると思います。

前田:松本さんありますか?

松本:まず人で言うと、IT好きな人っていうのが重要かなと思ってて。そんなに難しくないんですよね。好きな人たちにとっては。DXっていうのもなんか言葉ができると「DXしないと!」っていうモードになりますけど。たぶん好きな人ってサービスを勝手に触るし、あったら使ってみたいんですよね。使ってみて、ちっちゃく導入してみてみたいな。

特にそこまで規模が大きくない会社でエンジニアを雇えないとか、そういう企画、導入企画、全社のトランスフォーメーションを担う責任者を置くことができないという会社の場合は、社内でやたらとITオタクみたいな『日経パソコン』取ってますみたいな、そういう人を探してみて(笑)。そういう人にチャレンジを渡してみるっていうのが、いいんじゃないかなと思います。

ITを入れるときは必ず、実装する人とそれをどう使うかっていう設計をする2人が必要になってくるので、この2人を必ずキャッチボールさせる。設計ができない実装が得意な人だけに設計しろって言うと、これは失敗しますし。逆に設計だけしたとしても実際に使えるものとか、実装できないものっていうケースもあると思うので。

この2人、特にITオタクの1人を社内……けっこういると思うんですよ。10人いると1人くらいはそういうIT好きっていう人だと思うので。そういう人を探してきて、ビジネスが好きな会社の中でやる気の高い若手なのか、役員なのか、もしくは社長なのかがセットになって、じゃあ自社でできることって何か? っていうところから動いていくのが、いいかなと思います。

決算を完全リモートで行った、マネーフォワード

前田:なるほどです。今までは産業のDX化について話していたと思うんですけど、ちょっとモードを変えて、それぞれの会社でどういうDXを取り入れているか? みたいな話を少しできればなと思っているんですけど。

(スライドを指して)これはアメリカのデータで、G2.comっていうSaaSサービスとかBtoBサービスのレビューサイトみたいなのを運営している会社で、アメリカの最大手なんですけど。彼らの発表で、コロナ中の3月と4月のトラフィックがどう変化したか? みたいなデータなんですけど。

ウェビナーのツールが前月比5倍近く出てるとか。オンライン会議が4倍近く出てたりとか。リモート・デスクトップが3倍出てたりとかしていて。やっぱりコロナになってこのへんのキーワードは、ものすごく検索されるようになってるという状況なんですけど。

マネーフォワードとかラクスルで、実際に取り入れたものってありますか? 辻さんいきますか?

:もともと僕たち、クラウドの会社なので(笑)。もとから、ほぼ全部やってると思うんですけど。まあ、あれですね。出社しなくなったのでZOOMは、より活用するようになりましたよね。ChatworkとSlackを使わせてもらっていて、ほぼ使ってるんですよね。

あとは今回よかったのは、僕ら上場企業なので決算大変なんですけど、決算も全部、完全リモートでやったんですよね。それはたぶん、上場企業で一番はじめだったと思うんですけど。

それはもともと準備をしていて、請求書とかも取引先さんに「すみません、PDFでいただけますか?」とか、昔から言ってるんですね。3割くらいはやっぱり紙で来ちゃうんですけど。その場合はスキャンするしかないんですけど。そういうこともやってたので、ほとんど使ってるんじゃないですかねぇ。

前田:コロナになってから変えたことっていうのは、今の決算の部分っていう感じですかね? それ以外はけっこうオンラインで、基本的にクラウドでやってきたと。

:それを今回、より徹底したっていうことですね。やっぱりリアルな出社が多かったので、リアルでの接点でいろいろやってましたけど。バーチャル上でしかできなくなったので、それを全部バーチャルにあげて。セキュリティの話とか、よりPCのセキュリティを厳しくするとか。そういうことはけっこうやりましたけどね。

前田:セキュリティはけっこう大きなテーマですよね。リモートワークに切り替えると。

:めちゃめちゃ大きいですよね。あんまりガチガチにしちゃうとなにもできなくなって、クラウドの会社なのにほかのサービス使えませんみたいなのは本末転倒だし。一方でいろいろできちゃうとアクセスとか、いろんなところにあげちゃう権限があったりすると、それはそれでまずいので。そのへんは本当難しいですよね。

世間のオンライン化で、会議数が増えたラクスル

前田:松本さんはどうですか? コロナ中に変えた部分だったりとか、取り入れたものってあったりします?

松本:やっぱり一番変わったのは、基本的にオンライン会議になって。これまではオンライン会議はオンラインで(個別で)入る人はいたんですけど、ミーティングルームでフィジカルに(複数人)集まってるところに(個別で)オンラインで入るとけっこう辛かったっていうので、あんまり使われてなかったんですけど。全員がオンラインになるとこんなに楽なんだっていうので、オンライン会議が非常に増えました。

それに伴って、移動中の会議とかも入れられるようになったので、会議数はけっこう増えたなっていう感じはあります。オンライン会議系は非常に増えたのと、ウェビナーによるセミナーも非常に頻繁に開催するようになりましたね。まさにこういうかたちで。

あとは逆に、オフィスを1つ解約して。もともと東京に2つオフィスがあったのを、1つにまとめることをしましたね。それがけっこう大きく変わったことですかね。

あとは決算ですね。まさに辻さんがおっしゃったとおり、昨日、我々も2回目のオンライン決算説明会を開きまして。これもよかった点は、これまでは場を借りていたのでフィジカルに集まるだけだったんですけど。

当社の場合、けっこう海外の投資家の方が多くて。海外の投資家とのミーティング、決算コールを入れることができるようになって。決算説明会を2回、日本向けと海外向けと開けるようになって。そういうアクセスが広がったなというのは、大きく変化したところです。

:余談ですけど、ミーティングも移動が減ったし、あとなにより海外IRでの地獄のような「1週間弾丸でロンドンからニューヨークから、全部回って行く」とかがなくなったので。やっぱり移動ってすげぇ疲れるなぁっていうのが、今回改めての発見でしたよね(笑)。

松本:そうですね。海外IRけっこう時間取られますからね。弾丸ですし。

リモートワークで向上した、エンジニアの生産性

前田:逆に気軽になりすぎてオンとオフの切り替えがしづらいとか、疲れが余計に溜まるとか。そういう課題とかはないですか?

松本:今、当社で出ているのはやっぱりフルリモートがずっと続いていて、4~6月まではよかったんですよ。ストレスがなくて働きやすいっていうので。9月から「週1でいいよ」ってオフィスを開けて、基本的にエンジニアが多い会社ですので誰も来ないかなと思ったら、けっこうみんなオフィスに来るんですよね。やっぱり人に会うことの重要性というのは、最近感じてますね。

前田:今後の方針って決められてます? リモートとリアルのバランスだったりとか。どこまで推奨するべきかだったりとかって、方針としてあったりしますか? 

松本:私のほうからいくと、正直、まだ世界中の誰も時間軸を経て経験してないのでわかりません、という前提で(笑)。あんまり決めないようにしようとは思っています。

ただリモートワークで、例えばエンジニアの生産性としてはコードを書く量は増えたんですね。無駄なミーティングがなくなって集中できる時間が増えたとか。エンジニアの生産性が上がって、明確にいい点もたくさんあるし。正直、無駄な会議が減るっていうのは、非常に大きいなと思ってまして。移動もなくなりますし。

ただ会わないといけない、会うメリットもたくさんあるので。オフィスに出るときは「何のために出るのか」っていうのを明確にしようと。出なくていいことをオフィスでやるのはやめて、顔を合わせないとできないことに絞ってオフィスでやっていく。そういうかたちでまずは週1からスタートして、徐々に週2、週3と、コロナの状況を見ながら増やしていこうかなと思っています。

合理性だけじゃ、仕事って楽しくない

前田:なるほどです。辻さんはコロナ禍で経営とかに関して、なにか感じられている課題とかあります? 

:経営の手触り感がなくなりましたよね。みんなの顔見てたら、だいたい「ここキツそうだな」とか「元気そうだな」とかわかったんですけど、それがわからないので。それは嘆いててもしょうがないので、どうやったらわかるかの仕組みをちょっと作ろうと思って。アンケート取ったり、いろいろやってますけど。そういう、リモートベースでどう経営をしていくかみたいな話を作らないといけないね、っていう話が1つと。

今、当社は週1回くらいで来てる(出社してる)んですけど「コロナ前には戻さない」ということは決めまして。リモートとリモートじゃないのを、うまく組み合わせようということでやってるんですけど。

一方で生産性の議論ってほぼ結論出たから……でも「会社来て雑談やっぱ楽しいなぁ」みたいな。「人って、人とコミュニケーション取るのが楽しいんだなぁ」みたいな。人ってそうだなみたいなのが、改めて認識できたので最近楽しいです。

前田:なるほどですね。今後の組織の在り方とかコミュニケーションの仕方が、だいぶ変わると思いますね。これをきっかけに。

:合理性だけじゃ、会社とか仕事って楽しくないなと思って。それだともう、機械でいいじゃないですか。仕事を通して、出会いとか会話とか雑談とか。仕事関係なくて生産性落ちてるかもしれないんですけど、でもそういうのがけっこう生きてる楽しみだから。そういう人生の楽しみみたいなのは、仕事を通じてあったほうが企業としては長持ちするんじゃないかなと、ちょっと思ってます。

DXには「失敗する前提のチャレンジ」が大切

前田:なるほどです。2社とも、もともとデジタルというか、クラウドでやられていたのでけっこうスムーズだったかなと思うんですけど。これから社内のデジタル化とかクラウド化とかリモート化をもっと推奨したい経営層だったりとか、幹部層向けにアドバイスとか、このへん気をつけたほうがいいよとかってあったりします?

:正解はないと思うんです、今の状況。松本さんがおっしゃるように。僕らはすごく悩んだんですけど、けっこうよかったなと思うのは、コロナ禍の新しい働き方を決めた時の経営会議の議論を、社内に公開しました。

いろんな意見があって。いろんな価値観があったり、リスク強度があったり、誰と一緒に住んでるかとか、通勤時間とかいろんな変数があるので。仕事内容、業務内容とか、社内の勤続年数とかあるので。

これが正しいっていうのはないので、いろんな議論があったうえで「マネーフォワードという会社はこういうふうにしたいからこういうふうにするけど、間違ってたらすぐ変えます!」みたいな。

そういうふうにすると、社内のメンバーも「そうだよね」みたいにわかってくれたので。経営陣も「これだ!」ってやるより、誰も正解がわからない時代だから「一緒に作っていこうよ」みたいなコミュニケーションでいいんじゃないかなっていうのは、すごく思います。

前田:なるほどですね。柔軟性を持って対応できるようなかたちにしていくっていうのは、すごく重要ですね。状況がどう変わるか、わかんないんですもんね。

:わかんないですからね。来週、いきなりパンデミックがまた起こったら、また変えないとしょうがないですからね。

前田:確かに。松本さんはありますか?

松本:DXという文脈で言うと、失敗するっていう前提でいろいろやってみたほうがいいんじゃないかなと思ってます。1回やってダメだったっていうトラウマを作って、結局なくすっていうのを、やめたほうがいいかなと思ってて。

ラクスルでもたくさん失敗してるんですよね。SaaSの導入とかデジタル化の導入で。一番傷跡が深いのは、何千万円とか何億円って大型の投資をかけて実際オペレーションに乗らなくて、最終的にそれを除去するっていうのを、実は何度かやってるんですよね。一か八かで会社を変える大勝負を、デジタルではやらないほうがいいと思ってまして。やればやるほど、失敗すればするほど学んでいくんですよね。

なので、小さなもので失敗をして、いいものをたくさんトライすることで会社のDNAの中に「デジタルを使う」っていうマインドを付けていくことがいいと思いますし。導入した人を責めないとか。その代わり、2つ入れたら1つは失敗するという前提で予算を組んで、チームを組んで、何個か入れてみてうまくいくもの、いかないもの。

デジタルではけっこう重要なのが、導入は簡単なんですよね。なんですけど、使わないからやめるっていう判断を意外にしないんですよ。なのでチャーンレートが低いってよく言われるんですけど、それはユーザーの怠惰が多くて。

基本的には「使わないものは全て解約する」という前提を置いたうえで、小さくたくさんやって慣れていく。徐々に徐々にコアに近づいていって、最初から一気に変えないっていうのは、大事なのかなと思います。

前田:そこ重要ですね。「DXだ、DXだ」ってなって、一気にすべてをSaaS化していって、どれも片手間でやっちゃうという状態はよくないですよね。小さくやり始めて、慣れて、そこからどんどんコアの部分に徐々にいくっていうのは、確かに重要ですね。

松本:あとラクスルでやるうえですごく重視しているのは、SaaSを入れるときは誰がオーナーなのか、誰が使うことに対して責任を持つのかっていうのと。使われている状態ってどういう状態なのかっていうのを、定義してます。

半年後とかに、断捨離会議っていうのをやってて。当初、導入するときに言っていた状況になっていたかどうかの説明を、オーナーに必ず求めます。なので入れることのハードルは実はそんなに高くないんですけど、継続するハードルは高くて。

継続は、ちゃんと使われて会社が変わっているよねと。SaaSを導入するのがDXじゃないんですよね。「SaaSを使いきって会社のかたちを変えていく」のがDXなので。そこまで合わせて見ていくというのは、1つTipsとしては大事なのかなと思います。

前田:いや~非常に勉強になりました。ちょっとタイムオーバーしてしまったので申し訳ないんですけど。業界全体をDXするのと、社内をDXするのっていろいろマインドセットからやっていったりとか。社内でやるときはちゃんと小さく小さく始めていくというのがすごく重要ですね。辻さん、松本さん本当に勉強になりました。ありがとうございます。

松本:ありがとうございました。

:ありがとうございました。

前田:ありがとうございます。