関西から新しいビジネスが生まれてくるワケ
竹林一氏:こんにちは。竹林です。竹林で「しーさん」と書いていますので、後ほど簡単に自己紹介をさせてもらいます。Zoomの背景は京都の二条城です。今日は二条城からお送りしたいなと思いますので、よろしくお願いします。
今回は、からやぶり道場で講演ということで、実は第1期から、このからやぶり道場の応援をしております。久しぶりの登壇ということで楽しみにしています。
今日は「イノベーションとハレーション」というお題をいただきまして、「新規テーマ設定と社内説得のコツ」についてお話しますけれども、まず「イノベーションって何やろ?」とか「ハレーションって何やろ?」と1回鳥瞰して見てみようかなと思っています。
その中で、より具体的に聞きたいことがあれば、Q&Aのコーナーでお話させていただけたらと思っています。
僕が出てきたら、これを言わないとしゃあないなというやつですね。僕自身関西人で、「関西からいろんなビジネスが出てくる」とよく先輩に言われました。例えば、電気自動車であったり、チキンラーメンですね。あるいはボンカレーという世界初のレトルト、プレハブ住宅、回転寿司もそうですね。ビアガーデンなども大阪から出てきているんですね。
オムロンの自動改札機もそうですし、焼肉屋という概念も大阪から出てきたんですね。びっくりするでしょ。「なんでそんなに新しいもんが出てくるのか知ってるか?」と先輩に聞かれまして「わかりません」と答えたら、先輩が「大阪にはブラブラしたやつがたくさんおる」と言うんですね。ブラブラしたやつは、雌しべと雄しべをつなぐ蝶々や蜂の役割をするんです。
花が咲いているだけでは新しいビジネスにならないんですけど、「おもろいやつがおるで」とか、「新しいビジネス立ち上がれたから見に行こか」という話です。蝶々や蜂が花粉を運ぶ、そこから今でいうオープンイノベーションが起こっていくという話ですね。
人と違う視点を持ち、「軸」を変えて勝負する
2つ目が、視座、視点が違う。視座、視点をどういうふうに変えていくのかが、今後のイノベーションのポイントになってくる。視座、視点が同じだとでかいやつが勝つ、強いやつが勝つということなんです。
GAFAと同じモデルで挑んだって、それは彼らのほうがでかいです。強いやつが勝つんです。より金を持っているやつとか、そんな同じ土俵で勝負するかという話ですね。その時、いかに勝負する「軸」を変えていくかがポイントになってくるという話です。
これは物の見方や視座、視点が違うという話ですね。いつもお話させていただいているのが、大阪のある会社に行った時に、僕は名刺を渡したんですよね。僕は竹林一と言うんですけれども、この名刺を渡したら受付の女性が「これ、伸ばすんですか?」と言われて、「伸ばすって何かな」と思ったら、「これ、たけばやしーですか?」と言われて、そんなやつおらへんやろって。
でも、この漢字の「一」を見て「伸ばす」という発想が関西人ならではですね。それからは、「しーさん、しーさん、たけばやしーですか?」と言われて、オムロンの竹林とか、今、京大の客員教授もやっていますが、京大の竹林とかいうよりも、どっちかというと一般的には「しーさん」で通るようになってきました。
新規事業の立ち上げを経て、仕組みづくりへ
スライドに、僕の肩書きとして「エコシステム・デザイナー」と書いてあるんですけど、「何やねん」という話で。
僕自身は、もともとは絵が描きたかったんですね。美術のほうに行こうと思って、美大を受けるんですけれども見事に滑りまして。大学までは絵を描いていて、デッサンとかやっていたんですね。もう滑ったんで何とかして、どこか大学に行かなあかんということで、その時に選んだのがコンピューターです。
まだコンピューターがはしりの頃。ソフトウェアが出始めの頃です。その時に「これ、絵と一緒とちゃうか」と思ったんですよね。結局、絵を描くというのも、色を塗ったりするのは作業なんですけれども、どんなデザインをするのか、どんな絵を描くかという構想設計のところが非常に重要になってくる。
実はソフトウェアやシステムも、絵を描くことと一緒なんですよね。エンジニア時代も、事業としてどうプログラムの構造を描いていくのか。そのプログラムの構造がきれいだと、非常にいいソフトになってクレームも少ないんです。
その後、新規事業を立ち上げていったり、ソフトウェア会社の代表として経営をやったり、ヘルスケアの会社を立ち上げたり、経営、事業立ち上げ、新規事業ですね。新規事業だけじゃなくて、赤字会社の立て直しなどもやってきました。
この時に何を思ったかというと、経営や新規事業も絵を描くことと一緒やと。ビジネスをどうデザインするのか、ビジネスのアーキテクチャがきれいに書かれている事業は、早く成功するんですね。そういうことを学んでいきます。
ところが、しーさんも年になってきましたので、ビジネスを自分で立ち上げている時じゃないと思ったんですね。やはり、ビジネスを1つ立ち上げるのに3年かかる。あと、残りで3年で何個か立ち上げたって数個しか立ち上げられへんな。
そうなったときに、何を考えたかというと、企業内で新しいビジネスや新規事業が立ち上がる仕組みとか、ベンチャーが生まれ育つ仕組みはなんやというので、京大の中でもベンチャーがいかに育成されていくかというモデルの研究と実践とか、オムロンの中でも、若い人たちがどんどん新規事業を立ち上げるプラットフォームを立ち上げるとか、「エコシステムの構築」に取り組みはじめたんです。
あるいは、経団連のほうとかでも、いかに日本が勝つためのサプライチェーンとか、デジタルトランスフォーメーションをデザインするかが重要になってきており、そちらの委員もやらせていただいております。
大阪万博もPLL(People’s Living Lab促進会議)というものをやらせていただいていますけれども、2025年の万博でこ日本の社会構造をどうデザインするかが非常に重要になってきます。つまり、次の時代を創るエコシステム自体を作っていくことが重要だと思っています。
みなさんのように新規事業を立ち上げる人と、みなさんが新規事業を立ち上げやすい仕組みを作っていくことも、これからの企業や社会でものすごく大事になってきます。
イノベーションを起こすときは「軸」が重要
実はこのコロナで、なかなか家の外に出られないので、今まで講演やいろいろなところで自分自身がやってきたことを、まとめる時間が出てくるんですね。土日も外に出られへんから悶々としていたら、よく「イノベーション、イノベーション」というんですけれども、スライドの真ん中にある「風土」が非常に重要になってきます。
イノベーションをやるためには、コミュニケーションとモチベーションが必要になってくるんですね。この真ん中の絵のコミュニケーションとモチベーションがあるところにイノベーションが生まれて、ただ、ほんまにイノベーション起こそうとすると、コンフリクションが起こるんです。
例えば、今までとちゃうことをやるので、コンフリクションという組織間の葛藤などが起こりはじめて、この対処の方法を間違うと、梯子を外されたり、後ろから撃たれたりするんですね。ハレーションが起こって、「イノベーションなんかやめろ」と言われて怒られるという話ですよね。
まずはイノベーションの体系をお話させていただきます。「イノベーションを起こせ」というんですけど、軸が大切になってきます。どういう軸でイノベーションを起こすんやという、人間でいう背骨の部分ですね。それが非常に大切になってくる。
その風土と背骨の部分がわかってくると、あとはいつも僕がお話している起承転結の話ですね。「どんな人材がいんねん」というのが下の部分に書いてあります。どんな人材がいるかというと、クリエーションができる人材と、オペレーションがきっちりできる人材ですね。
じゃあ、そのクリエーションできる人材って、どんな思考プロセスで動いてんねんというのが、一番上に書いてある「思考プロセスのエフェクチュエーション」というもので、僕がこれから流行らせようとしている理論ですね。
右上に「しーチャンネル」と書いていますよね。重要なところにこのマークが入っていますので、このマークだけちょっと覚えておいてください。
イノベーションの5つの定義
じゃあ、イノベーションとはなんですかという話ですね。背骨の部分が非常に重要になってきます。会社の偉い人が来てよく、「イノベーション起こせ!」とか言わはるんですけど、そもそもイノベーションってなんですかという話ですね。
これ、今さらみなさんに聞けへんでしょ。「上の人にも聞けへんな」言うて。聞きにくいんですよ。なぜかというと、上の人も答えられへんとみんなが思っているからですね。
上の人も聞くと、「社長に聞くイノベーションと、役員に聞いたイノベーションと、部長に聞いたイノベーション、みんなちゃうこと言うてはるで」という話ですね。「ほな、何やったらええのやろ。わからんからやってるフリしとこか」という話ですね。そんなふうになっていませんかという話です。
僕もヘルケアの会社を立ち上げてから、いったんオムロンに戻ったんですけれども、その時に「オープンイノベーション」という話やったんですね。いや、オープンイノベーションってなんやねんという話です。オープンイノベーションの前に、まず「イノベーションってなんですか?」という話ですね。
わからへん時は、だいたいWikipediaで調べたらいいです。いっぱい教えてくれます。100年以上前ですね。1911年、オーストリアのシュンペーターさん。どう言うたかというと、「経済活動の中で生産手段や労働力などを、それまでと異なる方法で新結合すると定義した」と言うてはるんですね。
「新結合と定義したってなんですか?」という話です。ここにはポイントがあって、要は自分たちだけで考えていたってわからへんでという話です。だから、他所にあるもん、他所にあるアイデアと掛け算しておもろいことやってね、と言うてはるんです。ここだけの話ですけど、シュンペーターさん、関西人だったんですね。知らんけど。
シュンペーターさん、おもろいこと言うてはるんです。イノベーションには5つありますよと。1つは、新しい財貨(製品)を作りなさい。プロダクトイノベーション。これが新規事業ですね。「新しい商品や新しいサービス作ってね」と言うたのが1番目。
2番目が生産方式の導入。これもイノベーションさん。みんなイノベーションや言うと「新規事業を作らなあかんねん」と思うけど、シュンペーターさんは、生産方式の変更もその1つですよと。
3つ目は新しい販路の開拓、4つ目は原材料などを変えてもええよと言うてはるんですね。5つ目は、これはおもしろいですよね。新しい組織の実現もイノベーションやと言うてはるんです。ちょっと画期的ですよね。心理的安全性があって新しい提案やアイデアがどんどん出てくる組織を作ったら、それもイノベーションやと言うてはるんですよね。
だから、新規事業だけがイノベーションじゃなくて、実は今のビジネスの儲けどころの構造をちょっと変えるだけで、すごいイノベーションになるかもしれないんです。
ビジネスの賞味期限が切れてきた時代
僕がオムロンで一番おもしろいなと思っているイノベーションとして、よくお話していることがあります。オムロンでは、マネージャーになってから6年目で会社を3ヶ月休めるんですけど、みんなほぼ休みますね。マネージャーになってから6年目なので、部長クラスになった時に3ヶ月休める。
なぜそういう制度を作っているか。それは「もう1回、今やっている自分のビジネスの軸を考え直して」と言うてはるんです。軸を考え直して組織変革でもいいし、新しい生産方式でもいいし、新規事業でもいいし、軸を変えてねと言うてはるんですね。「そのために休んで考えてきてね」と言うてはります。
この時に僕も3ヶ月の休みをとりました。その時は東京にいて、自宅が京都(実際には京都の手前の南草津ですが以下京都)にあったので、東京から京都まで歩いて帰りながら、自分は何しようかとか、次の事業の軸って何やろなというのを考えるんですね。
こんな時間をきっちり取るというのも、組織のイノベーションなんですね。当然、イノベーションを起こせる人って、どんな人やろう? そんな人を雇う仕組みってどうやろう? というのもイノベーションの仕掛けなんです。
だから、総務であろうが人事であろうがイノベーションを起こせるんですね。その中でも特にビジネスを考えると、従来のビジネスの賞味期限が切れ始めてきたんですね。かつての軸上で考えていたビジネスの賞味期限が切れてきたんです。だから大変やという話ですね。
今のビジネスモデルが立ち上がってから、20年、30年、40年経っているんです。社会が変わってきているので、ビジネスモデルも変わってくるんですよね。
特にみなさん、こんなことを感じませんか? という話です。
昔はうどんを作った時に、うどんって新鮮でコリコリするなと言うてたんですけれども、10年も20年も経っていたら、うどんも腐り始めてくるんですね。「これなんか臭いがしているなぁ」言うて、上の人に「このビジネスモデル、ちょっと臭いがしていますよね」と言うたら、上の人が臭いを嗅いで「このぐらいやったら食べられる」言われてね。まだそのビジネスの延長線上でやっちゃうんです。
それでもまだ「なんかもっと臭いしてきましたよ」と言ったら、上の人がなんて言うかというと、「炊いとこうか」と、うどん炊くんですね。ほんで、「七味とか多めに入れておいたら臭い気にならへんやろ」言われて、「あ、ほんまですね。まだビジネスモデルいけますね」言うてね。
それでも腐ってきて、「ほんまにこれ、やばいんちゃいますか」と言うたら、上の人が「焼きうどんにしとこか」言うてね。ソースいっぱい掛けたら、「これで臭いせぇへんやろ」って。でも、いつか腐りますからね。それも、(このお話を)聞いていただく若い人たちの時に腐り始めるという話です。
もう僕らは、少々腐ったってたくさんものを食べられないので大丈夫なんです。だから、新規事業であろうが、みなさんが従来の軸からやり方を変えていかなあかんのですね。