患者さんが言わなくても医師にはわかってしまうこと

浅生鴨氏(以下、浅生):実は今日、ほむほむ(堀向)先生からも、SNSの達人のお二人にぜひお答えいただきたい問題があるんですけれども。ほむほむ先生にご用意していただいたのがこれですね。

堀向健太氏(以下、堀向):重いものからライトなものまであったんですけど、中間くらいのを用意させていただきましたので(笑)。これはあくまで質問です。

外来で患者さんとお話していて、「こういった治療をお願いしますね」「がんばります」といったかたちでお持ち帰りいただいて。次の外来でお話をするときに、治療がどれくらいうまくいくかというのはある程度予想がつくんですけど。

私はアトピー性皮膚炎の患者さんを見ることが多いので、触診したりすると、朝いつ頃どれくらいの量の薬を塗ったかがだいたいわかるんですね。だから、「今日の朝はきっと塗らなかったんだな。もしくは、洗って塗るという治療だとしても、うまく洗えていなかったんだな」ということがわかるときがあります。

もちろん患者さんはすごくがんばっています。がんばっているのは間違いないと思っているんですけど。「がんばっています。でも、うまくいかないんです」と。そこで私たちが考えていることと患者さんが考えていることに、ズレが出てくることになります。

それを医者としては見抜けるときがあるんです。でも僕は、患者さんが僕に話をしづらかったんだと思うことにしています。

そのときにどういうふうにインフォメーションをすれば、患者さん側が自分に話をしてくださるのか。もしくは治療がうまくいくのか。そこで悩むことがあるんです。これって「短い言葉でどう伝えるか」ということがすごくインパクトあるんだろうと思っていて。もしくは先ほどシャープさんがおっしゃったように、長く話を続けていくことで話を伝えていく手法もあると思うんですけど。

どんな手法をすると患者さんにそういったことを伝えられて「治療している」「でも治療してないんじゃないか」というところをうまくやっていけるのか、調整できるかどうか。そういったことを聞いてみたいと思っていました。いきなりちょっと難しい質問で……ごめんなさい(笑)。

浅生:なかなかシビアな。中級というよりはかなり上級の気もしますが。

「お医者さんに怒られたくない」という患者側の気持ち

シャープ株式会社の公式アカウントの中の人(以下、シャープ):端的に言うと、「患者さんがちょっとした嘘を取り繕っているんだけれども、お医者さんはそれはお見通しだぞ」という?

堀向:そういうことが起こり得るということです。でも、それが嘘だと言いたいわけではないんです。そこにコミュニケーションエラーが発生しているんじゃないかなと思っていて。短い外来でどういうふうに伝えると、次につながるのかなと思っています。

シャープ:たぶんですけど、僕も例えば歯医者とかに行って「どれくらい手入れしてますか?」と聞かれて、本当は2週間に1回くらいしかしていないのに「毎週やってます」って、ちょっと嘘をつくというか、取り繕ってしまうんですよね。

そのときのことを思い出すと、たぶん「ちょっといい格好をしたい」という気持ちが僕の中に芽生えている。あるいは、やれと言われたことがちゃんとできていないことを自分が認識しているから、ちょっと怒られるんじゃないかなという気持ちがあると思うんですよね。

もちろん、それはお医者さんに対する信頼がないわけではないと僕は思うんですけど。こちらにある種のやましさがあるから、ついつい身構えてしまうというところがある。ものすごく乱暴に言うと、僕らがお医者さんに怒られないという経験を積むと、おのずと改善するような気もします。

アトピーって同じお医者さんと比較的長くお付き合いすると思うので、「あ、私は怒られないんだ」という経験を積めるチャンスは比較的高い気がしています。

堀向:そうですよね。そういうふうに思うことが多くて。例えば「朝はちょっと忙しくてできていません」というお話を受けたときに、「正直に言ってくださってありがとうございます」という話をすることが多いんです。

ただその先に、逆に今度は「最終的にどこを目標にするのか」という話をすることになります。最近は、「ステロイド軟膏といったものを減らしていって、お肌がいい状態になっていくことが目標なんですよね。そのためにはやっぱり朝もしたほうがいいと思うんですけど、どうでしょうか?」という話をするように気を付けることが増えてきました。

結局、自分がやっていることは誰かに教えてもらってやっているわけではなくて、どれがいいんだろうというふうに手探りなんですよね。たぶんコミュニケーションってそういうところがあって、今すごく難しいなぁと思いながらやっている分、ほかの人の意見が聞きたい。そんな感じがします。

印象や信頼は積み重ねていくことができる

シャープ:堀向先生に対する信頼とはちょっと違うかもしれないんですけど、人に対する印象というものは積み上がっていきますよね。結局、僕らがSNSでやっていることにもちょっと通じるなと思ったのは、要するに「誰が言うか」ということが1つ大きいと思うんです。「あなたの話は信用する」とか、「あなたの話は聞いてあげよう」と思われる人になれば、どんどん伝わるようになると僕は思っていて。

そこに至るまでに、ある程度時間とかトライアンドエラーがいるんだなといういうことは、僕も毎日ツイートすることで実感していることなんです。ですから、1回目でちょっとうまくいかなかったというのは、僕はわりと当然だと思っているんです。

夏風邪をひいて病院に行くのとはまた別だと思います。複数回のコミュニケーションが取れるお医者さんの場合は、どんどん挽回していけるというか。自然とベターな方向に向かっていけるんじゃないかなということが1つあります。

浅生:時間をかけて積み上げていくというのは、さっきシャープさんが長くTwitterでおしゃべりをしているとおっしゃっていたのもそうですし。堀向先生も時間をかけて構築していくものというふうにおっしゃっていました。時間をかけることの大事さについては、タニタさんはどうですか?

長く付き合うことでお医者さんの人となりが伝わっていく

株式会社タニタの公式アカウントの中の人(以下、タニタ):今おっしゃっていたパワーワードというか、短い言葉で伝えるというのもすごくキーワードなんですけど。たぶん医療でのコミュニケーションはそういうことではないのかなという気もしています。継続して時間をかけてやっていくことで、自分がどういう人間かというところをとりあえずさらけ出していくとか。そういったところから抵抗がなくなっていくのかなという印象もありますし。

やっぱり時間をかけつつ、攻略と言ったらおかしいんですけど、(患者さんも)人それぞれ個別でまた違うと思うので、そこがたぶんこちら(お医者さん)側が次に試されてしまうところなのかなと思います。

浅生:Twitterのユーザーとアカウントの関係も、長く付き合うという感覚がどこかに出てくるじゃないですか。全員が覚えているわけではないにしても、なんとなくフォロワーとアカウントとのコミュニケーションの場が生まれて、「このアカウントとは付き合いが長いね」という感覚が出てきたり、「こういうことを言ってくる人とは付き合いが長いね」とか。

それがたぶん医療でも同じ……。このイベントのファーストセッションで「最初の出会いの瞬間のイメージがすごく大事だ」とおっしゃっていたんですけれど。そこからどう変えていくかは、やっぱり時間のなせる技なのかなぁという印象を受けていますね。

堀向:おっしゃるとおりだと思います。最初のセッションでファーストコンタクトの話が出たので、今度は積み上げの話がシャープさんから出て、そのあとこの質問を書いたんです。そういった意味ではすごく示唆に富むというか、すごくいいお話だったなぁと思っています。

「誰が言うか」と「誰から伝わるか」が大切

シャープ:あともう1つは、「誰が言うか」ということと、「誰から伝わるか」というのがたぶんけっこう大事だと思っていて。それは何かと言うと、堀向先生が「僕は怖くない先生なんだよ!」と自分で言っても、それは「あ、そうですか」という話ですよね。だけど例えば、ぜんぜん違う人から「あの先生は優しいんだよ」という話を聞くと、途端に「あ、そうなのか!」というふうに、印象が変わりますよね。

それって、SNSでみんながシェアしたりリツイートしたりしている状態と一緒で、自分が言うんじゃなくて、他人の口を経由して伝わっていったほうが、実は信頼性が増すという側面がコミュニケーションにはあると思うので。

乱暴に言いますけれども、例えばお医者さんの診察のあとで、会計をする受付の方に「あの先生、優しいでしょ」と一言言われたら、僕は次の日からめちゃくちゃ「あの先生は優しい」という印象になる。そのお医者さんの人となりが、本人以外のところから目に入るような仕組みが病院の中にあると、僕はより敷居が下がるような気はします。

堀向:そうですよね。そういった意味では今、事務さんにすごくお世話になってる感じがします。事務さんが「あの先生は待ち時間長いよ」と言ってくれるとか。

シャープ:そうそう。

堀向:この間、事務さんと話をしていて、「先生も患者さんとコミュニケーションがうまくいかないときがあるんだぁ」というふうに言われることがあったり。医療に関係している方々はたくさんいらっしゃって。厳しいことを言う人もいるんじゃないかという話もありましたが、実際のところはいろんなところで支えてもらっていて、僕がうまくしゃべれなかったときとか、うまくコミュニケーションができなかったときにサッと入ってくれる看護師さんもたくさんいらっしゃって。

シャープ:あ、わかります。わかります。

堀向:そういった方々がいらっしゃるからうまくいっているということが、現場としてあるなと思っています。僕もまだまだコミュニケーションがうまくないので。確かにそういった場面が多くあるなと思ってます。

シャープ:あと、ほむほむ先生のツイッターアカウントによって、ほむほむ先生がいかに優しいかということは伝わりますよね。たぶん、自分自身が(リアルに対面して)言うよりは、実はソーシャルアカウントがあることによって少し迂回することで、世の中の人とやさしめのコミュニケーションが取れる接点になる可能性はあると思います。

体重計に乗りたくない気持ちを変えるコミュニケーション

浅生:このセッションのタイトルが『マスクと体重計と医療の、やさしい入り口はどこですか?』なんですけども。一番最初のやさしい出会いはどうすれば生まれるんでしょうかね?

タニタ:タニタと医療との関係って、実はちょっと遠いところにもあるかなという印象があってですね。体重計はどちらかと言うと予防とか、病気になる前に確認をするものだと思っているんですね。ほむほむ先生がおっしゃるとおり、怖いんですよ。なぜか体重計に乗るのが怖い。

堀向:怖い(笑)。

タニタ:これも一種のエラーだと思っています。私たちとしては本来は、毎日継続して体重を測っていただいて、変化があったときにそれをカバーする行動をしていただきたいんですけど。そもそも体重計に乗ってもらえないという人も多いので。そういったところをなんとかしたいというのも、実はSNSのTwitterの中でのミッションとしてはあるかなと思っています。

できるだけ抵抗なく触れてもらうとか、強制的に「乗れ」と言ってしまうとか。そういうところで、タニタとしてはまず接点を作るところが、優しいというか、ちょっと厳しめではあるんですけど。あえてそういったドS感でやっているかなというのはあります。

堀向:ありがとうございます。

SNSでの発信を通して、お医者さんの人となりなどを伝えていく

浅生:そろそろお時間も迫ってきたんですけれども、ここまでSNSの達人のお2人にお話を聞いて、何かヒントになるようなものはありましたか?

堀向:めちゃくちゃ大きいですよね。僕はどちらかと言うと、まず一番最初にファーストコンタクトに気を付けていて、そのあと継続をしていくときにリカバリーがうまくいかないときがあるので、そのリカバリーをより重視しています。それから、患者さんにとって、ファーストコンタクト時点から怖い……実際、医者ってそう思われる可能性があって。

でも、先ほどシャープさんもタニタさんもおっしゃいましたけど、僕が今SNSで「当直明けでつらい」とか「今日はちょっとグッタリだ」とつぶやいているのは、たぶんそのほうが人間としてちょっと近くに感じられるんじゃないかと思っているからなんです。

だから、あえてそうしているところがあります。そうすると病院に行ったときに、ちょっと機嫌が悪そうな医者がいたときに「もしかするとこの人、当直明けかもしれない」とか思ってくださればちょっと違うのかなと思っています。

そして、医者はみなさん毎日勉強されている方が多いんです。ですので、医学全部をカバーすることはできないにしても、それなりにいろいろと積み上げているんだよ、というところをちょっと感じていただければと思っています。それで、医者ごとにコミュニケーションしていって、知識のブラッシュアップをしているんだと考えていただけるように、そういったアカウントを目指したいなと思っています。

浅生:なるほど。ここまで『マスクと体重計と医療の、やさしい入り口はどこですか?』と題しまして、SNSの達人たちにお話を伺ってまいりました。シャープさん、タニタさん、どうもありがとうございました。堀向先生もどうもありがとうございました。