2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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司会者:お待たせいたしました。これより、スペシャルセッション:ウィズ/アフターCOVID-19の「人間の安全保障」と「平和×ビジネス×SDGs」を始めさせていただきます。モデレーターは慶応義塾大学総合政策学部教授、神保謙様。パネリストは慶應義塾大学環境情報学部教授、ヤフー株式会社チーフストラテジーオフィサー、安宅和人様。武蔵野大学客員教授、川口順子様。三井住友銀行頭取CEO、髙島誠様。そして広島県知事、湯崎英彦です。
それではここからは、神保様にモデレーターをお任せしたいと思います。よろしくお願いいたします。
神保謙氏(以下、神保):はい、よろしくお願いいたします。それではこれから、スペシャルセッション:ウィズ/アフターCOVID-19の「人間の安全保障」と「平和×ビジネス×SDGs」を始めたいと思います。私はこのセッションのモデレーターを務めます、慶應義塾大学総合政策学部の神保と申します。国際安全保障論を専門分野としております。本日はどうぞ、よろしくお願いいたします。
このスペシャルセッションでは、これまで開催された3つのセッションを踏まえまして、戦後75年間の世界の危機と経済人との関わりを総括し、今後の25年間に向けて我々が何を指針として、プリンシプルとして考え、そして行動すべきかということを議論していきたいと思っております。若干、壮大なテーマではありますけれども、このテーマを扱うにふさわしい優れたパネリストを本日はお招きしております。後ほど議論に入る際に、私から紹介させていただこうと思います。
さて、今から75年前の1945年8月に広島、そして長崎に原爆が投下されて、8月15日に終戦を迎えたわけであります。第二次世界大戦が終わってからの75年間に、世界は目覚ましい成長と発展を遂げたわけですけれども、同時に多くの安全保障上の危機に直面し、あるいは世界的な課題を抱えて、今日に至っているわけです。
この75年間をざっくりと3つの時期に分けますと、25年ずつになるわけですけれども。最初の25年、すなわち1945年から1970年までは、世界的に戦後復興の時代と言えると思います。同時に米ソ冷戦が熾烈化する中で、原爆の投下から25年が経った1970年に、ようやく世界的な核兵器を管理する枠組みである核不拡散条約、NPT条約が締結されたと。こういう25年間だったと思います。
次の25年間、1970年から1995年までをざくっと振り返ってみますと、これは高度成長と、そして先進国・G7を主導とする秩序形成期だったと言えるんだと思います。この期間には、いわばリベラル・デモクラシーが世界的に広がって、その過程の中で冷戦が崩壊していくわけですけれども、それ自体もやはり自由で開かれた秩序の勝利だと受け止められたわけですよね。
この節目となる1995年ですけれども、日本では阪神淡路大震災に見舞われて。日本社会の中で大規模災害に対する大変大きな衝撃を経験したわけですし、また同年8月には戦後50年の村山談話が発表されて、日本人としての戦争の向き合い方を50年間にわたり総括した年であったと思います。
そして最後の、現在につながる25年。95年から2020年までですけれども、これはポスト冷戦と、そして新興国。新たに台頭する国が秩序を変えていく時代だったと思います。一方では国連のミレニアム開発目標という、今日のSDGsにつながる開発目標ですけれども。ここにいろんな課題が投げかけられて、多くの目標が実は達成の方向に向かっていったわけです。例えば世界の貧困とか、格差とかですね。医療とか医療水準とか、こういったことに対して明るい兆しが見いだせた期間である。
一方で台頭してくる新興国が、必ずしもこのリベラル・デモクラシーを直線的に求めたわけではなくて。インターネットなど新たなテクノロジーを得て、効率的な社会監視を実践するような、こういった動きも出た新たな25年だったと思うわけでございます。
こうした歴史の物語、さまざまな物語があるわけですけれども、それぞれのお立場からこの75年の歴史をどう総括していくのか。そして今後の25年をどう想像していくのかというお話を、このセッションでは聞いてみたいと思っているわけでございます。
前置きが若干長くなりましたが、このセッションの議論の流れですけれども、大きく分けて3つの課題をみなさんに議論していただこうと思っています。まずはなんといっても、今日の我々が直面している新型コロナウイルスとグローバルパンデミックが、とりわけ人間の安全保障といった概念にどういった影響を与えているのか、ということをみなさんに聞いてみたいと思います。
そして2番目に、このセッションの大きなテーマでもあります、戦後70年間の歴史と経済人との関わりについて。そして3番目にですね、今後25年間を考える際の、経済人に求められる役割と行動について聞いていきたいと思っております。よろしくお願いいたします。
神保:それではお待たせいたしました。まず最初にご紹介するのは、慶應義塾大学環境情報学部で、ヤフー株式会社CSOの安宅和人さんです。まず安宅さんから見て、このコロナとグローバルパンデミックによって、世界の経済と社会がどう変化したと考えているかということを、お伺いしたいと思います。安宅さん、よろしくお願いいたします。
安宅和人氏(以下、安宅):ご紹介ありがとうございます。
簡単に私の全体観の感覚を申し上げたいと。これ年末の雑誌の表紙なんですけども、グレタ(・トゥンベリ)さんが「このままいったらこの星はヤバくなる」という話をされてる一方で、日本はオリンピックのことでウキウキしてたわけですが。3ヶ月後にはこうなってしまって、5月はこんな感じで、今はこうと。世界中、金だくだくで大丈夫? みたいな感じなわけです。
まずコロナが、どんな感じで当面見越しているかということについては、みなさんご案内のとおり。基本的には特効薬ができない限りは集団免疫しかなくて、集団免疫はワクチンができるか自然感染しかない、ということで。
集団免疫のターゲットですけども、はしかの場合は9割必要だったんです。はしかはCOVIDの比じゃない、1割以上人が死ぬわけですけど、今回の場合たぶん6~7割だと思いますけれども。中国の例を見ても、抑えても抑えても跳ね上がるように、結局、集団免疫がやっぱりいると。ということで100年前同様に数年はかかるんじゃないか、と推定されます。
なのでアフターコロナも大事なんですけども、当面ですね、好むと好まざるとに関わらず、Withコロナ的な状況が続くという見解です。ただこれは、そんなに人類史的には珍しいことじゃなくて。これは前のセッションでも五百旗頭(真)先生がおっしゃってましたが、飢饉と疫病と戦争で人間が死んできたと(ユヴァル・ノア・)ハラリ氏が言うとおり、人類の最大死因は常に疫病だったわけで。100年前もヨーロッパの7人に1人は結核で死んでましたし、戦争が終わったときの日本の死因第一筆頭は結核で、実はこの間にまたスペイン風邪とかがあったわけで。元に戻っただけだ、という見方がなくはない。
ただマクロ的に見れば、これもハラリ氏の本に出てくる話ですけども、地球上の大型生物は人間と家畜で9割を超しているわけで、野生動物に接する割合が高まれば高まるほど、我々が野生動物から病気をもらってしまう。今回のやつ(新型コロナウイルス)もコウモリから来たと言われてますし、もう300万人ぐらい死んだんじゃないかと言われてるエイズも、もともとは猿のSIVがHIVに変わってやってきたということで。人類と環境の衝突が続く限り、この伝播は続くという見解です。
この40~50年を振り返っても、人類が知らなかったエボラとかデング熱とか、ウエストナイル・フィーバーとか、謎の病気が山のようにやってきたわけで。ここからもうガンガンくる、という見解。
地球上の温暖化は先ほどのグレタさんの言うとおり、確かに劇的な勢いで進んでて。昨年も真夏にメキシコで2メートルのひょうが降ったり、ヨーロッパは40度とかになっちゃったわけで。日本の2100年の予想は90メートルの台風が来ることになってますし、作った環境省の人によるとこれはコンサバな予想ってことなんで。90メートルって今の日本の家のほとんどが吹っ飛ぶんですけども、とにかく街も家も作り直してる未来が待ち構えてるわけで。
このままいったら地球が、そもそも経済成長の前にもたないということが、これ以上ないほど突き付けられていると。そういうことが今のCOVIDの背景にあると思います。なので地球善とヒト善の交点でしか、もはや経済活動の意味がないという、とんでもない時代に来てしまったということが、今の人類に突き付けられている大きな課題である……というのが基本見解です。
安宅:で、どういうことが必要なのかということなんですけれども。そもそもCOVIDを止めるっていうこともあるんですけども、社会システムをどうやって止めずに回すかっていうことであり、OS的な電気とかガスとか水道とか食料供給みたいなものをどう止めないかっていう話もあり。お金のキャッシュフローは家庭でも企業体でも超絶に重要で。
あと実は行政的にはこれが大問題なわけですけども、プリルーリングというか、事前に起こることを見越してルールを作るという社会では、今みたいな不連続な変化には対応できないということで、これをどういうふうにアジャイルに対応するかというのが大問題だと思います。
この目先で止血的な問題とかもあるんですが、たぶんこの会議にふさわしい、考えなきゃいけないことは、今起きているこの変化に則して、どういうふうに系を作り直すかなんじゃないかと思います。
これまでの社会は、基本的にこういう美しい所は日本では廃村に向かってて、実はこれはヨーロッパであろうとアメリカであろうと同じ問題が起きていて、ひたすら都市に人が向かってきた。いわゆる都市化ですよね。ずーっと「密×密」のところに向かってきたところに今のCOVIDが来ていて、密閉よりも開放のほうが明らかに衛生的にはメイクセンスであり、高密度よりも疎のほうが良く、接触よりも非接触のほうが良く、モノよりヒトが動く社会からヒトよりモノが動く社会に向かうという強いトレンドが、全世界的に来てるんだと思います。
そういう意味で見ると、先ほどの密×密に向かう都市化とは若干以上に逆向きの、開放×疎という意味で「開疎化」というべき、Open&Sparseのトレンドが来てるんじゃないかと私は思っています。
ただ都市化が止まるわけではないので、その都市に集中してきた、密閉×密のところにオフィスとかレストランとか楽しいものはずっとあって。ここにおそらくGDPの8割ぐらいはあるんじゃないかと思いますけども、ここの空間をどうやって開放×疎にしていくかというのが、一つ問われている。
コンサートホールとかは本当に屋外とかにしていくべきなんじゃないかと思われますし、実際、開放空間で開疎なところはクリーンなので。そこに入るときにどうやって清めるかということもあり、どうやって密×密のときに防御していくかという話もある。
安宅:で、個別のところで見れば抗体状況の可視化みたいな話もあるし、土をたぶん都市文明は増やさざるを得ないと推定します。土がある程度あれば特定の病原体が激増することはないわけで、それが大事ということであり。あらゆる空間、これは日本に限らず世界中どこでも、Withコロナ状態に適してるかどうかで空間の評価が起きる時代が来るんじゃないかと思われる。
またセンサーデータをどのように利活用するかは、もはや人類にとっての死活問題になりつつあって、これをどのように考えるかが今問われてるというのは、グローバル課題だと思います。
土の話はちょっと割愛しますが、例えば「100メートル四方に何人ぐらい人がいるか」みたいなことをメガデータ的にカウントできるんですけれども。そういうのを使うとずーっと人は減ってきたことがわかるんですが、このデータと実行再生産数を掛け合わせると、だいたい「人の密度がどこを超したら跳ね上がるか」みたいなことが実はわかりまして。(スライドを指して)これはヤフーの研究データですけれども、こういったことからもデータの利活用の重要性がわかると思います。
また社会全体のシステム的には、あらゆる産業やサービスを先ほどの開疎的な条件下において再定義せざるを得ず、働く環境であったり生活の仕方も今、再定義されてる途中で。日本は今、デジタルトランスフォーメーションで騒いでますけれども、あれは単なる表面の一角であって、もっと本質的な変化だと思います。
で、価値移動は当然、非接触のほうが良く。モノのほうがガンガン運ばれる社会に合わせて、デリバリーシステムも刷新されなければいけないですし。(スライドを指して)この4番目はたぶん間もなく世界課題になると思うんですけども、今のCOVIDの広がり方というのは世界的に時差があるわけですよね。そこの時差のことを考えると、食料・エネルギーとか資源とかをどのように回し続けるかというのは、世界経済上クリティカル中のクリティカルな課題だと思います。
お金の話は国が考えればいいとはいえ、国も企業もスケールよりも「変えている感」であり「より良い未来を生み出せている感」がなければ、たぶん評価されない時代に向かっておりですね。ルール作りは国内外ともにアジャイルに回さざるを得ず、学び合うような仕組みがいるだろう。
ということで、我々はどういう未来を残していったらいいのかが問われてるんじゃないかなと考えています。ちょっと駆け足になりましたが、以上です。ありがとうございます。
神保:ありがとうございました。冒頭発言にふさわしい、非常に包括的な視点をご提供いただきました。いくつかキーワードがあって「地球善」と「人の善」の重ね合いを考えなきゃいけない、と。で、Withコロナの社会において、都市空間、働き方、そして生活空間それぞれが、Withコロナを前提としたかたちで組み換えて考えられていくべきだ、ということが語られたと思います。
神保:次にご紹介したいのは、広島県ご出身で三井住友銀行頭取CEOの髙島誠さんです。髙島さんはグローバルな金融市場のまさに最前線でご活躍されているわけですけれども、この金融の世界から見てコロナ問題をどう捉えられているのか。いかなる影響を与えているのかということを、ぜひ伺いたいと思います。髙島さん、よろしくお願いいたします。
髙島誠氏(以下、髙島):はい、三井住友銀行の髙島でございます。本日はこのような光栄な場にお招きいただきまして、本当にありがとうございます。今、ご紹介いただきましたとおり、たまたま私が広島出身ということで湯崎知事からお声がけをいただいて。分不相応でございますけども、この場に呼んでいただいたということでございます。楽しみにしてまいりました。よろしくお願いいたします。
今、安宅先生から素晴らしく包括的で、非常にディープな全体観をお話いただいたところで、私がそれに付け加えることはなかなか難しいんですけども。私から若干、ミクロな観点。国際金融というよりはミクロの、企業経営の観点から、今、私が感じていることについて申し上げたいと思います。
結論は期せずしまして、まさに安宅先生が包括的にマクロの観点でおっしゃったことと、基本的に同じことを私は感じているということでございます。すなわちこのWithコロナ、先生がおっしゃったとおり私も、残念ながらしばらく続いていく、比較的長期的な課題であると。これは間違いないと感じます。これは私どもの国際的金融機関の間でいろんな意見交換をしたり、我々自身のサイエンティスト・エコノミストの見解を合わせてみましても、やはりそれはもう不可避だということでございます。
同時に、私どもは世界中にいろんなお客様がいらっしゃって、その企業のお客様とのお話の中でもやはり同じような、長期的かつ非常に大きな変化にさらされているという認識では、一致しているのではなかろうかと思います。
髙島:しかし、それじゃあ何が個々の企業活動、これは個々の金融機関の活動という面でもそうなんですけども、何が変わってきてるのかということで個々に話をしていきますと……結局はこのコロナがあろうがなかろうが、もともとずっと我々が直面している国際的・社会的・構造的な課題が、いわば一気にスピード感をもって押し寄せてきていると。そう感じておられるというのが、私が感じるところでは一貫した認識ではなかろうかと思います。
すなわち、デジタルトランスフォーメーションとか、日本はデジタル化が遅れてるとか、いろんなことを今言われております。それぞれすべて正しい。しかし根底にあります、そもそもの地球の環境問題ですね。地球全部の話。それからいわゆる少子高齢化の問題。で、先ほど安宅先生もおっしゃいましたけど、地方の問題ですね。こういったものは、実は今までもずっとみんなわかってたわけですね。その中で各企業がどういう戦略をとるべきか、それを考えていくというのがビジネスの鉄則なわけですが。
なんだかんだ言いながら、2年前までは世界経済、非常に好調だったわけですね。したがって「まぁ今なにかやらなくてもいいか」と思ってたら、このコロナ危機が来てしまった。というのが個々の経営者、これは私も含めてなんですけども、まさに感じていることのすべてなんじゃないかと思います。
したがって、いかにスピード感をもって自らの経営課題に対応していくか。もっと言いますと、それは最終的には国際社会、あるいは日本の国内においても、いろんな社会課題に対して「民間として、どういう解を出した上でビジネスを持続的なものとしていくか」が問われている。……というのが今、私が感じております、まさしくWithコロナの課題あるいは変化と言っていいんじゃないかと思います。私からは以上とさせていただきます。
神保:髙島誠さん、ありがとうございました。私ども国際政治の世界でも、コロナが国際政治の構造をなにか一変させたというわけではなくて、それまであった課題がまさにタイムマシンのように、一気に加速したということをよく議論するわけですけれども。まさに同じようなテーマで、この企業経営や金融の世界を見られているということがわかって、大変興味深いご見解でございました。
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