待ち時間を短くするメリットより、デメリットが大きい

中山祐次郎氏(以下、中山):そうですね。僕は病院での待ち時間の問題が改善しない最も根本的な理由として、この間1つ思ったことは、この問題が改善してもしなくても、病院にとってはあまりメリットにならないんですよ。ひどい話なんですけれども。

例えば飲食店だったら、そんなに待たされるラーメン屋に誰も行かなくなるじゃないですか。行かなくなるとつぶれるので、それはメリットが直接影響すると思うんですけど、病院は待ち時間が長くなるから行かなくなることがあまりないですよね。

矢方美紀氏(以下、矢方):そうですよね。

中山:もともとそういう性質のところじゃないですか。かつ、待ち時間を短くするような取り組みをいろいろやると、病院は基本的にすごく経営がきついところが多いので、さらに余計にお金がかかってしまう。お金をかけない方法があるのかもしれないですけど、医者を増やすのが手っ取り早い方法だと思うんですけど、それにはお金がかかっちゃって。

そこにかけるだけのお金がないというところで、改善してもメリットがないし、お金がかかるというデメリットがあるところがすごく問題だと思うので。何か待ち時間が短くなるようなメリットもたぶん国が考えるとか、そういう仕組みでやらないとだめなのかなと最近はちょっと思っています。という人のせいにしました(笑)。そんな感じです。

矢方:うちの先生は本当に丁寧に診られる方だったので、「あー、今日13時からか」と思って待っていたら、16時半とかいう(笑)。

中山:マジっすか! 13時からで16時半!? 

矢方:そう、それがざらですね。本当に15分ぐらいとか、40分待ちとか、「あ、40分で今日は入れるんだ」という感じで行きます。

中山:ああ、そうですか。じゃあ、よほど丁寧に話をするかということですか? 

矢方:そう、すごく丁寧に。

お医者さんも患者さんの本音を聞きたがっている

中山:へー。あと、ちょっと病院的な裏話を1つすると、乳腺の病気の患者さんは、精神的に難しい気持ちになることが多いと思うんですよね。例えば乳がんとか、けっこう若い女性の患者さんが多いんですよ。

矢方:多いです。

中山:だとするとやっぱり、すごく懇切丁寧な説明が必要になる印象を持っていて。僕は昔、乳がんの治療もしていたので、こっち(医師)側の気持ちの入り方も違うと思うんですよね。なんとなく倍ぐらい時間をかけて説明するようなイメージですね。

僕はいろんな患者さんを診療しているんですけれども、患者さんによって生き方も考え方もぜんぜん違っていて、その違いを細かく把握していきたいといつも思いました。けれども、それはけっこう難しくて。全員が全員同じ治療をすればいいものでもないので、「この副作用だけは耐えられない」とか、「お金の面でこれだけは嫌だ」といったものって、すごくいろいろあると思うんですね。

ただ医者に言ってくださる人ってすごく少なくて。僕ら医者からすると、こっちから尋ねるとちょっと教えてくれるぐらいの感覚なんですよね。どんなふうにしたら、そういうことをもっといろいろ教えてもらえるのかなといつも悩んでいて。そういう雰囲気作りみたいなものがあるのかな、どうなんだろうなといつも悩んでおります。

特に重たい話のときですね。「がんがここから出てきちゃった(再発しちゃった)」とか「治療はどうしましょう」とか、あるいは「もう、ちょっと治らないかもしれない」といったときなんですけど。どうすれば患者さんの本音が聞けるのかということですかね。

矢方:自分の場合は、もしそうやって今後よくない結果になったとして、最初は戸惑いもあるし、せっかく治療して良くなってきたのに、そこでまた1からやらなきゃいけないのかなとすごく不安になるとは思うんですけど。

私の場合は、今の担当をしてくださっている先生がそう伝えてくれたとしたら、いったん納得をして、治療でまた抗がん剤をしなきゃいけなかったらしようかなというふうには、今もずっと思っていますね。それに関しては仕方ないし、誰が悪いということもないと思うんです。

医師と患者のコミュニケーションの難しさ

矢方:いろんな患者さんとコミュニケーションをとると、「先生にこういうことを言ったんだよね」と言う子って、やっぱりいなくて。逆に「こういうふうに思っていて、患者同士にしかしゃべれない」という方が多いなと思います。

中山:患者さんのブログなどを見ると、「そういうものって医者には届かないよな」とか、「僕らの声は聞こえないよな」ということがすごく書いてあって。患者さんのブログってたくさんあるじゃないですか。よく見るんですけど、診察室で伺うこととぜんぜん違うなと思うんです。

矢方:今、SNSが普通に個人でやりやすくなった時代というのもあって、私自身もTwitterを見ているときに、たまにフォローしてくださっている方のプロフィールに飛んでみると、やっぱり「乳がんの治療中です」という方がすごくたくさんいて、自分の治療の経過などを綴っている方がすごく多かったんですよね。

ただ、そこに先生という登場人物があまりいなくて。最初に告知をしたり、治療や経過観察などは先生がしてくれると思うんですけど、悩みなどを先生に相談しに行って何か言ったという人があんまりいないなと思って。

本当にみなさん、患者さん同士でコミュニケーションをとって、そこでなんとか問題を解決しようとしている方が多いなと思います。

中山:なるほど。正直、僕ら医者側も、じゃあ悩みを聞いたら何かできるのかといったら、難しいこともあります。しかも、僕らは当事者じゃないんですね。僕はがんの治療をしているけど、がんになったことはないので、そういう意味では患者さんの悩みや気持ちを受け止められるかといったら、そうではない側面があって。

そこらへんはずっと悩ましいところです。だから、僕は最終的には患者さんの気持ちはわからないと思っていて。悲しい話ですけれども、100パーセントわかることはないんだろうと思っていて。その……。

矢方:10人いたら10通りで、全部違いますもんね。

中山:ええ。言い訳じみていますけれども、その距離を保てるからこそ、一番いい治療ができるのかなというふうにも最近は思います。

「病院イコール異世界」

矢方:うん。私は今、こうやって祐次郎先生とのコミュニケーションの場があると思うんですけど、もしそれがなくて、芸能の仕事もしていなくて、先生と病院でしかコミュニケーションをとれないとしたら、先生のことを気軽に話せるという目線で見られないと思うんです。

やっぱりちょっと遠い存在に見えちゃうかもしれない。勝手に自分の中でランクを作っちゃったりしているかもしれない。私の場合は、病気をして病院に行くことが増えたりしたけど、その前は病院に行くイコール異空間というイメージがすごくあった。異世界に行っちゃうみたいな。

中山:あー。病院自体がもうすでに。

矢方:そこで働いている方と私は別世界なんだというふうに、すごく距離を感じていたので、逆に今ずっと通院をしていくと、「あ、これってただの思い込みだったな」と。先生も普通に質問すれば返してくれるし、他愛のない会話じゃないですけど、同じ人なので普通に日常的なこともやっているし、先生も人間じゃんと思えたので。

中山:慣れてきたという感じですか? 

矢方:接する回数がだんだん増えてきて、自分自身のことをちゃんと理解してくれているんだなというのをわかってきたので。

中山:うん。病院ってやっぱり、そういう“特殊な場所感”が強いなと。白い壁だったり、白衣だったり、なんだかみんな若干感じ悪かったりという感じなんですよね。

矢方:ドラマの世界って、そういうイメージが強いですよね。医療って、テレビで見る世界のようなイメージがあります。普通に生活していて、スーパーに白衣を着た先生なんか絶対いないじゃないですか。

中山:(笑)。確かに。

矢方:今までなんだか、病院でしか出会えない人類というふうに、すごく大きく見ちゃっていますかね。

コミュニケーションのエラーをなくしていきたい

中山:そうですね、なるほど。やっぱり、その何とも言えない壁を僕は破壊したいと思っていて。僕はコミュニケーションをもっと良くするために「怖くて聞けない」とか、「医者が面倒で言っていない」という、しょうもないエラーを減らしたいなとずっと思っているので、『医者の本音』という本を書いてみたり、いろんな活動をしているんですけれども。

医者の本音 (SB新書)

今日はいろんなお話を聞かせていただいて、ありがとうございました。4回目の矢方さんとのお話で、またさらに矢方さんの理解が深まったような気がしています。

矢方:わー、うれしい。でも、今までいろんな場所やイベントでお話をさせていただいたりしているんですけど、今日は本当に本音という部分では一番お話ししたなと思いました。

たぶん、一番最初にお会いして「じゃあこうやって、本音でお話ししましょう」というときには、きっと出てこなかったこともあったと思うんです。だけど、1年2年と先生といろいろなコミュニケーションをしていく中で、先生という人物像がわかってきたとこともありますね。

あとは、作品として先生が本を書いていたり、たぶんこれぐらいしゃべっても先生はきっと返してくれるぞということが見えてきたというか。自分の中でいい具合に壁がなくなったというのもあって、すごくたくさん本音を出すことができました。

中山:ありがとうございます。これからもずっと、お仕事も生活もなんでも応援していきますので、がんばってください。

矢方:ありがとうございました。がんばります! 

中山:僕もがんばります。じゃあ、一応今日はこれでおしまいということで。矢方さん、ありがとうございました。

矢方:ありがとうございました。

(場面転換)

お互いに心から「ありがとう」と思える関係に

矢方:はい。ということで今回は、先生と直接会わずに対談というかたちだったんですが、今までいろいろな先生とお話をしてきたり、収録や現場でお会いしたことはたくさんあるんですけれども、その中でも特に自分の中の考えが変わった瞬間に祐次郎先生がいたことがすごく多くて。

一番最初の先生からの質問で、Yahoo!ニュースになった恋愛のことって、自分の中ですごく悩んでいたんですよね。もし恋をするとして、今後どうやって向き合えばいいんだろうと思ったときに、祐次郎先生がその相談もしてくれたことで、自分の中で前向きになれたと勝手に思っていました。

今もこうやって福島県と愛知県という、すごく離れたところでの本音についての会話だったんですけど、自分の中の気持ちというのは、人によってはたぶん多少、「私はそう思わないな」ということはきっとあると思うんですけど。

私は本当に先生と出会って、先生の本を読んだりして、やっぱり先生と患者も人と人なので、そこの対話はちゃんと考えて発言して、お互いが心から「ありがとう」と思えるような関係になりたいなと考えるようになりました。

(場面転換)

中山:矢方美紀さんとお話をさせていただいたのは、今日で4回目になりますけれども。僕は「病気のことばかり伺ってしまって申し訳ないな」と思いながらも、毎回毎回彼女は僕に勇気をくれるような、はつらつさと元気さでお話をしてくれます。

今日もきっと話したくないこととか、ちょっとつらかった思い出もたくさんあったと思うんですけど、そういうこともすごく元気よくお話ししてくれて、申し訳ない気持ちと共にありがたいなと思いました。

こういったお話を伺って、カンニングをするようにして、患者さんの思いを聞くことができるようになって、もっといい医療につなげていきたいなというふうに、今日も確信しました。

いつもながら、かわいらしい感じでお話ししてくれてありがとうございました。またよろしくお願いします。