日本のマネージャーにはナラティブが足りない

大堀航氏(以下、大堀):在宅でプロジェクトとか仕事を進めていく中で、村上さんが取材・インタビューされてる「マネージャーはYouTuberになれ」みたいな記事を拝見したんですけど(笑)。

村上臣氏(以下、村上):(笑)。

大堀:企業の中の個人というか、必要な力という点では、けっこうそこっておもしろい視点だなと思ったんですが。そこを詳しく教えていただいてもいいですか。

村上:とくにこの日本のマネージャーは、だいぶスキルのアップデートが必要だと思うんですよね。もともとグローバル企業だといろんな拠点の人に対してインフルエンスしなきゃいけないんで、基本的に「話がうまいマネージャー」とかが多いんですよね。とくにエグゼクティブクラスになると、本当に話がうまい人が多くて(笑)。

大堀:はい(笑)。

村上:ビデオでメッセージを全社に伝えるとかいろんな機会があるので、みなさんやっぱり訓練をされていて。話もうまいですし、見た目的にも非常に説得力がある人たちがやっている、と。日本の場合はけっこう、対面での存在感とか「圧」(笑)。

大堀:(笑)。

村上:圧によって支配するタイプの方というのも、まだ多いと思うので。どっちかというと言葉を発するよりかは、それ以外のところで影響力を行使することが多いと思うんですよね。それがリモートワークで通用しなくなっちゃったので。まさにナラティブであるとか、どういう発言をするのか。これはメールの文章もそうですし、実際にオンライン会議での発言もそうですし、またそれをどうファシリテーションするのかみたいなところが、やっぱりリーダーとか管理職、マネージャーとしての重要なスキルの1つになったと。

ここの部分がすごくうまくできてる人は、このリモートワークでもたぶん、うまくメンバーを率いてアウトプットを出してるんだと思うんですよね。それが難しいとなると、そこは力をつけないといけないとは思います。

大堀:そういうオンラインでのコミュニケーションのリーダーシップの発揮の仕方とか、そういうのを学ぶようなのは、やっぱりグローバル企業ではかなり一般的なことなんですかね。

村上:そうですね、私の会社でいうとマネージャー研修みたいなのがありますし。あとは日々そういうオンライン会議の機会が多いですから。なのでほかの人の動きを見たりとか「なるほどね」みたいなところから学ぶところも多いですね。

大堀:実際、村上さんの機材といいますか、オンラインのミーティングでの機材の装備がものすごい(笑)。今日聞いてる方々は直接は見れないと思うんですけど、まず画質がすごい(笑)。

村上:(笑)。半分趣味ですけどね、これはね(笑)。

大堀:(笑)。まずそこにもしっかり、この環境でのコミュニケーションというのに投資をされて。でもコミュニケーションの観点で、村上さんとミーティングさせていただいたときもその存在感とか、ぜんぜん違いますよね。体感でも。

村上:とくに音ですよね。音声が聞きにくいと途端に集中力が切れてしまうので、聞いてる側は。そういうところが適切になるように整えるというのは、1つtipsとしてありますね。

個人に必要な、ツールの特性を見極める力

大堀:実際、企業に必要な力というところでも、マネージャーだけじゃなく、それこそ大企業の役員、トップ層もコロナ時代のコミュニケーションに慣れていかないといけないっていうところですよね。その観点でSNSというものをどう使っていくかというところになるかなと思うんですけど。

逆に個人ですね。働くメンバー、個人にとってこの環境での利用価値というのは、どの点がコロナ以前、コロナ以降含めて変わってくるところだとお考えですか?

村上:いろんなプラットフォーム、SNSがあると思うんですけれども。オンラインでつながり続けるというところは引き続きより重要になっていて、それがビジネスの文脈でもそうなっていると。ほかのチャットツールとか、個人で使っているものはみなさんたくさんあると思うんですけれども、仕事で使うものというのは人それぞれだったりして。まだ使ってない人も多いと。

今はやっぱり、仕事でいうとメールが一番多いと思うんですよね。とりあえずメール。それからTeamsとかそういう、チャットツールになっていくんだと思うんですけれども。Slackもそうですよね。ただいろんなチャネルを使い分けるっていうのが、たぶんオンラインでは必要になっていて。やっぱりメールって溜まるじゃないですか(笑)。いろんなの来るんで。忙しい方ほど時間が遅くなったり見逃したりというのが起こってくる。

なのでチャットツールなりでSNSでつながって「ちょっとこれいいですか?」ってパッと相談して、そこで話をしてすぐZOOMをするとか、そういう組み合わせによってスピードを出しながら営業をしたりとか、議論していくということが必要になってくると。

各ツールの特性を見極めて自分がビジネスで達成したいことと、相手にどうして欲しいのかを含めて適切なチャネルを使いこなしていくというところが、個人には必要な力なんじゃないかなと思います。

「個人のSEO」が、ポスト名刺時代のキーワード

大堀:SNSでの発信のみならず、ビジネスでのコミュニケーションでの各種ツールを使いこなしていく難易度が、今の時代になって高まっているということですよね。

村上:そうですね。例えばオンラインで名前で探される機会というのも、増えてくると思うんですよね。そこで個人としては、SEOを意識しなくちゃいけなくなっていて。自分の名前で検索されたときに、ちゃんと自分にリーチできるのかどうかというところ。これはたぶんポスト名刺時代のキーワードで「個人のSEO」という観点。

大堀:ポスト名刺時代の。

村上:そうですね。今、ECにしても欲しいものがあったら、ネットで検索して買うじゃないですか。なので同じことが、人でも起こると思っていて。「どこそこの誰々さんとちょっと話したいな」と思ったときに、もちろん友達経緯とかで探すんですけれども、パッと探してリーチできるのであれば一番早いですよね。

そういうときに「自分怪しくないんですよ~」ってわかってもらうことも重要だし。適切なチャネルでリーチするっていうのも両方大事だと。

大堀:いや、おっしゃるとおりです。企業のSEOという観点だけじゃなくて、個人のSEO。当社のtalentbookも、人名検索で流入してくることがすごく増えてきたんですよ。ある種リファレンス的な、どういう情報を発信しているのか、そもそも情報がないなですとか、こういう名刺に変わるようなその人の背景。人生の生き方の背景とかキャリアの背景とかっていうのは、ものすごく価値が高まってきているなと感じますね。

村上:あとやっぱりSNS時代って、人から発するもののほうが強い。企業広告ってどうしても「広告なんでしょ?」っていうところで、受け取る側が構えてしまうというのが、たぶん数年前から起こっていると思うんですよね。

結局、何が正しいんだみたいな話になると、やっぱり適切な場でその本人がちゃんと発信しているというところ。たぶんtalentbookもそうだと思うんですけども。企業を語るのに、スポークスパーソンとして表に出る人を経由して話していくというほうが信頼度も高いし、刺さるというところだと思うんですよね。

大堀:そうですね。まさに先ほど村上さんがおっしゃっていた、ナラティブという観点なのかなってすごく思いますね。その人がちゃんと発信している情報。ポスト名刺時代の個人SEOっていうのは、まずこの1のセッションのキーワードかなと思ったので、まず1つ目のテーマはこれで一旦終了とさせてください。

「メンバーシップ型VSジョブ型」の二項論は誤り?

大堀:では次のテーマに移りたいと思います。「これからの時代の雇用のかたちは? メンバーシップ型? ジョブ型?」と。最近テレビのニュースとかでもめちゃくちゃ出てきてて。

村上:急に「ジョブ型雇用ブーム」になりつつありますよね。

大堀:大企業とかも経営のトッププライオリティと言いますか、上位では雇用システムの変更という中で、KDDIさんが正社員をジョブ型雇用にというところですとか。日立、富士通、資生堂さんも。これに関わる新卒採用というところも変わってくるよね、というお話がけっこうあると。

この雇用システムの再検討というところも準備し始めているところが、7割。整備漏れとか反対意見というのは、必然的に出るところですよね。

懸念点として、企業のいい風土、企業風土、一体感がなくなっちゃうんじゃないか。契約内容以外の貢献が減ってしまう。会社の経営理念・ビジョンが浸透しづらくなるという課題、アンケート結果も出てきているという中で。

村上さんもこのテーマでブログとか書かれているのを拝見したんですが。

このタイミングでの移行ですとか、今、企業さんが取っている打ち手というところはどうご覧になられていますか?

村上:けっこう「メンバーシップ型VSジョブ型」みたいな二項論になりがちなんですけれども、僕なんかは違うと思ってて。そもそも経営学の世界では、メンバーシップ型とかジョブ型って雇用はないわけですよ。そもそもこれって、各国の労働法に依存している話であって、そこが変わらない限りは真の意味ではあんまり変わらないよねと思っています。

ただ、なぜ今これがすごく言われているかって言うと、やっぱり終身雇用とか年功序列といういわゆる日本の大企業が取ってきたものが、かなり前から「もう無理だよね」って言われている中で、なんとなく見ないようにしていた(笑)。もしくは本格的に取り組まなかったところが、いよいよ全部いろんなことが変わっちゃったので。ここで手をつけないとヤバい、生き残れないという危機感が出たために、いろいろアクセルを踏み始めたんだろうなと。

とくに経団連加盟企業でいうと、昔から言ってるわけですよね、これって。「ジョブ型にしたい」と。この背景にあるのは、グローバルでの人材獲得競争が激化していると、例えば日立さんとか出てますけども、2013年くらいからこの導入を管理職からやっていて。ずっとやっているんですよね。10年くらいかけてようやくここに来て、一気に広げようとなってると。

というのは、とくに日本のグローバル大企業というのは、日本以外の社員のほうがもう多いわけですよ。例えば日立さんとかは30万人くらいいて。日本って数万人なわけですから。そうすると機動的に部署異動をしたりとか、拠点異動をしたときに、日本だけメンバーシップ型だとよくわかんなくなっちゃうわけですよね。社内の異動がうまくできなくなっちゃうと。

プラス、日本勤務のいい人材が採れなくなっちゃう。この2つをグローバルに合わせなきゃいけないねというところで、今、みんな舵を切り始めていると。ただ歴史的経緯で日本型で来てる方がまだいらっしゃるので、社員として。なので労使交渉的な話でなかなか折り合いがつかなかった、というのが今までだったと思うんですよね。

大堀:そうですね。同一賃金・同一労働みたいな考え方も入ってくると思いますし。

村上:私はそこがまさに肝であって、ジョブ型というよりかは同一価値労働・同一賃金っていう。ヨーロッパでたぶん何十年か前に起きたことなんですけども、これを正しくやると。日本も4割が非正規雇用で6割が正社員ということなので、今、ここで話してるのは正社員の話だけなんですよね。なので全体の労働市場を正しく見るためには、まず同一労働・同一賃金をやって、それに各ジョブ型みたいにいくのが正しいのかな? と個人的には思っています。

日本型雇用とジョブ型雇用、それぞれの良し悪し

大堀:なるほどですね。村上さんから見てここのジョブ型、真のジョブ型というスタイルをうまく取り入れている企業さんってありますか?

村上:基本的にはグローバル企業。アメリカ企業でもヨーロッパ企業でも、それの日本法人っていうのは、基本的に全部統一された仕組みでやっていますので。そこはやってるんじゃないかなと思います。

大堀:一方で働く側の視点というか、ジョブ型に移行していくよっていう前提の中でどうキャリアを積んでいくか? みたいな観点もあるかなと思うんですけど。そこはどう生き抜いていくといいよとか、持つべき視点ってこうあるべきだよ、みたいなのはありますか?

村上:そうですねぇ。IT業界でいうと、もうどこもたぶん実質はジョブ型になってると思うんですよね。とくにエンジニアとかデザイナーとかPMとかっていうのは。

日本型の雇用のいいところっていうのは、職種変更が容易であると。もしくは会社の方針によっていろんなことを経験しなさいというローテーションがあるので、多様な経験ができるのは非常に強いですよね。ジョブ型だと1回決めるとそこでキャリアを積むっていうことになるので、職種を大きく変えるのって難しかったりします。

若いうちにいろんな経験をするっていう意味だと、日本型雇用システムというのは非常にいいシステムだなとは思うんですけども。ここをやりたいとか、この専門を伸ばしたいってなったときは、やっぱりジョブ型のほうがキャリアが積みやすいし。

その会社に縛られないって意味だと、要は自分がやりたいことと会社とがリンクしないので、場合によっては会社をまたいで経験を積めばいいやっていう考え方であると。そういう意味だと、個人と組織の関係がよりフェアになっていくと思うので。という意味では、非常にいいんじゃないかなとは思うんですよね。