リモートワークの功罪

――貴社は今、かなりフレキシブルな働き方を推進してらっしゃいますが、これはコロナ前からでしょうか?

柳橋仁機氏(以下、柳橋):もともと私たちは「ぎゅっと働いて、ぱっと帰る。」を行動指針の一つにするなど合理的な働き方を実践していましたが、より強くなったと思います。リモートワークで自社に内在していたカルチャーが、より際立った感じです。

――ちなみにコロナ以前・以後で、貴社内で起きた大きな変化などはございますか?

柳橋:いい意味であまり変化していないです。フルリモートにしてみても、結果的に特に問題はありませんでした。

――リモートワークについてはどうお考えでしょうか?

柳橋:リモートワークになることでなにかを変えなきゃいけなかった、というのはあんまり感じていません。ただ、リモートワークをはじめたことによって、結果的にわかったことがあるなと思います。

これは功罪を含みますが「カルチャーのフィット&ギャップが進む」という効果です。会社を経営していると、従業員同士のコミュニケーションについて「好きな人・苦手な人」のような話が絶対に生じます。会社が100人とか200人を超えてくると、経営者はずっとそこに悩まされるのですが、リモートワークになると、それがすごく減りました。

――それはなぜですか?

柳橋:みんなオフィスに出社することが前提だと、苦手な人とも必然的に顔を合わせなければならないですし、一緒に会議もしなければならない。これが会社における、ストレスの要因の一つだと思っています。

しかしリモートワークだとそれがないから、ストレスを生む機会が軽減されます。満員電車もないし、苦手な人と会うことがない。だからストレスが減って、そういう「誰々が苦手」といった問題が、すごく減った気がしています。ただ一方で裏を返せば「みんなと合わない人はどんどん離れていく」ということになります。

だからカルチャーのフィット&ギャップというのは、カルチャーがフィットする人はよりギュッ! と強固になり「みんなでがんばろうぜ!リモートワークでもできるぞ!」となっていくイメージです。

ただ合わない人は、その輪の中に入ることが難しい。カルチャーと合わない人にはもちろんケアしていくのですが、やはり、カルチャーのフィット&ギャップの結果と思われる退職者も増えていくと思います。

――なるほど。

柳橋:ただ私のスタンスとしては、人間の好き嫌いはどうしても存在するものだと思っていますから、それは仕方ないことだと考えています。ある種、組織の新陳代謝というか、カルチャーを含め、社員と会社が相互にお互いを選択する「相互選択関係」がこれからの雇用の正しい在り方だと思っているので、それが問題だとはあまり考えていません。

ただ一方で、新しく入る社員は、まったくわからないわけじゃないですか。

――そうですね。

柳橋:だから「新人や入社者は重点的にケアしよう!」と。「この人たちはちゃんとケアして、縦横斜めの人脈をちゃんと会社がつないであげて、すぐ輪に入れるようにしよう!」というのは常に言っています。

――最近、貴社に入られた方々は、最初から完全にリモートでの業務という感じですよね。だから、1回もお会いになっていない?

柳橋:4月の緊急事態宣言以降は、直接会っていない社員もいます。

――採用はいかがですか? 採用はさすがにお会いになりますか?

柳橋:採用については、私は以前から面接していませんでした。

――え、そうなんですか?

柳橋:私は「面接しない主義者」なんです。スタートアップの経営者で、すごくめずらしいと言われるんですが。

――それは昔からですか? コロナ関係なく?

柳橋:そうですね。それは以前から変わりません。自分と直接関わる職種や役職では面接することもありますが、9割方は面接していません。

――面接もリモートで、入社してからも完全リモートで働いてらっしゃるということですね。

柳橋:はい。だから「最初のフォローは手厚くしてほしい」ということは、人事にすごく言いました。入社間もないのに放置され疎外されていく、というのは会社として絶対にあってはいけないから、ちゃんとフォローしてほしいと。ただ、当社の社員はフォロー意識が非常に高いんです。私が言わなくとも、みんなすごくフォローしてくれています。

採用面接よりも重要なもの

――採用面接に割くリソースがどんどん大きくなっていく経営者も多いと思いますが。「月に100人面接してます」というスタートアップの経営者もいますよね。

柳橋:それもよく言われますが、考え方次第だと思っています。私は採用面接に時間を割くことを、戦略上正しいとは思っていません。採用面接が大事だと言う方がとても多い中で、偏屈かもしれませんが、私自身は大事ではないと思っています。だから自分は採用面接をしていないんです。

というのは、採用面接は30分から1時間程度ですが、その短時間で、応募者のことが本当に理解できるのか? と私は思います。30分から1時間で相手を判断・理解しきることが、人間にはできないと思っているからです。そのため、面接にそこまで注力する必要が本当にあるのかどうかと私は思っています。

でも、その人が入社したら30分から1時間どころではなく、何百時間もみんなと働くわけです。1ヶ月でも160時間一緒に働くわけなので、採用面接の何十倍のトライアンドエラーが現場で行われますよね。3ヶ月くらいすると、その人の個性や得意・不得意な分野といった結果が出てきます。その結果のほうが、面接時の判断よりも圧倒的に重要だと考えています。

当社のオンボードでは、3ヶ月間でちゃんとその人が即戦力化できるようにみんなでがんばって支援しよう、というように取り組んでいます。3ヶ月だから480時間分のフィードバックが、関係者から3ヶ月後にあがってくる仕組みです。採用面接よりも、絶対にこのフィードバックのほうが大事だと思いませんか? だからこのフィードバックは重要視しています。

そして、この中で「いい!」と言われた人は、おそらく活躍してくれるのだろうと思いますし、逆に課題が生じている人には、ポイントをフィードバックしてフォローしていけばよいと思っています。

――先ほどのカルチャーのフィット・ギャップの話にも通じますね。

柳橋:はい。あまり入り口で選り好みすると、自社の可能性を狭めてしまうことにつながってしまうと思います。

採用面接で社長が「イエス、ノー」と判断していくと、結局、社長の好みだけがそこに強く反映されます。そうすると、絶対に組織が多様化しないんです。多様性が得られなくなるということは、生命体として弱くなるだけだと思いますよ。

データから人材を判断する「人材データプラットフォーム構想」

――では、今後の貴社の展望についてお聞かせ願えますでしょうか。

柳橋:当社は「人材データプラットフォーム構想」というものを考えています。私たちは人材マネジメントシステム、タレントマネジメントシステムというジャンル名で、商品を売り出しているんですが、実際にやっている事業主体としては、クラウド上に大きな人材データベースを築いているという感覚です。多様な人材情報がカオナビ上に蓄積される。その人の評価やその人のスキルといった様々な人材情報です。

そうすると「この人、今は営業をやっているけど企画職のほうが向いている」「この仕事にはこういうタイプの人が適している」「この人とこの人が一緒に働くと、実はこんな生産性が高いことができる」「実はそれができる人が別の会社にいる」ということもあると思います。

要するに、人材情報が全部データ化されていると、人間が気づかなかったことをどんどんシステム側、データベース側が教えてくれる時代が来ると私は思っています。それを「人が判断しないことが怖い」という人は、当然いるとは思いますが。

でも人間の判断というのは、必ずしも正解ではないケースもあります。少なくとも採用時に提出する履歴書を例に挙げると、学歴と職歴の記載が中心です。その情報だけで何を判断できるのかと私は思うんですよね。だから面接が必要という意見もあるのですが。

ただ、もう少しデータドリブンな考え方で、データに基づいて「この人の才能・可能性はこうだよ」ってレコメンドがあっていいなと思うんです。もちろん、そのうえで面接することも大事だと思います。データドリブンな人の個性、人の才能、そういったものを掘り起こしていく。そういった人材データプラットフォームを築くということ。それがカオナビの目指している世界です。

業界で働く人たちへのメッセージ

――ありがとうございます。では最後にコロナを受けての業界で働く方々へのメッセージをいただければと思います。

柳橋:コロナの影響を受けて、今までの働き方や考え方を変えていく必要があるとなったときに、その働き方を自分で模索して考えるということがすごく大事です。今までリモートワークってやったことがなかったのに「リモートワークをやってみよう」って思うこともそうです。

新しい考え方とか新しい価値観というのを取り入れるということが、今みんなに求められていることなのではないかと思います。